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【公民館がスゴいことになっていた!】“公園+パラソル“だけの屋台型「パーラー公民館」 超レアな「地域の拠点」に全国から視察も多数

コクリコ

シリーズ「地域をつなぐ みんなで育つ」第3弾2施設めの「若狭公民館」後編(沖縄県那覇市)。ごく普通の公園にパラソルを立てただけの「パーラー公民館」とは。同施設をライター・太田美由紀がルポ。

【写真➡】那覇「若狭公民館」で大人気の”アートな部活動”を見る

地域の人がこぞって集う沖縄県那覇市の公民館「若狭公民館」を前回紹介しましたが、「若狭公民館」から少し離れた場所では、パラソルを立てただけの「パーラー公民館」も、地域の人が集う場として親しまれています。近所の子どもたちと近隣に住む大人や高齢者との間に自然に交流が生まれ、多世代の人たちが親せきのように子どもを見守る地域になりました。

パラソルひとつ公園に立て、テーブルや椅子を並べてシートを敷けば準備OK。いろんなドラマが動き出します。

ごく普通の公園+パラソルで「公民館」ができたワケ

パラソルの下でお茶を飲み「ゆんたく」からスタート

「曙(あけぼの)地域にも公民館がほしい!」

曙地域(沖縄県那覇市)に暮らす人たちから上がったこんな声に、なんとか応えられないかとスタートしたのが「パーラー公民館」です。まるで屋台のようなその場所は、曙地域の「あけぼの公園」にできました。

あけぼの公園は、すべり台やシーソー、うんていなどがあるごく普通の公園です。今日はみんなが楽しみにしている「パーラー公民館」の日。

地域の人たちの手で、手づくりのテーブルや椅子、大きな白いパラソルが運び込まれ、「パーラー公民館」ののぼりが設置されました。

「パーラー」の語源は、古フランス語の「話をするところ」。沖縄では簡易店舗や小さな食堂、カフェなどを「パーラー」と呼び、親しまれている名称です。

若狭公民館の指定管理者・NPO法人地域サポートわかさが中心となって2017年から2019年まで運営されていた私設の移動式屋台型公民館で、2020年以降は、あけぼの小学校区まちづくり協議会に引き継がれています。

沖縄の強い日差しを避けるように、木陰やパラソルの下にシートを敷いて裸足で遊べる空間も確保。テーブルの天板は黒板になっていて、チョークで自由に落書きもできます。

地域の人たちが集まって、冷たいお茶を飲みながらおしゃべりを楽しんだり、子どもたちが遊んだり。夏休みには、みんなで流しそうめんを楽しんだこともありました。

パーラー公民館には、近所の子どもたちが遊びに来ます。高齢者や子育て中のお母さんたちも集まって、お茶を飲みながらあてもなく「ゆんたく」(沖縄の方言で「おしゃべり」を指す)します。

イベントも盛りだくさん。屋外で映画を観る「うみそら上映会inあけぼの」や、「ちょこっとハロウィーン」なども開催されてきました。

パーラー公民館が始まった3年間、毎年12月には、「あけぼの公園かんしゃ祭」が行われていました。公園のゴミを拾って大人と子どもがその量を競う「おそうじバトル」では、子どもたちが3年連続優勝。初年度たくさん落ちていたゴミが、3年目にはかなり少なくなっていたこともうれしいニュースでした。

(写真上)2019年の「あけぼの公園☆感謝祭」での集合写真。(写真下)2017年のワークショップで制作した「あけぼののうた」を三線の演奏で歌う子どもたちと地域の皆さん。  写真提供:若狭公民館

パーラー公民館をきっかけに、パーラー公民館に来ている子どもたちが集まって映画をつくる『ご近所映画クラブ』も開催されました。

映像作家ミシェル・ゴンドリー氏が設計し、NPO法人remo(大阪市)が開発したメディアリテラシーのプログラムを使って、誰でも3時間で映画を作れるという取り組みです。集まったみんなのアイデアを盛り込んで、一つの作品を作ります。

今回のテーマはホラーミュージカル。子どもからおばあ(おばあちゃん)まで幅広い世代が一緒に作ります。小学校が教室を提供し、教頭先生も参加しました。

映画制作は、子どもたちみんなで大切なルールを守りながら進めます。ルールは3つ。

「①みんなで決める。②必ず、時間を守る。③アドリブと再撮影の禁止」

映画の構想を練る話し合いでは時間の制約もあるのでスピード感を持って進める必要があります。

限られた時間の中でどう完成させるのか。アイデアややりたいこともどんどん出ますが、世代を超えて合意形成しながら一つの作品にまとめ上げて進めなければなりません。

子どもも大人も対等──、いや、大人はどちらかというとアシスタントかもしれません。恋愛サスペンスや大乱闘コメディなど、開催するメンバーによっておもしろい作品がたくさん生まれています。

撮影風景。この日は学校を舞台に撮影が始まりました。ご近所映画クラブではさまざまなメンバーによって10本の映画が完成・公開されています。

2年目の地域の人たちの声とは?

