不登校になったら進路はどうなる? 学校に行かないで起きた変化 居場所選びで大切な「たったひとつ」のこと
不登校になった。ずっと学校に行けなかったら、どうする? 選択肢は「学校に行くか行かないか」だけではない。学校以外の居場所を選んだ実例や、専門家が伝える「たった一つの大切なこと」を解説。
【画像】フリースクール 通信制 不登校だった子どもにみられた変化とは不登校になったら進学はできないの?
「学校に行けないままだったら、どうしよう?」──我が子が不登校になったとき、私たちの胸には大きな不安がよぎります。
でも、今や選択肢は「登校か、不登校か」だけではありません。フリースクールや通信制学校、ホームスクーリングなど、多様な学び方が身近になっています。
不登校児の新たな居場所の可能性を前後編で探ります。今回(前編)は「フリースクールの運営者」「通信制高校生とお母さん」、そして「不登校の専門家」にお話を聞きました。
フリースクール「てらこやさん」
「てらこやさん」(愛知県・名古屋市)は、2023年12月に開校した幼稚園併設型フリースクール。お寺の中に、幼稚園と小中学生向けのフリースクールが併設されているのが特徴です。
フリースクールに通う子どもたちは、皆で買い物に行って昼食を作ったり、自分で決めた学習に取り組んだりして一日を過ごしています。
▲フリースクール「てらこやさん」(提供/宗教法人 浄土院)
「ここなら、子どもの心の受け皿になれるのではないか」
同フリースクール設立のきっかけは、幼稚園の卒園児が不登校になったことでした。
「慣れ親しみ、楽しい思い出がたくさん詰まった幼稚園なら、心の受け皿となれるのではないか」。
そう考えた園長の児玉匡信さん(以下、児玉さん)は、自身が副住職を務めるお寺の境内を活用してフリースクールを開校。現在は卒園児以外にも多くの子どもたちが利用しています。
笑顔だけでなく、負の感情や「やりたい気持ち」も出せるように
「てらこやさん」に通い始めた子どもたちは、どう変化したのでしょうか。
「全体的に、感情が豊かになりました」と講師のわかぴーさんは振り返ります。
「親から学校の話をされなくなり、余裕ができたのでしょう。併設の幼稚園で園児と触れ合う経験も大きいのかもしれません」。
笑顔だけではなく、これまで押さえつけていた「悲しい」「嫌だ」などの感情や、意欲の表現も増えているのだといいます。
「びっくりするくらい、子どもたちの表情がみずみずしくなりました。コミュニケーションも上手になっています」と児玉さん。
生活リズムが整い、運動不足や睡眠、食事の悩みが減った子どもが多いといいます。中には、ストレスによる身体的な不調が軽くなった子どももいるのだとか。
▲子どもたちは、皆で買い物に行って昼食を作ったり、自分で決めた学習に取り組んだりして1日を過ごしている(提供/宗教法人 浄土院)
「こんなに悩んでいるのはウチだけじゃないんだ」
フリースクールの保護者会では、「うちの子は『学校には行きたくない』と2時間トイレにこもって泣きじゃくった」など、なかなか人に話せない経験を打ち明け合うといいます。
「どの家庭にもドラマがあります。赤裸々に話し合うことで、『こんなに大変なのは、我が家だけじゃないんだ』と実感でき、親同士にも絆が生まれているようです」と児玉さん。
また、親が活動の様子を見る機会も設けており、「うちの子がこんなに人に優しくできるなんて」と驚く場面もあるのだそうです。
てらこやさんでは、スタッフと親がその子に合わせた生活や将来を一緒に考えていく姿勢を大切にしています。
「親も子も元気になりました」。スタッフに会うたびにそう言って感謝する保護者もいるのだそうです。
「暗中模索ではありますが、『どうしたらできるだろう』というところから始めれば、可能性は無限だと考えています」と児玉さんは熱を込めました。
フリースクールから通信制高校へ進学したケース
現在高校1年生のkawataiさんは、中学生のときにフリースクールを選択。その後、通信制高校に進学し、現在に至ります。自分に合った学び方を、3年以上にわたって探ってきました。
▲中学校に進学してから違和感が強くなり…(写真はイメージです:アフロ)
公立中からフリースクールへ――自分に合った学びを見つけるまで
kawataiさんは小学校6年生の2学期から、校長室への登校をはじめました。
お母さんはこう振り返ります。「それまでは他の子と同じように登校していましたが、一斉教育が合わないとは感じていました。でも、小学校全体が彼の存在を認め、『どうやったら伸ばせるか』にフォーカスしてくださったのがありがたかった」
しかし、地元の公立中学校に進学してからは状況が一転。校則や勉強に対する違和感が強くなり、1年生の3学期に学校へ行くのをやめました。
数ヵ月間家庭で過ごしたあとに選んだのは、小学生のころから興味をもっていたオンライン通信と通学の授業を選べるフリースクールでした。
「認可外学校」のフリースクール、不安はない?
