【ベテラン産業医が回答】これって燃え尽き症候群?危ないサインと対処法|はたらく心の処方箋 vol. 2
日々の仕事に全力を尽くすなかで、「疲れがとれない」「モチベーションが続かない」といった感覚に悩んだ人は少なくないでしょう。キャリアを考える際、「ここが踏ん張りどころだ」と頑張る姿勢は素晴らしい一方、知らず知らずのうちに心身に大きな負担をかけている可能性もあります。では、キャリアと心身の健康管理のバランスは、どのように取ればよいのでしょうか。
このお悩みに回答してくれたのは、渋谷365メンタルクリニック院長の森秀和院長。これまでIT企業、コンサルティング企業、大手エンタテイメント系企業の専属の産業医として従事し、現在も月500回以上の面談・診療を行う森さん。産業医であり心療内科医でもある森さんに、キャリアにおける「頑張りどころ」の見極め方や、燃え尽き症候群のサインとその対処法などを聞きました。
お悩み
本業と副業で疲労が蓄積。どこまでが「頑張りどころ」で、どこからが「燃え尽症候群」? 新卒で大手IT企業に入社し7年勤務後、アプリ開発のベンチャー企業に転職して2年目。マネージャーとして複数の案件をまとめる役割を担っており、高い意欲で仕事に取り組んでいる。しかし、最近は納期や会社からの期待に押しつぶされそうな感覚が続いており、仕事のプレッシャーを強く感じることが増えている。さらに、土日には副業として開発も受託しており、プライベートの時間もほとんど仕事に費やしている。寝不足が続き、心身の疲労が蓄積しているが、どこまでが「頑張りどころ」で、どこからが「燃え尽き症候群」の兆候か分からず不安。心身の疲労をどう管理し、キャリアを続けるべきか悩んでいる。 [31歳男性 / 会社員 / ITベンチャー / アプリケーションエンジニア / 副業あり]
仕事のパフォーマンスの低下が、燃え尽き症候群のサイン
相談内容を見る限り、この方は燃え尽き症候群の可能性が高いと考えられます。なぜなら、ハイパフォーマンスを求められる状況が長期間続いているうえ、土日も副業に費やし、精神的・肉体的疲労が蓄積されているためです。
そもそも燃え尽き症候群とは、それまで仕事に全力を尽くしてきた人が、なんらかのきっかけで、まるで燃え尽きたように元気を失ってしまう心身の疲労症状を指します。たとえるなら、 フルマラソンを走り切ったランナーが、ゴール後に動けなくなる状態 と同じです。
燃え尽き症候群の典型的な症状として、以下が挙げられます。
疲れがとれない 気持ちが落ち込む やる気がでない 眠れない
仕事のパフォーマンスが低下するのも大きなサインです。 通常のパフォーマンスを100%としたとき、60~70%まで落ちているように感じる場合は危険信号 と考えてよいでしょう。具体的には、以前は1週間で完了していた仕事が数週間経っても終わらない、といった状態がこれに該当します。
感覚値で構いませんので、自身の状況を振り返り、以前と比べてどのように変化しているのかを確認してみましょう。
走り続けていきなり倒れるよりも、早めの休息を
すでに疲労の蓄積を自覚している場合は、休息を取るのが最優先です。そのままの働き方を続ければ、将来的に突然倒れてしまうリスクが高まり、最悪の場合は休職や退職を余儀なくされる可能性もあります。それは、ビジネスパーソンにとって大きな痛手ではないでしょうか。
そのまま走り続けるのではなく、今の段階で仕事の負荷を減らし、心身の疲労を軽減する方法を考えてみましょう。もしかすると、副業をやめたり転職を考えたりする必要があるかもしれません。
ただ、 いきなり何をやめるかを決めるのではなく、まずは「なぜ自分はこの仕事をしているのか」を振り返ることが大切です。 たとえば副業であれば、「自分にとって副業はどのような意味があるのか」「なぜこの副業に取り組んでいるのか」「もし副業をやめる場合はどのような影響があるのか」などを考えてみるのです。
その結果、「副業は絶対に続けたい」となるなら、本業の負荷を軽減して全体のバランスをとっていく必要があるでしょう。たとえば今の状態を改善する具体的な方法として、仕事のタスク管理の見直しも考えられます。そのために、自分が抱えている仕事の状況をすべて紙に書き出して整理してみましょう。
頭の中で考えて整理するのは限界があるため、紙に書き出して客観的にながめてみるのがおすすめです。その上で、「このプロジェクトは自分でなくても対応できるかもしれない」「これは他のチームに応援を頼めそうだ」など、自分にかかっている負荷を軽減する糸口を探っていきましょう。
キャリアにおいて、何を大事にするかは人それぞれです。もし自分一人で考えるのが難しいなら、周りの人や会社の産業医、病院の専門医に相談するのもよいでしょう。ギリギリまで頑張ってしまい、結果的に倒れてしまうよりは、その手前の段階で誰かに相談してもらえると嬉しいですね。
高いパフォーマンスを発揮するには、心身の健康が不可欠
これからの時代、副業やフリーランスといった働き方が増えていく中で、必要なのは 自分で心身の健康を管理していくスキル です。その第一歩として、日常生活で「くうねるあそぶ」(「食べる」「寝る」「遊ぶ」)の3つの状態を意識してほしいと思います。この3つに以下の変化が見られる場合は疲労の蓄積サインと考え、速やかに休息をとりましょう。
・食べる
食欲がわきにくい、食べ過ぎて体重増加が止まらない など
・寝る
昼間に強い眠気に襲われる、土日は一日中寝ていて起きられない など
・遊ぶ
趣味が楽しめなくなった、何をしても楽しくない など
忙しい中でも高いパフォーマンスを発揮する人に共通するのは、これら3つを健全に保つ意識の高さ だと思います。どれだけ忙しくても睡眠時間を確保したり、ジムに通って定期的に運動したりと、セルフケアを徹底している人がほとんどです。心身の健康を保つことが、長期的なキャリアアップに繋がるでしょう。
プロフィール
渋谷365メンタルクリニック
院⻑ 森秀和
産業医科大卒業後、同大学心療内科医として勤務。その後、IT企業、コンサルティング企業、大手エンタテイメント系企業の専属産業医として活躍。23 年に渡る心療内科・精神科医療の経験と、産業医として幅広く活動してきた経験から、多角的な視野で患者さまのメンタルヘルス疾患に柔軟に対応することを得意としている。
企業サイト
渋谷365メンタルクリニック
保有資格
日本心身医学会・日本心療内科学会合同 心療内科専門医
日本内科学会総合内科専門医
労働衛生コンサルタント(保健衛生)
特定社会保険労務士