ワールドトリガーの28巻が面白すぎて倒れそうになったのでオススメポイントをまとめます
どうもしんざきです。ワートリで好きなキャラは生駒達人と帯島ユカリさんなので、もし自分が採点組だったら王子隊に張り付くと思います。
辻ちゃんやヒカリまで揃って、ボケにツッコミ、純朴からべらんめえまで隙なく取りそろえた王子隊、奇跡のバランス過ぎる。もっとクローズアップして欲しい。
今日書きたいことは、大体以下のようなことです。
・ワートリの28巻、めまいがするほど面白いです
・何よりもまず、あまりにも精巧な「このキャラとこのキャラがこういう立場で絡んだらそうなるよな」という、キャラ描写の納得感が凄い
・精巧なワートリ世界シミュレータが集英社オフィスにあるのでは、と思う程のすさまじいキャラクター解像度
・「リーダーの方針がそのチームを形作る」ということをここまで丁寧に表現した漫画を読んだことがありません
・お話としては、「ボーダーという組織のこれからのあり方」を描いているんじゃないかなあと
・もちろんヒュース先生のカナダ風ガチ指導も良かったのですが、何より麓郎の覚悟が良い
・ただ今回の個人的なMVPは犬飼とカゲです
・皆さんワートリ読んでください
以上です。
この記事は、「ワールドトリガー」という漫画の28巻を読んだらあまりに面白すぎたので、Books&Appsの安達さんに頼み込んで、ワールドトリガーの28巻、および今の展開の、個人的なおもしろポイントをまとめているものになります。
その為、単行本発売から数週間経っているとはいえ、どうしても28巻のネタバレが豊富に含有されてしまうことは避けられず、未読の方は是非お読みになってから当記事に戻ってきていただければと考える次第なのです。なにとぞよろしくお願いいたします。
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ということで28巻。修たちの目的である近界への遠征、そのメンバーを選ぶ「遠征選抜試験」も佳境に入ってきました。
今回は、前巻までの戦闘シミュレーターでの演習を引き継いで、「自作のトリオン兵を戦わせる」という形式の試験が繰り広げられます。
まず、28巻、および遠征選抜試験編のワートリの面白さを簡単に表現すると、
・「各キャラの考え方、動き方」「キャラとキャラの関係性」がひたすら丁寧に掘り下げられていて、今まで関係性を妄想していた読者の「答え合わせ」になっている
・リーダーの挙動や方針がチームのあり方や成果を決める、という描写の納得感が高すぎる
・シミュレーター上で表現される戦術と戦術、アイディアとアイディアのぶつかり合いがシンプルに面白い
の三点に集約出来るのではないか、と思います。順番に書いていきます。
キャラとキャラの関係性の掘り下げ
まず、これは遠征選抜編全編に言えることなんですが、「ストーリー展開自体はすごく地味」なんですよ。
だって、やってることは、言ってしまえば「部屋の中で議論してる」か、あるいは「シミュレーター上のゲームをやってる」のどちらかなので。大規模侵攻とか、B級ランク戦とか、キャラ同士が派手に動いてストーリーが大きく動いて、という感じではない。
アフトクラトルとの因縁やレプリカとの再会を、仮にワートリの「本筋」だとした場合、その「本筋」については全然進んでない。
けれど個人的には、ワートリ史上今が一番面白いかも知れないとまで感じていて、その理由の一つが「キャラ同士の議論や関係性の描写がやたら丁寧で納得感高い」ことなんですよね。
遠征選抜試験、今までのB級ランク編までと全く違うメンバーで構成されている上に、今までと違ってキャラはずっと執務室で仕事してます。結果、「議論や会話の分量がやたら多い」上に「今まであまり会話がなかった面子同士がやたら絡む」「その絡み方も、ちゃんと時間が経つにつれて変わっていく」んですよ。
「このキャラとこのキャラが絡むと面白そうなのにな……!」とか、「このキャラとこのキャラ、こんな会話しそうだな!」「このキャラはこういう行動しそうだな!」という、いわば読者の期待ないし妄想が、どんどん実現されていくわけです。恐るべき質・量・密度の公式供給。
例えば、今まで名前だけ出てきて全然描写がなかった漆間が、当初は遊真にキツめに当たっていたけれど、戦闘慣れした遊真のアイディアや発想に段々態度を改めて、速攻戦術のアイディアを聞いた時は嬉しそうにしていた描写とか。