フリースクールに決めたのは、所属していた野球チームのOBから話を聞いたことがきっかけだったといいますが、文部科学省から正式な認可を受けた学校ではありません。
不安はなかったのでしょうか。
「逆に公立中学校に通わせているときのほうが、死んだ魚のような目をしていて、不安を感じました。とにかく本人を信じて応援することを最優先に考え、誰に何と言われようと、この選択は正しいんだと信じて決めたのです」とお母さん。
kawataiさん自身も、こう振り返ります。「あのまま公立中学校に通っていたら心がダメになりそうでした。このフリースクールなら、自分に合いそうだと直感しました」
生徒同士のディスカッションで学び、プログラミングも習得
とりあえず週1回行ってみたら、と期待せずに送り出したというお母さん。
しかし、kawataiさんはディスカッションやプログラミングなどの学習内容に新鮮さを感じ、「学び方が自分に合っている」と、どんどん力を伸ばします。
人間関係も充実し、通学回数を週3回に増やしました。週の途中で休息を挟めるのも良かったといいます。
クリエイティブなサポート体制にもお母さんは感動をおぼえました。
「若い20〜30代の方々がメンターとなり、成長の道筋を子どもと一緒に考えてくれました。基礎学習などは、大学生や教育的知見のあるTA(ティーチングアシスタント)がサポートしてくれました」
「保護者会でも、子どもの様子を動画で見せてくれたり、親も授業を体験したりできるのですごく面白かったです。公立中学校の保護者会では、小さくなって『すみません』と謝罪するばかりでした」
と、その違いに驚いたそうです。
将来を見据えてハイブリッドな学びを
フリースクールで中学時代を過ごしたkawataiさんにとって、卒業後も自分の個性にあった場所で学びたいという思いがありました。高専なども検討しつつ、最終的にはフリースクールと同系列の通信制高校に進学。
現在はオンラインと週1回の通学を組み合わせてハイブリッドに学んでいます。
「ゆったり勉強しようと週1日の通学にしたのですが、学びたいことがいろいろ出てきたので、週3日に戻そうかなと考えています」とkawataiさん。
オンラインのみで学ぶ友達の中には、「誰かと話したい」という気持ちが強くなるケースもあるそうです。
生活リズムは大丈夫? 自立に向けてしていることは?
今のスタイルで、生活リズムが乱れることはないのでしょうか。
「毎朝6時には母に叩き起こされるので、起床は規則的ですね」とkawataiさんは笑います。「心と体の健康をキープするために、規則正しい生活は大切だと考えています」とお母さんも力を込めました。
学習面でも将来を見据えています。
この通信制高校では、単位認定テストを繰り返し受けることができ、補習も充実しているものの、自立のためにはもっと高い学力をつけていく必要を感じているとのこと。
「今は心理学に興味があります。また、子どもが好きなので、子どもに関わる仕事ができたらと思います」とkawataiさん。
「個性的で好きなことには没入するタイプなので、夢中なことを見つけて幸せに生きていってほしい」とお母さんも思いを語りました。
居場所選びで大切な「たったひとつ」のこと
約11人に1人は通信制高校に
フリースクールや通信制高校、ホームスクーリング(オンライン学習)などの選択肢が増えたことは、不登校の子どもたちにとってどのような意味を持つのでしょうか。
自身もフリースクールで学んだ経験をもつ、不登校ジャーナリストの石井しこう氏に聞きました。
(以下より、石井しこう氏のコメント)
文部科学省によれば、令和6年度の通信制高校生徒数は29万87人。高校生のおよそ11人に1人は通信制高校に通っている計算で、「学びのカスタマイズ」が一般的になりつつあります。
一方、小学校・中学校ではまだまだ選択肢が少ないのが現状です。
我が子が不登校になった場合、対応の大原則は「子どもが笑顔でいられること」。
そもそも不登校とは、「学校で起きた出来事によって子どもが傷ついている状態」です。病気の子どもに運動させる親はいないはず。不登校も同じです。
まず、「どこを選ぶか」の前にしっかり休ませましょう。
休み続けているうちに子どもが不安になってきたら、「病気のときは休むのが当たり前。大丈夫だよ」と伝えてほしいと思います。
子どもの心は必ず成長している
不登校児の中には、フリースクールより「普通の学校」で学びたいと、あえて苦痛な選択をする子もいます。
しかし、前向きに学びを続けるためには、本人の自己選択が大事。見ている親も辛いでしょうが、耐えて子どもに寄り添い、選択を見守ってください。
ただし、腹痛や頭痛、朝起きられないなどの身体症状が表れたら、遠慮なくストップを。
いざフリースクールに通い始めても、嫌な思い出がよみがえって、行けなくなることも珍しくありません。
傷が回復したかどうかは、本人も親も見えづらいもの。複数の居場所を経験した末にベストな場を見つけられた、というのも「よくあるケース」です。
一見、前進していないように感じられるときでも、子どもの心は必ず成長しています。不登校の子どもにとって、親が自分の選択を尊重してくれたことは、かけがえのない経験なのです。(談)
【「不登校の子どもの居場所」をテーマに、さまざまなケースを取材する連載(前後編)。前編となる今回はフリースクールの運営者、通信制高校生に取材、不登校ジャーナリストの石井しこうさんにお話を伺いました。次回の後編では、引き続き石井さんにお話を伺い、不登校から「やる気」のスイッチが入った実例や、「不登校になった子どもへの向き合い方」をお聞きします】
(取材・文/中村 藍)