広島県福山市の「エブリイ」はただのローカルスーパーじゃない。”地縁”に着目した独自戦略で長く愛され続ける理由
独自戦略に活路を見いだしたスーパー・エブリイ
人口減少や高齢化、人手不足、価格高騰など多くの要因により、スーパーマーケット業界などの食を取り巻く環境は変化しているといわれている。大手スーパーの情勢も激化しており、各地の地場スーパーも例外ではない。そんな地場スーパーの中で、独自の戦略で活路を見いだしたスーパーがある。広島県福山市に拠点を置く「エブリイ」である。
エブリイは株式会社 エブリイが運営しており、株式会社 エブリイホーミイホールディングスが率いる「エブリイホーミイグループ」の一角をなす。エブリイホーミイグループのルーツは、江戸時代初期の尾道にまでさかのぼる。「帯屋」の屋号で尾道、のちに福山などで砂糖・小麦・米などのさまざまな商売を行っていたとされている。
明治以降は「澤田儀助商店」という屋号で、履物・砂糖・小麦・油などを扱う卸問屋を営み、昭和になりビールメーカーの総代理店卸問屋「澤田商店」を創業、さらに飲食店事業も展開した。1979年にはグループの祖業である、食材宅配事業「ヨシケイ福山」を創業する。
そして1989年に株式会社 エブリイを設立し、スーパーマーケット・エブリイの1号店を岡山県倉敷市玉島地区にオープンした。2001年には「業務スーパー」のフランチャイズに加盟。2025年5月時点で広島・岡山・香川の3県に56店舗を展開している。2024年6月期の売上は約1,089億円に上り、24期連続増収を達成した。
厳しい情勢が続くスーパー業界で、瀬戸内3県にエリアを絞って出店し、好調な業績を上げているエブリイ。地場スーパーが地域に残り愛されるために、どのような地域戦略を持ち、どんな取組みをしているのか。
株式会社 エブリイの商人推進本部 商品部 産直部門の前田 遼貴(まえだ はるき)マネージャーと、商人推進本部 商品部 産直部門の吉田 史哉(よしだ ふみや)マネージャーに話を聞いた。
「地縁店」と「個店主義」を生かした「売り切り」により鮮度・品質で勝負
「エブリイの特徴として、チェーン店ではなく『地縁(ちえん)店』づくりを追求していることと、個店主義であることが挙げられます」と前田マネージャーは話す。
地縁とは、店のある地域との縁を大切にしていくことを指すという。店のある地域の特性に合わせた品ぞろえで、その地域で生産された商品を販売している。
個店主義とは、各店舗、または各部門の責任者に本部が大きな裁量の権限を委譲していることを指す。エブリイでは、店舗ごとの責任者が自らの判断で店舗運営を行っているという。たとえば青果・鮮魚部門において、通常はスーパーでは本部のバイヤーが一括して商品の仕入を行う。エブリイでは青果・鮮魚部門に関して、各店舗の責任者や、各店舗に配属されている部門バイヤーが毎朝市場に出向き、仕入れている。
仕入れる量や商品の種類などは、店舗の責任者や青果・鮮魚部門バイヤーの判断に任されている。そのため店舗で品ぞろえや陳列方法が違っていたり、同じ商品でも種類や産地・価格が異なっていたりする。これは先述の「地縁店」の考えのもと、出店地域の特性を各店舗が考えて判断するという。
チラシの特売商品など一部は店舗共通の商品はあるものの、同じエブリイでも店ごとの個性が強いのが特徴だ。前田マネージャーによれば、野菜はエブリイのA店、魚はB店など好みのエブリイの店舗を見つけ、数店舗をハシゴして買い物する人もいるそう。
前田マネージャー「地縁店・個店主義のほかに、エブリイでは『当日売り切り』も大きな特徴です。特に鮮度劣化の激しい生鮮食品に関しては、当日のうちに売り切ります。鮮度や品質の良いものをお届けできるのがメリットです。また売れ残りリスクを抑え、食品ロスをなくすとともに、価格を抑えられる利点もあります」
裁量権を持った各店舗の責任者やバイヤーが、毎日売り切れる見込みの量だけの商品を仕入れているという。小売店にとって欠品はNGとされるが、それとは正反対の方針だ。地域の特性に合わせられる「地縁店」と、各店舗が裁量を持つ「個店主義」があるからこそ、鮮度・品質と価格で勝負する「当日売り切り」の方針が生かされているといえよう。
