報酬なし、交通費は自己負担 それでも爬虫類の捕獲依頼を断らない唯一の理由
■ニシキヘビやワニガメ 全国から捕獲の出動依頼
爬虫類に興味がない人にも名前と顔が知られているのは、ペットの捕獲に尽力する活動も要因となっている。河津町の体感型動物園「iZoo」の白輪剛史園長は全国から依頼を受けて、飼い主が“逃がした”ニシキヘビやワニガメを捕まえている。報酬はなく、交通費も自己負担。それでも出動する理由がある。
爬虫類の裏話やビジネスの経験談満載 iZoo白輪剛史園長の連載
2021年5月に横浜市のアパートから逃げ出したアミメニシキヘビを捕まえて、その5か月後には茨城県つくば市の公園でワニガメを捕獲しました。この2つは新聞やテレビで大きく取り上げられました。他にも、生物を捕獲してほしいという依頼を受けて全国各地に足を運んでいます。
依頼が来る経緯は、いくつかあります。私が代表を務める爬虫類両生類協会から連絡が来るパターンが1つ。それから、私のSNSにメッセージが来たり、会社に直接電話がかかってきたりするケースもあります。
私が自分で捕獲に動くのは、基本的にニシキヘビやワニガメだけです。なぜなら、人の生命や財産に危害を与える恐れがある特定動物だからです。よく誤解されていますが、この活動は完全ボランティアです。お金を受け取っていませんし、捕獲した生物は特別な事情がない限りは引き取らないと決めています。ボランティアにしているのは、お金や生物がほしいから積極的に動いていると言われかねないからです。
■「早く捕獲しないと爬虫類のイメージが悪くなる」
交通費を自己負担してでも依頼を受ける理由は1つだけです。早く捕獲しないと爬虫類のイメージが悪くなってしまうから。爬虫類の飼育を規制される要因にもなり得ます。
横浜市で捕獲したアミメニシキヘビは私が現地に入るまで、警察を中心に多くの人をかけて広い範囲を探していました。警察やマスコミからは「ヘビは1日どのくらいの距離を移動するのですか?」と聞かれました。
時速に経過した時間を掛け算すれば、かなりの距離を移動できる計算になります。でも、普段自宅で過ごしている人が、時間があるからと言って遠くまで歩かないですよね?生物も同じで、目的もなく長距離を移動しません。安全な場所に隠れたいだけなので、誰かが運ばない限りは遠くに行きません。
アミメニシキヘビはインドや東南アジアに生息する生物です。iZooでは室温を28℃に保って飼育しています。横浜で捜索していた時、外は寒かったのでアパートの中にいる可能性が高いと考えました。屋根裏を確認したら、鉄骨に絡まっているヘビを発見しました。
■「逃げられた」ではなく「逃がした」 飼い主がペットを過小評価
生物の特性や飼育されていた状況を見れば、ペットが逃げた場所は予測できます。ただ、捕まえるのは大変です。野山なら良いのですが、住宅地になると私有地なので許可を得ないと入れません。自由に探せないわけです。
どんな生物を飼っている人にも言えることですが、ペットになった生物は多少なりとも苦痛に感じている部分があります。本来は自然の中で生活しているにもかかわらず、行動範囲の限られたケージや家の中に閉じ込められているわけですから。ペットが家からいなくなると、飼い主は「逃げられた」と言いますが、「逃がした」が正確な表現だと思っています。飼い主が「逃げるはずはない」と生物の能力を過小評価していたから逃がしてしまったわけです。
生物を大切に育てているという意識のある飼い主は「何で、こんなに幸せな環境にしているのに逃げるのだろう」と感じるかもしれませんが、それは勘違いです。生物は幸せなフリをしているだけです。隙があれば外に出ようとしています。
<プロフィール>
白輪剛史(しらわ・つよし)。1969年生まれ、静岡市出身。静岡農業高校卒業。幼少期から爬虫類に興味を持ち、1995年に動物卸商「有限会社レップジャパン」を設立。2002年から国内最大級の爬虫類イベント「ジャパンレプタイルズショ―」を開催。2012年に体感型動物園iZooをオープンして園長に就任。