文房具、ドーナツ、怪異──ファンだからこそ生まれた特別なイラストに会えるのはここだけ!〈物語〉シリーズ × Mika Pikazo POP-UP『ENCOUNTER 遭遇』特別インタビュー
イラストレーター・アートディレクターのMika Pikazo氏と『〈物語〉シリーズ』がコラボレーションしたPOP-UPイベント『ENCOUNTER 遭遇』。
本POP-UPでは、“遭遇”をキーワードに、『〈物語〉シリーズ』の世界観とMika Pikazo氏の鮮烈な色彩が交差し、作品と新たに出會い直すような体験ができた。そんな強烈なイラストやコンセプトは、どのように生まれたのか。
アニメイトタイムズでは、Mika Pikazo氏に特別インタビューを実施。『ENCOUNTER 遭遇』に込めた想いやイラスト制作エピソードをはじめ、『〈物語〉シリーズ』との思い出などを伺った。
【写真】〈物語〉シリーズ × Mika Pikazo POP-UP『ENCOUNTER 遭遇』特別インタビュー
キービジュアル&6枚の描き下ろしイラストに込めたこだわりと想い
──〈物語〉シリーズ × Mika Pikazo POP-UP『ENCOUNTER 遭遇』開催のきっかけについてお聞かせください。
Mika Pikazoさん(以下、Mika):「『〈物語〉シリーズ』とのコラボという形で、なにか企画ができないか?」とお声がけいただいたのがきっかけでした。
「コラボレーションのグッズを作って終わりではなく、イベントとして、空間を使って何か面白いことができないか」と思い、自分でも色々と考えながら形にしていった流れです。
──展示の構成は、どのように考えていったのですか?
Mika:自分の中でコンセプトを考えた上で、主催のマキシラさんと一緒に「どういったクリエイティブにしていくのが良いか」をすり合わせていきました。
最初に意識したのは、『〈物語〉シリーズ』最初のアニメ作品である『化物語』を見たときに感じた空気感です。ざわざわするような、強烈なものを見てしまったときのような感覚……それを空間で表現したかったです。
高校生の青春群像劇かなと思って見ていたら、“怪異”の存在や、ヒロインたちが持つ闇や抱えるものの深さが露呈していく。そのときに感じた怖さや「これって一体どうなっているんだろう?」という気持ちを、『化物語』へのリスペクトもこめて今回イラストや実際の展示で表現できたらと思っていました。
──今回のキービジュアルは、どのように制作を進められたのでしょうか。
Mika:まず最初に描いたのが、キービジュアルの忍ちゃんでした。私にとって『〈物語〉シリーズ』といえば戦場ヶ原さんの印象が強いのですが、今回の『ENCOUNTER 遭遇』は、〈物語〉にある暗さ、冷酷さをイベントのテーマにしていますので、主人公・阿良々木くんが戦場ヶ原さんに初めて出逢う前に起こった事件の持つ雰囲気を描きたいと思いました。先ほど『化物語』のお話をしましたが、全ての始まりは、忍ちゃんとの「遭遇」だったのではないか……と思っています。
──キービジュアルでは、忍と対峙する戦場ヶ原のモチーフも印象的でした。
Mika:忍ちゃんを描きたいという想いと同時に、やはり戦場ヶ原さんのモチーフである文房具も描きたいと思っていました。
制服やスカートの中から文房具がガシャッと出ているシーンは、見たことのないビジュアルだったなと。アニメで見ても印象的だったんですよね。初めて『〈物語〉シリーズ』を見たとき、「こんなに格好良い新しい表現が生まれるんだ」と強く感じた要素でした。
今回のキービジュアルでは忍ちゃんが正面にいて、文房具が彼女の前にたくさん散らばっている……そんなイメージを、自分の色の表現で描けたらと思っていました。
──そんな妖しいキービジュアルから一転、描き下ろしイラストの忍からは、とてもかわいらしい印象を受けました。
Mika:6枚の描き下ろしイラストも、忍ちゃんから完成させたのですが、キービジュアルとは違う、可愛い雰囲気にしたい気持ちがありました。彼女はクールな面もありますが、やはり可愛いので……。
背景には彼女の大好きなドーナツをたくさん散りばめて、学校の机や椅子を乱雑に並べた空間の中に幸せそうな彼女がいる、という構成にしています。
──次に描かれたのは、どのキャラクターですか?