「商品がないときもあるかもしれないけど、商品があるときはとびきり鮮度や品質が良いものをお届けしようというのが、エブリイの思いです」と前田マネージャーは語る。
「地縁マルシェ」で地域の食産業の振興に寄与
エブリイの地縁店としての取組みで、代表的なものが「地縁マルシェ」である。地縁マルシェとは地域で農産品や水産品・加工品・総菜などの生産者が、店に直接納品して「地縁マルシェ」コーナーで販売するもの。道の駅などで見られる産直コーナーに近いイメージだ。
吉田マネージャーは地縁マルシェについて「地縁マルシェは、農産品から始まりました。農家さんの高齢化・後継者不足により、農業の従事者数減少が課題です。このままでは農業の衰退につながる懸念があります。食に携わる企業として、地域の食を支える方々とともに盛り上げていく方法はないかと考え、2010年に地縁マルシェがスタートしました」と話す。
当初は農家に提案しても、スーパーでの販売商品との競合を心配する声があったという。しかし各店舗に裁量権が委譲されていることから、旬のおいしさを届けることを優先して、産直商品とスーパーでの販売商品の量のバランスを工夫するなどの施策を店舗が実施。その結果、地縁マルシェはスーパー利用客のあいだで好評になり、やがて農家同士の口コミや紹介により次第に出品希望者が増加。2025年現在、地縁マルシェに登録している農家は、瀬戸内3県で約4500軒に上る。やがて地縁マルシェは、農産品以外にも広がった。
吉田マネージャー「お客様からは普段の品ぞろえにない商品や、新鮮な地元産商品が手に入るという喜びの声をいただいています。特定の生産者様の商品を目当てにしている方もいるほどです。一方で生産者様からは、納品時にお客様と話をする機会が生まれたという話をよく聞きますね。通常は話をすることがない消費者の方々との触れ合いが生まれ、直接感想をもらえるのがうれしいという声が多いです」
また地縁マルシェ以外に、鮮魚に関して一部店舗では「漁船一艘まるごと買い」という取組みも。漁船で朝に水揚げされた魚を、すべてエブリイが買い取り、鮮度が高い状態で店頭で販売したり、グループの飲食店の食材で使用したりする。漁業関係者から「水揚げされた魚の中には、スーパーでは売りづらいなどの理由から販売できない魚種があり、無駄が生じている」という話を聞いたことから生まれた取組だという。
また「自身が捕った魚がどのように売れているのか知りたい」という漁師の声を受け、売場の様子をカメラで撮影し、動画で確認できるように工夫した。地縁マルシェも漁船一艘まるごと買いも、生産者のモチベーション向上につながっているという。
「多彩な販売チャネルを持ったエブリイホーミイグループの強みを生かし、地域の食に関わる産業の振興に貢献できればと思っています。今後はITを活用し、地縁マルシェのデータ分析や販売状況の把握などができるようにしたいです。あとは、農業が盛んだけど、売り先がない地域もあると聞いています。そういった生産者様が多い地域には集荷場を設置し、地元生産者様にお持ち込みいただき、私たちのグループの物流網でエブリイ各店舗へ納品する体制を整えていきたいとですね」と吉田マネージャーは意気込む。
コロナ禍での飲食店支援から一緒に地域を盛り上げる取組に発展
地縁マルシェの総菜・弁当版として位置づけられるのが「まちメシ」というコーナーだ。「2020年に新型コロナウイルス感染症が流行し、外食産業は大きな打撃を受けました。地域を応援する地縁店であるエブリイとして、困っている地元の外食産業に何か力になれることはないかと考えたのが、まちメシのきっかけです」と前田マネージャーは振り返る。
飲食店は営業できなかったり時短営業を余儀なくされたりしたものの、おいしい商品が提供できることに変わりはない。飲食店はテイクアウトに活路を見いだす店も多かった。そこでエブリイでは、「地産地消!地元飲食店盛り上げ隊プロジェクト」を2020年3月よりスタート。地域の飲食店がつくった商品を、エブリイで総菜として販売する取組みを始めた。
