「うちらの不幸は悪魔のせい」日本でも起こった“悪魔憑き×殺人事件”は精神鑑定でどう判断されるのか？
凶悪殺人と悪魔憑き
連続殺人鬼と映画は相性がいい。明日にでも自分が犠牲者になる可能性もあるが、あくまで非日常の、完全なフィクションとしてスリルを楽しむ分には優れた題材だ。しかし当然ながら、多くの殺人鬼映画にはモデルとなった実際の事件がある。
「シリアルキラー」という呼称を生んだテッド・バンディや、キラークラウンことジョン・ゲイシー、食人鬼ジェフリー・ダーマー、死体家具職人エド・ゲインなどなど、映画化された／モデルとなった殺人鬼は非常に多い。自身の欲望に忠実なモンスターのような殺人鬼がいれば、頭脳明晰・冷静沈着なカリスマすら感じさせる者、その場しのぎの殺人で坂道を転げ落ちていく者など、そのパターンは様々だ。
80年代には「悪魔に取り憑かれて殺人を犯した」と無罪を主張する者が登場して（※アーニー・ジョンソン事件）、2021年に映画化もされた。じつは、同じ頃に日本でも“悪魔祓い”と称したバラバラ殺人事件が起こっている。被害者は売れないバンドのメンバーだった。
“私は悪魔”は真実か？ 駆け引き系ホラー『ネファリアス』
5月30日（金）より公開の映画『ネファリアス』は、ある死刑囚の刑執行日に最終判断を委ねられた精神科医が 、“殺人鬼” との対話で次第に追い詰められていく様子を描く心理ホラー。血しぶき飛び散るスプラッタでも心霊ホラーでもない、独房で繰り広げられるヒリヒリとした心理戦をじっくり見せる、どちらかと言えばスリラー寄りの作品だ。
原題でもある「Nefarious」」は、「極悪非道」とか「邪悪」という意味だという。何とも物騒なタイトルだが、独房内での会話劇で、どのように“極悪・邪悪”を表現したのか？ ひとまずメイン登場人物は2人で、今日にでも死刑執行されそうな殺人鬼エドワード（複数人を殺害の罪）と、彼の精神鑑定を行う医師ジェームズのみ。そしてエドワードの前担当医は鑑定結果を出す前に自殺しているという……。
つまり観客は、“なぜ・どうして”を胸に抱えた状態で2人の対話を見守ることになる。「俺は悪魔。名前はネファリアス」とうそぶくエドワードと、彼の責任能力の有無をマジメに鑑定しようとするジェームズ。最初は話が噛み合わないものの、エドワードの挑発とも謎かけともとれる発言がジェームズを翻弄し、観客の好奇心を引き続ける。
悪魔が憑いているとは言うが『エクソシスト』的な展開はなく、登場した神父も秒で退場。大げさでなくイスとテーブル、2人の男性による会話以外の要素がほぼないという、今どき珍しいほどの低予算ぶり。会話劇をじっと観察していくうちに往年のホラー映画にも共通する保守的なテーマがチラつくものの、じっとりとしたスリルをキープするのは、『処刑人』シリーズ（1999年／2009年）のショーン・パトリック・フラナリーの熱演によるところも大きい（憑依表現のメリハリが見事！）。
本作が宗教的な視点を基に描かれていることは明らか。某辛口レビューサイトでの“96％好評価”の理由もその辺りが大いに関係しているはずだが、エドワード（ネファリアス）の“悪”たるキャラ立ちは明確で、不思議と目が離せない。とくに大仰なホラーよりも渋めのインディーズ作品を好む人であれば、宗教テーマ云々を抜きにしても“不穏な会話劇スリラー”として大いに楽しめるだろう。
『ネファリアス』は5月30日（金）よりシネマート新宿ほか全国順次公開