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“想定外トラブル6連発”から見える、PMOが本当に鍛えるべき「計画の質」を高める思考法

エンジニアtype

“想定外トラブル6連発”から見える、PMOが本当に鍛えるべき「計画の質」を高める思考法

嫌われる優秀なPMO VS 好かれるダメPMO

「日々の進捗管理は完璧!」と思っていた矢先、”想定外”のタスク見落としが発覚してプロジェクトが停滞……。

表面上は「管理できている」ように見えても、水面下では重要なタスクが抜け落ちている。このような事態は、プロジェクト管理において頻繁に起こり得ます。

しかし実は、”想定外”に見えるトラブルのほとんどは、本来プロジェクトの計画段階で予見できるものなのです。この「計画の質」にこそ、優秀なPMOとダメPMOを分ける決定的な差が表れます。

今回は、両者の分岐点となる、計画段階での視点の違いを解説していきます。

株式会社office Root(オフィスルート)
代表取締役社長
甲州 潤(こうしゅうじゅん)

国立高専卒業後、ソフトウェア開発企業でSEとして一連の開発業務を経験し、フリーランスに転身。国内大手SI企業の大規模プロジェクトに多数参画し、優秀な人材がいても開発が失敗することに疑問を抱く。PMOとして活動を開始し、多数プロジェクトを成功へ導く。企業との協業も増加し、2020年に法人化。さまざまな企業課題と向き合う日々。著書『DX時代の最強PMOになる方法』(‎ビジネス教育出版社)

目次

「完璧な管理」が崩れる典型的なケース6選ケース1:インフラの準備不足ケース2:承認プロセスの失念ケース3:法務チェックの遅延ケース4:行政への届け出漏れケース5:繁忙期や経営イベントの考慮不足ケース6:組織特有のボトルネックダメPMOは「他責」で終わる優秀PMOはスタート時の「計画の質」にこだわる「質の高い」プロジェクト管理計画の作り方ヒアリングによって起こる相乗効果:部門連携による価値の拡大順調に進んでいるときこそ、優秀PMOは「先手」を打つ“想定外”を作らない、優秀PMOとしての視点の鍛え方日常生活の中でアンテナを張るAIの活用で経験不足を補う広い視野と主体的な行動で、プロジェクト管理を円滑に書籍紹介

「完璧な管理」が崩れる典型的なケース6選

まずは、順調に進んでいたはずのプロジェクトが停滞してしまう、典型的な六つのケースを見ていきましょう。

ケース1:インフラの準備不足

クライアントが利用する環境構築の計画が曖昧なまま進んでしまい、リリース直前に本番環境が存在しないことが発覚。開発側は「クライアントが本番環境を用意する」と認識し、クライアントは「開発側が準備してくれる」と考えていたため、開発は完了しても、サービスを提供できない状態に。

ケース2:承認プロセスの失念

数億円規模の案件では役員会での承認が必須にも関わらず、承認プロセスを失念。役員会は月に一度しか開催されず、承認を得られるのは翌月以降に。発覚時点で最低一カ月の遅延が確定。

ケース3:法務チェックの遅延

契約書締結が前提のプロジェクトで法務チェックを見落とし、契約手続きが停滞。法務部門との調整に数週間を要し、その間すべての作業がストップ。

ケース4:行政への届け出漏れ

サービスローンチ前に必要な、行政への届け出や認証取得を失念。慌てて届け出の手続きを担当部署に依頼するも、認証が下りるまでプロジェクトは停止。ローンチ直前で「認可待ち」の状態に。

ケース5:繁忙期や経営イベントの考慮不足

お盆や正月、決算時期など、関係部署のプロジェクトへの稼働関与が低下する繁忙期の考慮漏れや、株主総会などの経営イベントとリリース時期の衝突が後から発覚。該当時期になってプロジェクトが停滞・待機状態に。

ケース6:組織特有のボトルネック

公式な組織図にはない「社内の重鎮による承認」など、その会社特有の文化や暗黙のルールを事前に把握できず、進行の障壁に。

これらのケースに共通するのは、計画書やWBS(作業分解構成図)にタスクとして記載されていないことが多い点です。そのため進捗管理の対象外となり、問題を検知すること自体が難しくなってしまいます。

