「黒のローファーは嫌いやねん」革靴巧者『リゾルト』デザイナー・林芳亨さんのローファーの嗜み方
これまでに様々な革靴を目にし、足を通してきた革靴巧者にローファーについて語ってもらうと、それぞれのローファーに対する考え方や認識の違いが見えてきた。今回は、「リゾルト」デザイナー・林芳亨さんに貴重なコレクションとともに、存分に語ってもらった。
「黒のローファーは嫌いやねん」
「初めてのローファーは中学の頃に買った『ジーエイチバス』やったなぁ。あの頃はアメリカの革靴っていったら『ジーエイチバス』か『セバゴ』しかなかったんや。『フローシャイム』もあったけど、中学生には手が出せる値段やなかったから、実質2択やねん」。
デニムブランドのリゾルトのデザイナーである林さん。取材に持ってきていただいたローファーを見て、まず感じたことはその状態の良さだ。その秘訣を聞き、気付いたことはマメな手入れの大切さだ。
「ピカピカに光った靴は苦手やねん。あれ変やろ。せやから、毎回クリームを塗って磨くことはせえへんけど、履いたあとは欠かさずにブラシだけはかけてる。そして、手入れをしたら必ずシューキーパーは入れとるな。ローファーの形って美しいやろ。それを崩したくないねん。だから靴を買ったら、そのブランドでサイズを合わせたシューキーパーも買ってる。特別に磨いたりとかはせえへんけど、大切に扱ってる。スニーカーは壊れるけど、革靴は一生ものやから、大事に履いてれば長いこと使えるところがええよね」。
今回、用意していただいたローファーは履いているものを含め9足。その中には林さんなりのこだわりが見られた。
「黒のローファーは嫌いやねん。なんでかも自分でわからへんけど、学生のローファーが黒やったからやろな。あと、黒はモードファッションのイメージがあるから、自分のスタイルには合わへんねん。だから黒は冠婚葬祭用に数足持ってるけど、普段はなかなか履かへんねぇ」。
並んでいる中で、最も古いのは『ジョンストン&マーフィー』のローファーだ。
「20代の頃、新婚旅行で行ったハワイで買ったから、もう40年以上前やな。いまでも時々履いてる。でも、いま一番履いているのは『ジェイエムウエストン』のローファーやね。
30歳ころにパリに行って買ったのが初めてやったね。『QUALITES OBJETS D’EN FRANCE』というフランスの名品が紹介されている本があって、そこにウエストンのローファーが載ってたんや。ちょうどその頃、仕事でヨーロッパへ行く機会が増えてたから、パリの店に行ったんやったな。格式高いお店で、ボロボロの『ジーエイチバス』のローファーを磨いて、それを履いて行ったんや。そうしたら店の2階から『上に上がってこい』って声をかけられて、[180]を買ったのが最初やね。
まだ、その時はユーロじゃなくてフランやったんや。クレジットカードもなかったから、銀行へ行って、円をフランに変えてから買ったのが思い出やね。当時お店ではタバコが吸えて、接客もゆっくり、お客様に一足を選ぶのに長い時間をかけて選んでもらう。そんな接客があったんやなと、衝撃を受けた。それからやね『ジェイエムウエストン』を買うようになったのは。」
林さんにとってローファーは、ただの靴ではなく、手入れと共に育てていく一生もの。買った時から大切に扱い、履き心地や形を崩さないように工夫を凝らすその姿勢が、靴への深い愛情を物語っている。
履いているものを含め、全9足のローファーを見せていただいた。下列1番左にあるマスタードカラーのローファーは数年前「ジェイエムウエストン」にオーダーをしたもの。内側に「YOSHIYUKI HAYASHI」と記載がある。
フランスの名品が掲載された『QUALITES OBJETS D’EN FRANCE』の中で、ジェイエムウエストンが紹介されたページ。
日々のお手入れで、昔から変わらず、クリームではなく、つばをかけて着古した綿のTシャツで拭いている。林さんの靴の状態の良さの秘訣は、これなのかも。
初めて購入した「ジェイエムウエストン」はいまも現役。取材当日にも履いてきた思い出の1足だ。
すべてのローファーにはぴったりのシューキーパーを付け、履きジワをできる限り伸ばして保存。それにより、状態をキープしている。
40年以上前に購入したという「ジョンストン&マーフィー」のローファー。内側の文字までくっきりと残るほどに状態が良い。「アリストクラフトライン」という高級モデル。