主役は『ラーメンどんぶり』 ― 21_21 DESIGN SIGHTでおいしい展覧会(取材レポート)
ラーメンに使用される「丼」の90%が美濃焼でできていることをご存じですか? ラーメン丼をテーマに、その歴史や文化、デザインを紹介する展覧会が、21_21 DESIGN SIGHTで開催されています。
21_21 DESIGN SIGHT
展覧会のディレクターを務めるのは、グラフィックデザイナーの佐藤卓とライターの橋本麻里。二人は2012年から美濃焼に関するプロジェクトに取り組んでおり、今回の「ラーメンどんぶり展」はそのプロジェクトがきっかけとなっています。
岐阜県の東濃地方西部を中心に作られる美濃焼には、1300年以上の歴史があります。製品や技術が多様であるため、特徴づけることが難しかった美濃焼に対し、2人はラーメン丼を入り口に、作り手たちの活動や制作の背景を伝えています。
加賀保行によるラーメン丼のコレクション
最初のギャラリーには約250点ものラーメン丼が展示。コレクターの加賀保行が25年以上前から日本全国で収集しているもので、各地のラーメン店が自店のために注文制作した屋号入りの丼やオリジナルデザインのものが並んでいます。
加賀保行によるラーメン丼のコレクション
隣の展示では、ラーメンの歴史や丼の成り立ちについて知ることができます。
1958年に日清食品から発売されたインスタントラーメンがヒットしたことをきっかけに、「ラーメン」という名称は1960年代に広く使われ始めました。ラーメン丼には多様な大きさがありますが、両手で持ちやすく1食分に適切な容量の直径約20センチ、高さ8.5センチのものが一般的です。
濁りのない白いラーメン丼は、美濃焼の陶土の品質が反映されています。外側に施された雷文や鳳凰、龍などの中国伝統的な絵柄は、中国風の雰囲気を演出するために、日本独自のアプローチで取り入れられました。さらに、ラーメンの麺やその構造、レンゲについても、まるで解剖しているかのように深く知ることができます。
「ラーメンと丼の解剖」会場風景
次のギャラリーでは、ラーメン屋台が再現された空間に、クリエイターらがデザインしたラーメン丼とレンゲを紹介しています。
「ラーメンどんぶり展」会場風景
佐藤卓によるラーメン丼とレンゲ
日本では古代以来、家庭で食事をとることが多かったですが、江戸時代の人口増加や単身の武士の増加により、外食の需要が生まれました。当時は、常設の店舗や少ない元手で開業できる仮設構造の屋台見世で、うどんや蕎麦、寿司や天ぷらが提供されていました。ラーメンは、近代以降、関東大震災や戦後の闇市などで人気を集めるようになりました。
「ラーメンどんぶり展」会場風景
デザイナーの佐藤卓や深澤直人、美術家の田名網敬一や横尾忠則、料理研究家の土井善晴、元ラーメンズの片桐仁、アーティストのLiSA、俳優の竹中直人など、さまざまな分野で活躍する40組が参加しています。
「ラーメンどんぶり展」会場風景
岐阜でのやきもの(須恵器)の生産は7世紀頃から始まり、室町時代後期には大量生産が可能になりました。桃山時代には、志野や結部、瀬戸黒といったやきものが生まれました。近代以降は他の産地も発展を遂げましたが、岐阜県は全国のシェア約5割を占める、国内最大の窯業産地と言えます。会場では、美濃焼の原料となる粘土や釉薬の調合技術とその魅力についてもふれています。
「ラーメンどんぶり展」会場風景
「ラーメンどんぶり展」会場風景
ラーメンを引き立てる「どんぶり」が主役となった、21_21 DESIGN SIGHTならではの視点が光る展覧会。「アーティストラーメンどんぶり」は3月下旬以降、1階のショップで販売予定です。お気に入りの丼を手にする絶好のチャンスです。
会場を訪れた後は、ラーメン屋さんで完食・完飲し、“どんぶり”の魅力に浸ってみてはいかがでしょうか。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 / 2025年3月6日 ]