川本真琴「愛の才能」衝撃デビュー!その魅力は “瞳に宿る意思” と “ちょっぴり香る毒”
錚々たるメンバーによるトリビュートアルバムの誕生
小気味よい歌詞。見事に韻を踏んだセンスの光る言葉のチョイス。このフレーズを聴いたときは、頭をハンマーで殴られたくらいの衝撃を覚えた。1996年5月にデビューした川本真琴のシングル「愛の才能」だ。
愛の才能ないの
今も勉強中よ「SOUL」
レベッカのNOKKOやJUDY AND MARYのYUKIのように特徴的な声を持つ女性ボーカルというのは多そうでいて、実はそう多くない。でも、川本真琴は間違いなくそうした個性的な歌声を持った1人。ちょっと甘えたようでいて、それでいてクールな歌声。切れ味のある声と抜群のリズム感は、当時の女性ボーカルの中で群を抜いていた。
どれだけスピードのある曲でもけっして崩れない歌声。早口言葉のようなフレーズだってけっしてひるまない。歌うことだけでも必死になってもおかしくない速さの曲をワンフレーズごとに見事な表現力で歌い上げた。
あまりにも軽快で、サラリと歌いあげるものだから、ものすごいことをやってのけているように見えないところがまたすごい。繊細な歌詞の世界の心の機微や、感情の移り変わりといった部分をものすごく高度なスキルで表現している。岡村靖幸のたたみ掛ける難解な曲調にもバッチリハマっていた。
「愛の才能」に続き、同年リリースのセカンドシングル「DNA」、1997年リリースのサードシングル「1/2」と矢継ぎ早にヒットを連発。当時はカラオケブーム真っ只中、カラオケルームからこれらの曲が聞こえない日はなく、撃沈される女子をたくさん見た。歌ウマな子がいて完全に歌い切れたとしても、ついていくだけで精いっぱいという状態だったし、歌ってみると、さらに川本真琴のすごさを痛感させられた。
実はギターがほとんど弾けなかった!?
デビュー当時の川本真琴といえば、ボブやショートカット姿が印象的。中性的な女の子がコンセプトだった。華奢な姿も少年性を持った雰囲気を醸し出していて、特徴的な歌声も相まってどこか小動物のような可愛らしさもあった。そして、なんといっても川本真琴に欠かせないのはアコースティックギターの存在だ。
セカンドシングル「DNA」のミュージックビデオではアコギ姿が印象的。フィリピンのネグロス島のストリートでの弾き語りシーンがふんだんに盛り込まれている。それだけ当時の川本真琴の見せ方としてアコギというのは欠かせないアイテムだったが、実はギターはほとんど弾けず、デビューにあわせて必死に練習したと聞いてまたまた驚いた。
彼女は高校も短大もピアノ科卒。曲もピアノで作っていたという。そう聞いても、未だに当時の曲を聴けばアコギを巧みに演奏する川本真琴が浮かんでくるのだから、植え付けられたイメージというのは恐ろしい。とは言え、2016年にはピアノの弾き語りによるセルフカバーアルバム『ふとしたことです』をリリース。これまでの名曲たちが活き活きとピアノで生まれ変わっている。どの曲のアレンジも聴き応えたっぷりだ。
川本真琴の歌声の最大の魅力
そんな川本真琴の最大の魅力とはどこにあるのだろう。スピード感のある曲? ラップのようにたくさんの言葉数を乗せて歌うこと? 個性的な歌声とリズム感と表現力? 確かにそれらの魅力は間違いなく誰もが感じることだろう。けれど私は、彼女の中にどこか見え隠れする “毒” のような部分にこそ、その大きな魅力を感じる。
そう、歌声にもサウンドにも、もちろん歌詞にも、川本真琴の世界にはどこかちょっぴり毒が潜む。そしてそれがフックになって、彼女から目が離せない。とてつもなく真っ直ぐにこちらを見据えた強い目力は、社会に対して? それとも周囲の大人に対するものだったのだろうか。とにかく真っ直ぐに見つめる瞳の奥には、なにか物言いたげで、いつか爆発でもしそうな感情と、凜とした強い意思のようなものを感じさせた。
歌声にも、そうした部分が漂っていて “こんなにスピードある曲を歌いあげられるなんてさぞかし爽快。気持ちいいだろうな” と思うリスナーに対して、どこか冷めたような目がとても印象的だった。“私はけっして媚びません” とでもいうような凜々しさが感じられたからこそ、「愛の才能」も「DNA」も「1/2」も、私たちの心に響いたのではないだろうか。
本人にとっては、自分のやりたかったガールズバンド的なサウンドやそのイメージと解離があったのかもしれないが、これらのシングル曲がセールスに繋がったのは、決してレコード会社の戦略だけの話ではないと私は思っている。その歌声が多くの人たちに響いた理由は、紛れもなく彼女の真っ直ぐな瞳の奥に見え隠れする強さが私たちの心に痛烈に刺さったのだ。
川本真琴の歌が未だに大好きな私にとって、今の彼女が、彼女らしく音楽を続け、歌声を届けてくれていることがとても嬉しい。メジャーで活躍した時代とはまた違った自然体な中から生まれる楽曲と、よりのびのびとした歌声もとても素敵だ。そしてもちろん、今でも “瞳に宿る意思” と “ちょっぴり香る毒” のようなところは変わらない。