自閉症息子、放課後等デイサービスに楽しく通い始めた1ヶ月後「行きたくない」!?理由と母の反省
監修:新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
心が重たい放課後等デイサービス探し
スバルが年長の秋頃、当時通っていた療育先で1番の情報通ママから「放課後等デイサービス探しもう始めてる?」と聞かれました。就学相談や学校見学やサポートブック製作で身も心もいっぱいいっぱいなのに、情報通はもう放課後等デイサービスも探しているのかと焦りました。
その人は「放課後等デイサービス探しは意外と楽しいよ」と言っていましたが、私は「楽しい訳あるかい」と思いました。
スバルは3歳でASD(自閉スペクトラム症)と診断され、当時入園する予定で通っていたプレ幼稚園を退園になり、大急ぎで幼稚園を探したことがありました。その記憶とリンクして心が重たくなりました。さらに私の住む地域では放課後等デイサービス契約までの道のりはやたらと長くややこしいものだと分かりました。
私の心はますます重くなるのでした。
楽しくなってきた放課後等デイサービス探し
市のWebサイトに放課後等デイサービスの一覧がありました。想像していたよりたくさんの放課後等デイサービスがあり、地域でしぼったあと、1つずつインターネットで検索しました。その際にWebサイトがなかった放課後等デイサービスは候補から外しました。なんかアナログだから古そう……と思ったのです。
いろいろ調べて行くうちに居場所系、療育系、お勉強系、イベント系など施設によって特色があることが分かりました。
この時点で少し楽しくなってきていましたが、とある新しい施設のWebサイトが目にとまり、さらにテンションが上がりしました。その放課後等デイサービスでは毎月たくさんのイベントがあり、外部から特別講師が来て教えてくれるというのです。英会話、ダンス、ヨガ、工作、化学、プログラミング、ほかにもいろいろなイベントの日があり、こんなところに通えたら最高だと思いました。
スバルと習い事と私
スバルが赤ちゃんの頃、スバルの寝顔を見ながら夫とこんな話をしていました。
「スバルは大きくなったらどんなことに興味を持つかな」
「オレは水泳をさせたいな」
「運動系ならダンスや体操もいいね」
「剣道や柔道にも憧れる」
「今の時代は英語も必要かな」
「プログラミング教室も駅前にあったよ」
「楽器もいいね」
習い事ができる年齢になる頃にはASD(自閉スペクトラム症)と診断されており、集団活動が苦手なこと、先生からの集団への指示が通らないこと、びっくりするくらい不器用なことが分かりました。
「先生の指示が聞けないと命に関わるから水泳は無理だね」
「不器用だから楽器も厳しいね」
「スバルは英語に興味がありそうだけど、集団だとほかの生徒さんに迷惑がかかるから英語教室も難しいかもね」
「あれも……」
「これも……」
と諦めてきました。
そんな記憶がブワッっと溢れて、この放課後等デイサービスではあれも選べるこれも選べると感動しました。
放課後等デイサービスの中でなら苦手なことにだって挑戦できるし、失敗したって集中できなくだって迷惑だなんて考えなくていいし、未知の分野に触れることもできる……。なんて楽しい場所なんだ!なんなら私が通いたい!と思いました。
スバルは新しい場所や新しい体験が好きなのできっと楽しんで通えると思いました。アドレナリンがドバッと出て、その後は面倒な手続きもあっという間にこなしてしまいました。結局こちらのイベントもりもりの放課後等デイサービスと、これといってイベントはないけれど先生の印象がとても良かった放課後等デイサービスの2ヶ所に通うことになりました。
いざ通所が始まると……
小学校に入学し、学校に慣れ始めた頃に放課後等デイサービスの通所を開始しました。今まで体験した事のないイベントや習い事に目を輝かせて「楽しい!」と言っていたスバルですが、1ヶ月経った頃から行きたがらなくなりました。
行くたびに違うことをしなくてはいけない環境に疲れてしまったのです。
冷静になって考えるとスバルは新しい場所や新しい体験は好きなのですが、ルーティンが落ち着くという性質もあります。1ヶ月経ち、放課後等デイサービスへの通所がスバルにとって「日常」になったのでルーティンの優先度が上がったのだと思います。
私が自分の欲望に目がくらみ、スバルの本質を忘れてしまったために起こったミスマッチでした。
その後はスバルが好きなイベントの日をメインに通い、もう1つの放課後等デイサービスとバランスを取りながら楽しく通所していましたが、数ヶ月後人間関係のトラブルで辞める決断をしました。
紆余曲折あり、もう1つの放課後等デイサービスも辞め(その話はまたの機会に)現在は穏やかにルーティンをこなしながらエッセンス的に毎日楽しい活動がある放課後等デイサービスに通っています。人間関係も活動内容もスバルにぴったりあっているようで、心の底から楽しんで通っているのが分かります。
この放課後等デイサービスはWebサイトがありませんが、先輩ママの紹介で見学に行き決めました。「Webサイトがない放課後等デイサービスはなんか古そう」と避けていた私ですが、WebサイトがなくてもSNSなどを上手に活用して情報を発信している施設がたくさんあることをこの時に学びました。
SNSに疎かった私のほうがアナログでした。
現在のスバルと習い事
幼稚園児の頃と小学校低学年の頃は集団の中で活動しているスバルの姿が想像できなくて諦めていましたが、なんと現在は習い事に通っています。この習い事は、小学3年生になったスバルが「最初の放課後等デイサービスのイベントで体験したあれが習いたい」と言い出して決まりました。
この頃には集団の中でも活動に参加できるようになっていたので、体験教室に何度も通い決定しました。楽しかったりつまづいたりしますが、小学5年生になっても自分の意思で習い事を続けています。舞い上がった私が決断した最初の放課後等デイサービスへの通所は、反省の多いものになりましたが、今の習い事につながったことで少しだけ心が軽くなりました。
執筆/星あかり
(監修:新美先生より)
放課後等デイサービスは、活動内容や雰囲気が施設によってかなり異なっています。定員もあり、放課後等デイサービスを探すのは本当に大変ですよね。
放課後等デイサービスを利用する目的として、療育的な関わり、学習サポート、家や学校でできない活動を経験する場、安全に過ごせる居場所などさまざまあると思います。学校生活を頑張ったあとにほっと一息、安心して過ごすことを目的とするなら、自由度が高くのびのび過ごせる放課後等デイサービスを選んだほうが良いでしょうし、ふだん家だけではできない活動を発達特性を踏まえてサポートを受けながら経験する場にしたいのであれば、興味ある活動が多い場所が気になりますね。
放課後等デイサービスは定員があり、通える地域の制約もあるのでインターネット発信をほとんどしていない施設もけっこうあります。福祉サービスを紹介してくれる窓口は公的機関だと公平性の担保のため、どこがおすすめというようなことは教えてもらえないことも多くて、探すのは本当に大変です。相性の問題も大きいので、少々面倒でもいくつか見学して、ご本人に合った場所を見つけられると良いと思います。
スバルくんは、放課後等デイサービスでの活動がきっかけで、やりたい習い事がみつけられたのですね。慣れて安心して通える放課後等デイサービスのイベントだったからこそ、その活動に出合えたといえるのかもしれません。そして、その活動をもっと深めたいと思えて、習い事を始めることができたのですね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。