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成績不問、コミュ力不要。元経産官僚がはじめた"大人が評価しない子"の輝きを育むプロジェクト

OTEMOTO

学校になじみづらいこどもたちの探究心を伸ばそうと「ロートこどもみらい財団」が支援プログラムを提供しています。財団を立ち上げた代表理事の荒木健史さんは、経済産業省の官僚から転身し、保育士の資格を取得した異色の経歴。「ひとりひとりの個性に寄り添い、失敗したときこそサポートしたい」。どんなこどもが、どんな支援を受けられるのでしょうか。

「ロートこどもみらい財団」は「こどもが自分らしく探究しようとする眼の芽を伸ばす」というコンセプトで2021年10月、ロート製薬が一般財団法人として発足し、2024年4月に公益財団法人に移行しました。「現在の教育制度の下では十分に力を発揮しづらいこどもたち」に向けて支援をしている点が特徴です。

参加を希望するこどもは「ロートシップ」というコミュニティに登録します。参加者は「メロー」(「眼の芽」と「フェロー」をかけあわせた言葉)と呼ばれ、財団からサポートを受けられます。オンラインのプラグラムに参加したり、リアルな集まり「ギャザリング」で仲間や専門家と交流したり。また、年1回の「ファンディング」にアイデアを応募して採択されると、スタッフによるメンタリングや資金提供を受けることができます。

対象は、小学3年生から高校3年生(8歳から18歳)。代表理事の荒木健史さんは、参加者についてこう話します。

「特に呼びかけているわけではありませんが、発達特性があるこどもが多い印象です。学校に行っていない子もいることから、学年だけでなく年齢の表記も入れています。こどもの特性や希望に応じて未就学でも参加OKにしています」

出典:ロートこどもみらい財団公式サイト

支援からこぼれ落ちる子

学校教育でもアクティブラーニングや探究学習が重視されるようになり、こどもたちの自発的な学びが尊重されつつある一方、そもそも学校という枠組みになじみづらいこどもたちがいます。

「大人に評価されやすい子ばかりに支援や機会が集中していないだろうか」。荒木さんは経済産業省で働くうちに、そんな疑問を持ち始めました。

こどもたちが置かれている環境を変えようと、民間企業が具体的な取り組みをどんどん進めていましたが、国の政策は各省庁の縦割り行政や国会対策などでどうしても時間がかかってしまいます。

「篤志家と呼ばれる人たちのスピード感に圧倒されました。霞が関でしかできないこともありますが、こどもの成長は待ったなしなので、行政の支援からこぼれ落ちている部分にアプローチしたいと思いました」

荒木さんは15年間勤めた経産省を辞め、2018年にロート製薬に転職しました。また、保育士の資格を取得。放課後等デイサービスで発達特性などのあるこどもたちと接しながら、財団のコンセプトや支援内容を固めていきました。

ロートこどもみらい財団代表理事の荒木健史さん
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

不採用でもフォローする

サポートの一つが、こどもが好きなことを探究する活動を支援する「ファンディング」。これまで、不登校の子、経済的な理由でチャレンジの機会がない子、好きなことがあるのに学校や家族から評価されていない子、高い知能や特定の分野の才能をもついわゆる「ギフテッド」の子たちからも応募がありました。

2024年度の2期では、「ヘビの毒を薬に使う研究」(9歳)、「不登校の子を助ける教育用ロボットとプログラムづくり」(10歳)、「エコな自動車エンジンの作成」(12歳)、「セキュリティの高いドアシステム開発」(15歳)など、11人のアイデアが採用されました。

「一般的な奨学金などでは、学校の成績やコミュニケーション能力が評価されがちですが、いずれも不問としています。『好き』『やりたい』という内発的な動機と挑戦の意欲、10年後の実現可能性、学校や家庭などの環境で実現しづらいことなどを採否の基準にしています」

アイデアが採用されると、研究に必要な資金に加え、メンタリングや専門家のアドバイスも受けることができます。しかし実は、不採用となった子にも個別にフォローをしているのだそう。

「不採用が挫折経験となって好奇心がしぼまないように、次のステップに向けたサポートを裏側でしています。夢を実現する過程のどこかで失敗したとしても、失敗から学ぶことこそが大事だと考えているからです」

「さらに言うと、『ファンディング』に応募するのはすでにやりたいことが明確にある子ですが、やりたいことがわからない子、無気力な子も多い。好きなことを探す旅をしてもらえるように、さまざまな分野のプログラムも提供しています」

専門領域がある講師によるプログラムは月に4回、オンラインとオフラインで実施しています。地球、宇宙、自然、アート、メンタルヘルスなど、テーマは多種多様。同じ製薬会社である塩野義製薬と包括連携協定を結び、同社の植物園を舞台に生物多様性について学び、自宅で綿花を育てるプログラムも実施しました。

ファンディング第1期生の野中さんと荒木さん
写真提供:ロートこどもみらい財団

保護者の孤立を防ぐ

こどもが望む距離感で交流できるよう、自宅から匿名で参加できる「メタバース児童館」もあれば、ワークショップ型の交流イベント「ギャザリング」もあります。オフラインのイベントは孤立しがちな保護者たちがつながる場にもなっており、保護者の口コミで「メロー」に登録するこどもが増えています。

文部科学省の調査によると2022年度、不登校の小中学生は29万9048人で過去最多となりました。要因としては「無気力・不安」「生活の乱れ」などが多くあげられていますが、荒木さんは「学びの不一致もあるのでは」と話します。

「学校のカリキュラム以外に自分の学びたいことがある場合、せっかく芽生えた好奇心や探究心を伸ばす場所がないのが現状です。かつてこどもだった私たちにも『本当はこんなことを学びたかったのに』という悔いや、いつのまにか好奇心や探究心が消えてしまった経験があるのではないでしょうか」

ロートこどもみらい財団に登録している「メロー」は現在、約900人。人数を増やすよりも一人ひとりの変化を丁寧に追うことを重視しつつ、情報が届きづらい人たちにリーチするため、自治体との連携を進めています。

現在は、東京都足立区、神奈川県鎌倉市、大阪府東大阪市、兵庫県豊岡市の4自治体と連携。「学校、家庭、自治体、財団で協力すれば、360度の視点でこどもたちを見ていくことができるはず」と荒木さんは話します。

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