説明がうまい人と、そうでない人の決定的な違い【トップビジネスパーソンに聞く】
「説明がうまい人」は何が違うのか?
プレゼンや営業で「何が言いたいのかわからない」と言われた経験はありませんか?
実は、説明がうまい人には共通する“4つの鉄則”があります。
今回は、12年間にわたり経営コンサルティングに従事し、WEBメディアの運営支援や記事執筆などを行うティネクト株式会社の代表・安達裕哉さんに、コンサルでの経験を通じて得た、よくある「説明下手」のパターンと、聞き手を納得させて動かす説明の技術について、具体例とともに解説いただきました。
“わかりやすく伝える力”を武器にしたいすべてのビジネスパーソンに必読の内容です。
説明はうまいほうがいい
これまでに受けた、提案書などのプレゼンテーションを思い出しながら、考えてみてください。
下のどちらが、良いプレゼンテーションだったと思えるでしょうか。
一社目は、話者が資料をめくりながら「まず弊社の沿革からお話しします」と切り出す。
スライドを一枚ずつ表示しながら、沿革や受賞歴を読み上げ、今回の経緯を演説する。
そして開始20分頃にようやく、「では今回のプレゼンテーションのポイントです」という。
そしてもう一社。
示された資料のボリュームは上と同じ三十枚。
しかし、上と異なるのは挨拶に続けて、
「今日お伝えしたいことは三つです。貴社の現在やられていることに対して、コストは現状の二割減、変更にかかる時間は六週間、そしてトラブル時の一次対応はすべて弊社持ちで可能です」
と述べる。
聞き手からすれば、どちらの説明が優れているかは明らかです。
しかし、一体、何が異なるのでしょうか?
前者と後者の差は情報量や業界知識の多寡ではありません。
最も大きな差は、 「プレゼンテーションの受け手の気持ちをわかっているか」 という一点です。
「そんなこと当たり前では」という方もいるかもしれません。
ところが、いざ自分が説明する番になると、とたんに自社紹介や自分語りに時間を使ってしまう人が多いのです。
大事なのは「説明」を演説やエンタメと混同しないことです。
身振り手振りを交え、笑いを誘いながら語るスピーカーは確かに魅力的ですが、聴衆が会場を出た直後に「結局、私たちは何をすればいいんだろうか」と頭を抱えるようであれば、それは説明ではなくショーに成功しただけだと言えます。
説明とは、相手の疑問を解消し、次の一歩を自信を持って踏み出せる状態に導く知的サービスです。
ビジネスでは「相手が動いてナンボ」ですから、説明がうまいほうがいいのは当たり前で、「説明力」の有無は、ビジネスの生産性を左右する経済合理性の話です。
説明が下手くそな人のクセ
では、最初に「説明が下手くそな人」から「説明時にやってはいけないこと」を紐解いていきましょう。
❶ 相手が聞きたいことではなく、こちらが話したいことを話している
例えばあなたが家電量販店で新しいノートパソコンを探しているとします。
店員に「オンラインミーティングがスムーズに行えるようにしたい」と伝えたのに、返ってきた説明が「当店は接客コンテスト一位を獲得した店舗です」だったとしたら、あなたは耳を貸す気になるでしょうか。
多くの場合、説明下手は「自分の持ちネタ」を披露する機会を心待ちにしており、目の前の相手が今どんな情報不足に苦しんでいるかには関心を払っていません。
結果として、聞き手は「会話が噛み合わない」というストレスを感じ、早く会話を切り上げるための言い訳を探し始めます。
❷ 過剰に情報を与えている
情報量を武器だと勘違いすると、「漏れがあったら叱責されるのでは」という感情が働き、結果としてA4三十枚の補足資料や、見づらいフォントサイズの機能比較表を積み上げてしまいがちです。
しかし聞き手は、どれが必要なのかわからない大量の情報を前にすると「面倒くさ」と思うだけ。結局は一番シンプルなシリーズ名や価格帯だけで判断しようとします。
あるSIerの若手は、機能を網羅する大量のスライドを読み終えたあと、客先の情報システム部長から「で、うちの古い基幹システムとつながりますか」とたった一つの質問を受け、即答できずに沈黙しました。
❸ 相手の理解度を無視して話している
専門家が専門家同士で語り合うとき、行間を飛び越えて意図が通じる爽快感があります。しかし、それを素人や異業種の相手に向けるのはスジがよくありません。
「ステークホルダーとのタッチポイントをマルチチャネルで最適化して、エンゲージメントを可視化したいですね。」
とか言ってるやつは部屋から追い出されます。
ただ、こうしたわかりやすい齟齬はまだよく、「言ってることわかんないんですけど」でおしまいです。
実は、最も怖いのは「わかったような、わからないような言葉です。」
例えば、「属人化は良くない。知識の共有化を徹底しよう」という発言。
「なんとなくわかった感じ」はします。
しかし実際には
「属人化」とはなにか?
「知識」とはなにか?
「共有化」とはなにか?
「徹底」とはなにか?
