Bリーグ・佐賀バルーナーズの田畠社長が考えるプロスポーツチームの経営とは
「佐賀バルーナーズがトリガーとなり、佐賀の経済成長に貢献していく」
インタビューを通して株式会社佐賀バルーナーズ 代表取締役社長 田畠寿太郎さん(以下、田畠)から感じた『自信』と『覚悟』。その裏には、地方都市の今後と若い人に対する熱い想いがありました。
新アリーナの設立、売上12億。ここ数年で急速な成長を続けるチームの社長は社長就任以降、どのようなことに取り組んできたのか。プロスポーツチームの経営、なかでも自治体との関係性づくり、組織構造、人材育成を中心にお話を聞くことができました。
佐賀バルーナーズの本拠地『SAGAアリーナ』
バスケットボールのために街や地域があるのではなく、街や地域が元気になるためにバスケットボールがある
ーー『佐賀バルーナーズ』は、アリーナ設立をはじめ自治体からの手厚い支援を受けている印象があります。自治体とのコミュニケーションを取っていく上で大切にしていることはありますか?
田畠)市や県の議員や県職員の方々とも日々コミュニケーションをとっていますが、大事にしているのは「わたくしごと」をあまり出さないということです。議会や職員の方々にとって、バスケットボールはとても興味があるもの、というわけではないんですよね。皆さんに一番刺さる部分は、『街の賑わい』であって、要するに、県民の皆さんが喜んでくれるかどうかが基準になります。だからこそ、バスケットボールの話をするのではなく、「これに取り組んだら街や地域が元気になるんです」という部分を熱量高く伝えるようにしています。人によっては、佐賀バルーナーズは儲かるためにやっていると思っている方もいると思いますが、実際はそうではないですし、利益が出た分は必ず地域に還元、投資していきたいと明確に意思表示しています。自治体からのご支援というのは、皆さんの税金を使わせていただくということなので、「応援してください」「お金をください」というコミュニケーションだけでは受け入れてはくれません。
もう一つは、窓口で動いていただいている方にしっかりと理解をしてもらうということです。私自身、知事や議会の方々、局長クラスの方々とお話をする機会が多いですが、そこだけで完結させずに現場レベルで対話することを意識しています。スポーツ振興課の担当の方にしっかりと目的を理解していただくために、「私たちがどんな意味や想いで取り組んでいるか」や「その取り組みがどのように地域や県民のためになるのか」ということを伝え続けています。それを繰り返すことで、人が動く持続的な活動になっていくのだと思っています。
ーー「現場で話す」という観点で、実際に現場の方同士が話をして施策として行ったことはありますか?
田畠)佐賀市の観光課との取り組みはまさにそういうものです。対戦チームのお客さんが使えるホテルの宿泊補助を導入しました。スポーツツーリズムの考え方ですよね。これはチームの売上が劇的に変わるわけではありませんが、地元にとっては人がたくさん流れて消費が増えることで経済効果に繋がります。同じく、観光文脈でアリーナに来てくれた人に『バルーンフェスティバル』にも足を運んでもらいたいと思っていて、このあたりも「シャトルバスを出してもらえないか?」などの交通インフラの話をしています。その他にも、「街中に誘導するために駐車場を無料にしたらどうか?」など、ブレストの段階から対話を重ねているので、実現性も徐々に高くなっている感覚があります。
ーー田畠さんは街の飲食店にも足繁く通っていると聞いています。そのあたりはどのような意図があるのでしょうか。
田畠)街の飲食店にはよく顔を出すようにしています。少しだけでも良いので、なるべくいろいろなお店に行くことを意識しています。お酒の席で『佐賀バルーナーズ』の話を出してもらえると、ローカルな街なので情報が伝播しやすく、チームの認知度や関心も高まります。その点、ローカルマーケティングとしては非常に有効だと思っています。