Mika:神原です。忍ちゃんの可愛いイメージに対して、神原はラフの時点で「シリアスな表情にしたい」と思っていたんです。
神原は一見するととても明るくて元気で、通学路などで阿良々木くんに元気よく声をかけてくるような存在だと思います。でも、その内面には怒りのような感情にあふれている。元々の公式ビジュアルなどでは明るい印象が強いキャラクターではありますが、自分が彼女を描くとしたら、負の感情を複雑に持っているところを選びたいと考えていました。
──彼女の表情にも惹き込まれますが、包帯から「憎」という文字があふれていて……。
Mika:そうなんです! 彼女は左手を制圧している、欲を抑えているキャラクターでもあるので、左腕の包帯に文字を入れたら面白いかなと。
そんな神原の次に完成させたのは戦場ヶ原さんでした。今回のキービジュアルとはまた別に、この展示空間の中で一番“キー”となるビジュアルだと思っています。
彼女が、あの螺旋階段から落ちていくシーンが、アニメ『〈物語〉シリーズ』の始まりですから、あの瞬間を自分なりの表現で描けたらと思いながら制作していました。
──なるほど。
Mika:背景の階段部分はピンクと水色なのですが、キャラクターを抜くと“蟹”という漢字が浮かび上がるようになっているんです。
その漢字のニュアンスも、うまくデザインに盛り込めないかなと思って工夫しました。
──かなり細かい仕掛けまで施されていたんですね。
Mika:そうですね。今回のイラストは、基本的には『化物語』のキャラクター像をテーマにしていますが、細かい装飾やアクセントとして、「セカンドシーズン」以降の要素も少しずつ取り入れています。
その次に描いたのは真宵ちゃんですね。公園をモチーフにした背景で描きました。このイラストは、自分の好きな黄色や赤をふんだんに入れることができて、結果的に、“Mika Pikazoらしさ”を出しつつ、八九寺らしさも表すことができたイラストになったと思っています。
パッと明るい表情の女の子を描くのは好きです。
──元気な色使いや表情が印象的です。
Mika:真宵ちゃんは、ストーリーを見ていて「幸せになってほしい」と思うキャラクターなんですよね。阿良々木くんとの掛け合いも印象的で、出会ったときの“あのやり取り”をやってくれないと寂しいって気持ちになったり……(笑)。
やり取りのテンポや言い回しも、あの時代だからこそ生まれたものですし、アニメ表現として今見ても素晴らしいなと感じています。
Mika:その次は、羽川さんを完成させました。描く前からどのようなイラストにしようか、とても悩んだキャラクターです。でも、それだけに感情移入もしやすくて、どうしても「可愛く描きたい」という気持ちと、「彼女が持っている精神性も表現したい」という気持ちの両方がありました。
背景には、阿良々木くんと羽川さんが文化祭の準備をしている、夕方の教室のシーンを描いています。あの美しい放課後の教室がずっと思い出に残ってます。
──高校生らしい青春を感じられるシーンですよね。そして最後に千石撫子の描き下ろしイラストについてもお聞かせください。
Mika:撫子ちゃんは、もう「可愛さバリバリ!」という感じで、アイドル的な魅力を前面に出して描きました! 撫子ちゃんは可愛さを体現しているキャラですから、絶対可愛く描くぞ、とテンション上がってました。
──今お話を聞いていて、火憐や月火らのような、『化物語』以降に登場するキャラクターのイラストも見たいと思いました。
Mika:今回は6枚描きましたが、好きなキャラクターはまだまだいて……(笑)。妹キャラもそうですし、個人的には(忍野)扇ちゃんとか、(斧乃木)余接ちゃんも描きたかったなと。老倉さんもすごく好きなキャラですし……沢山魅力的なキャラがいますね。いつかまた、描く機会があるといいなって思っています。
実は、私の頭の中では、次もしやることがあったら……そのときのコンセプトとアイデアの構成は出来上がっています。
