「カゴ釣り」の思い出アラカルト
周囲を海に囲まれた我が国ニッポンは紛れもなく海釣り天国、多種多様な魚がねらえるが、同じ魚種をねらうにしても、さらに同じ釣りジャンルといえど、地方によって独特のカラーがあるのが、何より古くからニッポン人が釣りに親しんできた証拠。
「あの釣りこの釣り古今東西」第10回は、磯や防波堤からのカゴ釣りについて。上物釣り……いわゆるマキエで魚を浮かせ集めてねらう釣りにおいて、フカセ釣りと双璧をなす釣りではあるのだが、かたやフカセ釣りが全国規模の釣り大会、トーナメントなどでメジャーシーンを賑わせる一方、いまひとつ盛り上がりに欠ける気がする…。それは、カゴ釣りが「誰にでもかんたんに釣れる」という実に合理的な釣りである宿命なのかもしれない。
出会いは50年近く前の愛媛の磯
カゴ釣りに初めて出会ったのは私が高校2年生か3年生のころだから、今から47、48年も前の話だ。
当時、年に2、3回ほど磯釣りに通っていた愛媛県西部の磯。あるとき渡船の船長が「仕掛にこれ付けて釣ってみて」と手渡してくれたのがナイロン製の小さな網カゴだった。棒ウキ仕掛のサルカン部分にスナップで取り付けて、中には当時のエサだった冷凍の湖産エビを入れた。これで30㎝ほどのグレが何尾か釣れて、なるほど便利なものだと感心したものだった。
写真は高知県の鵜来島、沖ノ島方面だが、同じ海域北部の宇和海の磯で初めてカゴに出会った
それから数年後、今度は愛媛県南部の別の磯釣り場。船長に指示されるまま大きな磯に10人以上も磯上がりしたのにはワケがあった。実はオキアミが釣りエサに使われるようになり、この愛媛の磯でもヒラマサブームが起こっていたのだ。そのヒラマサをねらう仕掛がカゴだった。カゴは高校時代に手にしたものに比べずいぶん大きく、タックルもターゲットがヒラマサだけに格段にごついものに。
全国的に起こったヒラマサブームは第一にオキアミの登場に起因するが、そのスーパーエサを最大限に生かしたのがカゴ釣りだった
大きなカゴがまるでロケットのように磯からずんずん発射され、デカいヒラマサがどんどん釣り上げられるシーンは実に壮観だったが、フカセ釣りの道具しか持ち合わせていない私は、まるでなすすべがなく惨めな思いをしたことを覚えている。
たぶんこれが、全国的にカゴ釣りブームが起こった最初のころなのだろう。それから数年ほどして釣り雑誌社の編集部に身を置いたころには、すでにヒラマサブームは下火になり全国のカゴ釣り熱も冷め、グレとチヌに代表される磯の上物釣りはフカセ釣りが主力になっていた。
カゴ釣りブーム以後、なかにはカゴ釣り禁止をうたう渡船区も珍しくなくなり、一部では現在にまで引き継がれている。しかしそれでも、カゴ釣りが完全に淘汰されてしまうことはなく、今ではカゴ釣りとフカセ釣りの住み分け、使い分けが出来上がったように思う。
たとえばフカセ釣り王国である阿波・徳島では、初夏のイサギ(イサキ)釣りシーズンになると多くの釣り人が道具を持ち替えて、当たり前のようにカゴ仕掛を投げている。ねらう魚によっては、ルアーも含め、より合理的な釣りをするのが徳島にかぎらず現在の磯釣りシーンだろう。
徳島県牟岐大島のイサギ釣り。普段はフカセ釣りを生業とする阿波の磯師もこのときばかりはカゴ釣りタックルに持ち替える
山陰地方独特のタルカゴが面白い!
一般的にカゴ釣り仕掛は長い棒ウキや大型の中通しウキを遊動式で用い、重めのオモリ(カゴ自体にナマリを仕込んだものも多い)で深めのタナをねらうようになったものが多い。マダイやイサキをねらう際は、ほとんどこのスタイルだ。
現在の一般的なカゴ仕掛とウキ。ステンレスのテンビンにクッションゴム、カゴ自体にオモリが付いており(付いていないものもあり、その場合は別にオモリを付ける)深めのタナがねらいやすいようになっている
ところが島根県や鳥取県を中心とした山陰海岸には、ちょっと変わったカゴ釣りのスタイルがある。それが「タル(樽)カゴ」という直径数cmほどの円筒形で内部が空洞のウキ自体にカゴの役割を持たせた独特のアイテムを用いた釣り。
多くは反転式になっていて空中で仕掛にぶら下げたときは粗い網が施されたトップ部分が下を向き、内部にエサのオキアミを入れられるようになっている。この状態でポイントに投入すると、タルカゴはウキでもあるのでトップ部分が上を向き、着水した海面で内部のエサが海中に出る仕組み。タルカゴには重量があり、かなりの遠投ができるのもこのアイテムの強みだ。
円筒形のボディはウキとカゴ兼用。反転式になっており着水と同時にマキエが海中に放出される
一般的なカゴ仕掛が、設定したタナまでカゴを沈めてから内部のエサを出すイメージなのに対し、タルカゴは完全にフカセ釣りのような上撒きスタイルである点がユニークだ。この釣りが盛んな山陰海岸の事情はよく分からないが、遠方の浅いタナをピンポイントでねらう際には実に合理的だ。
私自身もかつて2個だけタルカゴを手に入れ、島根県の磯で試したことがあった。ただ、このときのエサは生きアジで、ハリにセットした生きアジをタルカゴに入れて投げれば着水時にアジが受けるショックを軽減できるという「タルカゴノマセ」を試したのだが結果は出ず…。
しかし後に兵庫県の日本海側、但馬海岸の香住の磯でボイルのオキアミでタルカゴの釣りをし、2尾の70cm級のヒラマサをゲットすることができた。
記憶をたどれば、沖に着水したタルカゴから扇状にオキアミが拡散される様子が鮮明に思い出される。「これはいいね!」と感心したものだった。ウキ下はハリス2ヒロと仕掛の遊動部分(矢引き)での釣りで、浅ダナを回遊するヒラマサにアピールできたと感じている。
ライトに釣れるフカセカゴも面白い
浅ダナをねらうカゴ釣りには「フカセカゴ」というシステムもある。その発祥がどこか(徳島? 和歌山?)は不明だが、一般的な紡錘形のフカセウキと網カゴを合体させたもので、ウキが着水した地点にマキエも海中に投げ出される。なので、いともかんたんにマキエとサシエの一致が可能。フカセ釣りの基本中の基本、初歩のフカセ釣りのセオリー「マキエはウキの頭めがけて」が正確に行えるのだ。
この点でフカセカゴはタルカゴ仕掛のミニチュア版といえるだとう。
紡錘形のフカセウキとカゴを合体させたフカセカゴ。タルカゴの軽量タイプといってもいいだろう
釣りの面白さという点でフカセ釣りに軍配を上げる人も多いと思う。私も個人的にフカセ釣りが大好きだが、時と場合によってカゴ仕掛を賢く利用すれば釣りの楽しみは増えるはず。ただしカゴ釣り禁止の場所以外で!