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【あんぱん】「僕の知ってるのぶちゃんは...」すれ違いが続くのぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)。「いつか交わる道」はまだ遠い?

毎日が発見ネット

【あんぱん】「僕の知ってるのぶちゃんは...」すれ違いが続くのぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)。「いつか交わる道」はまだ遠い?

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「すれ違い続ける2人」について。あなたはどのように観ましたか?



※本記事にはネタバレが含まれています。



国民的アニメ『アンパンマン』の原作者で漫画家・やなせたかしと妻・小松暢をモデルとし、中園ミホが脚本を、今田美桜が主演を務める朝ドラ『あんぱん』第7週「海と涙と渡しと」が放送された。



東京で日々を楽しく過ごす嵩(北村匠海)と、兵隊への慰問袋を作って送る活動が新聞に取り上げられ、「愛国の鑑」と讃えられたのぶ(今田)の道がすれ違い始めた先週。



夏休みを迎え、のぶは卒業後の就職先を探すため、嵩は健太郎(高橋文哉)を伴い、それぞれ御免与町に帰省する。父の帽子に敬礼する軍国主義ののぶと、それをからかう草吉(阿部サダヲ)。当時、反戦を唱える草吉は異質で、現代人の視聴者目線に近い存在だが、そこには草吉が隠す過去――銀座のパン店に勤めていたらしいことと関わりがあるようだ。



嵩は何度ものぶに手紙を書くが、のぶは1度も返事を書かず、嵩にも会おうとしない。のぶの正義の源には、家族同然だった豪(細田佳央太)が出征していったことで、戦争が身近に、「我が事」になったことがある。しかし、軍国主義に馴染めず劣等生だったのぶが、急に「愛国の鑑」としてもてはやされる心地よさもありはしなかったか。他者に注目され、評価されることは、自己肯定感を高める一方で、ときにその快感が麻薬となり、真実を見極める目を曇らせる危険もある。



一方、今週のもう一人の主人公は、メイコ(原菜乃華)だ。


メイコは健太郎と共に嵩とのぶを仲直りさせようと計画、健太郎が嵩と千尋(中沢元紀)を、メイコがのぶを海に連れ出し、仲直りに漕ぎつける。


メイコは健太郎に歌声を褒められ、2人が仲直りできたのはメイコのおかげと言われ、浜辺で転んだメイコの手を取り、起こしてくれるという波状攻撃で籠絡され、恋に落ちてしまった。家族の前でも「うち、お嫁さんになりたい。相手も見つけたき」とのろける有り様である。


一方、いつも人格者で心配なのが千尋だが、そこに寛(竹野内豊)は気づいてくれている。これまでは嵩が心配だったが、今は千尋が心配だと言う。嵩は父親に似て「いごっそう(頑固で大胆不敵)」で、自分の道を見つけて歩き出したが、千尋は遠慮しすぎる、もっとわがままに生きて良いと諭すのだ。それに対して「わかりました」と、これまた聞き分けの良い千尋に「そんな簡単にわかるな! 千尋、もっと逆らえ。いごっそうになれ!」とハッパをかける。



にもかかわらず、いごっそうになれない千尋は、嵩がのぶに渡したいものがあると伝え、のぶを嵩の待つ空き地に向かわせる。しかし、のぶを見送る千尋の表情を見て、その思いに気づいたのが、メイコだ。自らが恋を知り、他者の心にも敏感になったのだろう。



東京に戻る日、嵩はのぶのおかげで受験も頑張れたし、コンクールで佳作もとれたと感謝を伝え、赤いハンドバッグを渡す。



のぶは「こんな美しいもの......」と一瞬見惚れたが、受け取るのを拒否。若者達がお国のために戦っているときに、こんな贅沢なものをもらうわけにはいかない、欲しがってはいけないと言うのぶに、嵩は問う。