かつてはランク戦で戦った三雲に対して、だんだん態度が柔らかくなりつつある香取とか。
「若者と先輩」に描写が二分されていて、波風も立て勝ちな水上の方針をうまくフォローしつつ自分たちの意見も言う荒船や今、一方未熟さも見せつつやるとなったらがっつり有能さを発揮する樫尾と照屋とか。
相性が悪い影浦に犬飼、トラブルメーカーの太一まで用意して、「地雷踏み抜き過ぎでは??」と思われた柿崎隊が、予想通り色んなトラブルを起こしつつもちょっとずつ打ち解けていく描写とか。
総じて、「今まで描写はなかったけど、実際絡むとそんな感じなんだな」という感覚は、「納得感」という言葉にまとめられると思います。今までの描写を受けて、なんとなく想像していたキャラの性格、キャラの能力、キャラの関係性が、実際の試験上の行動で次々裏書きされていく、いわば「答え合わせ」の楽しさ。「普段キャラについて色々妄想している人ほど、今のワートリの展開を楽しめる」というのは間違いないでしょう。
また、同じく28巻で言うと、カゲ(影浦)と犬飼さんの会話がやたら個人的な注目度高いわけです。
当初、「こいつとは相性が悪い」とザキさんにぶーぶー言っていたカゲ、やっぱり何かと犬飼につっかかっていたわけですが、太一に対する評価やら何やらで、少しずつちゃんと会話出来るようになっていました。
ヒュースが麓郎の質問に答える前、わざわざ麓郎の師匠である犬飼に連絡しているところ、これはこれでヒュースが義理がたくってとてもいいシーンなんですが、ここでカゲが「師匠なんだからわかるように教えてやったらどうだ」って犬飼に言うんですよね。
ここも、初日時点のカゲなら絶対言わなかった台詞なんですが、それに対して犬飼が、普段見せないちょっと憂いを含んだ顔で「おれがいなくなったらどうすんの」って答えるんですよ。
カゲには感情を関知するサイドエフェクトがあるので、ここで犬飼の感情は感じ取れている筈なんですが、この時のカゲの表情がもうめっちゃくちゃ良い。前回、「うちはもう戦闘だけで食ってくわけにはいかない」と、今までなかった影浦隊のリーダーとしての顔も見せていたカゲが、同じく「人を指導する側」の犬飼の思いに触れる。ここめっちゃ素敵な描写だと思うんですよ。
細かいところですが、太一が特別課題でいい点とったって話をしていて、犬飼が「太一の評価で間違いない」って言った時、カゲが「……だな」って言ってるところ、ここもの凄くめちゃめちゃ好き。カゲ、最初はあんなに犬飼にツンケンしてたのに!犬飼のちょっとした一言に、きちんと口に出して賛成してる!成長したなカゲ!!
リーダーのあり方と、チームのあり方
「リーダーのあり方」「リーダーの方針によってチームがどうなるか」についての描写も非常に満足感が高い。
例えば28巻では、「チームの作戦」と「リーダーの方針」が大きくクローズアップされます。リーダーがしっかり方針を決めて動くか、メンバーのアイディアを全部受け止めて丸い方針を出すか。
今回で言うと、ある程度とがったアイディアを軸にして動く、とリーダーが決断したチームの方が得点とれていて、それを草壁さんや真木が議論しているところもまた読み応えあるんですが、リーダーの方針一つでチームの雰囲気や挙動が全く違ってるところ、ここがもう本当に納得感高い。
遊真の作戦を採用した歌川、「ヒュースの作戦に乗る」と決めた麓郎、菊池原や華さんが軍師になっているゾエ隊。もちろん、三雲を全面的に信頼して、三雲のアイディアを採用している諏訪さん。この辺が、しっかり好循環を作って、シミュでも好成績を出している。
また、シミュの二日目までは水上がワンマンでやっていた水上隊が、樫尾や照屋を「丸くなり過ぎないように」誘導した上で、「樫尾と照屋が考えた案を採用する」という形で好成績を出しているところも素晴らしい。状況に応じてリーダーとしての挙動を変えつつ、「自分で考えたい」二人の力を引き出す水上、諏訪さんほど自然な挙動ではなく、「ちゃんと計算しながらやってる」というあたりが、もちろん有能でもあるんですが、リーダー肌というよりは「知的能力が高いのでリーダーも出来る参謀」という感じで、普段の生駒隊から考えてもこれまた納得感高いです。
もちろん、「三雲の作戦を軸にする」と決めた後はしっかりその方針で動いている諏訪隊、改めて諏訪さんが有能上司過ぎます。「勝ちすぎたらマークされるから、次はあまりシミュレーションにリソースを使わない」という判断も、的確な気配がぷんぷんします。香取をうまいことコントロールしつつ初日からは想像出来ない好成績をあげている諏訪隊、諏訪さんの株が既にストップ高なのにまだまだ上がり続けそうなところ戦慄。