このことから、”想定外”と思われがちな多くのトラブルは、そのほとんどが計画段階での見落とし──忘れていた、抜けていた、想定できていなかった──という「計画の質の低さ」によるものであると分かります。本来であれば、リスク管理の一環として事前に気付くべき問題なのです。

ダメPMOは「他責」で終わる

私が考えるダメPMOは、前述のようなトラブルに直面した時に責任を転嫁する人です。

「株主総会の日程なんて、事前に共有してもらわないと分からないですよ」
「そんな社内ルールがあるなんて、聞いていません」

このように「聞いていない」「予測できるはずがなかった」と主張し、他責にしてしまうのです。問題が発生した際に責任を回避する姿勢は主体性に欠けており、PMOとしてあるべき姿とはいえません。

もちろん、クライアント内部の固有事情に起因するなど、PMOが事前に把握することが難しい問題も存在します。ですが、こうした予見しづらい事態を未然に防ぐアプローチをとれる人こそ、優秀なPMOだと私は考えているのです。

優秀PMOはスタート時の「計画の質」にこだわる

一方、優秀PMOは、提示された計画案に対して「本当にこれで良いのか」と問いかけられる、主体的な姿勢を持っている人です。

計画段階からプロジェクトを深く掘り下げ、単なるプロジェクト単体の管理にとどまらない、企業全体の状況を俯瞰する視点を備えています。

具体的には、以下のような問いを持ち、プロジェクト停滞の要因となり得る懸念事項を一つずつ検証しながら、事前に対策を講じていきます。

・社内で必要な手続きは全て洗い出されているか
・法律的な確認は済んでいるか
・繁忙期や決算期とスケジュールが重なっていないか
・部署を超えて、実質的に影響力や権限を持つ人物が存在しないか
・政治的・文化的なリスク(ストライキ、組織文化、株主からの反発など)の可能性はないか

クライアントとの継続的なコミュニケーションを通じて、これらの疑問に対する答えを事前に集めておくことが重要です。

そして解決策まで含めて計画に落とし込むことで、想定外のトラブルを回避しやすくなり、「質の高い」計画を実現できます。その結果、プロジェクトを円滑に進めるための土台を築くことができるのです。

「質の高い」プロジェクト管理計画の作り方

プロジェクトの管理計画を立てる際には、以下の流れを意識してみてください。

1.まずは、プロジェクト遂行に必要な最短スケジュールを算出
2.前述のリスク要因(繁忙期、社内の固有事情、行政への届出や法務チェックなど)や、関係各所の事情についてヒアリングを行う
3.ヒアリング結果を踏まえてスケジュールを再調整し、管理計画書に反映する

1〜3のプロセスを経ることで、意図的にバッファや余白を持たせた、現実的で実行可能な計画へとブラッシュアップすることができます。

ヒアリングによって起こる相乗効果:部門連携による価値の拡大

管理計画書を作成するプロセスで行う事前のヒアリングは、想定外のリスクを回避するだけでなく、プロジェクトの価値そのものを高める相乗効果を生むことがあります。

例:ECサイトのリニューアルプロジェクト
あるECサイトのリニューアルプロジェクトを担当した時のことです。一年後のサイトリニューアルに向けて店舗運営部門へのヒアリングを早期に実施したところ、「実店舗からECサイトへ誘導する」「ECサイトから実店舗へ誘導する」キャンペーンを展開してみてはどうか、という提案が出ました。

とても良い案だったので、要件定義に取り入れた結果、単なるサイト改修にとどまらず、店舗とWebを連動させた大規模なリニューアルキャンペーンへと発展させることができました。

もしも計画段階でのコミュニケーションがなく、リリース二カ月前に「リニューアルします」と報告しただけであれば、このようなキャンペーンへと発展することはなかったでしょう。計画段階で各部門に丁寧にヒアリングし、コミュニケーションを重ねることで、部門間の連携を強化した効果的な施策が生まれる可能性が広がります。

一方、ヒアリングによって各部署からの多様なアイデアやリクエストが集まりすぎることもあります。そんなときに思い出していただきたいのが「要件定義と管理の黄金比」です。このテーマについては以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

プロジェクトが止まるPMO、動かすPMO。違いは「要件定義」に出る!実例つきで徹底解説type.jp

順調に進んでいるときこそ、優秀PMOは「先手」を打つ

優秀なPMOは、計画段階でリスクを特定するだけでなく、プロジェクト進行中にも起こりうるさまざまなリスクを想定し、それらを回避するための具体的な「先手」を打ちます。

