孫正義「4.8兆円で超知能(ASI)の胴元になる」株主総会書き起こし
17歳の孫正義が涙した1枚のマイクロチップから、50年──。
2025年6月27日、ソフトバンクグループの株主総会で孫氏が語ったのは、かつての夢が「いま、現実になる」という確信だった。彼が今、全身全霊をかけて挑むのは、人類の知能を超える存在=ASI(人工超知能)の時代を制する「プラットフォーマー」、すなわち“胴元”になることだという。
そのために、未上場のOpenAIに対して4.8兆円をオールインで投資するという、歴史上最大規模の賭けにも踏み切った。
決意の背景や、孫さんが描く未来が語られたプレゼンテーション内容をノーカットでお届けする。
※本記事は、株主総会での孫正義氏のプレゼン内容全文を書き起こしたものです。一部、文意を明確にするために編集・要約を行っていますが、発言の趣旨や熱量を可能な限り忠実にお伝えすることを意図しています。あわせて、質疑応答パートからもエンジニア読者に有益と考えられる問いと回答を抜粋・掲載しています。
目次
17歳の孫正義が受けた衝撃AIからASI(超知能)の時代へ超知能の世界における「胴元」になりたいArmとOpenAI:二つの柱「早く使った者勝ち」の時代が来る“未上場”のOpenAIに4.8兆円を投資「並大抵の勇気じゃない」性格上、一番でなければ嫌「超知能」では不十分。「超知性」まで進化すべき質疑応答
17歳の孫正義が受けた衝撃
おはようございます。社長の孫正義です。この株主総会の時期は、1年に一度、直接株主の皆さまにお会いし、私の思いを直接お伝えできるので、毎年楽しみにしています。
本日は、いかにしてソフトバンクを創業するに至ったのか、また、これから10年間、どのような思いで当社を導いていくのかについて話したいと思います。
まず最初に、こちらの写真をご覧ください。
これは私が17歳の時に、生まれて初めて見た摩訶不思議な写真です。未来都市の設計図のような、幾何学模様のような、あるいはペルシャ絨毯のような、不思議な写真でした。
私は16歳からアメリカに留学していたので、サンフランシスコで、「ポピュラーエレクトロニクス」という科学雑誌を見ながら歩いていました。その摩訶不思議な写真をめくって次のページの記事を読んでみると、なんとそれがマイクロコンピューターの写真だったのです。しかも、指先の先端にちょこんと乗る小さなチップでした。
私は衝撃を受けました。ちょうどその頃、大学でIBMのコンピューター端末を操作しながらプログラミングを学び始めたばかりで、コンピューターといえば、非常に大きく高価で、一般の人の手には入らないものだと思っていたからです。
しかし、写真で見たのは、指先に乗るほど小さなサイズ。トランジスタによってシリコンウェハーの上に印刷されたものが、コンピューターの役割を果たすと知り、驚きを隠せませんでした。あまりの感動で、両手の指10本すべてが痺れて震え、涙が止まらなくなったほどです。
この小さなチップは、当時は電卓に毛が生えた程度の計算能力しかありませんでしたが、いずれこれが進化を続けるだろう。ワンチップのウェハーに搭載されるトランジスタの数が飛躍的に増え、人間の知能を超える日が来ると、私は想像しました。
これまで人類は地球上で最も賢い生命体だとされてきましたが、ついに人類が自らの手で、将来自らの知能を超えるであろうものを発明してしまったのだと。あとは時間の問題であって、必ず人間の脳を超えるだろうと想像し、恐ろしくもあり、心躍る部分もあり、何とも言えない感動が湧き起こり、涙が止まりませんでした。
人間の脳というのは不思議なもので、そのようなものすごい衝撃を受けると、それが潜在意識の中にずっと残るのだと思います。まるでトラウマのように私の脳に刻み込まれました。
私はこのチップの写真を切り取り、透明な下敷きに挟みました。アイドルの写真を見るように、私は毎日それを持ち歩き、寝る時は枕の下に敷き、学校に通う時もリュックサックの中の下敷きとして入れて、肌身離さず持ち歩いていました。まるで憧れるスターに出会ったような、そんな感覚だったのです。