──個人的に、Mika先生の描く“おじさんキャラ”に興味があります。本作でいうと、貝木泥舟など……。
Mika:貝木、大好きなんですよね(笑)。貝木に関しては撫子ちゃんとの話(『恋物語』)が一番好きです。あのときの阿良々木くんの蚊帳の外加減もそうですが……とにかく貝木だからこそ解決できたお話だったと思います。大人の視点って、子供だった頃からすると本当に?と思うような、信用できなく見えたりしますが、貝木は何重にも子供を超える考えを持っていたりするのかな……って。
──お百度参りなど、簡単にはできないことですよね。
Mika:(笑)。本当にそうですよね。それができる大人って、凄い存在なんですよね。
「苦しいものは苦しい」と認める『〈物語〉シリーズ』の素晴らしさ
──Mika先生と「西尾維新作品」との出会いや思い出についてお聞かせください。
Mika:西尾維新さんとの出会いは『クビキリサイクル』でした。学生のときに本屋さんで出会ったのですが、「このタイトルは何!?」と惹かれて、明らかに異質に輝いてました。すぐ買って読んで、「この作品は普通じゃないぞ」と。
その後、高校生のころに『〈物語〉シリーズ』とも出会ったのですが、実はアニメより先に「君の知らない物語」や「恋愛サーキュレーション」を知って聴いていたんです。「staple stable」などは、学生時代の日常の曲といいますか、“あのとき”を思い出す曲だなと、いつも思います。自分の中にある“あのとき”を思い出す曲って、あとで振り返って何度でも聴いちゃうんですよね。
「これから始めるぞ!」と、エンジンをかけるために聴くことがあるのですが、制作に集中できますし、心が洗われる感じもしますね。
──『〈物語〉シリーズ』の楽曲が、Mika先生の原動力にもなっているのですね。先ほど、羽川翼のイラストを制作する際に感情移入という言葉も出ましたが、まさに“あのとき”のきらめきを、本作を通して見ていたのかなと。
Mika:『〈物語〉シリーズ』のヒロインたちが抱えているものは本当に重く、普通ではないし、尋常ではない……そんなバックボーンを抱えながら学生時代を生きるのは、とても難しいことだと思うんです。学生の自分にとっては、目の前のことがすべてですから。逃げられないし、理不尽だと思うんです。なんでこんなことになるんだろう、って。
大人になれば、目の前の問題に対して「こういう解決方法もあるな」「自分がこうやって考えれば楽になるな」と思いつくこともあるかと思いますが、子どものころはそれも難しい。苦しいことを、100%真に受けてしまって、「どうして自分は」と考えてしまう。誰かを悪者にしたくなるし、自分が被害者だ、と感じてしまう時期だと思います。
そういった問題に対して『〈物語〉シリーズ』は、“正義”のような解決で片付けないし、無理やり納得させるわけでもない。一人ひとりが問題を受け入れて、「苦しいものは苦しい」と認めていく……。そんな姿がアニメーションで提示されていて、見たときにビックリしたんです。
Mika:そして、ひとつの問題を解決したからといって、その人の人生が終わるわけでもなくて。新たに生まれてくる疑念や不安をも描くところが素晴らしいなと思っています。
人生はずっと順調なわけじゃなくて、思ってもいないような怪異が目の前に現れたりする……。だから、『〈物語〉シリーズ』の新作が発表するたびにすごく楽しみです。
Mika Pikazoが追い求める、新たなエンターテインメント
──イラストレーター・アートディレクターを志したきっかけをお聞かせください。
Mika:イラストレーターに関しては、本当に小さいころから絵を描いていたこともあり、「絵を仕事にしたい」と考えていました。無意識にそばにあった選択肢です。
アートディレクターに関しては、イラストレーターとして仕事をしていく中で生まれた道で、音楽がきっかけのひとつでした。
──音楽がきっかけだったのですか?
