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「スプリング遊具」から広がる物語。タカハシワカナさんに伺う、公園のキャラたちの悲喜こもごも

さんたつ

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公園でよく見かけるバネ式の遊具・スプリング遊具。多種多様なキャラクターが目に楽しい。よくよく見てみると、遊具同士の配置や周囲の状況、塗装の風合いなどによって、唯一無二の味わいを楽しめる。スプリング遊具を鑑賞するタカハシワカナさんに、その魅力を伺った。

哀愁漂うコアラの背中から、一気に妄想が膨らんだ

色とりどりな生き物たちの下に大型のバネが取り付けられ、乗っかって遊べる「スプリング遊具」。パンダやイルカ、ご当地キャラなど、個性豊かなキャラクターが公園の一角に彩りを添える。タカハシワカナさんは、スプリング遊具の写真を撮り、そこから広がる見立てや妄想を添えたZINEを制作している。

「昔から散歩が好きで、散歩の途中にお休みする“セーブポイント”として公園を利用してきました。ある時、行きつけの公園で、やたらと滑り台との距離が近い、コアラのスプリング遊具に出合ったんです。

哀愁ある背中を見ていると、『滑り台で遊びたいのに、つながれているから行けない』みたいに、コアラの気持ちを想像してしまって。スプリング遊具って面白いなと思って、そこから写真を撮るようになりました」

このコアラのスプリング遊具をきっかけに、遊具を見かけると妄想が捗るようになったというタカハシさん。横にどんな“友達”がいるか、あるいは単体なのか。遊具の設置方法で、そこから広がる物語もさまざまだ。

「単体でいる遊具は哀愁があって、なんとも言えず引かれてしまいます。写真は、学生時代に住んでいた山形で見かけたもの。都内では見られない、雪に埋もれたスプリング遊具です。自分で雪を掘り起こしたような様子がかわいらしいですよね」

遊具・配置・周囲の状況の掛け合わせ

①職人さんの絵心

一見、決まった型で作られているようにも思えるスプリング遊具だが、よくよく観察してみると、塗装によって表情は微妙に違う。それも、スプリング遊具の味わい深さの一つだ。

例えば、タカハシさんがお気に入りというイルカの遊具。目がくりっとしていて、かわいらしい印象だ。

一方で最近、同じイルカでも少し様子の違う遊具を発見したという。

「1枚目の写真と、おそらく型は同じなんですが、目が小さくて、ちょっと太っているように見えますよね。職人さんの絵心によって、だいぶ雰囲気が違うんだな、と気づきました。同じ遊具でも、こういうふうに人間の手が加わった面白さがあるんです」

②年月による変化

風雨にさらされ、パンダがほぼシロクマ化してしまったり、うつろな目をしてしまっていたりと、年月を経た結果生み出される変化も哀愁をそそる。

「写真は、相当遊ばれたパンダですね。鼻の部分の塗装が剥げているので、もしかしたらこのパンダを相当かわいがっている子供が、鼻だけスリスリとなでていたのかもしれません」

③配置の妙

さらに、横に並ぶ仲間や遊具を囲む設置物など、遊具が配置された状況も見どころの一つだ。

「写真は、亀とトリケラトプスの遊具。なぜかこのコンビはすごく多いんです」

「木の反対側にはパンダとコアラ。この組み合わせも“いつメン”で、しょっちゅう一緒にいるんです。おそらく動物園の人気者だからでしょうか。この公園では、大きな木をおなじみメンバーたちが2匹ずつ、向かい合わせで見守っているんです」

建築設計という仕事柄、図面を見る機会が多いというタカハシさん。スプリング遊具の配置は、設置上の制約によるところも大きいという。

「スプリング遊具の図面を見たところ、遊具間で一定の距離を取らなければならないという制約があるようです。公園の端と端で離れていたり、ギュッと詰められて設置されて井戸端会議のように見えたり。制限があるからこそ、見えてくる関係性もありますね」

④人の介入

遊具や周囲にあらかじめ設置されたものだけでなく、さらにそこに人の手仕事が加えられ、偶然生み出される風景も見どころだ。

「写真は、向かい合っている遊具の間の地面に、何かの記号が描かれていました。なんの遊びかは不明ですが、きっと子供が遊んだ跡でしょうね。遊具同士の関係性を見るのも楽しいですが、最近は、そこに誰かが介入した風景を観察するのも楽しいです」

同じ遊具でも、人によって感想が違う楽しさ

スプリング遊具は、このように、遊具そのものと配置や周囲の状況による掛け合わせで、どんどんと妄想が広がっていくところが大きな魅力だ。

「当初はライフワークとして、散歩のついでに公園に寄ってただ写真を撮っていたんですが、撮った写真を友達に見せながら話していくうちに、思いがけず話が広がったんです。1枚の写真から人それぞれの物語が広がっていくことが面白いと気づいてから、本格的に写真を撮り始めました。

例えば写真は一見普通のパンダの遊具なんですが、あるイベントで人と話していたときに、『持ち手が天使の輪っかみたいだね』と言われて。その視点はなかったので、新たな発見でした」

実際に現地へ行ってみないと分からないところも、スプリング遊具から広がる妄想の楽しみだ。

「事前にGoogleストリートビューで当たりをつけたとしても、実際に現地に足を運んで、遊具を直接見た時に感じる情報量のほうが多いんです。それをSNSで発信したり、友人に話したりすることで、さらに新たな視点が広がっていきます」

分類と妄想を詰め込んだZINEを制作

タカハシさんがこれまで撮りためたスプリング遊具をまとめたZINEが、『観察!スプリング遊具』だ。リングで綴じられた四角いカードが1枚ずつ取り外せるようになっており、写真の裏面に分類やコメントが添えてあるという、ユニークな作りだ。

「ZINEのワークショップへの参加をきっかけに、スプリング遊具のZINEを制作しました。サイズは、私のポケットに入るCDと同じ大きさ。スプリング遊具を鑑賞していると不審者みたいになりがちなので、自分の活動を紹介できるものがあると、『何しているんですか?』と言われた時に、素性を伝えられるのもいいかなと思って(笑)。自分用のまとめとして定期的に差し替えもできるように、リングで綴じるカード形式にしています」

ZINEの制作を機に、イベントに出展するようにもなった。

「イベントに出展してみると、他の出展者の方のアウトプットの仕方など、参考になったことがたくさんあります。

また、ブースに来たお客さんから『スプリング遊具ってポップですね』と言われたのも新鮮でした。私からするとスプリング遊具を見すぎていたせいか、『ポップさ』『見た目のキャッチーさ』は見落としてしまっていて。言われてあらためて気づきました」

「余談ですが、実はイベント出展にあたって、イルカの遊具を模したカチューシャを作って。本当はもう1冊、ZINEを作りたかったんですが、カチューシャづくりに熱中したせいで、間に合いませんでした(笑)。いずれ、張り子でスプリング遊具を作ってみたいですね」

新たなアウトプットで、タカハシさんの「スプリング遊具」の世界がどのように広がっていくのか、楽しみだ。

取材・構成=村田あやこ

※記事内の写真はすべてタカハシワカナさん提供

村田 あやこ
路上園芸鑑賞家/ライター
福岡生まれ。街角の園芸活動や植物に魅了され、「路上園芸学会」を名乗り撮影・記録。書籍やウェブマガジンへのコラム寄稿やイベントなどを通し、魅力の発信を続ける。著書に『たのしい路上園芸観察』(グラフィック社)。寄稿書籍に『街角図鑑』『街角図鑑 街と境界編』(ともに三土たつお編著/実業之日本社)。

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