「美しいものも美しいと思ってはいけないなんて、そんなのおかしいよ。のぶちゃんが先生になったら子どもたちにもそんなふうに教えるの? そんな先生僕はやだな」「僕の知ってるのぶちゃんは正直すぎるほど正直で面白い子だった」



嵩の穏やかながら強烈な批判に激怒したのぶは、子どもの頃と同じ捨て台詞を吐く。
「しゃんしゃん東京にいね(さっさと東京に帰れ)!」



その頃、メイコにも別れが迫っていた。



「うち、好きな人ができたがです。おもしろうて、一緒にいると楽しくて、笑顔が素敵で」と思い切って告白したメイコ。だが、健太郎は「きっとうまくいくばい」と他人事で、さらにメイコに顔を近づけ、誰かに似ていると言い、いかにも愉快な発見であるかのように目を輝かせて言う。



「目がキラキラしてて、のらくろみたいばい。読んだことなかね?」



そして、のらくろの絵を描いてメイコにくれるのだ。



メイコにとっては辛い失恋だが、「伝えて良かった」と言い、自身の勇気のバトンをのぶに手渡す。


「うちは好きな人に気持ち伝えたで」「たかしさんと喧嘩したままでええが?」



正直、ここまでは、「はちきん」のぶと、客観的で聡明で大人びて家族思いの蘭子(河合優実)に比べ、おこちゃまで、愛されて育った「ちゃっかり末っ子」のある種ステレオタイプに見えていたメイコ。しかし、一家の中の「子ども」担当を引き受け無邪気にふるまいながらも、意外と冷静に周りを見ているのも、ある意味末っ子のリアルであり、恋によってもう一歩大人になった。一番子どもなのは、常にまっすぐなのぶかもしれない。



のぶは東京に戻る嵩に謝ろうと駅に駆けつけるが、嵩は予定より早い汽車で去っていた。駅で鉢合わせた寛に、自分が嵩に酷いことを言ったせいだと涙ながらに打ち明けると、寛は今度戻ってきたときに仲直りしたら良いと言う。



さらに、嵩といつのまにか考えや進む道が違ってしまっていると不安を語るのぶに、寛はこう告げる。



「信じゆう道を正直に走っていけばいい。たかしはのんびり自分の道を進んでいくやろう。そのうちどっちかが立ち止まる日もくるかもしれん」「今は平行線に思えてもいつか2人の道がまじわる日が来るかもしれん。生まれたところも別々で、性格も正反対の嵩がこの街でのぶちゃんに出会うて、ぶつかりおうて、一緒に涙を分けてきたがら。ほんとにありがとにゃあ、のぶちゃん」



いつもながら寛の名言だが、逆に「いつか交わる道」が思いがけず遠いことを予言するかのような不穏さも感じる。



卒業間近に「柳井嵩子」名義の手紙が頻繁に届くことを黒井に問い質され、説明する中、初めて自分が嵩に救われていたことを思い出したのぶ。



「私が子どもの頃、この人の絵に救われたがです」「私がしんどいとき、いっつもそばにおってくれた人です」



黒井はのぶを「弱い」と言い、結婚して家庭に入り、子どもを育てるのも女の正しい道の一つと説く。その道を選ばなかった理由をのぶに聞かれると、1度結婚したが、子どもに恵まれず、離縁した過去を打ち明ける。正直、のぶは意外としばしば帰省しているように見え、黒井という人物像や背景、のぶの女子師範学校&寮生活をもう少しじっくり見たかった思いはあるが、メインキャラが2人で、二拠点で展開される本作ではそこに難しさがあるのだろう。



今週改めて感じたのは、のぶは走るのが速く、まっすぐゆえに、大切なものを見落としたり、間違えたりすることの多いヒロインだということ。それはスピード社会に生きる我々と重なる面もきっとある。次週からは教師編となるが、はたしてのぶはまた、たくさん間違えるのか。


文/田幸和歌子

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