金森穣&近藤良平が語る、Noism0 / Noism1「円環」で魅せる21年目の新展開~全国4都市をツアー
2004年に日本初の公共劇場専属舞踊団として、りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館で誕生したNoism Company Niigata(Noism)が、2024年12月~2025年2月、Noism0 / Noism1「円環」 金森穣 近藤良平 Triple Bill を新潟・福岡・滋賀・埼玉にて開催する。芸術総監督を務める金森穣は、Noism0(プロフェッショナル選抜カンパニー)のために新作『Suspended Garden―宙吊りの庭』を演出振付し、Noism レパートリー『過ぎゆく時の中で』には自らも出演する。ダンスカンパニー・コンドルズ主宰で彩の国さいたま芸術劇場芸術監督の任にある近藤良平は、Noism1(プロフェッショナルカンパニー)のために新作『にんげんしかく』を創作。二人の交流は、ヨーロッパで活躍していた金森が帰国し、コンドルズの舞台を観たことに端を発するという。ダンスシーンをリードする両雄が、話題の公演に向けての思いや舞踊界の展望について語った。
■異才・近藤良平、Noismに19年ぶりに還ってくる!
――近藤さんは創設2年目の2005年に行われた「Triple Bill」(外部振付家招聘企画第1弾)における『犬的人生』以来19年ぶりにNoismに振付します。Noism1を統括する国際活動部門芸術監督の井関佐和子さんからオファーを受けたときの気持ちは?
近藤良平(以下、近藤) 前回はNoismができて日が浅く、Noism0、Noism1、Noism2(研修生カンパニー)の区別もありませんでした。19年が経ち、メインカンパニーのNoism1に振付ができる。「良平さんにNoism1をいじってほしい」と言われたので「じゃあやってみよう!」と。
――プレスリリースによると、Noism1 新作『にんげんしかく』には、「ニンゲンシッカク」「ニンゲンシ・カク」「ニン;ゲンシカク」など、いろいろな意味合いがあるようですね?
近藤 囲われた四角というか四角に囲ったものにハマっています。時間を区切るとか、場所を区切るとか。タイトルは語呂合わせみたいなものです。観る側・感じる側がそこからイメージできることがあって、タイトル自身が意味を持つわけではありません。オノマトペみたいな、おまじないみたいな、ちょっと特別なことなどです。
(新作は)段ボールを使った作品です。段ボールと格闘すると、人間らしくなれる。「昔、よく段ボールに入っていました」と言うNoism1のメンバーもいます。一見ゴミっぽくて、捨ててしまいそうなのに、普段意外に接している。ネットショッピングの配送に使われるし、究極的には住まいにもなる。段ボール1つとっても愛着がわくのかなと思いつつクリエーションしています。
――音楽は、作曲家でギタリスト、ダクソフォン奏者、音楽プロデューサーの内橋和久さんです。ライヴ演奏によるダンサーとの協同作業でも知られますが、今回は録音音源を使うそうですね?
近藤 内橋さんが収録されたCDを用います。オリジナルもいいかなと思っていたのですが、CDの中に内橋さんの音楽のファンからするといつもと違うアプローチで作られている曲があって。即興ではなくて、緻密に精密に作った音源で、音の強さがあります。そこにダンサーたちがどう反応するのか。いい刺激になりそうです。
――Noism1に接しての印象は?
