安田有吾×香取直登に聞く〜コンドルズ埼玉公演2024新作『Here Comes The Sun』で届ける特別な時間
コンドルズ埼玉公演2024新作『Here Comes The Sun』が、2024年6月8日(土)~9日(日)彩の国さいたま芸術劇場大ホールにて行われる。コンドルズ(1996年結成)は、学ラン姿を名刺代わりとする、30代から60代までの男性により構成されるダンスカンパニ―で、近藤良平(振付家、ダンサー、2022年より彩の国さいたま芸術劇場芸術監督)が主宰する。ダンスだけでなく生演奏や人形劇、映像、コントを展開し、唯一無二のステージを贈る。2006年から続く埼玉公演では毎回新作を発表し、芸術性と娯楽性が溶け合う舞台を支持する観客は数多い。今年度の新作『Here Comes The Sun』に出演するコンドルズのメンバーのなかから、書楽家として活躍する安田有吾(やすだ・ゆうご)、気鋭ダンサーで理系ダンスカンパニー・ケミカル3主宰の香取直登(かとり・なおと)に、コンドルズの創作エピソードや新作への意気込みを聞いた。
■12歳違い、同じ寅年の男同士の固き友情
ーー安田さんは書楽家として活動すると共に2012年にコンドルズのメンバーに参画されました。香取さんはダンサー、振付家として自身の活動も行いつつ2014年にコンドルズに参画されました。それぞれのコンドルズとの出会い、参画された経緯は?
安田有吾(以下、安田):僕は30歳の頃、初めてコンドルズの舞台を観ました。仲よくしている神楽坂のラーメン屋のマスターに連れられて観たのが『Big Wednesday』(2004年)で、魅了されました。石渕(聡)さんとオクダ(サトシ)さんが、地方公演で怪我をして、松葉杖をついて出ていたんです。「自分の知っているダンスじゃない!」「カッコいいな、この人たちとならやってみたい!」と思いました。それで、たまたまその翌週、神楽坂のラーメン屋で近藤(良平)さんたちに初めて会って、そこからワークショップに通い始めました。
香取直登(以下、香取):僕がダンスを始めたのは18歳、大学に入ってからなのでちょうどその頃です。
安田:僕らは寅年で12歳離れています。それでちょうど同じ頃にダンスを始めた。直登とは神楽坂セッションハウスのリンゴ企画2008【立体絵本】『あの山羊たちが道をふさいだパートⅡ』(2008年)で出会いました。それからずっと一緒。コンドルズには僕が先に入りましたが。
香取:それを観に行ったりしていました。
安田:僕がコンドルズの舞台に出るようになったのは2012年の夏からですが、その前に近藤さんから「有吾、暇?」って聞かれて、一緒にイスラエル公演に行きました。「何かあるかもしれないから、学ラン持ってきて!」と言われて。そのときは舞台に出ていないんですが、その次の夏の作品のチラシ撮りをするから「学ランを着ておいで!」と言われて入ったんです。でも、その前から顔を出さないで劇中の人形劇とかに出ていたんですよ。
香取:僕は高校まではバレーボールをしていましたが、大学ではダンスをやりたいと考えて、ダンス部に入ると創作舞踊系でした。4月に入部して8月には全国大会(全日本高校・大学ダンスフェスティバル(神戸))に出ました。そのコンクールの参考のために、2004年大会の映像を観ると、ゲストとして学ラン姿の男たちが出ていたんです。コンドルズには良平さんをはじめ大学のダンス部出身者が多く、それでゲストに呼ばれていたのですね。
3、4年生になると、関東の大学のダンス部が集まる公演があり、ゲスト振付家として良平さんが呼ばれ出演者を募っていたので出ました。そうするうちにオーディションを受けて、セッションハウスとかの舞台に出るようになったんです。そこで有吾さんに出会いました。12歳年が離れていて干支が一緒。シンパシーを感じて仲よくなりました。
大学卒業後はサラリーマンをしながらダンスは続けていました。いつのまにかコンドルズに近い人たちの周りで踊っていたということもあり、期せずしてコンドルズの独立機動舞踊部隊「暁~AKATZKI~」に若手を補充しようという話があったそうで、2014年2月、あうるすぽっとの舞台に立ったんです。それがきっかけでコンドルズに入りました。
安田:ちょうど埼玉公演『ひまわり』(2014年)の練習が始まっていたんです。それで直登はチラシには名前がないけど出ちゃいました。
■ベテランと若手がフラットな関係で進めるクリエーション
ーー安田さんは、コンドルズにおいて、近藤さんや最年長の山本光二郎さん、石渕さんらベテラン組と、香取さんやスズキ拓朗さん、黒須育海さんら若手との間にいる存在でしょうか?
