プロ野球DeNA石田裕太郎(静清高出身) がルーキーイヤーを振り返る。横浜スタジアムの真ん中で浴びた歓声と夢に見たお立ち台
DeNA石田裕太郎投手、課題と向き合うオフ
プロ野球DeNAの石田裕太郎投手(静清高出)は中大から2023年のドラフト5位で入団し、24年6月9日のソフトバンク戦でプロ初登板、初先発、初勝利。2度目の登板となった6月16日の西武戦はわずか95球で無四球完封という“マダックス”をやってのけた。終盤にやや失速したものの4勝を挙げたルーキーイヤーは納得感のある1年となったようだ。
「僕、プロ野球好きなんです。ベイスターズ好きなんです」。
そう切り出した石田投手は横浜市出身で幼いころからDeNAファン。静岡で過ごした高校時代には総合の授業で「横浜スタジアムの楽しみ方」と題して発表したこともある。愛着のあるチームに入団が決まり、応援する側からされる側へと鮮やかに転身を遂げたこの1年。時に“ファン目線”で自身の置かれた状況を分析していたようだ。
「正直、アマチュア時代にあまり注目されてなくて、ドラフト5位で入った選手に、僕がファンだったら期待していない。だから、その期待をちょっとは裏切れたのかなと思う」
コンディション不良もあり開幕1軍スタートとはならなかったが、気持ちは前向きだった。「ファームでコツコツ体作りから見直していこうと。入来さん(投手コーチ)から『真っすぐを磨いていこう』と言っていただき、自分の投球というものを振り返ることができた」。
実際に直球に磨きが掛かった。「スピードも大学の時に比べて3キロくらい上がり、151キロが出た。すごく感覚がいいなと思って。スピードだけじゃなく、コントロールだったり球威だったり、球の重みだったり」。トレーナーの助言を受けながら、自分に合うトレーニング方法を取捨選択していったという。「成長期の段階で体に余計な硬さを残したくなかったので、これまでウエートはあまりやらなかったんですが、トレーニングはウエートがメインになりました」
入団当初は“紛れ込んでしまったファン”のような高揚感を味わっていたようだ。「プロすごい、選手えぐい、みたいな感じでした。ファームで先発し始めたころは京田さんがショート、セカンドに森がいて。1軍を経験している選手が後ろで守っていて。『俺、ベイスターズのユニホーム着てるよ』と思いながら投げてました」
初めてハマスタのど真ん中で投げた日
1軍初登板は6月9日。横浜スタジアムでの交流戦で、相手はソフトバンクだった。登板3日前に1軍に合流した時が緊張のピークだったという。「1軍の選手がいて、ファンの体験練習みたいな感覚で入っていたので、すごい緊張しました」
本番は不思議と冷静だった。「すごい歓声の中で、ハマスタのど真ん中に立って投げている自分。でも試合に入ったら緊張はなくて、自分が一番、主人公という感覚でいられました」。強打者ぞろいのソフトバンクが相手だったが「どのチームだとしても1軍なのでバッティングはいい。どんどんストライクゾーンで攻めて5回4失点OKくらいの気持ちでした」。実際には「腕が振れていて、自分でも信じられないくらい良い球がいってたんです。アドレナリンが出ていて」と5回を5安打1失点。プロ初登板で初の勝利投手となった。
初回に満塁弾で援護してくれた大学の先輩、牧秀悟選手と一緒にお立ち台に上がった。「入団前に(熱狂的なDeNAファンの)親とも話していたんですよ。牧さんがホームラン打って、一緒にヒーローインタビューに立てたらいいね、なんて。いきなり最初にこんなことになり、不思議な感じでしたね」
マダックス「完全に狙いましたね」
2度目の登板となった西武戦は実は調子はいまひとつだった。「先頭にヒット打たれたんです。それで『あ、今日は駄目なんだ』と思って、切り替えて力みがなくなりました。球はあまり走ってないけどコントロールは良かったので、丁寧に行こうと」
マダックスを意識したのは八回。「ピンチを切り抜けて、球数を見たら85球くらいだったんです。めちゃくちゃ意識しました。『9回行くか?』と聞かれたら『行きます』って言おうと。プロでそもそも完封するのがすごいと思うんですけど、マダックスってなったらもっとすごい。名を刻めるって思って、完全に狙いましたね」
課題は曲がり球
順風満帆の滑り出しだったが、シーズン終盤になるにつれて課題も見えてきた。「シーズン中ずっと変化球に手応えがなくて。特に曲がり球。変化球でカウントが取れない、仕留めきれない。それが後半につかまった理由だと思ってます。真っすぐってプロのバッターからしたら160キロとか投げない限りは(バットに)当たるもんだと思ってるんです。僕はそういうピッチャーじゃないから。シュートする真っすぐというのを意識しながら、対になるボールを磨いていきたいなと思ってます」
理想は大リーガーが投げるスイーパーのような横に大きく変化する曲がり。「かつてはラプソード(データ計測・分析機器)の数値とかで『へっぽこスライダー』って出ました。それがやっと数値的にもいいスライダーになってきたので、オフに(課題を)つぶしていけたらいいなと思ってます。石田と言ったらスライダー、になればいいかなと」。チームが日本シリーズを戦う間、来季に向けて課題と向き合ってきた。
中大同期の西舘投手(巨人)に刺激
チームでは東克樹投手の「あと1本を打たせない」投球術を手本としている。一方で、最も意識する存在は大学4年間を共に戦った同級生で巨人の西舘勇陽投手。「巨人ドラフト1位で、いろんな重圧がある中で、オープン戦から活躍して、デビューから10試合連続ホールドで新人記録とか達成している姿を見て、やっぱり西舘ってすごいなと思いましたし、自分も頑張らないとと思わせてくれました」。8月に予定されていた直接対決は台風接近で試合中止となったが、来季こそ実現を楽しみにする。
1年目にして鮮烈な印象を残したが、長い現役生活を見据える石田投手の2年目の目標設定は堅実だ。「周りからは二桁勝利と言われますが、1軍で143イニング投げること。規定投球投げられれば、おのずと勝ちだったり防御率だったり、まとまってくると思うので、まずはイニングです」。ファンの期待値が上がっても、自分自身を見失うことはない。
(編集局ニュースセンター 結城啓子)
【取材こぼれ話】対戦して最も印象に残った打者はヤクルトの村上宗隆選手だそうです。「2本ホームラン打たれました。1本目は投げ損じ。落ち球が高めに抜けて逆方向に持っていかれた。2本目は自分としては良い感じにいったけどシュートして中に入ってしまった球を完璧に打たれました。投げていて神経使うんですけど、どうやって抑えようかと考えさせてくれるのが、上から(目線)ですけど、楽しかったです」