近藤 新潟に来ると静かな時間が経過していきます。僕も朝りゅーとぴあに来て、身体を少し動かして、稽古して、帰ったらNetflixを観るような生活ですが、そうしたルーティンが美しいというか、身体に入っていて充実しているんですよ。今回クリエーションをしていて「ダンサーがいるな」と思う瞬間があるんですよね。時間を費やして身体を動かしてということができている。
ダンスの世界にはバレエがあればジャズダンス、ヒップホップもあるというように多様ですが、Noism1は僕を受け入れてくれることも含めダンスカンパニーとして一つの豊かな形の見せ方がある。羨ましいですね。Noism1のメンバーは皆意外に自信を持っているんですよ。イマドキの子だからあまり顔に出さないのですが「僕の師匠は穣さんです!」みたいに言ってくれたりする。
金森穣(以下、金森) 何を聞き出しているんですか?(笑)
近藤 今の時代にそういう情熱の傾け方、時間を費やすことっていいなと思って。新潟は冬になると雪で大変ですが、独特な土地で闘っているなという気がします。
――先日の記者発表時、近藤さんはNoism1は「振り覚えがいい」とおっしゃいました。振付を覚えるのが早いという意味合いだけではなく、投げかけたことをしっかりと返してくれるということですよね。どのように投げかけているのですか?
近藤 「段ボールに美しく入って」とか「背負ってみて」とか、そんな感じで投げかけています。叩いたりもしているのですが、僕も含めて皆したことのないことには無防備なので、子供の時分のときのようなキラキラ、ワクワクした感じがあります。
――金森さんは、近藤さんとNoism1とのクリエーションをどのようにご覧になっていますか?
金森 「こんな感じ」「こうしてほしい」ではなくて彼らが問われるんだよね。たとえば「美しく入って」とは、どういうことだろうみたいな。彼らにとって何が美しいのかが問われるので、彼らの個性が如実に出てきておもしろいですね。そのプロセスは自分とは真逆です。佐和子は真逆な振付家をよくブッキングしたなという感じもするんだけど、それを許容できるのがNoismの強み。Noism1のメンバーは若くて、未経験なことがたくさんあるから、良平さんの問いかけに純粋に飛び込めている。よくも悪くも経験値が少ないと、自分はこうだと縛られ凝り固まってしまうけれど、そこを良平さんが切り崩している。佐和子はそれを望んでいたんだと思います。
近藤 僕自身も正解が分かっていないので「皆はこう思っていたか!」ということもあります。どこまでいっても正解に落ち着かない気もします。
金森 良平さんと俺は真逆だと言いましたが、方法論が異なるということが大事です。価値観が逆ではなくて、導き出し方の方法論が違う。たとえば「1から10までこうやってほしい」というのが俺の方法論だとしたら、そこに自由がないかといえばそうではなくて「1から10を実践したなかに自由がある」という考え方。共に舞踊とは何か、人間とは何かを考えているけど、アプローチと方法論が違うということです。
■鬼才・金森穣は、Noism0 新作とレパートリー作品を披露!
――金森さんはNoism0 新作『Suspended Garden―宙吊りの庭』を演出振付します。元メンバーで長年にわたり活躍した宮河愛一郎さん、中川賢さんを迎えるのが話題です。Noism2を率いる地域活動部門芸術監督の山田勇気さん、そして井関さんも出演します。構想を教えてください。
金森 佐和子から「宮河と中川を呼び戻したいので、彼らと一緒に実演する作品を創ってほしい」と依頼されました。いろいろと考えましたが、過去を共に過ごしたということに縛られず、今の彼らと向き合いたい。音楽も同じ理念でトン・タッ・アンという長年信頼している作曲家に、いまの彼の音楽を書いてもらいたいと考えました。アンには今回最初に5曲創ってほしいと明確にお願いしているんです。佐和子、勇気、アイチ(宮河愛一郎)、賢と、"観念の他者"と呼んでいる一体のマネキンの5者で構成されるので5曲お願いしました。
――作品に込めた思いとは?
金森 「戻ってくる」といっても、場所がないと戻って来られない。Noismが新潟で20年活動し続けているから、良平さんもアイチも賢も戻って来られるんですよね。何よりも言いたいのは、この劇場・舞台があるからこそ、我々の活動が可能であること。「庭」があるということ。それが新作のテーマです。「庭」が劇場のメタファーとしてあって、その劇場で流れている時間軸は、いわゆる世間に流れているそれとは違う。現実から遊離したかのような、良平さん的にいえば四角に囲んだような時間が流れているのが舞台芸術の特色であり、劇場文化の豊かさです。喧噪や雑音から一旦離れたところで、自分や他者と向き合う。お客さんも、客席で舞台芸術を体感している間は日常から一旦切り離される。その豊かさを作品として表現したいですね。
――リハーサルの印象はいかがですか?