安田:伝統芸能でいえば、まだ「若手」のイメージでしょうか。でも50歳なので、先輩たちの方が年齢は近いのですが。だから真ん中の僕にいろいろと話が集まってくるのはあります。
香取:しわ寄せというか(笑)。不思議なポジションです。
安田:直登とは、コンドルズの先輩後輩感はないですね。
香取:入る前から友人だったので。
ーーコンドルズは、ベテランと香取さんら若手それぞれの良さが生きているように思います。クリエーションにあたって、世代間の関係はどのようになっているのですか?
安田:年齢による上下関係みたいなのは、あまりない気がします。ただ、アイデアがどんどん出てくる人もいれば、じっくり考えて発言する人もいれば、ある程度経ってから角度を良い方に変えてくれる人もいる。直登がダンスの振りの部分で「こういうふうにやったほうがいいんじゃないですか?」と言うこともあります。僕はダジャレとか面白アイデアの担当です。発言にしろ、アイデアの方向性にしろ、それを言い難いという空気はない。なぜかというと、近藤さんが一旦全部受け入れてくれるんです。
香取:僕は自分がアイデアマンではないのを自覚しています。いろいろな経歴のメンバーがいますので、振付がかたまってきたら「こうやる方が楽に動けるんじゃないですか?」とか言います。最近は最初と最後に必ずある全員でのユニゾン(同じ動き)が気になって「右にばっかりいっていませんか?」とか「こうしたら戻って来られますよ」とか話します。僕はマイペースなので10分くらい発言せず、考えてから言います。だから有吾さんとはペースが真逆かもしれない。
安田:僕は思ったことを0.1秒くらいで言える(笑)。
ーー主宰の近藤さん、プロデューサーの勝山康晴さんがいますが、さまざまな個性を持つ皆さんがアイデアを出しあって創っていくんですね。
安田:コンセプトや方向性がガチガチに固まっているわけではありませんが、タイトルを大事にしていますね。それとコンドルズには「~しなければならない」みたいな縛りがないんですよ。公演最終日の本番5分前に「やっぱり、ここはこうしよう」と直したりします。芯はあるけど、柔軟性もある感じで物事が進んでいくので、やりやすいです。
■埼玉公演の位置付けとは? 懐かしの名舞台を振り返る
ーー2006年から始まった埼玉公演は、実験的な要素が強い印象があり、大きな壁を置いたり、セリ(昇降装置)など舞台機構をフルに使ったりしてきました。コンドルズの活動においてどのような位置付けだと思いますか?
安田:実験的でコンセプトが強めだと思っていました。夏のツアーを王道としていた時代がありましたが、それに比べると万人受けを狙ってないのかなと。でも、だんだんと埼玉公演が王道なんじゃない? みたいな感じになってきたんですね。大ホールとほぼ同じ寸法の稽古場で練習できるので、アイデアの膨らみ方が大きいんです。巨大な壁を立てたらどうなるかみたいな発想は、小さな場所で練習していたら出てこないでしょうね。
香取:僕は過去の共演者ら仲間たちをどの公演に誘うかというと埼玉公演になるんです。クオリティの高さもありますが、アート寄りでコンセプチュアル、若干の尖りを感じつつも逆に万人受けするんじゃないかなと。会場に足を運ぶ意味があるので「とりあえず来て!」と誘います。それで半信半疑で来てくれた人たちが終演後全員笑っています。それで「また来たい!」と言ってくれる。埼玉公演にはそういう魅力があると感じます。
ーー埼玉公演で懐かしい舞台は?
