来世も含めたライフプラン?!キツネの研究者でありグラフィックデザイナー、自分らしい生き方【こう生きたっていい】
キツネの研究者であり、グラフィックデザイナーでもある…
そんな自分だけの生き方を選んだ人には、きっとおもしろい人生観があるのでは?
そう思って話を聞いてみると、「来世も含めたライフプラン」を話し出したりして、想像以上におもしろかった…そして、納得感がありました。
その考え方の背景には、北海道民なら知っておくべき、命を守るための知恵もありました。
多様な生き方連載「こう生きたっていい」
北海道大学の特任講師、池田貴子(いけだ・たかこ)さん。
キタキツネの生態学と、キツネが人にうつす寄生虫・エキノコックス疫学を専門に研究しています。
2025年2月23日放送の「したっけラジオ」で、MCの満島てる子と、HBCアナウンサー・森結有花が、3つの質問でお話を聞きました。
質問①キツネの研究者であり、グラフィックデザイナーでもあるって、どういうこと?
池田さんはキツネの研究者であり、グラフィックデザイナーでもあるんです。
実際に池田さんが手がけたチラシを見せてくれました。
池田さんは、北海道大学のCoSTEPという、科学技術コミュニケーションを教育研究する部門に所属しています。
北大で行われているいろいろな研究を紹介する「サイエンスカフェ」という取り組みがあり、池田さんはそのチラシを作る実習を担当しています。受講生と一緒に作る場合もあれば、池田さんやほかの指導教員が作ることもあるそうです。
たとえば「面白くて眠れないくまの話」というテーマのチラシでは、クマがベッドの上で本を読んで夜ふかしをしています。帽子までかぶっていて、かわいらしい…。
こうしたイラストベースのものもあれば、写真を使ったデザインもあります。
「土を作るミルク」というチラシは、牛乳瓶の中に土が入っていて、コンセプトもわかりやすいデザインです。
大きい牛乳瓶を1本買ってきて、みんなで飲み干してから、割りばしでパーツを入れていったといいます。地面は緑茶や抹茶入り玄米茶を使って表現し、牛の背中をなでる人を入れています。
グラフィックデザイナーとしての仕事は、学生時代からフリーランスで始めて、20年ほどになります。
このスキルは、研究者として「科学を社会に伝えたり、社会課題を共有したり考えたりする、とっかかりを視覚的に作る」ために活きてきます。
森アナウンサーは、「科学とか言われちゃうと、ちょっと難しいイメージがあるし、私も最近文字が頭に入らない(笑) 子どもにも専門用語を使うと難しくなっちゃうけど、それがかわいらしいイラストで表現されていたら、まずそこから『かわいい』と思って知るきっかけになりますもんね」と納得していました。
池田さんは、「北海道では特に、エキノコックスという寄生虫を人間に移すのがキツネなので、どこに具体的に気をつけたらいいのか漠然とした不安があると思う。キツネとのちょうどいい距離感はどの辺かというのは考えてみてほしい」と話します。
そこで、2つ目の質問です。
質問②キツネにまつわる、「人の問題」って何?