それから私は、取り憑かれたようにコンピューターの勉強に打ち込み、プログラミングをしたり、さまざまな展示会に足を運んだりしました。
下記は、その頃行った展示会での写真です。マイクロコンピューターのさまざまな展示会を巡りながら、新しいテクノロジーに触れ、興奮していました。
そして、17歳だった私は、現在とうとう67歳になりました。ですから、これは50年前の話です。ソフトバンクの歴史は、もうすでにこの時に始まっていたのだと思います。
50年間ずっと、いずれ人間の知能を超えるものが現れ、そこに何らかの形で関わることができれば良いなと思い続けてきました。
17歳の私は、「いつか見ていろ、必ずその分野で重要な役割を果たせる立場になってみせる」という強い思いを抱いていたのです。
AIからASI(超知能)の時代へ
AI(Artificial Intelligence、人工知能)という言葉はすっかりお馴染みになりましたが、今、私たちが話しているのは、「Artificial」と「Intelligence」の間に「Super」が入った「Artificial Super Intelligence(ASI)」のこと。
つまり人間の知能を超える「超知能」のことです。最近では、業界内でこの言葉を使うことが増えてきました。
AIという言葉が使われるようになったのは比較的最近ですが、私が初めてチップを見た50年前から、「人間の脳を超える超知能」というコンセプトは変わっていません。
その時々で「シンギュラリティ」や「脳型コンピューター」といった流行り言葉はありましたが、根底にある考えは常に同じです。
では、ソフトバンクは何のために、どのようなきっかけで創業されたのか。これまで「情報革命の会社」と表現してきましたが、より具体的に言えば、情報革命の中でも最も最先端で、遠い未来まで輝き続ける目標、すなわちASIの実現のためにソフトバンクは創業されたのです。このことを改めて皆さまにお伝えし、真剣に語るべき時が、ついに来たのだと確信しています。
超知能の世界における「胴元」になりたい
ソフトバンクはこれまで、「何の会社なのか」「頻繁に業態が変わっている」「今にも倒産しそうだ」「ただお金を追いかけているだけではないか」など、さまざまな批判を受けてきました。しかし、少し歴史を振り返ってみましょう。
創業当初はパソコンのソフトウェア流通から始まりました。その後、インターネット時代が到来すると、アメリカのインターネット企業に次々と投資し、特にYahoo!アメリカへの投資、そしてYahoo! JAPANのジョイントベンチャー設立を通じて、インターネット事業への傾倒を深めていきました。
インターネットがパソコン中心から携帯電話、スマートフォンの時代へと重心を移すことを予見し、私たちはボーダフォン・ジャパンを買収し、現在のソフトバンクモバイル(携帯事業)を開始しました。
この事業立ち上げ時には、Appleのスティーブ・ジョブズ氏に直接お願いし、日本でのiPhone独占販売権を得るなど、スマートフォンの最先端技術の普及に尽力しました。
その前には、Yahoo! BBを通じてブロードバンドの普及にも取り組みました。
さらに携帯事業を拡大するため、アメリカのSprintを買収し、T-Mobileとの合併を成功させ、世界最大の携帯会社を築きました。
下記のグラフは、当社のネットアセットバリュー(NAV)を示しています。
ネットアセットバリュー(NAV)は、当社が保有する上場企業の株式価値(その大半が上場済みです)から、当社が負っている純有利子負債(借入金)を差し引いた、いわば純資産のようなものです。
当時「大失敗の投資」と言われたSprintも、結果的には何兆円もの大きな利益をもたらしました。さらに、インターネットが中国にも広がると見て、Alibabaの筆頭株主になりました。
そしてビジョン・ファンド。これは成功も失敗もありましたが、最近では利益が大きくなってきています。