前田マネージャー「地域の飲食店様には新たな収入源を確保でき、同時にお客様には今までエブリイにはなかった商品を選べるメリットがあります。お店に足を運ばなくても、いろいろな店の商品を見比べながら購入できるのが強みです。複数の店の商品をいっぺんに買えるのも利点でしょう。弊社としても、商品のバリエーションが増加するメリットがあります」
なお一部の店舗では、まちメシのパン版である「まちパン」も行っている。まちパンは、日替わりで地域のパン屋の商品が届き、販売するもの。まちパンを行っているのは、2025年現在で4店舗ある。
コロナ禍で困る地元飲食店の支援を目的に始まった、まちメシ・まちパン。しかしアフターコロナの今でも需要があり、今ではコロナ禍時よりも高い売上があるとのこと。
「飲食店様はコロナ禍を通じ、複数の収入源を持ちたいと考えている方が多くなったようです。まちメシ・まちパンはそう考える飲食店様にとって、まさにうってつけの取組でした。また単に商品を販売するというだけでなく、商品を通じて飲食店を知ってもらえるという、宣伝効果もあります。実際にまちメシで商品を販売するようになって、実店舗の客数が増加したというお店もあるほどです。なかにはまちメシで人気が出たことで、新店舗の出店につながった事例もあります」と前田マネージャー。
今は飲食店支援ではなく、エブリイと飲食店が一丸となって地域の食産業を盛り上げる取組みだと考えているという。今後の展望としては、飲食店がプロデュースしたエブリイの総菜の販売など、飲食店との縁を深めていきたいとのことだ。
飲食店の新事業の展開を後押しするシェアキッチン
2021年、まちメシから派生したプロジェクトとして登場したのが、シェアキッチン「みんなのまちメシFACTORY(ファクトリー)」だ。
前田マネージャー「みんなのまちメシFACTORYは、プロが使用する厨房設備がそろい、各種営業許可も得ているシェアキッチンです。コロナ禍などが原因で店を閉めざるを得なかった方が、テイクアウトなどで商売ができるようお手伝いができないかという気持ちから生まれました」
同施設には客席などの飲食設備はなく、厨房設備のみ。販売はエブリイが指定する場所で行う。
みんなのまちメシFACTORYで特筆すべきなのは、急速冷凍機など冷凍食品の製造機械なども設置し、製造許可も得ていること。今も営業している飲食店が新たな収入源を確保するため、空き時間を利用してみんなのまちメシFACTORYで冷凍食品を製造し、販売するという事例もあるという。このほか飲食店開業をめざして、みんなのまちメシFACTORYを利用する人もいる。
前田マネージャー「個人の飲食店で、冷凍食品を製造する設備一式を導入するのはとても大変なことです。このような導入困難な設備を一通りそろえているのが、みんなのまちメシFACTORYの強み。おかげさまでコロナ禍が終息してからも、一定のご利用があります」
みんなのまちメシFACTORYは2025年現在、広島県3ヶ所、岡山県1ヶ所ある。今後も拡大していきたいと前田マネージャーは話す。
食をきっかけとしたコミュニティを生むスペース「いまここ」
エブリイでは2022年より、コミュニティ型シェアリビング「いまここ」という施設を運営している。吉田マネージャーは「いまここは、食をきっかけとして人と人とが直接つながれるコミュニティがコンセプトです」と話す。
いまここは2階建てで、1階はキッチンや家電を備えたコミュニティスペース。月額会員制で、登録することで利用できる。2階は営業許可済のキッチン付き貸スペースで、会員でなくても利用できる。授乳室やキッズスペースなども完備されており、小さな子連れでも利用しやすい。
吉田マネージャー「これまで地元生産者様や食品関連企業様などが、顧客向けに食育イベントを開催しました。なかなか消費者との接点が持ちにくい生産者・企業様から、大変好評です。ほかにもいまここ会員様が主催し、会員様同士が集まってレシピを教え合うイベントや、食品を販売するイベントが開催されたりしました。みなさまの『食に関わる"好き"や"得意"を生かすお手伝いをしたい』という思いがありますので、うれしいですね」