金森 今の彼らに向き合って振付はしましたが、結局アイチにはこうなる、賢にはやっぱりこうなるというふうに進むので自分でも驚きました。過去は偽りではなかったというか、昔も頭で考えてではなく素直にアイチ、賢と向き合って動きや作品が生まれていたんだなと再確認しました。
――もう1本が、金森さんの演出振付によるNoism レパートリー『過ぎゆく時の中で』です。2021年、TOKYO MET SaLaD MUSIC FESTIVAL 2021 [サラダ音楽祭]で初演されました。コロナ禍において外国籍のメンバーが母国へと帰っていくことへの「現実を受け止める意思が本創作(インスピレーション)の根底にある」(プレスリリース)と述べられていますが、今回は金森さんも出演します。こちらについても思うことをお聞かせください。
金森 現在のNoism1メンバーと踊るのは初めてです。彼らに触れたり、目を合わせて息を合わせたり、そういうプロセスを楽しんでいます。作品として、実演として出来あがってきたときにどう見えているのかは佐和子に委ねるので、純粋に舞踊家として参加したいですね。とはいえ、初演時とは違い背後にオーケストラがいないので、劇場版ならではの奥行きの使い方をどうするのかといったところにアイデアがあるので、新しいバージョンを楽しんでもらえると思います。
■いま、なぜ「円環」なのか
――Noism20周年を迎え、21年目に入った現在、「円環」と題された公演をやる意味とは?
金森 「円環」というのは、佐和子も言っていますが「円が閉じるというよりも、複数の円が同時に発生して、円と円の重なるところが幾つもできている」みたいな意味です。だから、アイチと賢が帰ってきて完結ではなくて、彼らが過ごしてきた円が我々の円に重なって、新しい接点が生まれている。メンバーがNoismを去っていくのはこの20年間延々と繰り返されてきたことで、その繰り返し自体も円のようであるわけだけれども、今回は一晩の公演のなかで去っていったメンバーたちが戻ってくる。めぐりめぐって前に進んでいく。良平さんが戻ってきてくださることもそう。いろいろな意味で豊かさ・時間の流れを感じられるプログラムになりそうです。
近藤 「円環」の話を聞いて、山手線に乗っていて気が付いたら1周していたみたいなことを思い浮かべました。コンドルズに置き換えれば、真っすぐの道を進んでいて、しかも乗ったら最後、降りないぞみたいな(笑)。途中で若いメンバーも乗ってくるみたいな。Noismにとって、新潟という場所は大きく、そこで培っているものは非常に影響しているのではないかと感じます。日本のダンスの歴史・流れとしてNoismの存在は重要だと思います。
――お二方からみて、井関芸術監督の仕事ぶりはいかがですか?
金森 佐和子には国際活動部門芸術監督としてプログラミングに始まりオーディションで誰を採るとか来季の契約をどうするかも一任しています。メンバーにとって何か不安があったり、心配があったら、佐和子に直接話しに行けばいい。これは誰に聞いても皆が確実に同意すると思うけど、俺に聞きに来るよりも佐和子の方が楽じゃない?(笑)そういう意味で、皆落ち着いてコミュニケーションを取れている。佐和子は物事を一歩引いて俯瞰で見ることができるので、芸術監督に向いている。良平さんの前にゲスト振付家として来ていただいた二見一幸さんもやりやすそうでした。この体制でよかったです。
近藤 佐和子さんのことは以前から知っていますが、言うべきことは言う人だからやりやすいですよ。僕は好きです。
――近藤さんは今回はコンドルズの近藤良平としてではなく、振付家・近藤良平として外部の集団と向き合って創作されています。そういう場合、普段と違い何か意識することはありますか?