Mika:国内外問わず音楽アーティストのライブやミュージックビデオを見るのが好きなんです。
個人的に好きな音楽のライブ映像を見たときに、ただアーティストさんが歌っているだけでなくバックの映像や細かい装飾がたくさん合わさって、ひとつの空間が出来上がっていて。それを見たときに「ただ歌を聴いているだけじゃないんだ」「見ている人を感動させるために色々なものを作って、面白いと思ってもらうようにしているんだ」と感じました。
その空間にたくさんの人がいて、熱狂している。そして、それを体感している。イラストなどの制作物ひとつで完結するのではなく、様々な要素が集まってひとつの体験になる、その様子に憧れたんです。
イラスト一枚から得られる感動も好きなのですが、自分にとっては、もっとそれ以上のなにか、感情を湧き起こすような装置を作りたいと思いました。そう考えていくうちに、一枚一枚イラストを描いていくだけではなく、空間やコンセプトを作りたいと思うようになりました。自分の作品性が平面から飛び出た立体……装置……空間……そういうものをとにかく作ってみたいです。
──エンターテインメントそのものが、先生の原体験なのですね。
Mika:エンターテインメントが大好きですし、自分にとって一番のモノだなと思っています。ずっと憧れてる。
──Mika先生といえば、ビビッドで美しい色使いをイメージされる方も多いと思います。そのアートスタイルが確立された経緯についてもお聞かせください。
Mika:少し前に実家に帰ったとき、学生のころに描いたイラストを見たのですが、そのときにはもうカラフルだったんですよね(笑)。今の自分が描いているイラストの色彩感と変わらないんだな、ブレていないんだなと思いました。
──イラストを描いていて楽しいと思う瞬間というと、やはり色付けの工程になるのでしょうか?
Mika:うーん……色付けも含めて全部が楽しいのですが、ラフを作るときが最も集中して、気持ちがノッているかなと思います。
「コレを描きたいんだ!」という気持ちがブーストされている状態なので、気持ちが込もっているのかなと。とにかく自分にとっては、ラフのイメージをブラさないことを意識しているので、ラフと見比べて描くことを大事にしています。
──ラフを元に、完成まで走り抜ける制作スタイルなのですね。
Mika:制作の途中で要素を追加することもあるのですが、色や雰囲気、形はラフのままですね。なので、イラストが完成したあとに、「思ったのと違う……!」となってしまうときがありますが、そのときが一番焦るんですよ(笑)。「どうやって完成させよう……」と悩んだり……。
──そんなときは、どのように乗り越えているのですか?
Mika:音楽を聴きますね。とにかくその絵に向かえるような音楽を選んで、いかに気持ちを入れるか、集中するかを考えます。無理やり自分をゾーンに入れ込みます。
──アートディレクターとして、今後挑戦してみたいこと、あるいは密かに抱いている「野望」のようなものがあれば教えてください。
Mika:これまでは、イラストのテーマや展示会のコンセプトを表現するための空間づくりを意識していたのですが、それをもっと拡張して、作品が完結していない、お客さんがいることで成り立つ装置を作れないかと考えています。
自分のイラスト以上のパワーといいますか……イラストを飾るときはその一枚が綺麗に見えるようなディレクションが一番に来ると思うのですが、それだけではなくて。「こんなものは見たことがない!」というような体験をしてもらえる空間が作れるのではないか、と考えています。自分の作品性すらも、壊して作り替えるような、そういう体験をまずしたいのかもしれません。
──先生とお客さんで、ひとつの空間を作り上げるようなニュアンスでしょうか。
Mika:そうですね。私にとって展示会は、SNSでイラストを投稿するのとは違って、ファンのみなさんと対話できる場所であり感覚を同じ空気で共有できるところだと思っていますし、空間を通して日々無意識に過ごしてしまったものに意識してもらうような……そういったことをしてみたいです。
自分がライブを見て「面白い!」と思ったものを、きっとイラストでも新しい表現となって見せることができるのではないかと思っています。
──「イラストレーター・Mika Pikazo」としての展望についてもお願いします。
Mika:イラストに関しては……千本ノックといいますか。
──千本ノック?
Mika:直近の数年は、一枚一枚のイラストを大事に描いて、完成させることを大切にしてきました。それに対して、ただひたすら描くことで、色々な表現や描き方を試してみたいと思っていて。今までできなかったことをどんどん表現できればと思っています。とにかくたくさん量を描いて、今の自分がどれだけ描けるのかを試してみたいですね。感覚としては、「速く遠くまで走りたい」……みたいな感覚です。実際に走るのは苦手なんですが……(笑)でも、あの速く走って息が苦しくなる感覚が好きなんですよね、沢山の絵を描いてランナーズハイになりたいです。
──多作という意味での千本ノックなのですね。
Mika:そうですね。「たくさん描きたい」と「一枚の傑作を描きたい」の周期が定期的に来るんです。今は多作のときだ!! と脳内に電気が走ったので、挑戦していきたいと思います。
【インタビュー・撮影:西澤駿太郎】