美術品のルーツを探る ― アーティゾン美術館「空間と作品」(レポート)
美術館で数多く目にする名品。それらは、どのような状況で生まれ、誰から誰へと受け継がれてきたのか。アーティゾン美術館では、石橋財団コレクション約130点が並び、その時々の空間を想像し体感することができる展覧会「空間と作品」が開催中です。
アーティゾン美術館「空間と作品」
最初の展示室に置かれているのは、親しみやすい雰囲気をもつ円空の作品。これらは、かつては彫刻作品としてでなく、祈りの対象だったということを思い起こす空間になっています。
現在、日本に伝わる円空仏は5000体以上が数えられていますが、江戸時代の記録によれば12万体の仏像を彫ると発願したとも残されています。修行僧だった円空は、各地の諸国を行脚しながら、訪れた先々で仏像を彫っていました。その中には、寺院に納める仏像や、村人のために彫る仏像などその土地の風土や庶民の生活に結びつくものが多く見られます。
ここでは、日常的に仏像を近くに感じ、眺める景色を想像することができます。
1.祈りの対象
作品は誰からどんな依頼を受けては生まれるのか。2つ目の展示室には、田園風景を明るい色調で描かれたピサロの作品が飾られています。中央にはテーブルが置かれ、ダイニングルームがイメージを想像することができます。
この作品は、パリで銀行業を営むギュスターヴ・アローザが別荘の再建に取りかかった際に、ダイニングルームを飾る絵としてピサロに依頼したもの。絵を依頼した人と作者の関わりによって、作品が生み出されていくことが感じられます。
2.依頼主と
作品は時に、何人もの手に渡り、それぞれの生活の中で愛されていきます。1980年に石橋財団コレクションには加わったパブロ・ピカソの《腕を組んですわるサルタンバンク》もそのひとつです。
また、空間を彩る作品と建築は、切り離すことができない要素になっています。
江戸時代半ばに活躍した円山応挙が手掛けた襖を建てた空間。竹下で戯れる9匹の子犬と、もう一方には波間に降りたつ3羽の鴨を淡い色彩で表現しています。収納箱が備わっていたこの襖は、大和郡山藩主の柳沢家に伝わったとされています。
ここでは、建物の中に入るように靴を脱いで畳の上へあがり、かつての様子に想いを馳せることができます。
円山応挙《竹に狗子波に鴨図襖》江戸時代 18世紀 ※現在は「波に鴨図」の面を展示
著名な作家に作品を依頼することや、美術館の様に自由に名品を飾ることをプライベートで実現することはなかなか難しいことですが、感じ得たものを日常にどの様に取り込むのかは、人それぞれです。
5つ目の空間「My favorite place」では、自分だったらこんな美術品に囲まれてリビングでくつろぎたい、という憧れをインテリアスタイリスト・石井佳苗の協力で演出されています。
5.My favorite place
5.My favorite place
6階最後のスペースは「場」をテーマに壁と同化しているような作品やシンボリックな立体作品を展示。空間と作品には、購入者や鑑賞者などの間を介在する「人」がいることによって成り立つことが感じられます。
6.場
3フロアを使った今回の展覧会。会場は5階、4階にも続き、石橋財団コレクションを余すことなく満喫することができます。
また、美術館の前身であるブリヂストン美術館時代から築き上げてきた貴重な学芸資料を見ることができるのも展覧会の見どころです。QRコードを読みんでオリジナルアプリをダウンロードすると、会場限定で作品のひと言解説を楽しむこともできます。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2024年8月26日 ]