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荏開津広が語るSIDE CORE「CONCRETE PLANET」に見るストリートとは

タイムアウト東京

荏開津広が語るSIDE CORE「CONCRETE PLANET」に見るストリートとは

アートチーム「SIDE CORE」による彼ら自身の名義では初となる東京での個展「CONCRETE PLANET」は、これまでの決して短くない彼らの活動を振り返る集大成であると同時に、日本の現代美術シーンにおいて現在進行中の注目すべき動きについての展示である。

高須咲恵、松下徹、西広太志からなるSIDE COREに映像ディレクターとして播本和宣がクレジットされての4人は、自分たちの芸術的な活動の目的を「公共空間や路上を舞台としたアートプロジェクトを展開する」ことと宣言する。この記事を読んでいる人のなかには、彼らの最近のプロジェクトの一つ、「第8回横浜トリエンナーレ『野草:今、ここで生きてる』」における横浜美術館の壁面上の巨大な「グラフィティ」と思しきカラフルなアートワークを観た人も多いかもしれない。実際、彼らはグラフィティ以来のストリートアート/カルチャーに十分に馴染みのある日本の世代に属しているだけでなく、メンバーにグラフィティアーティストもいるものの、その活動はポップアート以来ストリートアートの名の下でも続けられている旺盛な商品とセレブリティのイメージの使い回しを退ける。同展のプレスリリースによれば、SIDE COREのストリートアートとは「都市システムに対して個人として小さなヴィジョンを介入させ」、ある種の文化闘争として「国境や時代を超え」「予想できない誰かと繋がりを作り出す」試みだという。

Photo: Kisa Toyoshima展示風景より『東京の通り』(2024年)

会場の「ワタリウム美術館」の展示空間最上階の天井までどころか、建築的な構造さえ利用することを含み、展示スペース内部に収まらない「CONCRETE PLANET」は、窓の外の「キラー通り」を挟んで向かいの建物へ、会期中の一時期には国道246号沿いの別会場へと展開されるが、例えば、そびえ立つ 『コンピューターとブルドーザーの為の時間』(2024年)に顕著な具体性(concreteness)を伴って、それらすべては作り出される。その意味で、SIDE COREの作品展示/介入は、電子メディアにはびこる表層的なイメージの視線の政治へ断固として距離を取る。

Photo: Kisa Toyoshima展示風景より『コンピューターとブルドーザーの為の時間』(2024年)

実際の道路工事に使用されているピクトグラム/看板を集めたコラージュ『東京の通り』(2024年)は、支持体と一体化し、「工事中」の現場に置かれる作業員の人形のように、また都内のいたるところで続けられる工事そのもののようにその動きを止めることはない。向かって一方の壁側に複数の眼のごとく集められた自動車用ヘッドライトからの光は、前述のパイプ菅による大型の音響彫刻/モニュメント『コンピューターとブルドーザーの為の時』を貫き強く反射し、会場を移動する私たちの実際の鑑賞の仕草に影響を与えるだろう。これらの作品の間には、アマルガム的ともいうべき奇妙な焼き物『柔らかい建物、硬い土』(2024年)が設置されており、そこには「焼き物は人類が最初に作った産業廃棄物」であるとの説明が付けられている。

Photo: Kisa Toyoshima展示風景より『柔らかい建物、硬い土』(2024年)

『柔らかい建物、硬い土』の寡黙な――つまり焼き物という存在が持つ時間に対する頑強さは、その周囲の、とりわけストリートの素材についてまわるある種饒舌な作品との違いを明らかにすることでストリートVSコンテンポラリーといった二項対立を解除しつつ、作品相互と私たちの関係を、2000年代の終わりから2010年代の初めに活動を始めた高須や松下の世代が共有する「沈黙の経験」の方向へと導かざるをえない。それは瞬く間に津波にさらわれて幾つもの町が消えること、人々が濁流に呑まれていくこと、2011年3月のM9.0の東北地方太平洋沖地震、その帰着としてのレベル7にまで達した福島第一発電所原子炉爆発とメルトダウン、この黙示録的な事件への曝露(ばくろ)という経験である。

Photo: Kisa Toyoshima展示風景より『モノトーン・サンセット』(2024年)

もちろん、この展示について過剰に政治的に述べることは偏狭な解釈で、事実、ステートメントにあからさまなプロパガンダは記されてはいない。「CONCRETE PLANET」は、例えば、当時や現在の政権批判ではない。身体性と結ばれる彼らの、都市と対峙するフットワークは強調してもし過ぎるということはないだろう。しかし、会場に足を踏み入れた私たちをまず迎えてくれる、かつて街路灯に用いられていたというナトリウムランプが解釈の絶対性を否定する『モノトーン・サンセット』(2024年)に始まり、スケーターをフィーチャーして虚構の地下空間を映像で構築する『Under City』(2024年)にしても、もしくはワタリウムの前身「ギャラリー・ワタリ」が積極的に日本に紹介したナム・ジュン・パイク(Nam June Paik)ゆかりのブラウン管テレビがモニターとして選ばれていることまで、ストリートでの表現の経験は、福島を北上し帰還困難区域周辺へとロードサイドを辿った記録『巡礼ロードサイド』(2017年、展示作品は2024年再編集版)にどこか繋がっていることを手掛かりに、超越的な経験がそこにあったことを、私たちも想像することは可能である。

Photo: Kisa Toyoshima展示風景より『Under City(ver.2024)』(2024年)

当時の福島での出来事への曝露という経験は――意識的に排除しなければ――ありとあらゆるアートの具体性が、グラウンドゼロ上に晒されるモノや身体の関係の黙示録へと突き詰められかねないものであった。その関係の不可能性を通過し美術を始めざるを得なかった世代がいるということ、それをどう受け取るかは、前提としてこの彼ら初の集大成的な展示の評価におおいに関わるのではないか。

Photo: Kisa Toyoshima展示風景より『unnamed road photograhs』(2024年)

そもそも、美術館やギャラリーの外側、すなわち1970年代のニューヨークにおいて、もうひとつのアートが黙示録的に疎外された人々によって始められたという歴史的な事実を思い出してもいい。

「CONCRETE PLANET」は2024年12月8日(日)までで、9月初めよりワタリウム外壁にはSIDE COREとOS GEMEOS、バリー・マッギー(Barry McGee)の展示も開始された。

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