やる気が見えない息子に「ダメ人間」などと暴言を吐く夫を何とかしたいです問題
身体能力も高くサッカーの才能もあるのにやる気が見えない息子。そんな息子に夫は毎日イライラ。息子も試合当日の朝練で上手くいかないと夫に当たり、空気が悪いまま試合に行くという......。
試合に勝ってもひどい言葉を浴びせるし、言うのを辞めてほしいと伝えれば「もう知らない」と見捨てる発言。最近ではサッカー辞めさせようとしてる。どうしたらいいの? というご相談。
スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、これまでの取材で得た知見をもとに、お母さんにアドバイスを送ります。
(構成・文:島沢優子)
(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
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<サッカーママからのご相談>
こんにちは。やる気の無い息子(11歳・小5)と温度差のある父(夫)について相談させてください。
息子は年長からサッカーを始めております。本人がしたいと言った訳ではなく、引っ越しした事もあり、まずは友だち作りの為にはじめました。
1年生になる頃には夫との自主練で泣いたりする様になり、お互いイライラしながらの自主練になっていました。息子は正直、身体能力も高く才能はあると思います。
なのに、イマイチやる気が見られないんですよね。そんな姿に夫はイライラする毎日......。
試合の朝など、自主練をしても出来ないとイライラしだし、夫に当たる事が毎回。それに対して夫もイライラして帰宅し、空気が悪い中、試合に行くと言う日々です。
夫のほうも、試合に勝っても「弱い相手に勝って喜んで何が嬉しいんだ」「こんなやる気ないなら今すぐ辞めてほしい」「ダメ人間」など、聞いていて私でも嫌になる言葉を浴びせます。
「そんな事言われたらそりゃ、やる気出ないでしょ」と私が言っても、そうだなと思う事も無く「じゃあもう知らない」と見捨てる様な発言。
最近はもう、年内の公式戦を最後に休会か辞めると夫が決めています。
私もどうして良いかわかりません。
サッカーを続けてくれたらと思う気持ちもありますが、そんな事(夫からのひどい言葉)を何年も言われ続けたら何もかもできない人間になるのではと心配です。
夫や息子が前向きになれる様にするにはどうすれば良いのでしょうか。
サッカーを通じた子育て、ではなく家族間の問題を相談するような形ですみませんが、何か助言をいただけると幸いです。
<島沢さんからの回答>
ご相談いただき、ありがとうございます。
わずか6歳か7歳の小学校1年生に自主練を(恐らく)やらせて泣かせる。「今すぐ(サッカーを)やめろ」「ダメ人間」などと言ってしまう。そのうえ、年内の公式戦を最後に休会、もしくはサッカーをやめさせることを夫が決めていると書かれています。
このような子どもの人権を無視した拒絶的な態度や暴言は、子どもに心理的外傷を与えます。エスカレートすれば子どもへの心理的虐待になります。私は息子さんがかわいそうでなりません。
■あなたのとらえ方がズレている「将来」じゃなく「今」のつらさに目を向けて
それなのに、お母さんはとらえ方がかなりズレているように私には見えます。
例えば「そんな事(夫からのひどい言葉)を何年も言われ続けたら何もかもできない人間になるのではと心配です」と、今現在の彼のつらい気持ちよりも、何もできない人間になったらどうしようと将来を案じています。
さらには「夫や息子が前向きになれる様にするにはどうすれば良いのでしょうか」と私に質問しておられます。
大人の夫と、わずか11歳の息子を同等に置いてはいけません。夫は前向きになる前に、猛省しなくてはなりません。お母さんには失礼な言い方ですが、あまりに能天気すぎるのではないでしょうか。
■わが子が期待通りでないと、自分の子に嫌悪感を抱く父親がいる
まず、一般論を言います。
父親が心理的虐待をしてしまうケースは、少年サッカーでは少なくありません。期待が大きければ大きいほど、目の前のわが子の姿が自分の期待通りでなければ、父親はわが子に対し強い「嫌悪感」を抱く傾向があります。
嫌悪は憎悪に姿を変え、心理的虐待に及ぶまで時間はかかりません。そうなったとき、子どもを救うのが母親の役割です。
■息子の味方であってほしい母親のあなたも「やる気のない息子」を悪いと結論付けている
次にこの相談について。
父親から虐待まがいの扱いを受けている息子さんが唯一の味方であってほしいはずのお母さんは、彼の気持ちに寄り添っているように見えません。なぜそうなるのか。
それは、お母さんもお父さん同様に「やる気のない息子」を嫌悪しているからです。
相談文の冒頭に「やる気の無い息子と温度差のある父」と表現されています。他にも「イマイチやる気が見られないんですよね」と書かれています。
お母さんはお父さんの態度は良くないと断じつつ、こころのどこかで「でも、やる気のない息子も悪いんだよね」と結論づけていませんか?
