6年生で1人だけ区選抜のセレクションに行かせてもらえなかった息子。気持ちを切り替えさせるにはどうしたらいいの問題
息子以外の全員が区の選抜セレクションを受け合格してた。うちだけ寝耳に水......。その子たちの親にセレクションのことを聞くと「まだ結果出てないから」と。え? 無関係な私には話したくないってこと?
その後試合の応援に行っても、セレクション受けた子たちとコーチで選抜チームのことを楽しそうに語ってる。息子も疎外感を感じていると思うし、私もママたちとの付き合いに悩む。というご相談をいただきました。
今回も、スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、これまでの知見をもとに悩めるお母さんにアドバイスを送ります。
(構成・文:島沢優子)
(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
<<上手いゆえに努力しない息子、下手でも努力を見せるなら応援できるけど、今の息子にお金と時間かけるの悩む問題
<サッカーママからのご相談>
こんにちは。
地域の少年団サッカーチームに所属している小学6年生の母親です。
所属しているチームの6年生は、息子を含め7名なのですが、先日区の選抜チームメンバーのセレクションがあり、息子以外の全員がコーチの推薦でセレクションを受け全員合格したそうです。
寝耳に水のことでした。
息子に聞くとコーチから「キーパー枠しか空きがない、お前はキーパーやってないから受けさせない」と説明があったそうです。
合格発表後すぐの試合で、合格したママパパ達、コーチ陣が楽しそうに選抜チームの話が聞こえたため、1人のママさんに「セレクションあったんだね」と聞くと「まだ結果出てない」との返事でした。
無関係の人には話したくないという心理なのでしょうか。
その後も試合の応援に行っても6年生保護者とコーチ陣が選抜チームの事等で楽しそうに話しているとモヤモヤした気持ちになります。
正直息子は6年生メンバーで一番下手で、試合にも出られないことが多く、コーチからも声をかけてもらえていません。
選抜メンバーとの話しについていけず、疎外感を感じていると思うのですが、気持ちを切り替えて練習に気持ちが向くようにするにはどういった態度で接したらよいでしょうか。
また、チームのママさん達とのつきあい方についてもアドバイスをいただけますでしょうか。
よろしくお願いいたします。
<島沢さんからの回答>
コーチの推薦で区の選抜に6人も合格するのですから、所属しているチームは区の中でも強豪で、コーチもそのエリアではなにかにつけ影響力をお持ちのようです。
6年生7人中ひとりだけ選抜メンバーではなく、試合にも出られない状況ということで、お母さんが辛くなっている状況が手に取るように伝わってきます。
私から四つアドバイスさせていただきます。メンタルが落ちている状態では、他人のアドバイスが腹落ちするのは難しいかもしれませんが、時間をおいてからでもいいので以下を読んでみてください。
■アドバイス①まずはお子さん本人が「これからどうしたいか」を確認
1つめ。
お母さんはとても落ち込んでいますが、息子さんの気持ちはどうなのでしょうか。
ご相談文に「選抜メンバーとの話しについていけず、疎外感を感じていると思うのですが、気持ちを切り替えて練習に気持ちが向くようにするにはどういった態度で接したらよいか」と書かれています。
これは、疎外感を感じていて「練習や試合に行きたくない」と息子さんがおっしゃっているのでしょうか? それで、お母さんは「気持ちを切り替えて再び意欲的に練習に取り組むにはどうしたらよいか?」と尋ねられているのか。それとも、あくまでお母さんの推測に過ぎないのか。そのあたりがわからないので、お話しするのが難しいなと思っているところです。
しかしながら、1人だけ試合に出してもらえない状態は、恐らく今に始まったことではないように思います。息子さん自身、自分がみんなより技術の習得などがちょっと遅れている自覚はあったのではないでしょうか。一度、本人に「これからどうしたいか?」と尋ねてください。その答えによって対応を考えてはいかがでしょうか。
まず1つの可能性として、練習に来たくないと後ろ向きになっているのなら、その気持ちを認めてあげてください。前向きになって頑張れと言うのは押し付けです。もし行きたくないというところまで来ているのであれば「いやなら行かなくてもいいよ」と言ってあげてください。