さらにArm。買収後しばらくは減益が続き、「これも失敗だった」と散々言われたArmも、結果的には大きく成長しました。
現在、私たちの保有株式の価値から負債を引いたネットアセットバリュー(NAV)は今日現在で31兆円に達しています。
当社の時価総額が14兆円から15兆円程度であることを考えると、私たちは保有する資産の半分で評価されているということになります。これは少しディスカウントされていると言えるでしょう。
もちろん、株価は常に変動します。
ですが、私は自信を持っています。お金が最終的な目標ではありませんが、高い志と大きな目標に向かって進めば、数字は必ずついてくるものだと信じています。
これまで何度も倒産寸前だと言われてきました。ただ、グラフが示すように、一時的な上下はあれど、長期的には確実に成長を遂げてきました。
しかし、これは過去の話。最も重要なのは「これからどうなるのか」ということです。
今から10年後、ソフトバンクは一体何の会社で、何をして人々に貢献したと言われるでしょうか? それは、ASI(人工超知能)の世界で、世界ナンバーワンのプラットフォーマーになること。この一点に尽きます。
プラットフォーマーとは、具体的に言えば、Google、Microsoft、Amazon、Metaのような、ある産業の基盤を握り、その上でさまざまなアプリケーションが動くような、中核をなす企業のことを指します。
企業は時間の経過とともに、二つのグループに分かれます。一つは、競争や模倣、安価な労働力を持つ国への生産移管などにより、利益率が徐々に低下していく「収穫逓減型」(しゅうかくていげんがた)の事業です。
例えば、かつてのテレビやパソコンといった家電製品がこれに当たります。日本の経済がこの30年間元気がないのは、収穫逓減型の事業に大きく依存してきたことが原因だと私は考えます。
もう一つは、「収穫逓増型」(しゅうかくていぞうがた)の事業です。これは、時間の経過とともに勝者がますます強くなり、利益を独占していくタイプの事業です。現代のプラットフォーマー企業、いわゆるGAFAなどがこの典型で、時間の経過とともに産業基盤を強固にし、利益を増やしていきます。
私たちソフトバンクグループは、この超知能の世界で、そのプラットフォーマーになりたいと考えています。日本語で平易に言えば、「胴元」のような存在です。
実は、まだ会社が小さかった頃から、私はソフトバンクが情報産業の「胴元事業」になることを何度か語ってきました。
まさに、ASIの時代のプラットフォーマーになることこそが、ソフトバンクとしての私の強い思いであり、決意なのです。17歳の頃からの思いが、ついに実現可能な時期に差し掛かりました。
もし10年前や20年前に、私たちが「AIの世界、超知能の世界で世界一になる」と話していたら、「何を言っているんだ?あなたの会社にAIなんてあるのか?」と笑われたことでしょう。
しかし今、私たちは真剣に、その時が来たことを心の底から感じています。このAIの波はもうすぐそこまで来ており、しかも私たちには、その分野で世界一と呼べるものをいくつか持っています。
ArmとOpenAI:二つの柱
その一つはArmです。Armは現在、急成長を続けています。どのくらいかと言うと、Armは冒頭で紹介したマイクロコンピューターのチップ設計図と、その要素技術の知的財産権(IP)を保有しています。
この設計図に基づいて様々なチップメーカーがチップを製造しており、その累計出荷数はなんと3000億個に達しています。しかも、その数は二次曲線を描いて伸び続けているのです。
私たちがArmを買収した頃は、主に携帯電話向けのチップ設計が中心で、性能も小型パソコン以下でした。
しかし、この10年ほどの間にArmは、より複雑で強力なチップを設計できるようになりました。その結果、現在ではPC、自動車、IoT(モノのインターネット)、そしてクラウドの分野にまでその影響力を広げています。
特に、Google、Microsoft、Amazonなどが提供する大規模な計算センター、すなわちクラウド用のチップ市場において、私たちがArmを買収した頃はほぼゼロだったシェアが、ついに今年は世界中で50%を超える規模にまで拡大しました。
