「国際バカロレア」認定校 注目の「中高一貫校」の取り組みを独自取材! 教員が一方的に教えることはない?
国際的な教育プログラム「国際バカロレア(IB)」。MYP(Middle Years Programme)認定校である中高一貫校、『さいたま市立大宮国際中等教育学校』に取材。カリキュラムの内容など(全4回の3回目)。
人気中高一貫校で学習指導要領が示す教育の“あるべき姿”を形に! 中高一貫校で行われているIB教育とは?中高一貫校である『さいたま市立大宮国際中等教育学校』は、2019年の開校時から国際バカロレアの教育を実践しています。生徒たちはどのように学び、どんな力をつけているのか、校長の関田晃先生にお聞きしました。
アクティブ・ラーニングが学習の中心
──関田校長先生は開校準備から学校にかかわられてきたとのことですが、なぜ国際バカロレアを導入されたのでしょうか。
関田晃校長先生(以下、関田先生):日本の教育は転換期を迎えています。これまで学校では知識偏重の詰め込み型教育が行われてきました。しかし今は、より多様な学力や能力をもった人材を育てることが求められています。
そのために改訂されたのが、現在の学習指導要領です。学びに向かう力や人間性、実社会で生きる知識や技能、未知の状況に対応できる思考力や判断力、表現力。
これら3つの力をバランスよく育てるために重要とされているのが「主体的・対話的で深い学び」、つまりアクティブ・ラーニングなのです。
開校に当たり、この学習指導要領を忠実に再現しようとしたとき、国際バカロレアのカリキュラムは非常に親和性が高かったのです。本校での学びも、まさにアクティブ・ラーニングを軸にしています。
『さいたま市立大宮国際中等教育学校』関田晃校長先生。
極力教えず 問いを投げかける
──具体的にはどのような授業をされているのでしょうか?
関田先生:端的に言えば、極力教えない、ということです。アメリカの研究機関が発表した理論に「ラーニング・ピラミッド」というのがあります。
これによると、先生が一方的に講義するだけの授業では、教わった内容の5%しか定着しないとされています。それが、自分で選んだ本を読むことで10%に、話し合うことで50%に、体験することで75%に、他の人に教えることで90%まで定着率が上がっていくとされています。
本校でも、教員が一方的に何かを教えるということはほとんどありません。
学習指導要領で定められている内容を教科書どおりに教えるのではなく、子どもたちが関心を持つようなテーマに関連づけて問いを投げかける。そして、調べ学習やディスカッション、プレゼン資料の作成など、さまざまな活動を通じて、自分で学びを深めていけるようにカリキュラムを組んでいるのです。
「現行の学習指導要領を忠実に具現化しようとすると、国際バカロレアのカリキュラムほど最適なものはないのです」と関田校長先生。
──基礎的な知識がないと学習が行き詰まってしまうこともあると思うのですが……。
関田先生:多くの方がそう考えると思いますが、果たして本当にそうでしょうか? 基礎的な力とはどこまでをいうのか、また、従来型の一斉授業をしていれば本当にすべての子どもが基礎的なことを身につけられるのでしょうか?
