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陸上ではGPSが使えるけど、水中の位置測定はどうしてるの? #もやもや解決ゼミ

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GPS(Global Positioning System)を使って、地球上での位置を測定するサービスも一般的になりました。大学生読者の皆さんもスマホの地図アプリを使って道に迷わないようにするなど、活用しているでしょう。

地上はいいのですが、水中ではどのように位置を特定するのでしょうか?

衛星との通信は電波で行いますが、電波は水中で急速に減衰します。では、どうすれば水中で正確な位置測定が可能になるのでしょうか。

今回は、水中での測位について実践的な研究をされている『筑波大学』システム情報系の海老原 格准教授と、海洋工事で有名な『あおみ建設株式会社』に回答をいただきました。

【写真】水中で使用できるバックホウ「スーパービッグクラブ」

水中では超音波を使って位置を測定している

「水中では電波の代わりに超音波を使って位置を測定しています」というのが回答になります。

わたしたちの生活に欠かせない港湾・発電所などの水中インフラの工事・点検は、未だに人力に頼っています。

この水中インフラの工事・点検のニーズは非常に高まっていますが、潜水士の仕事は危険と隣り合わせの環境での作業であるため、新たに仕事として選択する人も多くなく、高齢化が進んでいます。

その上、潜水士の健康を守るために、法例で1日の作業時間が制約されるので、工事・点検の現場ではいつも人手不足というのが現状です。

現在は、建設用水中ロボットを用いて作業の効率を高めています。これによって安全・安心・効率的な工事・点検を実現しています。

現在稼働している建設用水中ロボットは、潜水士が操縦するものであり、さらに作業効率を上げるために、船上から遠隔操縦する技術が求められています。

ところで、海上から水中ロボットを動かすためには水中ロボットがどこにいるのか正確な位置が分からないといけないのですが、浅い海ではロボットの位置を測定するのがとても難しいのです。

水中ロボット:すでにあります
水中ロボットを遠隔操縦する技術:すでにあります

――なのですが、「位置が分からない」のでどうやって作業していいのか分からない――そういう問題があるのです。

なぜ正確に計測するのが難しいのか?

これまでの超音波を使った技術では、海中でロボットが止まっているのに、計測データではあちこち動いているように見えてしまことがあります。

なぜうまく測れないかというと、超音波が海面や海底で反射するからです。

位置を計測する手順を説明します。

まず、送信機から超音波を出して、受信機までの距離を測ります。

音の速さは分かっていますから、「音速 × 時間」で距離を算出するのですが、問題は海の中では「音波が海面や海底で多重反射する」ことです。

なぜ浅い海は難しいかというと、この反射が起きやすいからです。

深い海の場合には、周リに反射するものがあまりありません。

なので、深い海で問題なく使えていたシステムでも、浅い海ではうまく動かないということが多く発生しました。

さらに、水中では音は非常によく伝わりますので、海面や海底で反射してエコーが掛かります。

そのため、この多重反射の影響を受けても測位できるものが必要だということで、私たちはそのための新しいシステムを6年かけて開発してきました。

理論を考え、プール実験で検証を積み重ね、徐々に難易度を上げ、最終的には実際の港湾工事でも使われるまでになりました。

プール実験では、水深が浅い上に、プールの壁はコンクリート製であり、超音波が非常に反射するのでうまく動かなくて当たり前の環境にもかかわらず、新しく開発した測位システムで精度15cmを達成することができました。

その後、防波堤工事の現場で実証実験を行い、水中ロボットの位置を超音波で測定することができるようになりました。これが現在の到達点になります。

技術を大学で研究して、それを適用した実証実験は企業で行っています。

実証実験は海洋工事で有名な『あおみ建設株式会社』が担当しています。

↑『あおみ建設』が開発した水中で使用できるバックホウ※「スーパービッグクラブ」。

※バックホウは、油圧ショベルを備えた作業車。アームの先のバケットが手前にかき込むような形で取り付けられています。

現在、港湾工事が行われる100mx100m程度のエリアで、多重反射の影響があっても測位精度15cmを実現することができたわけですが、今後は、さらに広いエリアで複数台のロボットが同時に稼働しても問題なく測定できるシステムとして改良を重ねていきたいと考えています。

地上での測位インフラであるGPSは、今でこそ、人、車、船、飛行機などのナビゲーション、測量や地殻変動監視、生物生態系の解明など、さまざまな取り組みに活用されています。

しかし、それらは「これを使うと地上ならどこでも位置が分かるようになるよ」というインフラがあって、初めて発展したものです。

ですので、私の当面の目標は、海の中での測位インフラを造ることです。

水中ロボットの活用が広がりつつある中、我々の開発した水中測位インフラを活用して、どのような新しい取り組みが生まれるのか、見てみたいですね。

水中工事がより簡単に行えるように!

海老原先生と一緒に研究を進めている『あおみ建設株式会社』技術開発副部長の吉原到さんにもお話を伺いました。吉原さんによれば――、

「われわれは、この海中で作業するロボットを船から遠隔操縦する技術の開発を進めてきました。

潜水士の作業負担を減らすことができますし、作業効率を上げることに繋がります。

この開発した水中バックホウは潜水士が操縦しているため、沖縄のようにきれいでよく見通せる透明度の高い海でしかその能力を発揮することができませんでした。

潜水士の目の代わりにソナーを使い、ロボットの水中での位置が精度良く測定できれば、船からロボットを遠隔操縦できるようになります。

しかし、港湾工事を行うような浅い海では、超音波の反射により水中ロボットの位置を精度よく測定することができず苦労してきました。

そこで、海老原先生に相談して、一緒に新しい水中測位システムの開発に取り組んできたわけです。

先生のおかげで、新しい水中測位システムはできました。今後は水中建設ロボットの遠隔操縦システム開発を進めていき、海の透明度に関係なく、全国でこの水中バックホウが活躍できることを夢見ています。

この技術で、建設工事がより安全でより早くできるようになるとともに、人手不足の問題も解消されると期待しています。

また、船からの遠隔操縦では人間が操縦することになりますが、将来的にはもっと効率化するために、プログラムで自動運転するものになっていくでしょう。

そのためにも、正確な位置情報が絶対に必要です。当社は、水中作業のより安全でより早くできる方法の開発に務めているところですが、海老原先生もおっしゃったように、水中の測位インフラを構築するお手伝いもできればと考えています」

――とのことでした。

◇けつろん!

水中ではGPS電波の代わりに超音波を使って測位します。しかも現在では15cmというすごい精度まで到達しています。

海老原先生と『あおみ建設』さんの努力によって、水中での測位のためのインフラ技術が整えられようとしています。このインフラがまた新しい世界を拓いていくことでしょう。

⇒『あおみ建設』公式サイト

https://www.aomi.co.jp/


◇おしえてくれたせんせい!

海老原 格
Profile
『筑波大学』 システム情報系 准教授、博士(工学)。

吉原 到
Profile
『あおみ建設株式会社』 技術事業本部技術開発副部長、博士(工学)、技術士(建設部門)。

文:高橋モータース@dcp

編集:学生の窓口編集部

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