お店の方が、お客さんを紹介してくれることもあったりしますし、実際にその場のご縁でスポンサー契約に至ったこともあります。
私たちはまだまだ知られている存在ではありません。だからこそ、直接話しをして、クラブが考えていることを理解してもらい、応援してもらうことが必要だと考えています。
ーーこれらのホームタウン活動は、田畠さん以外の現場の担当者でも同じようにできているのでしょうか?属人的ではなく、考えが啓発され仕組み化されているのかが気になりました。
田畠)今はまだできていないです。もちろん、スタッフも少しずつ理解もしてくれているのですが、まだまだ自治体主語ではなく、自分たち主語になってしまってるんですよね。お金を出してもらうために、スポンサー提案の資料を作って、「これがいくらです…」と話しをするのですが、そうではなくて、その部署がどのような役割があって、それを達成するためにはどれくらいの予算がつけられていて、今その予算が何に使われているのかをしっかりと聞いて、理解することから始めないといけません。昔と比べたらできてきてはいるのですが、もう少しですね。
あとは、コミュニケーションの手段がメールだけになったり淡白になることは注意するように伝えています。どれだけ便利な時代でも、微妙なニュアンスは伝わらないので、やっぱりホームタウン活動は直接現場に足を運ばないとダメです。私は用事がなくても行ってました(笑)。最初の頃は、「なんだ、また来たのか」という反応でしたけど、それを続けていくこと、市の課題を話してくれるようになったり、街中の活性化の相談をされたり。バルーナーズの話をしに行くと話すことがなくなるのですが、市の困りごとを探しに行くと、それはもうたくさん話すことが出てくるわけです。「あの辺は過疎エリアになってきましたよね」とか、「駅のあそこは、夜中高生のたまり場になってしまっているので対策が必要ですよね」とか。その延長にバルーナーズが手伝えることが見つかれば良いですし、他の手段が出てきても良いと思っています。佐賀をよくするためにやっているので、これは当然の行動です。
株式会社佐賀バルーナーズ 田畠寿太郎社長
田畠)『バルーンフェスティバル』への誘導の件も、バルーナーズ目線で言えば、1円も入ってこない話です。でも、自治体が一生懸命やってくれているから私たちは存在している。街が賑わうことを一番に考えていますし、何度も言いますが、みんなバスケには興味あるわけじゃないんですよね。
私は街中を昔みたいに人であふれる状態に戻したいと思っていますし、サステナブルに継続して事業継続できる地域にしていくことを求めていかないといけない。バルーナーズが昨年よりも良くなっているのであれば、街も同じようによくなっていないといけない。そう思っています。
「何のために働くのか」を持っていないと人間は成長しない
ーー次に組織づくりや育成についてお話を伺います。ここ最近で社員の数も増えているそうですが、組織をつくる上で大切にしていることを教えていただけますか?
田畠)私はあまり細かいことは言わないんですよね。「ああしろ、こうしろ」と言うつもりは一切なくて。ただ、「何のために働いているのか」はしっかりと持ってもらいたいとは伝えています。私の場合は、“地域のため、佐賀のため”ですよね。目的を持っていないと基本的に人間は成長しません。
例えば、バスケが好きで、バスケに関わりたいという人は、一定の頑張りは効きますけど、どこかでガス欠をしてしまう。これはどの世代の共通項かもしれませんが、何のために働いているかをきちんと答える人はそんなにいません。
好きだから、生活するためにというのは言えますが、そうではなくて、自分が人生をかけて達成したい目的や意思があると、継続できるし、成長スピードも上がります。それが私にとっては地域のためですが、なんでも良いとは思っています。
ーー田畠さんが社長に就任されてから、組織の雰囲気を含め変わってきた部分はありますか?
