「グロ欲求を満たしてくれる」童謡ホラーの決定版?『メリーおばさんのひつじ』は容赦ないスプラッタ描写満載の怪作
『メリー“おばさんの”ひつじ』とは何か?
『メリーおばさんのひつじ』というタイトルから連想するのは、当然ながら童謡「メリーさんのひつじ」だろう。真ん中に「おばさん」という余計なワードが入っているのが気になるが、なんにせよ牧歌的な絵本や歌曲のようなものを誰もが想起するはずだ。
しかし、本作は直視するのも憚られるような血みどろバイオレンス満載のホラー映画である。いったい誰が誰を、何の目的で殺すのかは本編を観ていただければ秒で分かるのだが、そこに至るまでのズブズブと暗く湿っぽい映像、それとは裏腹なカラッと淡々とした殺害っぷりが小気味いいスプラッタ映画に仕上がっている。
落ち目のラジオDJ、起死回生をかけ「いわくつきの森」へゆく
未解決事件や超常現象を扱うラジオ番組「カルラの迷宮事件簿」。パーソナリティーのカルラの冠番組だが、ネタ不足で聴取率が下がり続け、打ち切り寸前だった。起死回生のため話題性のある事件を探す中、「ワープウッズの森」で行方不明者が続出しているという情報を手に入れる。
カルラは、取材をするべくスタッフを連れてワープウッズへと向かうが、深い森の中で道に迷ってしまう。途方に暮れていたところ、一軒家を見つけ助けを乞おうとするが、そこにメリーという女性が現れる。この家で息子と二人で暮らしているというメリーは、カルラたちを温かく迎え入れるが……。
世界中で親しまれる童謡が満を持してホラー映画化
19世紀アメリカの実話に起源を持つ童謡「Mary Had a Little Lamb」(メリーさんのひつじ)。発明家エジソンによって、初めて蓄音機に録音された歌とも云われる。現在も日本をはじめ世界中で親しまれている童謡が、このたび満を持して(?)ホラー映画化された。
本作の原題は『Mary Had a Little Lamb』で、つまり「メリーさんのひつじ」まんまである。1800年代の作品のためパブリックドメイン(著作権切れ)となっており、めでたくホラー化ムーブメントの餌食、もとい白羽の矢が立ったというわけだ。製作陣に、同じく権利切れホラーの大ヒット作『プー あくまのくまさん』を手掛けたリース・フレイク=ウォーターフィールドらが名前を連ねているのも納得である。
空前のサメ映画ブームに始まり、クマにヘビ、ワニ、ナマケモノまで様々な動物ホラー/スリラーが次々と生み出されている現在。『メリーおばさんのひつじ』は童謡モノ×動物モノというフワみの強い要素に、切り株全開・グロさ満点のバイオレンスをぶち込んだ、ある意味では理想的なホラー映画とも言えるだろう。
やっぱり“あの映画”の影響大! 名作ホラーへのオマージュ
本作に登場する、斧を手にした羊頭の怪人(役名は「ラム」)のビジュアルを見れば、その元ネタは明らか。先述の『プー』も同じく、やはり傑作『悪いけ』の設定は世界共通で汎用性が高いのだろう。同作からの引用は最後の最後まで明示され、そしてメリーおばさんと羊男の哀しい(しかしギョッとする)関係性は『13金』を思わせる。
かなりの低予算ながら随所に工夫を凝らした本作の監督を務めたのは、『MEG ザ・モンスターズ2』のアニメーションや『キック・アス』の視覚効果を手掛けてきたジェイソン・アーバー。ミュージックビデオ監督としても引っ張りだこのようだが、長編映画は本作がほぼデビュー作と言っていいだろう。このたびの世界公開によって『プー』よろしく大きな予算を引っ張ってこられれば、今後ホラー監督として化けるかもしれない。
ちなみに童謡「メリーさんのひつじ」を振り返ってみると、その歌詞が本作の基本設定になっているのだと考えられなくもない。しかも日本語訳のほうはかなり投げっ放しな悲しい歌詞なので、本作の「ラム」の悲しい素性とリンクしているような気もしてきて……。
『メリーおばさんのひつじ』は2024年9月6日(金)より全国順次公開