【繊細さん(HSC)の入学準備】接し方と声かけで気をつけたい4つのポイント[専門家監修]
4月からの小学校入学に向けて、「繊細さん」傾向のある子(HSC)のご家庭では、学校生活や友だち関係など、気になることも多いのでは。保護者の心構えやお子さんへの声かけの方法を専門家がアドバイス。ついがんばりすぎて疲れてしまう繊細な子の入学準備について、公認心理師でNPO法人千葉こども家庭支援センター理事長の杉本景子先生に伺いました。
「ひといちばい敏感な子(HSC)」とは
「HSC(Highly Sensitive Child)」とは、日本語で「ひといちばい敏感な子」と訳され、極めて感受性が高い繊細な子どものことです。アメリカの心理学者、エイレン・N・アーロン博士によって提唱された概念で、ここ数年メディアでも多く取り上げられ、HSCの割合は子どもの5人に1人といわれています。
HSCの子は、次のような4つの性質をもちます(参考:5人に1人が“ひといちばい敏感な子”⁉】HSC(Highly Sensitive Child:ハイリー・センシティブ・チャイルド)とは?[医師監修]
D:深く考える(Depth of processing)
O:刺激に敏感(Overstimulated)
E:共感しやすい(Emotional reactivity and high Empathy)
S:ささいな刺激に気づく(Sensitivity to Subtleties)
これらの性質をもつ繊細な子は、まわりの雰囲気に敏感なため、たくさんの人がいる場所や集団行動になじめなかったり、ささいな言葉で深く傷ついたりすることがあります。一方で、思慮深く、人の気持ちをくむことが得意で、音楽や絵画などで鋭い感性をもっています。そこで、その敏感さと折り合いをつけながら、良い面を生かすサポートをしていくことが大切です。
入学前、繊細な子の家庭で行っておきたい4つのこと
では、そんなHSCのお子さんにとって、環境が大きく変わる小学校入学に向けて、家庭ではどのようなことをするとよいでしょうか。
①子どもの気持ちを聞いてみる
まず大事なのは、本人の気持ちを知ること。入学が近づいてくると、保育園や幼稚園で行事の準備をしたり、親戚や知人などから「 もうすぐ 1年生だね」などと声をかけられたりする機会も増えることでしょう。そんな中で、何か本人が不安に思うことがあるか聞いてみます。
親御さんが思うより平気な場合もあるでしょうし、「 友だちができるか不安」など、具体的な言葉が出てくる場合もあります。現時点で本人に不安な気持ちがなければ、むやみに親が先走る必要はありません。もし不安なことがあれば、 「親子でいっしょに対策を考える」というスタンスがいいと思います。
②持ち物は「 目立ちすぎないもの」を準備
入学に向けて、文房具など学校で使うものを準備することになりますが、繊細な子は、まわりの視線にも敏感なので、自分の持ち物で目立ってしまうことを嫌います。ランドセル、手提げバッグ、水筒、文具、洋服や靴など、親の趣味で選んだものや親戚から贈られた個性的なものなどは、要注意。本人の好みや感性にしっくりくるものかどうかが大事です。
また、近所の先輩ママさんなどに地域の小学校での様子を聞くことができるなら、どんなものが一般的か、など情報収集しておいてもいいですね。
③心配なことがあれば小学校に相談を
現時点で、園で特別な配慮をしてもらっているなど、生活面ですでに心配な要素が見えているなら、小学校と一度相談してみるのもいいと思います。
入学説明会や新入生保護者説明会などの機会があれば、 「ちょっとお話ししたい」と状況を伝えてもいいですし、そうしたタイミングがなければ、個別にアポイントを取ってもよいでしょう。
ただし、相談の前に「小学校の先生に相談してみるけどいい?」などと、お子さんの気持ちを確認することが必要です。
幼くても、子どもなりに「気にかけてほしいこと」と「皆と同じようにしてほしいこと」の線引きはあるもの。その子の気持ちに沿った相談をしないと、かえって本人の心の負担を大きくしてしまうことがあるからです。
また、学校の先生に話す際に注意したいのは、子どものことを「対応が難しい子」と強調しすぎないことです。
小学1年生のクラスは経験値の高い先生が担任を受けもつことが多いですが、それでも「 事前に言いすぎると構えてしまう」タイプの先生もいらっしゃいます。 小学校側に、「 対応が難しい子」という先入観をもたれてしまうことは得策ではないので、あくまで事実として、現状で保育園や幼稚園で注意してもらっていることを伝える程度にとどめておくとよいでしょう。
「うちの子はこういうことに困りそう」などと先回りしすぎるよりも、入学後うまくいかないことがわかった場合に相談する心づもりのほうがいいと思います。