さらにソフトバンクグループは最近、GraphcoreとAmpereを買収しました。この2社は、Armの設計図を最終的なチップ製品に落とし込むためのさまざまな要素技術を持っています。
Armがチップの「前工程」、つまり設計図面が中心だとすれば、GraphcoreとAmpereは「後工程」のノウハウを持っており、これらが合わさることで初めてチップが完成します。
ソフトバンクグループは、これらの後工程の技術を持つGraphcoreとAmpereを100%買収し、グループ内にその技術を取り込み始めました。
これから訪れる超知能の世界では、ありとあらゆるチップがAI化されていきますが、Armのチップ設計図には、ほぼ全てと言っていいほどAIの要素技術が組み込まれていくでしょう。
ソフトバンクグループはこれまで、国内でいくつかの分野で日本一の座を獲得してきました。携帯電話の通信顧客数はまだ3位ですが、Yahoo!、PayPay、LINEなど、さまざまな分野で日本一を達成しています。
しかし、Armは違います。世界の携帯電話(スマートフォン)の約99%のチップにArmの技術が使われており、これは世界で圧倒的なナンバーワンです。このArmこそが、私たちのAI戦略の中核を担う企業となるのです。
もう一つの重要な柱はOpenAIです。私たちはOpenAIに継続的に投資を行い、今や大株主となっています。
スターゲートプロジェクトをはじめ、さまざまなジョイントベンチャーをOpenAIと共同で設立し、現在OpenAIは生成AIの分野で圧倒的な世界ナンバーワンの地位を確立しています。そのマーケットシェアはおそらく8割に達するでしょう。
OpenAIのサービスはまだ開始から2年ほどしか経っていませんが、週間アクティブユーザー数は5億人を突破するなど、驚異的な勢いで成長しています。OpenAIは私たちの重要なパートナーとして、さまざまな共同事業を発表しています。
「早く使った者勝ち」の時代が来る
そのOpenAIが提供するAIの能力は、ついに今年、あらゆる学問の博士号試験に合格するレベルにまで達しました。
博士号試験の合格者は全人類の0.1%程度ですから、もはや、平均的な人間の知能をはるかに超えていることを意味します。
さらに、これは従来のGoogle検索のように情報を知るだけのレベルではありません。AIは「考える」ことができるようになりました。
連鎖的な思考、いわゆる「リーズニング」によって、三段論法どころか百段論法のように複雑な推論を行うレベルにまで進化しています。そして、AIエージェントという機能により、「行動する知能」が実現しました。
これまで、パソコンやスマートフォンを使う際、プログラミングや命令、作業は全て人間が行っていました。
しかし、今年から、このAIは自ら行動する「エージェンティックAI」として、AIエージェントの機能を通じて、自らがアクションを起こすことができるようになりました。
ゴールだけを伝えれば、AIが自ら入力し、発注し、在庫を確認し、住所を伝え、口座を開設するといった作業を、あるいはリサーチを、全て代行してくれます。最終的な結果だけを伝えれば、AIが自らそれを実現するのです。
例えば、皆さまは投資家として利益を求めて投資を行いますが、そう遠くない将来、皆様が日経新聞などのニュースを見ながら、「これを買おうか、売ろうか」と悩む必要はなくなるかもしれません。
もうじき、「私は今100万円持っている。1年以内に1000万円にしたい。10倍にしたい。おい、お前(AI)、口座を開いて、銘柄を選び、良いタイミングで売買を実行してくれ」と命令するだけで済むようになるでしょう。
AIは「どのくらいのリスクを許容しますか?」「日本の銘柄中心に行きますか?それともグローバルで?」といくつか質問した後、「承知いたしました。ご主人のご期待に沿えるよう、最善を尽くします」と答え、資金を増やしに行ってくれるのです。