イベントが開催されていなくても、会員が集まって情報交換するなど、コミュニティスペースとしても機能しているという。
いまここ誕生のきっかけは「地縁マルシェのほかにも、地元の一次産業を盛り上げるための取組ができないか」と考えたことだという。またコロナ禍を通じて、オンラインでのコミュニケーションが注目された。一方、オフラインでのつながりが弱まったと感じ、対面でのコミュニケーションができる場をつくりたいと思ったという。一次産業の盛り上げと、オフラインでのコミュニケーションの場の二つが掛け合わさり、いまここの設立につながった。
いまここの会員はリピーターが多く、継続率が高いとのこと。利用者の満足度は高いと、吉田マネージャーは考えているという。
「今は子育て世代や子育てを終えた女性の利用が多いです。今後はシニア層の居場所としての利用など、いまここをさまざまな視点での活用の幅を広げていきたいと思います。そして、地域を巻きこむ形で発展させてきたいですね。いまここで消費者様と生産者様がつながり、そのつながりを生かした展開が生まれればいいなと思います」と吉田マネージャーは今後の展望を語った。
地域と未来に「美味しい」の輪を広げる
エブリイでは広島県世羅町で、自社農場「世羅エブリイふぁ〜む」も運営している。2015年に設営されたという自社農場は、開墾・土づくりからスタートしているという。同敷地内に数ヶ所の畑があり、最大で約1haの規模だ。
自社農場では土壌にこだわり、栽培期間中に化学肥料や農薬は不使用。野菜をメインに多種多品目を栽培し、収穫された野菜はエブリイの一部店舗や通信販売等で売られている。しかし吉田マネージャーは、自社農場の主目的は野菜の販売ではないと言う。
「世羅エブリイふぁ〜むは、私たちが農業を体験することで一次産業の生産者の方々の気持ちを知り、学ぶ目的からスタートしました。『地縁店』を掲げ、地域の生産者様のお力になる以上、一次産業に従事する生産者の方のことを知っておかなければならないという想いがあります。話を聞いたり情報を得たりするだけでは不十分だと感じ、実際に私たちが体験しなければ、本当のことは分からないと思ったのです」
今では自社農場は新たな展開もあり、先述の「いまここ」会員向けの「シェアファーム」も設営。さらに自社農場へ地元の学校や「いまここ」会員が訪れ、農業体験をするなど、地域の食育の場にもなっている。
エブリイとしての今後の展望について、前田マネージャーは次のように語る。「弊社では"地域と未来に『美味しい』の輪を広げる"というテーマを掲げています。普段の仕事の中で、一次産業の衰退をはじめ、さまざまな食に関わる産業が厳しい環境に直面していることをひしひしと感じています。地域の食を守り、次世代につなげていくことは、食に関わる事業を展開している企業としての使命です。そのためにできることを見つけ、地元の方々とともに取り組んでいきたいと考えています。地元の生産者様との『地縁マルシェ』、飲食店様との『まちメシ』『まちパン』、そして利用者様との『いまここ』といった事業も、その一環です。今後も地域の食のためにできることをやっていきたいと思います」
また吉田マネージャーは「生産者様や地域を盛り上げたいという人の想いを大事にするのが、エブリイの強みだと思っています。弊社の従業員も、地域のためにがんばりたいという想いを持つ人が多いです。地域に対する愛は、ほかの店に負けない部分ではないでしょうか。『地縁店』として食の分野で地域に貢献しながら、地域の未来のため、地域のみなさまとともに地元を盛り上げていけたらいいなと思います」と熱い思いを語った。
※取材協力:
株式会社 エブリイ
https://www.super-every.co.jp/
コミュニティ型シェアリビング いまここ
https://www.imacoco-home.jp/
株式会社 エブリイホーミイホールディングス
https://www.everyhomey.com/