これらの曖昧な言葉を詰めないと、誰も動けません。
説明の話者は、「属人化」のように、曖昧で難解な言葉を使うときには、相手がどこまで理解をしているのか、確認をしながら使う必要があるのです。
説明がうまい人の特徴
では逆に、説明のうまい人の特徴はどのようなところにあるのでしょうか。4つの鉄則を紹介します。
❶ 説明をするため、相手のことを聞く
優れた説明は、始まる前から勝負がついています。
例えば、最初に目次を共有して「今日、特に深掘りしたい点はございますか?」と聞くだけで、相手は「自分のニーズを尊重してくれる」と感じ、聞く準備が整います。
あるいは、説明をする前に「こちらについては聞いたことはございますか?」と確認をいれるだけでも、余分な話をせずに済みます。
これらの質問は同時に、話し手が持つ膨大な情報群から「不要部分を大胆に切り捨てる指針」にもなり、一石二鳥です。
あるセミナー講師は講演の前、必ず主催者に「参加者の職種と、終演後にどんな行動をとってもらいたいか」を尋ねていましたが、この一問が、「説明力」を大きく上げることはまちがいありません。
❷ 相手が聞きたいことだけ話す
あなたがもし週末にラーメン屋へ行き、「あっさり味とこってり味の違いは?」と聞いたのに、店主が「まずチャーシューが違うんです。」と語り始めたら「いや、味の違いを聞いてるんだけど」と、戸惑うでしょう。
説明上手は、「あっさり味は魚介風味、こってりは豚骨。」と、必要なことだけを話します。当たり前ですね。
(でも現実には、これと同様に「聞かれたことに答えない人」がたくさんいます)
このように「相手が聞きたいことだけ話す」のは説明の鉄則です。
ある人材紹介業のトップセールスは、初回面談で求職者の「転職理由」と「譲れない条件」の二点を聞き出し、以降の提案をすべてその二点に結びつけます。
候補企業の「良いところ」、例えば成長率も社風などを、つい語ってしまいそうになりますが、基本的には求職者の言動を観察し、琴線に触れない限りは何も語りません。
ただし「相手が何を聞きたいのか」がよくわからないケースもあります。
そんな場合には、「3.1説明をするため、相手のことを聞く」に戻って、ちゃんと聞くことから始めましょう。
❸ 必要最低限の説明だけ行う
説明上手は、情報を「足す」より「削る」ことで説得力を高めます。
例えば、テレビ番組のナレーターが一文に詰め込む情報量は驚くほど少ないのです。
テレビには映像がある、というのもありますが、それならなおさら、ナレーションはできるだけ端的に、余計な情報を入れないことが重要です。
私が在籍していたコンサルティング会社では、中小企業向けのコンサルティングのキャッチフレーズを当初、
「短期間で簡単に皆が実行できて、しかも大きな成果が出やすく、成果を上げ続けるための運用も簡単です」
と説明していましたが、それでは冗長だ、ということで経営トップから
「かんたん実行、ばつぐん効果、らくらく継続」
にせよ、という指示が出ました。これは「必要最低限」の条件を満たしています。
❹ 相手の理解度を確認し、質問を促す
説明がうまい人は、途中で「ここまででご不明点はありますか」と尋ねます。
相手を退屈させないため、理解度の確認のため、相手の知りたいことだけを言うためです。
こうすることで、相手が誤解していれば即座に修正できますし、理解していれば納得が深まるのです。
言うなれば、「説明の終わりは、質問タイムではなく、理解度チェックタイム」ということです。
説明力は簡単に身につくスキル
ここまで読んで、「自分は口ベタだから説明が下手なのだ」と思っていた方は、全くイメージが変わったのではないでしょうか。
説明力は生まれつきの才能ではなく、クセ付けと練習で伸びる技能です。
野球のピッチングフォームのように、重心の移動や腕の振りを分解し、一つずつ矯正すれば球速が上がるのと同じで、説明も 「相手に聞く」「相手が聞きたいことだけ話す」「途中で理解チェックする」 という三つの動作を覚えるだけで劇的に変わります。
むかし、「話し方」のセミナーをやっていた時代がありました。
そこでは、受講者に三分間の自社説明をしてもらい、上のルールを理解したうえで、もう一度自社の紹介をしてもらいます。
すると、当たり前ですが、九割の人が「さっきより断然わかりやすい」と言われ、本人も手応えを感じました。時間にしてわずか三十分のトレーニングです。
そうした小さな成功体験が積み重なった頃、周囲から「話がわかりやすいね」と言われることになるでしょう。説明力は、思ったより簡単に、そして確実に身につくスキルなのです。
プロフィール
安達裕哉
1975年生まれ。筑波大学大学院環境科学研究科修了後、デロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。 品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事し、その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。 大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。
現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」および生成AIコンサルティング会社「ワークワンダース」 の代表として、コンサルティング、webメディアの運営、記事執筆などを行う。
代表著書
『仕事ができる人が見えないところで必ずしていること(日本実業出版社)』
『頭のいい人が話す前に考えていること(ダイヤモンド社)』
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安達裕哉