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早稲田大学・高岡勝監督「強いチームを作るために重要なことは…」学生アメフト日本一への思い

チームナビ

早稲田大学米式蹴球部

監督:高岡勝(たかおか・まさる)さん

同大学同部出身。卒業後は実業団チームの鹿島ディアーズ(現・胎内DEERS)、マイカルベアーズ(現・クラブベアーズ)に所属。2003年より早稲田大学米式蹴球部OLコーチを務め、2013年からオペレーションコーディネーターを経て、2017年監督に就任。

ひと目でわかる! チームの特色

●2025年で創部91年目、目標は日本一
●キャリアサポートがあり将来に繋がる自分の特性がわかる
●大学の理念のもと学業優先で文武両道を目指す

早稲田大学米式蹴球部は、日本のアメリカンフットボールのルーツ校のひとつとして、立教大学、明治大学とともに設立されました。同大学の創設者・初代総長である大隈重信にちなみ名付けられたBig Bearsという愛称を携えて、今年2025年に創部91年目を迎えます。

長い歴史を誇り、日本一という目標を掲げ続ける同部で、2017年より監督として指導されている高岡勝さんにお話を伺いました。

【画像:早稲田大学米式蹴球部のチーム詳細】

選手もコーチもフランクに話せる環境に

ー日本におけるアメリカンフットボールのルーツ校ということで昨年は設立90周年を迎えられました。

共に始めた立教大学さん、明治大学さんとは、節目となる年(大体5年ごと)に「ROOTS BOWL」というシリーズ化した試合を組んでいます。90周年となった昨年も行いました。

ーコロナ禍により中断期間はありましたが、早慶戦も毎年行われていますね(※)。

何が何でも勝たないといけない一戦です。私は小学生にフラッグフットボールを教えていましたが、彼らに対しても「慶應にだけは負けるな」と言っていました(笑)。

※2024年は4月29日、5年ぶりに開催され、32-21で早稲田大学が勝利。2025年は、4月29日(火・祝) 駒沢陸上競技場にて開催されます!

ー高岡さんは選手としての所属期間とコーチ時代を含むと約26年もの長い間、同部に関わられています。チームの雰囲気や特徴を教えてください。

昔は上下関係がはっきりしていて、いかにも体育会というような雰囲気でした。ですが最近は、1年生と4年生が友達のように会話をしています。時代なのかなと思いますが、私としては少しヒヤヒヤします(笑)。

とはいえ、私は監督に就任して今年で9年目になりますが、コミュニケーションの大切さやお互いが理解できる環境作りなど、より良い関係の構築について、ずっと力を入れて取り組んできました。コーチの役割も、ティーチングではなくコーチングにシフトしています。一方的に教えるのではなく、対話を大切にして部員自らが気づくことを目指しています。

ーコミュニケーションを特に重視されている理由は何でしょうか。

選手、コーチ、スタッフが各々の役目を明確にし、みんながフランクに話せる状況を作りたいからです。それはなぜかというと、早稲田大学はスポーツ推薦を取らないということが大きく関わってきます。

チームの戦術に合わせた人材を獲得するということができないんですね。ですから、説明会等で私の話に同意して入部してくれた学生の特徴を鑑みて、どうやってチームの一員として活躍できるか、それを考えるのがコーチの役目になります。

体が大きい小さい、足が速いといった身体的な特徴はもちろんですが、理解力など個性はさまざまです。学生はそういったことを自ら伝えなければいけないし、コーチは把握しなければならない。ということから、強いチームを作るためには、それぞれが立場を理解し、意思の疎通を図ることがとても重要になってくるのです。

話しやすい雰囲気作りは、上級生が中心となって考えています。その成果が出ているのか、特にオフではみんな仲良くやっていますね。

日本一を達成するために、部員がすべきこと

ーオンとオフの切り替えについてはいかがですか?

非常に課題だと思っています。オンでは目標を達成するために、どんな練習やアプローチをするべきか、考えて取り組むように指導しています。うちの目標は日本一です。それを掲げているからには、誰にでもできることで自分がやり切れることをやりなさい、と伝えています。

ですから、意識すればできることができていないと「できるのにやっていない」ことになるので、私もそれなりの声がけをします。上級生からも言ってもらうようにしています。

ー「チームの目標達成のために自分がやり切れること」を見つけるのが、なかなか難しそうですね。

そのために、自分自身の理解を深められるよう、部員全員が年4回の研修と年2回の特性テストを受けています。研修は、キャリアトレーナーを2人お迎えして、キャリア形成・チームビルディングのトレーニングをお願いしています。アメリカのアメフトチームだとカウンセラーがいるのですが、それと同じような役割もしていただいています。

毎年テーマを設けていて今年は信頼です。信頼し合えるチームを作るにはどうすればいいのか、自ら考えて行動に移せる力を身につけてほしいと思います。これは私の指導方針でもあり、社会で活躍できるキャリア形成にもつながります。

