子どもが「やりたい」タイミングを待つ。子どもにいま必要なことは何?
非認知能力の要素のひとつである「やる気」。やる気をもって自分から行動する子を育てるには、子どもの気持ちをどのように育んでいけばよいのでしょうか。本記事では家庭教育協会「子育ち親育ち」代表の田宮由美さんに話を聞きました。日常生活で使える声がけのフレーズも紹介しています。
非認知能力の要素のひとつである「やる気」。やる気をもって自分から行動する子を育てるには、子どもの気持ちをどのように育んでいけばよいのでしょうか。本記事では家庭教育協会「子育ち親育ち」代表の田宮由美さんに話を聞きました。日常生活で使える声がけのフレーズも紹介しています。
「非認知能力」とは、人間力とも呼ばれ、意欲や協調性、クリエイティビティ、コミュニケーション能力、諦めない力など、人間が持つ数値化出来ない様々な力のことを指します。まさに、人生を切り拓く力と言えますね。
そんな非認知能力の要素のひとつに、「やる気」があります。
ほとんどの親がもつ「積極的かつ、主体的に行動できるようになってほしい」という思い。それは、自らの意思で「やりたい」ことを選択したり、心の内側からにじみ出るような情熱を持って自分の道を歩んでほしい、という願いにもつながっているでしょう。
本記事では、小学校・幼稚園教諭の経験を持つ、家庭教育協会「子育ち親育ち」代表の田宮由美さんに子どものやる気の引き出し方をテーマに話を聞きました。
長年、幼児教室の開催や、子どもの声を聞く公的ボランティアに携わり、さらにプライベートでは2人の子どもの母でもある田宮さんは、子どもが夢中になれる環境をどのように作っているのでしょうか。
「やりたい」気持ちを育む方法
ーー「うちの子は何度も言わないと宿題をやらない」「指示をしないと何も動かない」などと悩む保護者は多いですが、子どもが自発的に行動出来るよう、親が出来ることはありますか?
田宮さん:もちろんあります。まずは「やりたい」「知りたい」という自然に生じる疑問や気持ちを育むことが大切ですね。
ーー具体的にどのようにしたらよいのでしょうか?
田宮さん:子どもは、生活のなかでさまざまな疑問や不思議を感じています。なので、親がその感じているだろう疑問を、ポンと質問を投げかける形で言語化してあげてみてください。そんなに難しいことではありません。
たとえば虫がいたら「この虫は何を食べるのかな」、夕暮れどきの太陽を一緒に見ながら「太陽が赤くなったね。なんでだろう」など、簡単なことで良いのです。
親が疑問に気付くためのヒントをあげるだけで、子どもの「なんでだろう、知りたい」「気になるからやってみたい」という気持ちを芽生えさせていくことができるのです。
ーー子どもが持つ疑問に対して親が回答できないこともあると思いますが、どうしたらよいのでしょうか?
田宮さん:親が知らないことは、正直に知らないと言っても問題ありません。いっしょに調べてみたらいいと思います。小さいうちはいっしょに図書館に行って図鑑を見てみたり、YouTubeで調べたり。そのようなコミュニケーションを繰り返していくと子どもは自ら疑問を発見し、自ら答えを見つけることができるようになっていきます。
また、親自身が好奇心を持って生活をすることが、何よりも大切です。親が本を読んでいたり、楽しそうに何かを学んだりしている様子を見たら、子どもは「学ぶことや知ることは楽しいことなんだな」と気が付きます。
さらに、保育園や学校から帰ってきた子どもに「今日はどんなこと習ったの? すごいね! お母さんにも教えて」などと会話をすることも効果的ですね。親が興味を示すだけで、子どももさらに関心を深め、「もっと知りたい」「もっとうまくできるようになりたい」と思うようになるでしょう。
親が持つ無意識の目標。その目標が高すぎるのかもしれない
ーー親としては同じことを何度も言わなくても自発的にやってほしいと思ってしまいます。
田宮さん:確かに「お着替えを繰り返し教えてもやってくれない」など、子どもにいくら言っても聞いてくれないという親御さんの悩みはよくありますね。
私自身も「自分の子育てがよくないから、子どもが言うことを聞かないのではないか」と無力感に苛まれてしまう方をたくさん見てきました。
私たちはつい、子どもを自分の思い通りにしようと考えてしまいますが、結局のところ、それは親の都合を子どもに押し付けているにすぎません。
子どもが繰り返し言うことを聞いてくれないときは、まずは「目標設定が高すぎないか」を一度振り返ってみるとよいです。
たとえば、自分でお着替えをするためには、頭と腕を通して、ボタンを留めて、襟を直すなどの手順がありますよね。
昨日はボタンを2つしか留められなかった子が、今日は全部留めることができたとしたら。それは昨日より成長しているということなのに、親は褒めることをせずに「襟が中に入ってるじゃない」などと、できていない部分を指摘してしまいがち。
そうではなくて、ボタンは全て留めることが出来ているのだから、その部分に関しては、たくさん褒めてあげましょう。そして、次のステップとして「襟が中に入っているから、次はここまで出来るようになろうね」のように段階を踏むことが大切です。いきなり完璧を求めすぎては、親も子も疲弊してしまいます。
目標は少しずつステップアップしてあげましょう。
ーー子どもがうまくできないのであれば、目標の目線を合わせてあげるということでしょうか。
田宮さん:そうですね。何度やってみてもうまくできないのであれば、子どもにとってそれを習得する時期ではないのかもしれませんね。
大人になったら必要なことかもしれないけれど、子どもが大人になるまでには長い期間があります。できないことを無理にやらせようとする時間があるのなら、もっとのびのびと身体を動かして遊ぶとか、「いま必要なこと」に時間を費やすほうが、子どもの成長にはよいでしょう。
また子どもが自分で気づくために、さりげなくフォローの声がけをするのもよいでしょう。たとえば部屋が散らかっていて着たい服が見つからないと困っていたら、そのときに「置く場所を決めておいたらわかりやすいね」などと、ちょっと声をかけることにより、整理整頓を進んでするきっかけになることもあります。そのような気付きの積み重ねで、子どもは学んでいくものです。
親が教えたいタイミング≠子どもが学びたいタイミング
ーー親はつい高い目標を設定してしまっているということでしたが、発達段階の目安は持たなくてもよいのでしょうか?
田宮さん:はい。子どもの発達時期は一定ではなく、100人いれば100通りの発達段階があります。なので、親は「この年齢ではこのくらいできないといけない」とか「保育園の友だちはみんなできているから」といった理由で「わが子もできなければならない」と思い込んではいけません。
子どもがうまく出来ないことがあれば、子どもにとっては今それを「習得したい」「自分でやりたい」という時期に達していないのかもしれません。先ずは親が、子どもの「やりたい」気持ちを育む声がけや、意欲を高める環境を作っていきましょう。それでも、子どもがやりたくないのであれば、それはタイミングが違うのだと思います。
大切なことは、子どもの「できるようになりたい!」のサインを見逃さないこと。子どもが能動的になれば、習得のスピードは段違いに早まります。そのためにも、ありのままの子どもを認めて、見守ることを心がけるとよいでしょう。