一方、例えばみんなを立てて丸い方針を立てる来馬やザキさん、鋼がいま一つ好成績をあげられないでいるところも、これまた納得感高いわけです。これも別に、チームの雰囲気や今後の運営を考えれば決して悪いことばかりではなく、シミュがいまひとつ苦手な弓場さんがコアラの一言で奮起してるところとか、熊谷が「もっと勝てる筈」と悔しがって鋼や堤さんがそれを受けての提案をするところとか、「結果を受けてのそれぞれのチームの雰囲気」の描写がこれまた読みごたえある。かつて鋼相手に意地を見せた熊谷が鋼の学習能力を生かし切れなくて悔しがってるとこ、「熊谷ならこういいそうーーー!」って納得感めちゃくちゃ高いわけです。
リーダーの方針がチームの戦術をどう決めるのか、それを受けて雰囲気がどうなるのか。これが、まるで「ワートリシミュレーター」を使って構成されているかのように納得感ばっちりで、読んでいるだけで気持ちいいんですよね。
また、今回二宮さんが「育成」に振った動きをして、絵馬に反発されて苦労しているところも、なんかいきなり中間管理職の悲哀感出していて、ここもまた「リーダー」の描写として大変面白い。
二宮さんって、普段の二宮隊だと、メンバーの動きをしっかり管理して、自分の想定で盤面をコントロールする方ですよね。細かいところまでちゃんと方針を明示する。犬飼や辻も、きちんと二宮の指示を聞いて、その方針の枠内で自分の仕事をきっちり果たしている。
ただ今回、二宮の動きって普段のそれとほぼ真逆です。「敢えて細かい指示はせず、責任だけは自分が引き受ける」という、いわば「任せるリーダー」であることを方針にしている。千佳や絵馬に、普段の二宮隊では考えられないくらい自由な判断をさせてますよね。
これ、作中でも東さんが「若手を鍛えるつもりらしい」って評してましたけど、東さんの教え子である二宮が、コアラと奥寺を育てている東隊を意識してないわけがないですよね。ドラフトでは真っ先に東さんを指名して、実際東さんにフォローしてもらいつつ、いわば東さんを模倣しようとしているわけです。
でもやっぱり東さんと同じことをやろうとすると、慣れないことばかりで色々苦労する。本来、「任せる」際にもある程度「任せる為」の言葉って必要で、東さんなんかはコアラや奥寺に「任せる」という時、ちゃんとその方針を口にしています。一方二宮は、普段アンテナが優秀な犬飼や辻しか指揮していないため、どうしても言葉足らずになってしまって、結果絵馬に反発されまくってるわけです。
27巻では、千佳に対する言葉足らずに反発する絵馬に、「じゃあそれをその場で言え」と言っていた二宮さん、それはそれで実にもっともではあるんですが、まあけどそこは隊長が先に歩み寄ってフォローするべきところじゃないかなあ……と思わないでもない。
今回も、鋭い着想を見せた絵馬に「その調子で戦術も考えてみろ」と東さんみたいな発言をしたら、「なんでだよ」とか真っ向から反発されて微妙な顔になっている二宮さん、ランク戦で完璧な挙動をしている普段との落差があまりに面白すぎる。いやホント、今回の選抜試験編が「にのみやくんのはじめての育成」というタイトルでもおかしくないくらいでして、リーダーとして一皮剥けそう。二宮さんには頑張って欲しいです。
シミュレーション戦描写の面白さ
単純に、「戦術と戦術のぶつかり合い・読み合い」の描写を考えても、遠征選抜試験、特に28巻は大変面白いです。
まず今回、全体的に「シンプルに優れた作戦」がちゃんと勝ってるんですよ。
27巻で「相手には考えさせて、自分たちは考えない」という方針を提示した遊真がいる歌川隊、「情報量が少なすぎるから細かい対策は切り捨てて、見た目で迷わせつつ速攻」という戦術が実に説得力高くって、結果的にも見事にハマっています。前回、遊真が作戦について説明している場面、漆間や虎太郎の質問や、それに対する説明もポイント抑えてて、マジで「さすが遊真」という満足感が高かった。
もちろん三雲が考えた「2ターンしか戦わないことでコストを節約する」という戦術も「なるほど……!」と思わされたし、「狙撃型ばっかと思わせておいて実はカウンター狙いのバランス型」というゾエ隊も、「相手の心理を利用して有利をとる」という前回までの流れに沿っていて素晴らしかった。