池田さんは、「キツネに触っちゃダメだよとかは当然そうなんですけど、実はキツネに触るのってすごく難しいんですよ。触ろうとしたらさすがに人慣れしてても逃げる。なのでキツネ本体に触らないだけではなくて、キツネのフンの中にエキノコックスの卵が入ってるかもしれないというところが一番大事。まずはゴミの始末をちゃんとして、キツネを不必要に呼び寄せないこと」と話します。
また、キツネへの餌付けも問題だと指摘します。
「人にとってもキツネにとっても、いいことは一つもない。夏のキツネはすごく痩せ細って見えるので、かわいそうかなと思ってエサをやる人もいるし、冬で食べものがないだろうと思って良かれと思ってエサを置いていく人もいるんですけど、夏は換毛期で細く見えるだけで、冬も自分で十分エサは取れている」
なぜ餌付けをしてはいけないかというと、まず「エサをくれる人がいると覚えてしまうと、キツネがずっとそこに通うようになる」といいます。
キツネはフンをマーキングの代わりにしていくといいます。フンの中にはエキノコックスの卵が入っている可能性があり、これが直接の病原体となるので、人へのリスクが高まります。
また、キツネにもリスクがあります。エサがあるとキツネが集まってきますが、その中に疥癬(かいせん)という病気を持ったキツネもやってきて、ほかの健康なキツネに移してしまう可能性があるのです。
池田さんはエキノコックスについても、視覚的にも楽しく学べるゲーム開発に関わっています。設定がおもしろく、「エキノコックスになりきる」ゲームなんだそう…。
そんなボードゲーム「ECHINO!」については、別の記事でご紹介しています。
【「今からみなさんはエキノコックスです」どういうこと?!設定もルールも面白いボードゲームに挑戦】
質問③自分の生き方、どういうところが気に入っている?
最後の質問は、連載「こう生きたっていい」らしく、「自分の生き方の気に入っているところ」です。
池田さんは、「白黒はっきりつけずに生きるっていうところが結構一貫してるかな」と話します。
「親が転勤族で、3年ぐらいで住む場所を転々と変えるのが普通の生活で育っていて、ふるさとを持たない状態なんです。小学校のときから中学校のときまで同じ先生に見てもらってる友達とかうらやましいなと思った時期もあったんですけど、大人になってみると、新しいところに住むハードルもほぼない状態なのがいいなっていうふうに思ったりとかして」
キツネの研究者とグラフィックデザイナー、2足のわらじをはいているのも、「白黒つけない」生き方です。
「高校生で進路を決めるときに、動物学をやりたい、でも古典文学もやりたかった。本当に迷ったときに、それまでは古典文学にどっぷり浸かっている人生だったから、『わかった、今世では動物やろう!』と…『来世で古典文学やろう』と思った」
急に輪廻転生の話?!と驚くてる子さんに笑いかけながら、「来世でやろうって折り合いをつけたけど、研究室に入って対象の動物を決めるときに、『キツネだったら古典文学にも登場するから、両方味わえる』って思って。学生時代からグラフィックデザイナーも始めたりとか、『どれか一つに決めなくてもいいんだな』『自分の進路では白黒つけなくてもいいんだな』って思った」と話しました。
そして、キツネでも、クマでも、シカでも、野生動物は「白黒つけられない」問題です。
「それぞれの立場の人に、それぞれの正義があるから、誰かの正義を基準に制度を決めるっていうことが絶対できない分野。白黒つけられないけど、とりあえず今の段階ではこれが一番、納得解に近いかなという状態で、ちょっとしたモヤモヤを抱えつつ、対応していかないといけない分野だと思う。そういう意味では『あえて白黒つけない』と心がけるようになりました」
そんな池田さんは、野生動物について、住民や学生が話合い、考える機会も作っています。
池田さんが関わったワークショップも、Sitakkeの連載「クマさん、ここまでよ」でお伝えしています。
▼池田さんが関わったワークショップについての記事
【「かわいそうなキタキツネ」を「もっとかわいそう」にするのは誰?…高校生が向き合った、野生動物と人】
【「クマは人を食べものだと思う?」札幌のあるマチが、専門家と探した“事故を防ぐヒント”】
白黒つけられない問題にぶつかったとき、人生の2択に迷ったとき、ときには来世も含めたライフプランで、あえて白黒つけずに進んでみるのも、いいのかもしれません。
多様な生き方連載「こう生きたっていい」
文:Sitakke編集部IKU
2025年3~4月上映の劇場版「クマと民主主義」で監督担当。2018年にHBCに入社し、報道部に配属されてからクマの取材を継続。2021年夏からSitakke編集部。
※掲載の内容は「したっけラジオ」放送時(2025年2月23日)の情報に基づきます。