<クジラの座礁>ストランディングとは? 深い海から訪れる巨大生物との貴重な接点
クジラが海岸に押し寄せて座礁してしまうというニュースを見たことがある人も多いかもしれません。
たいていはすでに死亡している、または衰弱死してしまい、生きたまま海に戻り、命を長らえるということはありません。
この漂着するクジラですが、古くから特別なイベントとして扱われていました。巨大な生物が海から現れ体躯を残すという時点で衝撃的でありますが、現代でもまだ謎が多い現象であり、人々の関心を集めています。
これがクジラの座礁、「ストランディング」と呼ばれる現象です。
クジラの漂着はどのように扱われてきたのか
人類史の発展とクジラは欠かせないものであったようです。先史時代から主にクジラは貴重な食料や道具の素材、鯨油を大量にもたらすものとして捉えられていました。
実際にクジラの骨や歯が各地の遺跡から見つかっていますが、クジラを狩るのは今日でも大きな危険を伴う行為であり、時を遡るほど主に漂着クジラを利用してきたのではないかと考えられています。
積極的にクジラ漁を行うようになってからも、漂着クジラはその巨大さで人間に莫大な富と幸福をもたらすものとして捉えられ、地域によっては信仰にまでつながることもあったようです。日本では現在も鯨塚というものが、各地に伝えられて大切に扱われています。
クジラはなぜ漂着するのか
なぜクジラが海岸に打ち上げられるのかについては、現代でもまだ未解明な部分が残されています。
単純に寿命を迎えて力尽きたからということをはじめ、沿岸に迷い込み本来の生活圏から外れてしまったことによる方向感覚の喪失、捕食者からの逃走といった生物学的な要因などが挙げられます。
また、急激な環境の変化であったり何らかの海流の変化があったりするなどして、そのまま離脱できなくなってしまうといった環境的な要因、海洋汚染の影響、強力な音波を発生させる改定資源探査用や軍事用ソナー(音響探信儀)、巨大船のエンジン音などがクジラの生体に影響を与えている、といった人為的な原因もあるのではないかといった説も取りざたされています。
漂着クジラと人類社会の発展と課題
漂着クジラは資源だけでなく、様々な発見や人間社会への影響をももたらします。
古くは資源として、「鯨一頭で七浦潤う」という言葉があるように大量の食料となる鯨肉は時代を遡るほど社会に対する恩恵が大きく、頑丈で巨大な骨は道具作りの素材となり、王権や地域支配者の権力の源にもなりました。
中世から近世にかけては鯨油が新たな資源として注目されるようになり、国をあげての積極的な捕鯨が盛んになっていきます。
現代では科学的な情報リソースとしても扱われるようになり、単純な生物学へのサンプルとしての貢献や、生態系の頂点に位置しながら地球規模で行動するクジラから得られる情報が地球化学的な視点での情報源にもなるということで脚光を浴びるようにもなってきています。
目を背けたくなるような事実でもありますが、体内に残った異物などから海洋汚染の指標にもなっているのですね。
漂着クジラを見かけたら
日本において、漂着クジラは基本的に自治体が対応にあたることになっています。
クジラの状態によっては体内に溜まったガスが爆発するおそれもありますし、近寄らず、もし見かけたらまず自治体へ連絡しましょう。また、海上で漂流している場合は海上保安庁(118番)に通報が望ましいです。
私達人間と比べると畏怖を感じるほど巨大な生物、クジラ。
漂着クジラは数少ない人間社会とクジラの貴重な接点ともいえますが、単純な巨大生物との遭遇というだけではなく、多様な価値を提供する現象でもあるということにも目を向けてみてください。
(サカナトライター・鈴川悠々)