新しい年に始める 新しい読書 ― 書店員が選ぶ「2025年、心を動かす3冊」
2025年が始まりました。新しい年が始まると不思議と新しいなにかにチャレンジしたくなるもの。
今回は、そんな新しい年のスタートにふさわしい、本との出会いをお届けします。
紹介していただくのは、萩市の「かむかふBOOKS」の瀬木広哉さんと宇部市「工夫舎」の根来正樹さん。
2つの素敵な書店の書店員さんにそれぞれ「新年」をテーマに3冊ずつ選んでいただきました。
積ん読本へのリベンジや、日常を豊かにするヒントが詰まった本、そして新たな表現世界への扉を開く一冊。
どれも魅力的な選書ばかりです。新たな年の始まりにあなたの心に響く一冊を見つけてみてはいかがでしょうか?
「かむかふBOOKS」瀬木広哉さんが選ぶ3冊 ―今年こそ積ん読本に挑む―
あけましておめでとうございます。私ごとですが、このたび正式に神奈川県から萩に移住しました。
引越しの際、自分の蔵書を整理しながら、積ん読本(買っただけで読んでいない本)の多さに改めて驚愕した次第です。ということで今回は、今年こそ読みたい我が愛しの積ん読本をご紹介します。
① 『百年の孤独』G・ガルシア・マルケス著、鼓直訳(新潮社)
最近、文庫版が出て少し話題の本書。Netflixでドラマ化もされています。「文学が好き」などと口にしておきながら、魔術的リアリズムの代名詞である本書を読んでいないのは、おそらく気合の入った文学の徒からすれば失笑もの。しかし、事実、読んでいません。正確には触りを読み、山ほど出てくる南米の名前(例えば、ホセ・アルカディオ・ブエンディア)の覚えにくさに気圧され、いつしか書棚の肥やしとなったのがもう15年近く前。
しかし、少し自己弁護すると、本を買うという行為を通して、人は自分の知的好奇心や文化的関心を再確認するもの。積ん読本には「これを読める自分でありたい」という願いが込められていて、つまり、それは決して無意味な営為ではない……はず。
こうやって取り上げて自分にプレッシャーをかければ、今年こそ読破できるかもしれません。来店の際「『百年の孤独』はもう読みました?」と聞いてみてください。
②『平家物語』古川日出男訳(河出書房新社)
前回も取り上げた古川日出男さんが訳した平家物語。池澤夏樹さんが個人編集した日本文学全集の1冊として刊行されました。現在は全4巻の文庫版も出ています。
山口に移ってきたことで、源平合戦が以前より身近に感じられます。高速で壇ノ浦を渡るたびに、追い詰められた平家がここで散ったのか……としみじみこの世の儚さを感じてしまいます。
古くは琵琶法師が伴奏とともに平家物語を語ったそうです。そもそも、声に出さない黙読の歴史は、僕らが思う以上に浅く、人は長く音読をしてきたと言われています。新聞もかつては、家長である父親が家族を前に、声に出して読み聞かせていたのだとか。
実は筆者も黙読が不得手で、いつも頭の中で音読しています。「どうも読書は苦手で」という方も、実は黙読がしっくりこないだけかもしれません。そういう方には本書のような「声の文学」が合うのかも。
しかし、読んでもいないのに、こんなに最もらしく語れる自分がなんとも胡散臭いです。
③『ビットとデシベル』フラワーしげる著(書肆侃侃房)
歌集です。厳密には積ん読ではなく、本作は読みました。ただ、短歌というジャンル自体に対して、本当はもっと深入りしてみたいのだけれど、あと一歩の勇気がない……という煮え切らない態度でこれまで接してきました。なので、ジャンルとして積ん読状態です。
フラワーしげるとは、作家で翻訳家でミュージシャンで、他にも文学ムック「たべるのがおそい」を手掛けたり、あれこれ忙しい西崎憲さんの歌人名義。奇才と呼ぶべきか、天才と呼ぶべきか、いずれにしても常人離れした書き手です。例えばこんな1首。
〈ついに店の金に手をつけた夜うしろから声がしてぼくだよのび太くん〉
誰もが知るあの猫型ロボットの物語世界を、たったこれだけの言葉で、こんなふうに発展させて、こんなにも想像を駆り立てるなんてと驚かされました。短歌を含めた短詩型と呼ばれるジャンルには、どこか底知れないものを感じます。おすすめの歌集や句集があればぜひ、来店時に教えてください。
かむかふBOOKS
山口県萩市浜崎町16 「本と美容室 萩店」内
10:00〜18:00/月・火定休
※瀬木さんが選書担当を務める「かむかふBOOKS」の詳細はこちらから
伝統的な街並みに新たな文化拠点が誕生! 萩市「本と美容室 萩店」
「工夫舎」根来正樹さんが選ぶ3冊 ―日常に小さな発見を―
新年が気持ちよくスタートできるような素敵な本を3冊選んでみました。
日常の中にある発見をお手伝いできる本たちだと思います。ぜひ、生活のお供に読んでみていただけると嬉しいです。
①『ぱっちり、朝ごはん』小林聡美著(河出書房新社)
新年は、あたらしい日常を始める機会。「ぱっちり、朝ごはん」は、朝ごはん大好きな35人の、とっておきエッセイアンソロジーです。
忙しい日々の中で、シンプルな朝ごはんやちょっとした工夫で心が整う体験が綴られています。新しい一年をスタートするにあたって、朝という一日の基盤を見直すヒントが満載です。
難しいレシピではなく、誰にでも取り入れられるアイデアが載っており、実際に作ってみたくなるような朝ごはんの提案に心が弾みます。
ぜひ、ぱっちりと目覚める、朝食の時間を整えてみてください。
②『推し短歌入門』榊原紘著(左右社)
この年、新しい表現の世界に触れるのも良いかもしれません。「推し短歌入門」は、短歌という伝統的な文芸を新しい切り口で楽しむためのガイドブックです。
著者が「推し」として選んだ短歌たちが、ユニークな視点で解説されており、初心者でも肩肘張らずに短歌の魅力に触れられます。
日常を切り取る短歌は、感受性を刺激し、日々に気づきをくれるはずです。新しい年に、自分の言葉を紡ぐ練習をしてみるのはいかがでしょうか。
③『地名散歩』今尾恵介著(角川新書)
さいごに、生活が気づきであふれる「地名散歩」をおすすめします。地図研究家である今尾恵介さんが案内するこの本では、日本各地の地名に隠された歴史や由来を楽しみながら学べます。地名はその土地の特徴や過去を語る小さな物語。普段何気なく目にしている地名の由来を知ることで、景色がぐっと魅力的に広がります。新年の「はじまり」として、自分の住む街や旅先を深く知るきっかけになる一冊です。散歩や旅行のお供に持ち歩けば、新しい場所を訪れる楽しみになると思います。
工夫舎
山口県宇部市2-6-13
12:00〜19:00/月・火定休
※根来さんがオーナーを務める「工夫舎」の詳細はこちらから
優しくつながる本のセレクトショップ 宇部市「工夫舎」
本との出会いがもたらす新たな年のスタート
いかがでしたか?素敵な書店員が選んだこれらの本には、それぞれ新年にふさわしい「挑戦」や「発見」が詰まっています。読書の時間を通じて、自分自身の世界を広げたり、心をリフレッシュさせたりするきっかけを掴んでみてください。
2025年、あなたにとって素敵な読書体験が訪れますように!