一方で、「狙撃に偏った編成がいない限りは、空中にいて相手の攻撃が届きにくい大ゴマが有利」というヒュースの作戦も、これはこれで実にお見事です。カードゲームで言えば「メタ読み」が綺麗にハマったところで、ここで麓郎が「編成で勝つってことがだんだん分かってきた」って言ってるところ、これも最後のカナダ的指導に繋がっていって、今回マジで麓郎が主役張って頑張ってましたよね。麓郎が少しずつ成長している描写がちゃんとあったからこそ、「ヒュースのアドバイスで麓郎が一皮むける」という展開に繋がると思うんですよ。
ヒュースのカナダ的アドバイスはもちろん読み応えがあって、「高すぎる壁を前に人は足踏みをしがち」「だから自分で越えられる高さに目標を刻む」あたりは実に説得力があったんですが、一方結構キツいことを言われても、覚悟をもってそれを受け止めていた麓郎の挙動も素晴らしいと思うわけです。本当に少しずつ「自分で考え」ての成長を見せ始めた麓郎、今後の活躍に期待しかない。
「ボーダー」という組織のあり方と「ワートリの本筋」
最初にワートリの「本筋」の話をしましたが、こと「ボーダー」という組織にフォーカスして、「ボーダーをどう描くか」「読者がボーダーをどう理解するか」って視点で考えると、多分今やってることってド本筋なんですよね。
黒トリガー争奪編で「ボーダーという組織があります」と読者に明示する。アフトクラトルの大規模侵攻編では、「ボーダーはこういう役割を持った組織です」と描写する。B級ランク編では、「ボーダーは普段こんなことをしています」と説明する。今までのワートリの展開を、「ボーダーについて」という視点で整理するとこうなります。
で、今やってることの主眼って、恐らく「ボーダーはこの後どうなっていくのか」という話なんですよ。
作中まさに諏訪さんや王子、華さんが指摘していた通り、今回の選抜試験って「幹部候補の試験」でもあり、「今後出来る新チームのためのノウハウ蓄積の実験」でもあるわけなんですよね。読者はまさに、「ボーダーという組織の新しい試み」を提示されているわけなんです。
この試験を受けて、ボーダーという組織がどう変わっていくのか。今臨時リーダーをやっているメンバーが、今後どう動いて、どうなっていくのか。そういうことを考えさせてくれる。
ワートリという漫画は、もちろん三雲や遊真や千佳の漫画でもあるんですが、同時に群像劇でもあるし、「ボーダー」という組織について描く漫画でもある。その点、「ボーダーという組織が変わる過程」を読ませてもらうのは面白さしかない、という話なわけです。
その他の感想まとめ
と、まあ、勢いで色々書いてしまいました。大概長くなってしまったので、その他、28巻の個人的注目ポイントと感想についてまとめて箇条書きしてしまうと、
・他のメンバーは多かれ少なかれ、普段と違うメンバーともだんだん打ち解けているのに、一人だけ初日とビタイチ言動・挙動が変わらない菊地原
・「読めるでしょ?日本語」のところの表情好き
・一方それをこれっぽっちも気にしている様子がない海の胆力というか、鈍感さの描写も良い。「適材適所!」じゃないが????
・それをうまいこと受け止めて全体をコントロールしてるゾエさん、さすがにあの影浦隊で人間関係のバランスをとってるだけのことはある
・千佳が作った強力トリオン兵の名前が「遊真くん」なのかわいい
・粘土細工の趣味の話がいきなり本筋に絡んできた二宮隊の加賀美さん、ちゃんと芸術家っぽい名前をユニットにつけてて好き
・ところで隊長論について語っている草壁さんは無表情美少女過ぎました
・今後の草壁隊の描写に期待
・相変わらず、一人だけ作品から浮くレベルで謎の生き物感を出しつつ、宇野先輩に無言で餌付けされる真衣さんには好感しか持てない
・丁寧に宇野先輩にお辞儀してる杏さんも美し過ぎる
・加古隊のランク戦を見てみた過ぎるんですが(トラッパーってどう動くんだ?)
といった感じになります。
長々書いてしまいましたが、今回の結論としては「ワートリは面白すぎるので、今からでも未読の方は読んでください損はさせません」の一言でして、他に言いたいことは特にありません。よろしくお願いします。
今日書きたいことはそれくらいです。
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【著者プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
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