もう6年生なのでここからチームを移るのは難しいかもしれないので、例えばスクールに行く程度にして「また中学になったらサッカーすれば?」と話してみてはいかがでしょうか。無理強いは一番よくありません。
もう1つの可能性として「ああ、やる気なくすなあ」と思ってはいるけれど、チームをやめるとかサッカーをやめるほどではないかもしれません。であれば、親の出番はありません。例えば「へえ、そうなんだ、じゃあ、まあ頑張ってね」くらいで終わらせればいいかと思います。
■アドバイス②親の「割り切り」も大事、本人の自己決定力をつける経験を優先しよう
2つめ。
文章を何度も読み返しましたが、サッカーの試合に出られないのは息子さんの問題であり、お母さんの課題ではありませんよね。
ご相談文で「気持ちを切り替えて練習に気持ちが向くようにするにはどういった態度で接したらいいか」とあるのは、少しでも息子の役に立ちたいという気持ちからお尋ねになったのだと思います。
ただ、もう12歳という前思春期に入り、あと数か月で中学生になる息子さんに、母親がそこまで影響力を持つとは私は思えません。
嫌なものは嫌だし、このチームでサッカーをやるかやらないかを選ぶのは息子さんです。嫌な練習を前向きに臨ませる策を練るよりも、「僕はこうしたい」という自己決定力をつける経験を優先しませんか。
そのためには、お母さん自身が「割り切る」ことを学んでください。冒頭で申し上げたように、息子さんの力よりちょっと上のレベルのチームに入ってしまったようです。
それに、最近の少年サッカーは、全員を試合に出場させ平等に扱うチームも増えてきてはいます。ただ、息子さんとお母さんが選んだチームはそうではないのかもしれません。
ただ、チームのやり方やコーチのありようは、お母さんの力の及ばないものです。降り出した雨を止められないのと同じで、自分の力ではいかんともしがたいことは割り切ることです。サッカーをするのはお子さん自身ですから、本人に任せればよいのです。
■アドバイス③抗議することが子どもにプラスになる?「親の出番」を間違えないようにしよう
3つめ。
2つめの「割り切る」に関連することですが、「親の出番」を間違えないようにしましょう。コーチから暴力やハラスメントがあったのなら、そこは親の出番です。断固抗議し、しかるべきところに通報するなど動かなくてはなりません。暴言についても同様です。
よって、今回のこの選抜セレクションを受けさせてもらえなかったことが親の出番かどうかと問われると、そうではなさそうです。
息子さんに対して「枠がキーパーしかないから」と受けさせなかったことに対し「7人いるのだから1人だけ受けないのは疎外感を深めるので、受けさせるだけでもできなかったのでしょうか?」と抗議することもできます。
ただ、抗議することで息子さんにプラスになるかどうかと考えれば、ゼロのような気がします。
■アドバイス④疎外感を抱いているのはあなたでは? チームメイトの親はいずれ離れる日が来る
(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
そして最後の4つめです。
ここは息子さんのサッカーからいくばくか離れましょう。一見すると息子さんの課題のように書かれていますが、疎外感を抱いているのはお母さんではありませんか。人間ですから自然なことです。
ただ、その気持ちを長引かせると、息子さんの自己肯定感が下がります。大好きなお母さんを「がっかりさせているダメな僕」と考えてしまうかもしれません。
実はお母さんのこころの持ち方の問題だと私は思います。お当番などあるかもしれませんが、夫に替わってもらえるのならそうしてもらってください。
ここを子離れの起点にしてください。区の選抜メンバーに入ったチームメイト6人の母親たちも、これからレベルが上がるにつれていつか必ず割り切ったり、離れる日が来るのです。
それがちょっと早めに来ただけのこと。そうやって子育てを長いスパンで考えましょう。子どもは目の前の現実に一所懸命向き合うのみですが、先のことを考えられるのは親だけです。やさしく見守ってあげてください。
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産 彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキル ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。