武蔵境のバスと人の循環が生む憩いの場。『hocco』は暮らしを変えるバスターミナル
桜並木が美しい武蔵野市桜堤地区のバスターミナルに、2021年、複合施設 『hocco(ホッコ)』が誕生した。広場を囲む長屋棟に5戸の小さな店が入り、プチ商店街を成している。そして、集まる場を求めていたまちの人がふらりと立ち寄り、出会う場になっていた。
hocco
3棟の長屋に全13戸が連なり、うち5戸が店舗に活用できる土間を備えた店舗兼住宅。1月から、アンティーク雑貨店『onik』も仲間入り。また、毎月第4日の11~15時は日曜市を開催し、農家野菜、雑貨などの出展もある。1月の餅つき大会など、イベントを催すことも。
日々小さなコミュニティーが育まれる「やりたいこと」ができる場所
「ここに立ったとき、店のイメージがふっと浮かんで」と出店理由を語るのは、『l’atelier de nature』の小笠原さん。「ここではやりたいことができるんです」と、時折音楽会を開いたり、花イベントを催したり。通りがかりの客が「混ぜて」と仲間入りすることもあって、日々小さなコミュニティーが育まれている様子だ。
緑豊かな住宅地は住居専用地域。本来は店を開けないエリアだが、住居に付帯した店で1建物につき50㎡まで、という条件をクリアすればOK。そこで誕生したのが『hocco』だ。開発した小田急バスの下山友明さんによると「この辺りは住民の集える場がなく、孤立しやすいエリアだったんです。ならばつくろう!」と、バスターミナルの隣に現代風なりわい長屋を建設。5戸限定ながら、小さな店が開ける6畳弱の土間付きだ。さらにコミュニティー+モビリティーを掲げ、バス以外の乗りものポートを設置。住民は「静かで交通も便利」と絶賛する。
一方、なりわい長屋では各店独自の広がりを見せている。『The Pie Hole』ではパイに使うリンゴや武蔵野野菜の軒先販売を、『日光苺堂』ではランチ向けに大判かき揚げ丼を始め「そうやってみんな、スピンアウトしていくんですよ」と、下山さんは心楽しい展開に目尻を下げた。
最たるは『惣菜スタンドsoil』だ。店主のパートナー・宇野真明さんはみんなの姿を見るうち夢が膨らみ、会社員の傍ら週末にチャイ屋台を開始。「イタリアのエスプレッソバーのように、バス待ち間に飲める平日の朝チャイ、やろっかな」と、さらなる野望をのぞかせる。
普段はみな、のんびり自分のペースで営業するが、第4日の日曜市だけはお祭り気分。入居者や近隣住民が即席露店を出し、食事やお茶、店の行き来を楽しんでいる。子どもたちも走り回って、まさにほっこりする場所になっているのだ。
なりわい長屋、こんなお店があります
甘酸っぱいイチゴの香りにキュン『日光苺堂武蔵野店』
栃木産とちおとめを主に用いた日光発のいちご専門店が東京に出店。生クリームいちご大福は、半解凍して食べると大福アイス感覚だ。また、イチゴのスムージーも見逃せない。ピューレに生乳を加え、ほんのり甘い香りで口の中が春爛漫。
11~16時営業、不定休。
Instagram:nikko_ichigodou
吟味した材料で焼いたパンの威力『l'atelier de nature』
パン教室の講師・小笠原由貴さんがこの場所にほれ、日曜だけの実店舗を開店。国産小麦を用いた「自分が食べたいパン」を焼く。自家培養したモモの天然酵母をハード系に用い、皮はカリッ、中がフカッ。噛むほどに小麦のうまみがグングンのぼる。
日の10~17時営業。
Instagram:atelier_de_nature
吟味した材料で焼いたパンの威力『l'atelier de nature』
ロス発祥の味にほれ、日本4号店を開店。サクホロの軽やかなアメリカンパイを焼くのは店主の広松有希子さんだ。看板は牛肉たっぷりのシェパーズパイと、アップルパイ。「香りがとてもいい」と用いる長野の農家直送りんごの酸味にもときめく。
10~17時営業、火休。
☎0422-68-3764
お酒も揃った小さな止まり木『惣菜スタンドsoil』
店主の土井菜那さんがフレンチの技を発揮した日替わり総菜が豊富。ワインに日本酒、クラフトジンのほか、自家製シロップのサワーも充実し、飲んではつまみ、居合わせた人としゃべっていくひとときが楽しい。テイクアウト可。
16~21時営業(日により変動)、月・火休。
Instagram:_soil2023_
hocco(ホッコ)
住所:武蔵野市桜堤2-6-19/アクセス:JR中央線・西武鉄道多摩川線武蔵境駅から小田急バス「桜堤上水端『hocco』」行き約12分、JR中央線東小金井駅から徒歩15分
取材・文=林 さゆり 撮影=鈴木奈保子
『散歩の達人』2025年2月号より