近藤 コンドルズに関しては、自分も参加することもあって変えられないというか、そういう流れがあります。コンドルズ以外に振付をするときの相手方はユニットであったり、個人であったりいろいろなパターンがあるけれど、カンパニーに対してというのはあまりない。作品のためにダンサーを集めるのではなく、カンパニーに振付をする機会はなかなか無い。小さな世界だけど、影響を与えあっていくべきだと思います。
金森 自分はヨーロッパにいた頃からカンパニーに振付をしてきたし、最近は東京バレエ団(『かぐや姫』2023年10月全幕初演)とか牧阿佐美バレヱ団(『Tryptique~1人の青年の成長、その記憶、そして夢』2025年3月の「ダンス・ヴァンドゥⅢ」で初演予定)に振付をしています。逆にプロジェクトベースの機会が少ないですね。長い間、新潟のことだけに集中していたかったけれど、Noism1を佐和子に、Noism2を勇気に任せたとき、もう一度一人のアーティストとして、演出振付家として、自らの可能性ってなんだろうということを探求したくなりました。
■日本のダンスの未来に向けて
――近藤さんが2022年4月から彩の国さいたま芸術劇場芸術監督に就任しました。りゅーとぴあ専属舞踊団であるNoismを率いてきた金森さんと位置付けは異なりますが、公立劇場に深く関わっておられます。彩の国さいたま芸術劇場は、現在ダンスを中心としたクリエーション、海外招聘事業、教育的プログラムなどを行い、社会貢献を打ち出し、新しく生まれ変わりつつあるのではないかと感じます。この2年半を経ての実感は?
近藤 2022年から始めてしばらくして劇場が改修に入り、再オープンしたのは今年の3月です。なので、実質的な活動はまだ浅いんですよね。今言っていただいたような社会貢献や招聘事業に関しても、やっとつながりが見えてきたくらいの感じです。これから時間をかけてやっていきたい。イベント的にやっても、それで終わってしまうので。
――金森さんは、この20年間、各地にNoismに続く劇場専属舞踊団が生まれることを熱望されてきました。それとは違いますが、近藤さんが彩の国さいたま芸術劇場芸術監督というポジションに就かれたことに対して思うことは?
金森 舞踊をどう社会化していくかという方法論は違いますが、良平さんは何をしていくのだろうかと注目しています。自分は20年やってきて、物事を変えるのがどれだけ大変で、どれだけ時間がかかるかというのを体験してきました。だから良平さんがおっしゃったように、本当にこれからなんだろうなと。がんばってほしいです。
――舞台業界もコロナ禍、世界各地の戦争、円安などの影響が押し寄せています。1つの劇場、1つの団体ではやれることに限りがあったりするかもしれません。その点、今回はりゅーとぴあのほか、彩の国さいたま芸術劇場、J:COM北九州芸術劇場、滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールを巡演します。そうしたネットワークの連携についてどうお考えですか?
近藤 やるべきです。公共劇場だけでなくてもいいのですが、連携していきたい。日本中で舞踊の力を見せていきたいです。
金森 良平さんが芸術監督になられる前から彩の国さいたま芸術劇場で定期的に公演をしてきましたが、より埼玉でやることの価値が増した気がします。今回のように各地の劇場が主催してくださるのはありがたい。こうした機会が増えていけば、国内の状況は豊かになります。
――最後に「円環」に向けての期する思いをお聞かせください。
近藤 トリプル・ビルというのが重要だと思うんです。それぞれの役割や色がある気がします。そこは自分も背負いたい。3作品に触れて「円環」を感じていただきたいです。
金森 先の20周年記念公演「Amomentof」では、金森穣=Noismとしての20年を記念するような作品を上演しましたが、同じシーズンに良平さんをお招きしてトリプル・ビルを展開する。そのことによって、Noismという集団の企画力というか、多様性を皆さんに感じ取ってもらえるのではないでしょうか。カンパニー一同、全力を尽くします。
取材=高橋森彦 撮影=遠藤龍(Ryu Endo)