田畠)それはだいぶ変わったと思いますよ。昔は、勝手に私の印鑑を押して決裁をしてましたからね。Tシャツの発注も勝手にしちゃったり。600人しか観客が集まらないのに、Tシャツを配ったらそもそも赤字ですよね。何かを決める際に損益が無視されてたんですよ。それではうまくいかないですよね。今は、当たり前ですけど、部門長を決めて稟議のフローをつくり、最終的に私が決断するという形をとっています。普通の会社がやってる最低限の仕組み化はできてきたと思います。
あとは、実施の基準はこだわっていますね。頭ごなしにNGを出すことはないですが、エンタメの企業なのでおもしろくないことはやりたくないですよね。
一個一個のこだわりというのはしっかりと持ってほしくて、子どもがワクワクできるとか、担当の人間が本当にそれがおもしろいと思っているかどうかが必要だと思うんです。要は、業務になっていないかということです。それは見ている側にはダイレクトに伝わってきますから。
若い人が胸を張って「佐賀県の出身」だと言えるように
ーー少し話は変わりますが、地方都市にプロスポーツチームがあることが社会や住民にとってどのような影響を及ぼすとお考えですか?
田畠)私は、地域にスポーツチームがあることは素晴らしいことだと思います。やはりアイデンティティの部分ですよね。ローカルアイデンティティと言いますか、おらのまちのチーム、佐賀にはバルーナーズがあるよねというのは、子どもたちや住民のみなさんからすると嬉しいはずです。チーム名には、“佐賀”と付いています。あえてコールも「GOGO!SAGA!」というシンプルなものにしたんです。
普通に生きていて、「佐賀!」って連呼して大きな声を出すことってないじゃないですか。佐賀もそうですし、佐賀最高なんてなかなか言えることではないですし、普通恥ずかしくて口にしないと思うんですよ。でも、それを自然にできてしまうのがスポーツだったりしますよね。
余談ですが、私は東京に上京をした当初、佐賀出身というのは隠していました。佐賀っていうのが恥ずかしくて、福岡出身と誤魔化していた時もありましたからね(笑)そのくらい、「佐賀ってどこ?」って言われてたんですよ。自分の原体験じゃないですけど、若い人たちにとって誇れるものを佐賀でつくってあげたいんです。その可能性をバルーナーズは持っています。もちろんサガン鳥栖もそうですが。
あとは、私たちがいることで経済が良くなっていくというのはあると思います。
試合終わりにみんなで食べたり、飲んだりしますよね。ツーリズムじゃないですけど、そういうムーブメントが起きていくことが必要ですし、九州には福岡以外の魅力があることをもっと伝えていきたいです。
ーー最後にお伺いします。お話の中で、繰り返し「佐賀のために」という言葉がありました。田畠さんはこれからの佐賀とバルーナーズをどのようにしていきたいとお考えですか?
田畠)これは明確で、まずはバスケで日本一を獲ることです。スタッフには4年後に日本一を獲ろうと話をしています。でも、これは目標であって、本当の目的は県民のみなさんに喜んでもらうことです。
佐賀県は日本一のものって少ないんですよね。それがバルーナーズが日本一になることで、地元にいる方も誇らしいと思えるし、佐賀から離れてしまった方も「私の生まれは佐賀」だと胸を張っていえる、自慢できると思うんです。そういうことを想像するだけで嬉しくなってくるじゃないですか。
そのためには、フロントが強くならないといけません。チームだけじゃなくて、フロントも含めた総合力が高いところが日本一になれます。千葉ジェッツさんや琉球ゴールデンキングスさんはフロントの人数もそうですし、考えもしっかりされています。それが持続的に強いチーム、日本一を獲れるチームをつくっています。その強さの軸が、佐賀バルーナーズの場合は、「地域を良くするために」という共通言語です。
選手だけにフォーカスしたりとか、自分のことしか考えなかったりとか、それぞれが別のことをやっていたら絶対にバラバラになります。地域を良くするためにということを頭で理解している人は増えてきました。次はそれを行動で示せるスタッフを育成していかないといけません。それは事業サイドだけではなく、選手も同じです。地縁のあるなしに限らず、選手も佐賀に対しての思いを持ってほしいですし、自分たちがバスケをできているのは地域やブースターがいるからだということを理解してほしいと思っています。
そのためにコミュニケーションをとっていますし、そこがチームづくりの基本です。チームによっては、選手を社会活動に参加させないスタンスのところもありますが、佐賀ではそれは絶対に通用しません。この地方クラブでそれをやらなければ上にはいけないと考えてるからです。
ーーありがとうございました。