■息子さんのやる気を奪っているのは両親ともになのでは?
やる気がなくて何が悪いのよ? と私は思います。私なんてしょっちゅう仕事にやる気をなくします。しかも息子さんはまだ11歳の子どもです。もっと言えば、そもそも息子さんの意欲を奪っているのはご両親ではありませんか?
私は親向けのセミナーも行っていますが、保護者から「やる気スイッチはいつ押せばいいか」と相談されるたびに、「そんなものはありませんよ」と言って、脳科学のエビデンス伝えています。
拙書『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』を執筆する際、諏訪東京理科大学共通教育センター教授で脳科学者である篠原菊紀先生に取材しました。それまでも何度もお話を聞いてきた、教育をベースに脳科学を研究されてきた方です。
先生によると、ある行動をとろうとするときに、その行動の先に快感(良い気分)が予測されることを「やる気」というそうです。この行動と快感を結びつける働きをするのが、左右の大脳半球の下側にある「線条体」という神経核になります。スポーツであれば、こうやって練習したら上手くなるに違いないと思うと意欲的になれますね。
■暴言や過度な指示命令は「恐怖学習」 抑圧するほど子どものやる気は出ない
ところがこの線条体は、誰かに否定されたり、怒られると動きが鈍くなります。つまり、大人が暴言や過度な指示命令で抑圧すればするほど、子どものやる気は出ません。
脳が意欲的にならないからです。それなのに、大人たちは発奮させようと「渇を入れる」などとガツンと怒ったりします。
この方法は「一発学習」別名「恐怖学習」とも言われ、子どもの記憶に強く残るため、一時的にパフォーマンスが上がります。つまり、即効性が高いのです。
よって、学校現場やスポーツ指導、それこそ子育ての場面でも、手っ取り早い一発学習が長く採用されてきました。
ところが、恐怖学習が繰り返されると、子どもはそれがトラウマになりバーンアウトしやすいという副作用が生じます。怒鳴られたり、たたかれるような強い刺激を受けてしまうと、それなしでは物事に取り組めなくなります。
小学1年生から自主練で泣かされて、こんな心理的虐待まがいの扱いをされれば、意欲を失います。ミスしたらお父さんに怒られる。試合に勝っても「弱い相手に勝って何が嬉しいんだ」と叱られる。
何も認められず、励まされもしない。線条体は鈍いままです。
■希望を感じる二つのこと 1つ目は「親に抗う力が残っている」こと、もう1つは......
(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
それでも、二つほど希望を感じます。息子さん、試合の朝に自主練をして、何かが出来ないとイライラしてお父さんに当たったのですね。親に抗う力が残っているのが救いです。
そして、もうひとつの救いは、お母さんが私に相談してくださったことです。
「最近はもう、年内の公式戦を最後に休会か辞めると夫が決めています。私もどうして良いかわかりません」と書かれているところをみると、お母さんは夫であるお父さんにある意味支配されていないでしょうか?
夫婦は対等でしょうか? 家庭内のすべてのことはお父さんが決めてしまうことになっていませんか?
パワハラ夫のことで私に相談してくる女性たちの多くが、夫と渡り合う言葉を持ちません。
彼女たちは「言い負かされて何も言えない」と頭を垂れます。そこで、私は「説明なんてしなくていいんだよ」と言います。どちらが正義か。論点はそれだけでもいいと思います。
お母さんも夫に対し長々と説明する必要はありません。
「この子には人権がある。自分で決めなさい。自分の好きなことをしなさい」と息子さんに言ってあげましょう。
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産 彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキル ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。