ー指導方針について、もう少し具体的にお願いします。

自ら考える力を4年間で培うことですね。新入部員には、まず早稲田大学の理念を理解しましょう、と言っています。理念は「学問の独立」「学問の活用」「模範国民の造就」の3つがあります。これらは、「研究機関の早稲田」、「研究したことを世の中に伝える奉仕の早稲田」、そして「そのような人材をつくる教育機関である早稲田」ということを意味します。

このことをうちの部に置き換えて考えると、部の中で自分がどれだけ何かを突き詰められるか、ということになると思います。そして大事なのは、それをチームに役立てることです。4年間でチームを日本一にするために、人を動かすことよりも、自分ができることを考える。我々コーチ陣も、理念3つ目の人材の育成に基づいて指導を行っています。

今年は、雰囲気がとても良いチーム

ーそこからの“早稲田が目指すアメフト”とは何でしょうか。

アメフトの大きな特徴というのは、1プレー1プレーが切れることです。それは野球の打席と似ていると思うんです。バッターは点差や選手の出塁、ピッチャーの投球など、いろいろな状況を読み切ったうえで打席に立ち、思い切りスイングができる。

同じことがアメフトでも言えるんですね。ですから、自分が正しく一歩踏み出せる方法を全員が考えられる。そんなフットボールを目指しています。個々が強くなることで、チームも強固なものになるということを常々伝えています。

ー今年度のチームカラーを教えてください。

学生なので毎年変わりますが、2024シーズンは、みんなが非常に真面目に取り組んでいるという印象です。雰囲気も含めて、すごく良いチームだと思います。

たまに能力がずば抜けて高い選手がいますが、やはりスポーツ推薦がないこともあり、何かに突出しているタイプはいないですね。但し、レベルが低いということでは決してありません。抜きん出た選手がいない部分をどう補完し合うか。その戦略を立てるのが、うちのチームの特徴だと思います。

ー部員の方々への接し方で意識されていることはありますか?

なるべく彼らの表情や調子を見て、チームの状況を考えています。一番心配なのは怪我ですね。故障している選手には、言葉がけを意識しています。

また、話すうえで主語が何なのかはすごく考えていますね。我々なのか、私なのか、あなたなのか。それにより考え方が変わるので、明確にするようにしています。

あとは、私も特性テストを受けていまして、結果を見ると、外交的ではあるが度が過ぎると嫌がられてしまうようです(笑)。そういったことにならないよう注意したいと思っています。

ー高岡さんと選手との距離感は近いと思っていいのでしょうか。

それは選手に聞いてほしいですが(笑)、監督に就任したばかりの頃は、学生から「監督らしくしてください!」と言われていました。コーチ時代は「俺は近所のおじさんだよ」なんて言いながら選手と接していたこともあり(笑)。ですから監督というものは、やはり選手と一線を置くべきなのかなと思い、本を読み漁って監督業を勉強したんですよ。

ですが無理だなと諦めて、今はもう自分の地を出してやっていますよね(笑)。そうしたら、最近は「怖い」と。コーチからもそう思われているようです。自分では全く思っていないので、客観視するのが下手なのかもしれないですね。

ー外からのイメージと言えば、大学アメフトに対する世間の評価についてお聞きします。実際、厳しい声があるようですが、いかがですか。

過去に起きたことは絶対に消えません。入部の勧誘等でも親御さんから質問を受けますし、私からも説明会で話すようにしています。

部員へは、二度と繰り返さないためにも心構えや振る舞いについてを話しています。今の学生は、子どもの頃にケンカをしなかったというか、親や学校から守られて育った世代だと思うので、高校を卒業した途端、守られなくなったことで綻びが出てしまう。ですから、うまく立ち回ることができないのかなとも思います。我々はその点を受け入れたうえで指導していく必要があると思っています。

大学は教育の場であり、私たち指導者は建学の精神に則り、責任を持って人材を育てなければいけません。学生もまた一人ひとりが自覚を持ち、善悪を判断できるような学びを得てもらいたいと思います。

18歳以上はもう成人ですからね。社会の一員としてやっていいことと、絶対にやってはいけないことの分別はつけましょう、とずっと言い続けています。

ーそのような教えは、浸透してきているようですね。というのも、大学アメフトの信頼回復及びさらなる発展を目指すことを目的に、観客動員数増を軸とした学生組織を同部のマネージャーの方が立ち上げたとお聞きしました。チームナビではその方、東晃司さんにも取材をさせていただいています。部員が積極的に動く姿をどう見ていらっしゃいますか。

我々の活動目的は、社会に出たときにリードできる人材を育成することです。東くんは学連(関東学生アメリカンフットボール連盟)に関わりながら、「自分ができることは何か」を考え、行動してくれています。目指すべき進取の精神を持った行動をしてくれてうれしいです。

学業との両立は、難しい?