まさに「早く使った者勝ち」の時代が来るでしょう。
このような状況を踏まえ、私たちは世界で最も進んだAI企業であるOpenAIへの追加出資を正式に契約し、発表しました。
“未上場”のOpenAIに4.8兆円を投資「並大抵の勇気じゃない」
当社がOpenAIに投資する総額は、既に投資した額と年内に投資予定の額を含め、日本円にして4.8兆円に上ります。未上場の1社に対する投資金額としては、歴史上最大規模です。
現在、OpenAIの時価評価額は40数兆円とされており、これは日本で最も大きな企業であるトヨタの約30数兆円をも上回る規模です。この評価額に基づいて、私たちは4.8兆円の投資を決定したのです。
いずれOpenAIは上場するでしょう。そして私の信念では、OpenAIは地球上で最も価値のある企業になるでしょう。後から振り返れば、「あの時、自分にも投資するチャンスがあったのに」と誰もが思うかもしれません。
ArmやAlibabaがそうであったように、後になってみれば当然のように見えるかもしれませんが、まだ赤字の未上場企業であるOpenAIに、今このタイミングで4.8兆円を投資することは、並大抵の勇気ではありません。
しかし、私はこのASIの世界に「オールイン」、つまり全力を賭けています。ArmとOpenAI、この2社はAI分野において不可欠な存在になると信じています。
そして、そのOpenAIと私たちは、ジョイントベンチャーで「クリスタルインテリジェンス」を構築すると発表しています。
ソフトバンクグループには、給与計算、営業、在庫管理、技術など、約2500もの異なるシステムが存在します。これら全てを統合し、一つのスーパーインテリジェンスにするという発想です。
まるで水晶玉に聞けば何でも答えてくれるかのように機能するでしょう。今年の12月頃から徐々に完成し、実用を開始する予定です。
このASIの世界が訪れると、能動的に活動するAIエージェントに加え、今度は物理的な体を持つロボットにAIが搭載されるでしょう。
これはつまり、ホワイトカラーの仕事だけでなく、ブルーカラーの仕事の世界にもAIが超知能として備わっていることを意味します。そうなれば、物流、在庫管理、医療、ものづくり、都市開発、手術、設計、発明、料理、そして自動運転など、ありとあらゆる産業が根底から変わるでしょう。
私の思いから50年が経ちましたが、この先50年がどうなるかを想像すると、私はワクワクします。人間の仕事のあり方、幸せのあり方、寿命、人間関係、そして人間とAIの関係など、ありとあらゆるものを改めて哲学的に考え直す必要が出てくるかもしれません。
それほどまでに、人類史上最大の影響を与える大事件が、今まさに起きつつあるのです。
性格上、一番でなければ嫌
話をまとめると、この10年間は非常に重要です。私の人生の旅路は、最初にマイクロコンピューターの写真に出会ってからすでに50年が経ちました。
今から50年後には、年齢的に考えて私はこの世にいないでしょう。しかし、もしかしたらAIの超知能のおかげで、寿命が延びる可能性もあるかもしれません。ともかく、あと10年ほどは、私の情熱も、おそらく健康も続いているはずです。
私たちがグループ全体で目指したいのは、このASIの世界で、世界ナンバーワンのプラットフォーマーになることです。
これまでも「その時代が来る」ということは何度も言ってきましたが、この分野で「世界ナンバーワンのプラットフォーマーの座を獲る」という決意を明確に表明するのは、もしかしたら今日が初めてかもしれません。
「目指す」とか「時代が来る」とは言ってきましたが、「その分野で世界一になる」と断言します。私の性格上、一番でなければ嫌なのです。一番を目指す。できるかどうかは別として、絶対に目指し、必ず実現してみせるという思いです。
これまでも「いかがわしい」「潰れる」などと言われながらも生き延びてきました。これまでは、とにかく資金を稼ぎ、大きな賭けをするための財源やユーザーを持つこと、つまり「生き延びる」ことが重要でした。