プロジェクトが順調に進んでいるときこそ、PMOは「この先の計画も本当に問題なく進むのか?」と問い直す姿勢が重要です。

トラブル対応などがない余裕のある時期にこそ、将来的なリスクや計画の見落としがないかを再検討し、必要に応じて他部署との調整を行なっておきます。

この先読みの視点を持つことによって、ダメPMOが起こしてしまうような「想定外」のトラブルを未然に防ぐことができるのです。

“想定外”を作らない、優秀PMOとしての視点の鍛え方

「企業全体を俯瞰し、広い視野で計画を立てましょう」と言うと、「経験豊富な甲州さんだからこその視点ですよね」「さまざまなプロジェクトに関わらないと、視野を広げられないのでは」という反応が返ってくることが多いです。

しかしながら優秀PMOとしての視点は、必ずしも長年の経験からしか得られるものではありません。日常的な観察とテクノロジーの活用によって、誰でも効果的に鍛えることができるのです。

日常生活の中でアンテナを張る

私がよくおすすめするPMOとしての視点を養う方法は、日常生活の中でアンテナを張ることです。普段何気なく触れている物事に興味を持ち、「なぜそうなっているのか?」と掘り下げて考えるのです。

例えば、
・コンビニのセルフレジはどのような仕組みで動いているのか?
・某ファッションブランドで、購入商品を置くだけで合計金額が表示されるレジは、どんな技術で設計されているのか?

こうした疑問を持ち、調べ、仕組みを理解していくことは、業務プロセスや技術への理解を深めるきっかけになります。

机上の学習だけでなく、実際に店舗に足を運んで観察する。日常生活で利用しているサービスを「なぜこうなっているのか」と意識的に分析する。こうした積み重ねは、優秀PMOに求められる視点を養ううえで、実はとても重要なことなのです。

AIの活用で経験不足を補う

さらに、今の時代はAIを活用すれば経験不足を容易に補うことができます。

・未経験の業界のビジネスプロセスや特性
・業界特有の繁忙期や商習慣
・社内事情として起こりがちなボトルネック

これらの情報は、AIを使えば短時間で調べることができます。

例えば私は引っ越し業界やリサイクル業界に詳しくありませんが、AIに質問すれば、これらの業界の繁忙期や典型的な業務プロセスをほんの数分で把握できます。

「明日からリサイクル業界に関するプロジェクトの推進の仕事が入った」という状況になったとしても、AIで簡単に事前学習できてしまうわけです。

AIで自分の知識を短期間で拡張できる時代だからこそ、「知りませんでした」「考えつきませんでした」という言い訳は、今後通用しなくなると思っています。

広い視野と主体的な行動で、プロジェクト管理を円滑に

PMOとして成長し続けるために大切なのは、担当業務の範囲にとどまらず、あらゆることに疑問や関心を持ち、主体的に学び続ける姿勢だと私は考えています。

日常生活での観察やAIの活用といった地道な積み重ねによって、視野は自然と広がります。その広い視野こそが、質の高い計画を設計し、“想定外”のトラブルを未然に防ぐ力につながる。

その結果として、プロジェクトを円滑に進められる優秀PMOへと成長できるのです。
みなさんも、ぜひ意識してみていただけたらと思います。

書籍紹介

『DX時代の最強PMOになる方法』
著:甲州潤

▼こんなエンジニアはぜひお読みください。
・今の仕事に不満を持っていて、現状を変えたいと思っている
・給料をアップしたい
・エンジニアとしての将来が不安だ
・キャリアアップをしたいが、何をしたらいいかわからない
・PMOに興味がある
・PMOとして仕事をしたい

【目次】
第1章 一番稼げるIT人材は誰か
第2章 これからはPMOが1プロジェクトに1人必要
第3章 SEとPMOの仕事は何が違うか
第4章 稼ぐPMOになる7つのステップ
第5章 優秀なPMOとダメなPMOの見抜き方
第6章 PMOが最低限押さえておきたいシステム知識とスキル
第7章 システムは言われた通りに作ってはいけない
第8章 どんな時代でも生き残れる実力をつけよう

>>>詳細はこちら

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