安田:最初に出た『アポロ』(2013年)も懐かしいですが、『ストロベリーフィールズ』(2015年)の上演中に地震があったんですよ。
香取:揺れましたね!
安田:舞台上に吊っていた十字架がぐらぐら揺れました。
香取:僕は最初の『ひまわり』(2014年)ですね。子役同士のコントを光二郎さんとやりました。
安田:『LOVE ME TenDER』(2016年)では、ロープの先に2リットルのペットボトルを付けて、ただ回して跳びました。子どもみたいでしたね(笑)。
■新作『Here Comes The Sun』鋭意制作中!
ーーコンドルズ埼玉公演2024新作『Here Comes The Sun』についてお聞きします。こちらのタイトルはビートルズの楽曲から来ているようですが、どのような作品になりそうですか?
安田:テーマの説明なんて、この10数年一言もありません。
香取:一回もないですね(笑)。
安田:「今年は太陽をテーマに!」みたいなことは一切ないです。タイトルもチラシを見て知る感じですね。「あ、出るんだ、俺たち」みたいな(笑)。
ーーリハーサルはどのように始まるのですか?
安田:埼玉公演って、舞台上に何かしらモノがあるんです。壁とか白い街とか風船とか、キーワードとなるセットをどうしようかというところから始まるんですよ。と同時に、近藤さんは振付をしていくんです。今回のセットについてはネタバレになるから言えない(笑)。
香取:そうですね。
安田:ただ「SUN」なので、この言葉を皆がどう捉えるかというかが面白いです。「太陽」なのか「SUNDAY」なのか「燦燦と」なのか。
香取:「SUN」はキーワードですね!
ーー振付の進み具合はいかがですか?
香取:リハーサルは群舞から始まるんです。
安田:振付は最初の2週間くらいで創っちゃうんです。ただ、それをどの音楽にハメるかみたいなのは、もう少し後の作業です。近藤さんは曲先行で振りを創るばかりではないので、曲に負けない振付になるんですよ。先にダイナミックに振りを創っておくんです。
香取:曲に合わせて振りを創っちゃうと、曲を変えた時に整合性が無くなっちゃったりします。
ーーコンドルズの舞台は、ただ楽しいだけでなく、世相・時代の空気感みたいなものを反映している部分もあるかと思います。今回は何を感じていますか?
香取:今回のタイトルの4つの単語のうちの「COMES」というのは「戻ってきた」ということ。去年は彩の国さいたま芸術劇場が改修工事中だったため埼玉会館でやりましたが、今年は戻って来ました。自分たちが「太陽」かどうかは分かりませんが、「戻ってきたよ!」という風に思ってもらえたらいいですね。
安田:僕らは平和な国で舞台をやっていられますが、世界にはいろいろな状況の方々がいます。だからといって楽しいことをしてはいけないわけではないので、観に来てくれた時間だけでも太陽のあたたかさのような幸せを感じていただければ。少しでも喜べる時間にしたいですね。
香取:日本人って、浮かれたりするのが苦手な人種じゃないですか? 動画で知った受け売りですけれど、「浮かれる」と「浮つく」の使い分けが苦手なようです。「浮つく」だと調子に乗っていることに近いみたいですね。でも「浮かれる」のはいいじゃないですか。だから、いい年になってきた大人の男たちが、意外と一生懸命やっているのを、がんばって浮かれているのを見て、楽しいと思ってほしいです。「楽しいときは楽しい!」と態度に出していいんですよと伝わる時間になればいいですね。
取材・文=高橋森彦 撮影=池上夢貢