ー選手とは別に、東さんのようなスタッフの募集もされています。こちらについても教えてください。

スタッフ系は非常に学べることが多いと思います。アスレチックトレーナーやチームドクターは、うちの大学のスポーツ科学部や他大学で学生を教えている先生が顔を揃えています。脳震盪における研究の第一人者の先生もいらっしゃいます。

また、シアトル・マリナーズのマイナーリーグで活躍して、帰国後は企業のスポーツウェルネス分野で力を発揮している卒業生もいます。

他に、ストレングス&コンディショニングという担当では、栄養と体作りについて専門性の高いコーチから知識を学ぶことができます。

加えてマネージャー分野は、私の同級生である早稲田大学 本庄高等学院野球部の監督から、「高岡のところは会社だね」と言われるくらい、組織図を明確にしています。

財務経理やIT、マーケティング、渉外などの役割があります。各々フォーマットを決めてきめ細かくやっているので、議事録の書き方や課題管理の仕方などが身につき、社会に出たら相当な戦力になると思います。

ー早稲田大学の運動部は学業との両立が難しそうなイメージがあります。実際はいかがでしょうか。

それはもう部活より授業優先です。特に理工系は課題が多いので、報告をしてくれれば欠席を認めています。

建築学科で大学院まで行って、今はIBMでクオーターバックをやっている政本悠紀選手は、私の携わった期間の中でも一番、文武両道を地でいっていたような部員です。授業も課題も本当に大変そうで、3年の終わりぐらいまで、平日はほとんど練習に参加できなかったんです。それでも甲子園ボウルに出て、優秀選手賞を獲って、学生日本代表のキャプテンも務めました。

他にも、酵母の研究で練習になかなか来られない部員がいましたが、自分ができることを彼なりに考えて、「オンサイドキックに専念します」と言ってずっとそれだけをやっていました。

ー休みがちになると、部に居づらくなる気もしますね。

酵母研究の部員のように、学生の本分である学業を全うすることが第一で、そこから自分のできる範囲で部活動をする。このことはみんなわかっていますし、今は昔よりも空気を読めるというのかな、そこに触れるべきではないと判断できているのだと思います。ですから、そういう風潮はないと言えます。勉学に励んでいただいて、もちろん大丈夫です。

ー部員のみなさんの進路についてお聞かせください。

アメフトを続ける学生はけっこう増えていますね。今、Xリーグ(日本社会人アメリカンフットボール)は、富士通フロンティアーズとパナソニック インパルスが二強で、そこに他のクラブチームが追随する構図となっています。それらに年5人から10人くらいが進んでいます。

一般的な就職を考えると、うちは担当のコーチを配置し、就職活動の相談・支援を行っていて、主要業界説明会や個別に企業説明会も実施しています。

その流れですと、やはり大企業にいく部員が多いですね。最近は不動産業と商社が人気で、次にコンサルと金融が続きます。少し変化が見られるなと思うのは、ベンチャー系に進む部員が出てきたことです。先述したキャリアサポートも少しは影響があるのかもしれません。

キャリアサポートで自分の特性を見極め、自分をコントロールできるようになると、やりたいことを実現させるために、ベンチャーへ動くのかもしれないですね。

2022年の甲子園ボウルへ行った年は、私が女性部員を副将に初めて指名したんです。チームのことを一番考えていると思ったからお願いしました。現在は大学院に在学中ですが、彼女はベンチャー企業も視野に入れているようです。まだまだ大企業への就職が主流ですが、そこに進まない流れも出てきています。

ー最後に、どんな学生に入部してもらいたいか教えてください。

やる気があることは大前提です。そして早稲田大学の理念に共感して、4年間をそこに費やすことができる学生なら誰でも歓迎です。定員もありません。

写真提供:早稲田大学米式蹴球部

ちなみにうちの部員の構成は、7割弱がアメフト経験者です。それ以外は未経験者で他競技からの転向が目立ちます。一番多いのは野球、次いでサッカー、同じ球技でもラグビーは思いのほか少ないですね、私はラグビーですが(笑)。バドミントンや水泳出身者もいます。

写真提供:早稲田大学米式蹴球部

1年生の時はもちろん、経験者と未経験者に差はありますが、未経験者は3年生の春ぐらいで追いついて、秋からはレギュラーになっている部員もけっこういます。面白いことにレギュラーの割合も、経験者・未経験者の割合とほぼ同じなんです。

総じて野球経験者は、球感がいいですね。アメフトではボールから目を切るなと指導しますが、特に外野経験者は、落下地点がわかるようで目を切って落下地点に寄って行きます。

とはいえ、サッカーでもゴールキーパー出身者は手の使い方がうまく、ワイドレシーバーで活躍していますし、私が選手として所属していた頃は、高校では帰宅部だった学生でもレギュラーになったりしていました。

ですから、本人のやる気が要となってきます。どれだけ吸収できるかにかかっています。そう考えるとアメフトは、未経験でも活躍できるスポーツのひとつだと思いますね。

ー自分とはどんな人間なのか。どんなことに向いているのか。アメフトの技術向上を目指しながら、自分の特性を理解できるということは、こちらの部ならではの大きな魅力と言えるでしょう。また、伝統ある部活ゆえのROOTS BOWLや早慶戦など、公式大会以外にも重要な試合が数多くあり、学業に勤しみながら精力的な活動ができそうです。貴重なお話をありがとうございました。

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