眞名子 新 圧倒的な歌唱力、聴き心地抜群のアコギ、愉快なMC、終始笑顔が広がった自主企画ライブ『sea cucumber shows vol.3~淡水編~』レポート
sea cucumber shows vol.3~淡水編~
2024.11.28 青山月見ル君想フ
シンガーソングライターの眞名子 新が、2024年11月28日(木) 青山月見ル君想フにて、自主企画ライブ『sea cucumber shows vol.3~淡水編~』を開催。ゲスト出演した工藤 祐次郎との共演もあり、満員の会場全体に笑顔が広がる素晴らしいライブを見せてくれた。
『sea cucumber shows』は、眞名子 新の自主企画として行われてきたイベント。11月22日大阪ではハシリコミーズの松本アタルをゲストに迎えて行われ、追加公演となる12月9日は芸人のトニーフランクをゲストに迎える。そしてこの日は工藤 祐次郎をゲストに招いてのライブとなった。
まずは工藤がステージに上がり、「キャンプキャンプキャンプ」からライブをスタート。鼻歌を歌うようなリラックスした歌声が心地良い。「月見ル君想フでライブをやるのは久しぶり。せっかくなので歌詞に月が出てくる曲を探したら、全部で11曲ありました」ということで、月にまつわる11曲を披露することを告げて、ラグタイム調の「犬と私」へ。《ひとりぼっちで歩く 月を背に》と歌った「花街道」では、ステージバックの大きな月を指して「月を背に、ですね」とニッコリ。ギターを背後に回してウクレレで歌い上げたり、幻想的な音像でストロークしながら歌ったりと、月を歌詞に織り交ぜた曲を次々と披露した。「その昔、夏目漱石先生が、“I love you”を“月が綺麗ですね”と和訳したという都市伝説めいた話があって、二葉亭四迷先生は、“死んでもいいわ”と訳したという話を聞いて、“I love you”の和訳でかっこいいことを言いたいなと思っていた時期があって。“今度うなぎでも食べにいきましょう”っていうのが“I love you”の和訳としてめちゃくちゃ良いんじゃないかと思って書いたラブソングを歌います!」と、「東京うなぎ」へ。疾走するポップソングで独特な愛情表現を聴かせた。終始飄々としつつ、ほっこりする歌声と見事なギター演奏で、「よるのとしょかん」(chelmico鈴木真海子との共演曲)を歌い、静かな夜の余韻を残して眞名子にバトンを渡した。
拍手に迎えられて、アコースティックギター1本を抱えてステージに上がった眞名子。舞台上はシンプルこの上なく、ギターはラインで出力するようだ。「眞名子 新です! 今日はよろしくお願いします!」と挨拶してから勢いよくギターを鳴らして《ここから始まるの》と繰り返す新曲「さいなら」を歌い出した。自ら掻き鳴らすギターだが、勝手知ったる相棒のようにピタリと並走しているような印象。「みなさんお集まりいただきありがとうございます! そして工藤 祐次郎さん、素敵なライブをありがとうございます。初対面ですけど、控室ですごく仲良くしていただき、かわいがっていただきました。かわいがってもらいましょう、これからも(笑)」。カウントを取ると、「砂ぼこり」へ。歌詞がクリアに聴こえる歌唱で、生活の景色がリアルに浮かんできた。眞名子は、軽快な空気感が気持ち良いストロークで歌いながらフロアを笑顔で眺めて、「Hey!」と掛け声をかけると、最後は《月見ル君想フにだってひとつぶ砂ぼこり》と歌詞をもじって聴かせた。
「みなさんの健康をお祈りしまして、「健康」という曲を」。4ビートのリズムでジャジーなムードを醸し出し、淡々と歌い口笛を吹く。曲間でチューニングをドロップすると、「月見ル君想フは初めてなんですけど、月にまつわる曲がないかな、と思って探したら、全部で1曲ありました(笑)」と告白。工藤の11曲との対比に一斉にドッと笑いに包まれた。その1曲、「月の兵士」を歌い出すと、観客たちはしんと静まり返りじっとステージを見つめて聴き入っている。ワンコードでルート音が変わっていくギターと切々と歌われる意味深な歌詞、ハイトーンのコーラス、バックの月と重なって夜空のサウンドスケープを描く。歌い終わると大きな拍手が沸き起こる名演だった。
ハーモニカホルダーを首から提げて、「(イベント名が)“淡水”ということで」と曲紹介して、「川沿い」へ。清廉な水の流れを思わせるようなアルペジオと伸びやかなボーカルで歌うと、フロアでは一緒に口ずさむお客さんも。対照的に弾むような3フィンガーと力強いストロークで聴かせた「大移動」では、ギッシリ埋まったフロア中で体を揺らし声に身をゆだねている。続く全編英語詞の曲「The translator sings」では、大阪では成功したという歌詞のコール&レスポンスを求めて、歌う前にレクチャー。観客のクラップに乗せてカントリータッチで疾走しながら、該当箇所に来て《Sushi restaurants》と歌うと、《レストラン!》と一斉に声が集まり、同様に《Spinning》と歌う箇所もレスポンスが返ってきて、大成功となった。
最新シングル曲「網戸」は、すき家TVCM 「扇風機でうな牛!」篇に書き下ろした1曲。爽快ながら、どこか切なさも感じるメロディだ。《Ah~》とコーラスでステージとお客さんが一体になると、眞名子は人々を見渡して「見えましたね、草原が」と呟いて再び歌い出し、大きなクラップに包まれた。「ラスト1曲になりました」と告げると「えぇ~」と残念がる声に、「すぐに呼んでください。アンコールがあるので(笑)」と正直に明かして、「一駅」へ。間奏で葉笛を聴かせて、最後は《眠らないでいて》と鳥肌もののシャウトでステージを後にした。
アンコールでは、英詞交じりの静かな新曲「出自」を歌うと、急遽決まったということで、工藤を呼び込んで一緒に歌うことに。眞名子が物販紹介で言っていたTシャツを掲げて登場すると、ビールを渡して乾杯。飲めないという眞名子に、何かしらのハラスメントにならないかと心配しながらも語り掛ける工藤に場内爆笑。「ゴーゴー魚釣り」Tシャツをプレゼントされた眞名子がいったん袖に戻りTシャツに着替えて登場すると、「“工藤が年上の圧を出すから眞名子君が断れなかった”って叩かれたらどうしよう」と不安げな工藤に対して眞名子は、「進んでやってます(笑)」と返すなど、軽妙なやり取りから「みなさんも一緒に歌ってください!」と、工藤の曲「ゴーゴー魚釣り」へ。顔を見合わせながらハーモニーを聴かせて、会場一体となる盛り上がりに。お客さんたちもみんな笑顔で最高に楽しそうだ。
大喝采で曲を終えて引き上げようとする眞名子に、最後に一曲をリクエストしてステージに戻す工藤。眞名子は1人ステージ残り、駆け抜けるように「ライリーストーン」を歌い、「ありがとうございました! また会いましょう!」と、深々と頭を下げて感謝すると、ステージを降りた。圧倒的な歌唱力と聴き心地抜群のアコースティックギター、愉快なMCで終始誰もが笑顔になれたライブだった。
取材・文=岡本貴之 撮影=タケシタトモヒロ