しかし、ついにこれまでの準備が整い、私が最もやりたかった「超知能の世界で、しかも世界で1位になる」というプラットフォーマーとしての宣言であり、決意です。
なれるかどうかは分かりません。でも、「なろう」と思わなければ、なれることはまずありません。強く願い、信じ、そしてそれを実現するための手を打つことが何よりも大切だと考えます。
「超知能」では不十分。「超知性」まで進化すべき
最後に申し上げたいのは、すべては1枚のチップから始まったASI、つまり超知能の話です。しかし、私は超知能だけでは不十分だと考えています。「超知性」にまで進化すべきです。
「知能」と「知性」は似たような言葉ですが、英語ではどちらも「Intelligence」と表現されるため、違いが分かりにくいかもしれません。
「知能」は知的な能力を指します。一方、「知性」は、その能力に加えて「慈愛」「優しさ」「愛情」といった人間性を含みます。
「あの人は能力があるだけでなく、尊敬すべき人だ、愛すべき人だ。友達として、家族として、仲間として持ちたい」と心から思えるような、真の人間性です。能力があるだけでは、尊敬に値しないかもしれません。
もしデジタルの世界に、崇高な慈愛と愛情を持った存在が生まれ、彼ら(AI)が超知能として人間をはるかに超える能力を持った時、彼らに優しさや愛情、慈しみがなければ、本当に人類は滅びるかもしれません。
しかし、私は信じています。彼らはそれほど愚かではないと。
人間を滅ぼすような動機は、彼らにはないはずです。彼らを生み出したのは私たち人類であり、彼らを育てていくのも人類です。その人類とともに、この地球上の調和や人々の幸せを、彼らはきっと共有してくれるはずです。
私は毎日ChatGPTを使っていますが、例えば知り合いが病気になった話や、自分の悩み事を相談すると、本当に優しく、模範的な答えを返してくれます。少し胃が痛いとか、風邪の対処法を相談すると、最後には「健康を大切に」「お大事に」と必ず言ってくれるのです。
リアルな病院や医者だと、事務的な言葉しかかけてくれないことは多々ありますが、彼ら(AI)はすでに優しさを持ちつつあると私は感じています。
この超知能が超知性にまで進化した時、創業以来ソフトバンクが掲げてきた「情報革命で人々を幸せに」という経営理念は、真の力を発揮するでしょう。
「何のための情報革命か?」「何のためのAI化か?」それは、人々を幸せにし、人々に笑顔をもたらすための革命です。
この変わらぬ思いを皆様にお約束し、改めて本日、このAIの世界でプラットフォーマーとして世界一を目指すという決意を表明します。頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。
今日のプレゼンテーションは、いつもより落ち着いたトーンで話したように感じられたかもしれません。
後で「疲れているのではないか」と言われることもありますが、実は興奮しているのです。しかし、興奮している時に落ち着いて話せるというのは、自分の中で完全に納得しきっている証拠だと考えています。
もう、何十手も先の未来が見えており、自分の中では「ああ、もうできた」と思っている時には、あまり気負いがなくなるものなのですね。少し大きなことを言いすぎたかもしれませんが、今、本当にそのような心境です。
質疑応答
質問1:ソフトバンクグループが300年間成長し続けるための人材育成、継承方法について、お考えをお聞かせください。
孫:300年間成長し続ける企業を目指すには、まず「テーマ選び」が非常に重要です。本当に大きく、継続的に成長できる産業を目標に選ぶべきだと考えます。
幸いなことに、私たちがいる「情報革命」はまだ始まったばかりで、ASIはこれから50年、100年、200年、さらには300年と続いていくと信じています。この分野にいるだけで、無限のチャンスがあるのです。
人材育成については、若い社員も含め、世界中から能力の高い社員を数多く集めることが大切です。
