Yahoo! JAPAN

釜石で洋式高炉操業成功 大島高任の知識はどこから? 鉄の歴史館・小野寺英輝名誉館長が講演

かまいし情報ポータルサイト〜縁とらんす


 釜石市立鉄の歴史館の名誉館長を務める小野寺英輝さん(岩手大理工学部准教授)の講演会が15日、同市大平町の同館で開かれた。2019年の就任以降、年1回実施する同館主催事業。今回は「教育面から見た大島高任」と題し、釜石で鉄鉱石が原料の洋式高炉による鉄づくりに成功した大島の学びの軌跡にスポットを当てた。市民ら22人が聴講した。

 1857(安政4)年、盛岡藩甲子村大橋(現釜石市甲子町同)に洋式高炉を築造し、日本初の鉄鉱石を原料とした連続出銑に成功した大島高任(1826-1901)。後に“近代製鉄の父”と称される大島は、全国の主要鉱山の開発も手掛け、日本鉱業界の第一人者としても知られる。その活躍の裏にあるのが、各地に出向いて得た豊富な知識。小野寺さんはその遊学の歩みについて解説した。

10代から学びを深め、日本鉱業界に数々の足跡を残した大島高任


 盛岡生まれの大島は藩校「明義堂」で学んだ後、医学修行のため17歳で江戸に留学。オランダ医学やオランダ語、西洋史、兵学、宗教学に精通した箕作阮甫(みつくりげんぽ)に入門、医学は坪井信道にも教わった。一度、盛岡に戻ったが、砲術の習得を命じられ1846年に長崎へ。砲術の大家・高島秋帆の子息浅五郎に学び、発砲の免許皆伝を受けたとされる。3年後、長崎から大坂(大阪)に向かい、緒方洪庵の適塾(西洋医学、オランダ語)で1年ほど学んだ。滞在中、依頼を受け大砲の鋳造を指導。帰藩後、「西洋操銃編」などの冊子を作った。大島唯一の著作物とされる。

大島は20代前半に長崎で砲術を学び、免許皆伝を受ける


大坂(大阪)から帰藩後、再び江戸へ。伊東玄朴に師事する


 1852年、西洋砲術研究のため再び江戸へ。入門した伊東玄朴は、オランダ人技師ヒュゲーニンが執筆した大砲鋳造法や高炉技術についての書物を翻訳した一人。小野寺さんは「ヒュゲーニンの著書を翻訳したもののうち、主要な3つ全てに大島が関わっている。本を読むだけでなく、訳した人からも話を聞ける環境にあった」とした。

 大島は長崎などで共に学んだ仲間らと水戸藩那珂湊の反射炉建設に従事。1856年、鉄製大砲の鋳造に成功したが、従来の砂鉄原料によるたたら銑では強度に問題があったため、磁鉄鉱を用いる洋式高炉の建設に乗り出した。翌57年、良質な鉄鉱石が産出される釜石・大橋に高炉を築造。国内で初めて連続出銑に成功した。

大島はヒュゲーニンの著書を翻訳した「鐵熕鋳鑑(てっこうちゅうかん)」を参考に釜石・大橋の洋式高炉を造ったとされる


1862年、江戸幕府が洋書翻訳と洋学研究、教育のために設立した「蕃書調所(ばんしょしらべしょ)」の出役教授となり、新設された製錬学を担当。幕府お雇いの米国人技師パンペリー、ブレークらと蝦夷地(北海道)の炭鉱調査に行き、発破技術も学んだ。時を同じくして、医学と洋学教育を行う私塾「日新堂」を盛岡に設立。藩校・明義堂は武士のみの入校だったが、日新堂は町人も受け入れた。当時の日本の就学率は60~80%(米、仏は30%)。寺子屋は6歳ごろから通え、さらに勉強したい人は私塾に進んだ。大島はパンペリーが箱館(函館)に設立した坑師学校(鉱山技術者養成)にも関わっていたとみられる。

 この後も尾去沢、小坂鉱山などの開発に着手。明治に入ると新政府の鉱山権正(鉱山局次長)、大学大助教(筆頭助教授)に任じられ、岩倉使節団に随行。米国や欧州を歴訪し、ドイツのフライベルク鉱山学校も視察した。帰国後の1874年、官営製鉄所の立地調査で釜石を訪れるが、大島の計画案は採用されなかった。後に阿仁銀山や佐渡金山など全国の主要鉱山の開発に尽力し、日本鉱業会の初代会長となった。

鉄の歴史館で開かれた名誉館長講演会。来場者は興味深い話に聞き入った


 小野寺さんによると、大島の若年時の行動が分かるのは自身が書いた精書履歴(履歴書文案)しかないが、履歴には各地の遊学の記述があり、師事した人物と時代から知識獲得の流れが読み取れる。「日本への西洋技術導入は蘭学から。江戸時代の外国語はオランダ語がメインで、多くの蘭書が日本語に翻訳された。大島高任が釜石で高炉を造る時に参考にしたのもオランダのヒュゲーニンの本」と小野寺さん。江戸時代の日本には海外新聞も入ってきていて、翻訳や手彫り印刷などで時間はかかったものの、世界情勢も知ることができた。大島は外国船の入港で海外の製品や技術、情報がもたらされる中で学びを深めていったと考えられる

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. 【むかしのくらしと道具 ―子ども時代を支えたモノたち】昔の子どもたちの暮らしぶりを展示を通して学ぼう

    日刊にいがたWEBタウン情報
  2. 老舗菓子店「むか新」がスパイスカレー味「ザ・カレーサブレ」発売 新たな大阪土産に

    OSAKA STYLE
  3. 「なにわ男子」藤原丈一郎さんがオリックス開幕戦で始球式登板、4年連続4回目の大役

    SPAIA
  4. ジュビロ磐田の新加入MF倍井謙、3戦連発なるか!V・ファーレン長崎戦に勝てば21年ぶりの開幕3連勝!

    アットエス
  5. 女の子が2歳になったら、一緒に暮らしている犬たちに…まさかの『お世話をしようと頑張る光景』が尊すぎると4万再生 微笑ましい日常が話題に

    わんちゃんホンポ
  6. 企業や社員にとっての「職務給」導入のメリットとは? 厚労省、ジョブ型雇用の手引きなどを公表

    月刊総務オンライン
  7. 『ひとりぼっちで保護された子猫』→他の子たちと合流した結果が……「胸が熱くなった」「涙ぐんでしまった」と7万6000再生の反響

    ねこちゃんホンポ
  8. 国内初のラジオ放送が開始されてから、100年。シャープミュージアムの「ラジオ放送100周年記念展―よみがえった100年前のラジオで放送を聴いてみませんか―」

    コモレバWEB
  9. コスパ最強を求めていたらカシオの電波腕時計「Casio Wave Ceptor」に行き着いた / この値段でこんなに機能ついてて良いんですか?

    ロケットニュース24
  10. 兄に究極の選択を強いられたサホビメの悲劇とは?【眠れなくなるほど面白い 図解プレミアム 古事記の話】

    ラブすぽ