アクティブ・ラーニングという言葉が普及してずいぶんたちますが、なかなか実践が広がらない理由は、「基礎的なことを教えないと学べない」という思い込みにあると思うのです。基礎的なことをすべて一から教えようとすると、とてもアクティブ・ラーニングに取り組む時間なんてありません。
開校に当たり、各教科の教員と共に学習指導要領の内容を国際バカロレアのカリキュラムに組み直した。「先生方には、上手に教えることではなく、学びの支援者になることを常に意識してもらっています」(関田先生)。
関田先生:もちろん、読み書き計算など小学校で学んだおおよそのことを理解できているというのは前提です。
しかし学び方というのは、本来とても自由であり、一人ひとり違うものです。学んでいくなかでわからないことにぶつかっても、知りたいという想いさえあれば、調べたり人に聞いたりして、自分でどんどん知識を増やしていけるのです。
──生徒たちが「知りたい」「学びたい」と思えるようなきっかけ作りが重要なんですね。
関田先生:はい。私たちが大事にしているのは、楽しく学べて、学んだことがしっかりと定着し、他の教科や実社会でも役立てられると生徒自身が実感できることです。
教科とは、人間の世界や自然界にあるものを人が勝手にジャンル分けしているにすぎません。物理学と芸術も無関係ではないし、数学で学んだことが歴史を理解するのに役立つこともある。
世界は本来シームレスなものなのです。そこで本校では、体育の授業でパラスポーツを通じて共生社会について考えさせるなど、教科をまたいだテーマ設定をしたり、実社会からトピックを拾ってくるようにしています。
「中高の6年間で子どもたちに見られる一番の変化は、自分からどんどん学び行動するようになることです」。(関田先生)
──実社会とのつながりから考えると、今、自分が学んでいることがどう役立つのか意識できて、学習のモチベーションが上がりそうですね。
関田先生:本校では各教科で年間に10程度の単元に取り組むのですが、すべての単元において、自分たちがこの単元を通じて、「何をどのように学び、それがどのように役立ち、どんなスキルを身につけて、どんな自分になれるのか」を意識させるようにしています。
週2時間行う3Gプロジェクト(総合的な探究の時間)では、こういった学習のコンセプトを自分自身で組み立て、それに基づいてテーマ設定をしたり、探究活動を進めていきます。必要であれば商店街や企業などとも自主的につながり、学びを深めていきます。
また年に2回の三者面談は、その振り返りの場にしています。教員が保護者に報告をするのではなく、生徒自身が自分の学習面での成長をプレゼンするのです。どんな点が成長したのか、その根拠はどこにあるのか、課題は何か、それを乗り越えるプランと、乗り越えた先にどんな自分になれるか、それはより良い社会とどう結びついているのか。
もちろん最初のころは稚拙ですが、学年が上がるにつれて、自分の現在地や興味関心、進路についても客観的に論理立てて語れるようになります。
幼児が言葉を覚えるように耳から英語を学ぶ
──やらされる勉強ではなく、生徒自身が主人公になって学びに向き合うようになるんですね。先ほど校舎内を回らせていただいて、生徒さんの英語力の高さにも驚きました。読み書きだけでなく、話す・聞く力をどのように伸ばしているのですか?
関田先生:英語に触れる機会は多いですね。英語の授業はすべて英語で行っています。その中で出てくる文章や会話、また毎朝15分間の学内全員が英語で活動する「All English」の時間や、週2時間の「English Inquiry」という英語で他教科を学ぶ時間を通じて、自然に英語に親しんでいきます。1年生の最初のころは理解できていなくても、だんだんと耳が慣れていくようです。
本校では英語の授業でも、現在進行形や三単現のSなど細かく文法の説明をすることはほぼありません。たくさん聞いて、たくさん話す。幼児が言葉を覚えていくプロセスと同じですよね。
6年間で生涯学び続ける力を育てる
──2月には、1期生が大学入試に臨まれたと思います。これまでの取り組みの手応えをどのように感じられていますか?
関田先生:数年前から学習指導要領の改訂とセットにした大学入試改革が進められてきました。共通テストも思考力、判断力、表現力を問う教科横断的な問題が多く出題されています。
特に2024年度は、化学の問題の選択肢に古文の内容が出てくるなどして驚いていた学生も多いようですが、本校の生徒たちは「いつもどおりだった」と落ち着いていました。
2025年4月から7年目に入りますが、「ここで育った人間は、どんな道に進んでも活躍できる」という確信を持つようになりました。本校の最大のテーマは「より良い世界をあなたが作る」です。
時代や社会のせいにせず、人任せにせず、自分や愛する人たちの幸せのために何ができるか、何をすべきか考え続けてほしいと思っています。
6年間で学び方を学び、やり抜く力を身につけた生徒たちは、この先も生涯学び続け、より良い世界の実現のために力を発揮してくれると信じています。
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MYPでは、「今、自分は何のために学んでいるのか」「この学びが社会でどう役立つのか」「学ぶことで自分はどう変われるのか」などを、ことあるごとに意識させることで、生徒が主体的に学習に取り組むようになることがわかりました。
やらされる勉強から、自ら進んで深めていく学習へ。『国際バカロレア(IB)』は、これからの教育のスタンダードになっていくのかもしれません。
撮影/安田光優
取材・文/北京子
さいたま市立大宮国際中等教育学校
住所:埼玉県さいたま市大宮区三橋4-96
電話:048₋622₋8200
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