相談の時期によっては、相談相手が必ずしも担任の先生ではない場合もあります。それでも、窓口になってくれる先生がどんな先生か、知っておくとよいでしょう。先生の人柄にふれておくことで親の不安が和らぎ、それがお子さんにも伝わるからです。
④学童施設の情報収集をする
ここ数年は共働きの家庭が増えて、学童施設に通う子の人数も増えています。繊細なお子さんにとっては、さまざまな年齢やタイプの子と過ごすことになるため、学童施設で嫌な思いをするケースも少なくありません。雰囲気がにぎやかすぎたり、だれかが大声で怒鳴られていたりする場所に長くいたりして、疲れはててしまうこともあります。
近所の学童施設がお子さんに合わない場合の選択肢をもてるように、民間の学童施設も視野に入れて、入学前に一通り情報収集をしておくとよいでしょう。 そして、 学校のあとに学童に通うことで、お子さんが「神経をすり減らしてとても疲れている」という認識を家族で共有し、家ではゆっくりできる環境を整えてあげることも大切です。
繊細な子への入学前の声かけ4つのポイント
ここまで、家庭での入学準備についてご紹介しましたが、入学を控えたお子さんには、どのように言葉をかけてあげるとよいでしょうか。
①先回りしてネガティブなことばかり言わない
スムーズに新生活に入ってもらいたい親心としては、お子さんがつまずかないように、失敗しないようにと、いろいろと先回りして言っておきたくなるもの。
「○○をしたら困ったことになるから、気をつけて」などと事前に注意を促すことで、親自身が安心したくなるものですが、お子さんの不安が逆に深まってしまうことがあります。
「こういう心配もあるかもしれないけれど、その場合は先生に言えば大丈夫だよ」などと、起こりうる事例とその対応をセットにして、できるだけポジティブに伝えるのがおすすめです。
②根拠を示して話す
繊細な子は、根拠があることを大事にするので、大人がただ「大丈夫、大丈夫」と言うだけでは心に響かないことがあります。
「この前の音楽会の時も、ドキドキしていたと思うけどしっかりできたよね」「あの時、思い切って△△ちゃんにお願いしたらうまくいったみたいに、困ったときはまわりに助けてもらってもいいと思うよ」などと、過去にあった経験を根拠として、大丈夫なパターンを思い描けるように話すと、緊張しがちなお子さんも安心できるでしょう。
③「あなたを信頼している」と伝える
HSCの特性をもつお子さんは、元来きちんとしていて、皆に合わせることが得意です。人並み以上に緊張はしていても、結果的にはきちんとやり遂げられることが多いのです。
先生の指示がわかりやすければ問題なくできることが多いので、「入学式で困った」という話もあまり聞きません。むしろ、親のほうが事前にあれこれ余計な心配をしすぎると、人の気持ちがよくわかるだけに、 「できないと思われているのかな」と傷ついてしまうこともあります。
「あの時も、こんなふうにできていたから大丈夫だよね。お母さん心配していないよ」
「 あなたならできると信じているよ」などと、はっきりと言葉にして子どもへの信頼を伝えることが、本人の自信につながります。
④「完璧でなくても大丈夫」と伝える
HSCの子は、だれかの指示に従って規律ある行動をすることは得意なのですが、そのために「がまんしすぎる」傾向もあるので、注意が必要です。がまんしすぎてストレスをためこむことになりかねません。
「完璧にできなくても大丈夫だよ」「先生も助けてくれるはずだから、わからなければ聞いてごらん」「本当に困ったことがあったら、いっしょに考えるから教えてね」などと、お子さんの心が楽になるような声かけをしておくとよいでしょう。
最後に~親子で入学を楽しむ気持ちを~
HSCの特性をもつ繊細な子は、入学後、親御さんの想像以上に一生懸命やってきて、疲れて帰ってくるということを、イメージとしてもっておくといいと思います。
小学校生活がスタートしたら、疲れすぎていないか見てあげて、家では気持ちが安らぐように環境を整えてあげることが大切です。
また、下校後に親子でゆっくり会話ができる環境ならベストですが、親御さんも仕事をもち、忙しい日々の中で、お子さんの気持ちに気づきにくいこともあるでしょう。
そんな時、祖父母等の親戚や、児童館や習い事の先生など、それまでお子さんの気持ちをよくわかってくれた人が近くにいてくれたら、適切な言葉をかけてくれるかもしれません。
新しい生活が始まる時は、親自身も不安なもの。困った時に頼れる存在をぜひ見つけてみてください。そうした人が一人でもいると、ゆとりをもって子どもをサポートすることができるでしょう。
そして、親御さんには、ぜひお子さんの入学を楽しみにしてあげてほしいです。心配しすぎると楽しい気分が欠けてしまうことがあります。その不安な気持ちは、繊細なお子さんにも伝わってしまいます。 繊細な子のもつ能力や気づかいは素晴らしいものです。親子で小学校生活を楽しみにする気持ちが、きっとお子さんの新生活の糧となることでしょう。