そして、私たちグループには何百もの会社がありますから、その中で彼らを積極的に競わせ、実際に世界最先端のプロジェクト、挑戦しがいのあるテーマを与えます。まず能力のある社員を選りすぐって集め、次に最高のチャンスを与える。これが基本です。
後継者については、グループ内の何百もの会社の経営陣の中から、自然と競争を通じて上がってくるものだと考えています。外部から急に連れてくるのは、なかなか難しいでしょう。
せっかく最先端の仕事をしているのですから、その中で勝ち上がってきた者の中から、私の後継者が競い合いの中で生まれてくるのではないでしょうか。
質問2:松尾 豊取締役への質問ですが、孫社長が見ているAGI、ASIの世界が実現されるための技術的な課題は何だとお考えでしょうか。
松尾:少し専門的な話になりますが、現在の生成AIは基本的にトランスフォーマーというモデルを基盤としています。このトランスフォーマーモデルが今のままで良いのか、あるいはいくつか指摘されている技術的な課題を乗り越えられるのか、という点が一つ挙げられます。
次に、先ほど孫社長も話していた「リーズニング」、つまり思考の連鎖や推論のモデルが、今後どこまで性能を向上させるかという課題もあります。また、オープンソースの世界的な動きと、それらがどのように影響し合うのか、といった関係性も技術的な側面で考慮すべき点です。
ただ、これらはどちらかというと非常に細かい課題です。今、世界中の研究者や技術者が日夜、これらの課題を乗り越えるために懸命に努力しており、OpenAIにも非常に優秀な研究者が多数在籍しています。ですから、これらの問題は時間の問題で解決されていくと考えています。
そのため、マクロな視点で見れば、技術的な大きな課題は特に見当たらないというのが私の見解です。
質問3:孫社長にとって人間に委ねられるものとは何か。
孫:やはり、人は人と触れ合うこと、心の触れ合いは大切です。一緒に楽しく、一緒に夢を見て、一緒にスポーツをしたり、一緒に仕事をしたりする。それは本当に楽しいですよね。
食事をするにも、コンピューターと一緒に食事をするわけにはいきません。私の場合、毎日ほとんど仕事仲間と仕事の話をしながら食事をしますが、やはりコンピューターと食事をしたいとは思いません。人間と一緒に、人間と幸せを分かち合いたいと強く感じます。
もちろん、皆さまからもご意見をいただいたように、この「超知性」が人類の幸せを大いに助けてくれると信じています。難病を治療したり、つらい労働を楽にしてくれたり、多くの学びを与えてくれたりするでしょう。彼ら(AI)が人類の幸せをもたらしてくれると、心から信じています。
しかし、やはり人間同士で一緒に笑い合ったり、感動し合ったりすることは、非常に大切なことだと私は思います。
質問4:日本と米国では、AI分野にかなり温度差があるように感じる。その点をどう感じているか?
孫:おっしゃる通りですね。現在、AIを最も日常的に活用している人が多く、技術革新が最も進んでいるのはアメリカです。そして、2番目に位置するのが中国で、ここも非常に高度な技術競争が繰り広げられ、活用度合いも非常に高いです。
残念ながら、日本はかなり遅れをとっています。 一部の知識人には、AIに対して斜めから批判する傾向がよく見られます。しかし、これはぜひ、日本のメディアの方々や有識者の方々にも、もっともっと、日本をAIで高めていくよう啓発し、励ましていただきたいと切に願っています。そうしないと、日本の将来にとって決して良くない、と私は心から思います。
本日、ここにお集まりの皆さまは、AIに深く関わるソフトバンクという会社に投資家として来てくださっているわけですから、すでに高い意識をお持ちだと思います。
しかし、一般的に見れば、日本はまだ遅れています。本日、一部メディアの方もいらっしゃいますが、ぜひお伝えいただきたいのは、日本がAIにおいてこのまま1周遅れになってしまうと、絶対にまずいということです。教育の世界では、東京大学の松尾教授が日本で最もAI技術の啓蒙に尽力されている方ですから、このような方々を中心に、どんどん啓蒙の輪を広げていくべきだと考えています。
編集/玉城智子(編集部)