設置2年目には、パーラー公民館にこんな感想が寄せられています。(「パーラー公民館の2018年の評価・検証調査」より引用)

「子どもたちの遊び場が少ないので、毎週楽しみに参加している子どもたちが多くてよかった」

「公民館のない地域にも、公民館の雰囲気を味わうことができるのは素晴らしい」

「子どもたちが遊んでいるのを大人が見守る仕組みができていると感じました。また、定期的に公園に行くことができるので、公園の異変にも気づくようになったと思います」

「いろんな年代の方々と一つのものを作り上げる喜びがあり学びも多くありました」

「講座や場所ではなく『公民館』がほしい!」という熱い思い

「曙地域は若狭公民館の区域ですが、若狭公民館に来るには歩いて1時間以上かかります。近くに公民館がほしいと地域の方から要望をいただいたのですが、施設をつくるとなると予算的にもなかなか難しく、すぐにはできません。

そこで、公民館の『つどう・まなぶ・むすぶ』という機能を発揮できる場をどうすればつくれるかを考えました」

そう振り返るのは、若狭公民館の館長・宮城潤さん。若狭公民館はNPO法人地域サポートわかさが2010年度から業務委託、2015年度から指定管理者となって運営されていて、宮城さんはNPO法人の理事も務めています。

「最初、『出前講座ができますよ』とお伝えしたら、『そうじゃなくて、公民館がほしい』と言われたんです。では集まれる空間がほしいのかなと思ったのですが、すでに小学校に地域連携室というのがあった。

講座や場所じゃなくて、『公民館』がほしいと言うんです。正直、全国的に見ても公民館がこんなに熱望される地域って少ないと思うのですが(笑)、その言葉に隠された期待に、公民館の本質が隠されているんじゃないかと思いました」(宮城さん)

ニーズが言葉になるには時間もかかります。曙地域の人たちは、少し離れた若狭公民館で起こっていることをどこかうらやましく思っていたのかもしれません。その本質とは何なのでしょうか。

「いろんな世代が集まってつながって、地域の人たちで地域を作っていく。そのきっかけになる場や機会、そしてつなげる人がほしいということなんじゃないか。子どもの放課後の居場所がないのかもしれない。

月一回、その地域のまちづくり協議会に出席していたので、会議や会議の前後にいろんなおしゃべりをしながら、2年ほどの月日をかけて仮説を重ね、ようやくパーラー公民館をやってみることになりました」(宮城さん)

顔を合わせて対話を繰り返してもなかなかイメージは共有できない。じゃあとりあえずやってみるかとチャレンジしたと言います。

「普通なら、『よくわからないからやめよう』となりますが、曙地域では不思議と、『なんかわかんないけどまあやってみよう』となるんです。

曙小学校校長(当時)の真喜志昇(まきし・のぼる)先生やまちづくり協議会のみなさんがおもしろがってくださった。また、毎朝ラジオ体操を行っている『曙願寿会』会長で地域のキーパーソン、社会教育指導員の経験もある上原美智子さんが館長を引き受けてくださったことも大きかったと思います」(宮城さん)

公園にパラソルを広げたパーラー公民館の様子。近所の子どもからお年寄りまでが集まり団らんする。  写真提供:若狭公民館(冊子「パーラー公民館の3年間 2017-2019」より)

公民館は可能性に満ちている。あとはパラソルを開くだけ。

「パーラー公民館をはじめたときに意識していたのは、公民館ってまだまだ可能性があるということでした。

それぞれの公民館がその可能性をひらいて、日本全国でいろんな人が街づくりを始めたらおもしろいだろうなと妄想しています」(宮城さん)

若狭公民館では、「アートな部活動」や「パーラー公民館」以外にも、多文化共生の取り組み、防災の取り組み、子どもの居場所や体験活動などの取り組みをさまざまなクリエイティブな活動と組み合わせながら幅広く行っています。また、そのことをホームページやSNSなどでも積極的に発信しています。

「予算が必要な大掛かりな企画なども含めて幅広い取り組みをしていますが、例えばパーラー公民館は、パラソル一つでできる。

全国から視察にも来ていただくことも多く、ほかの地域でも展開しています。全国あちこちでパラソルのもとにコミュニティが生まれていくと面白いなぁと思っています」(宮城さん)

─・─・─・─・

立派な施設がなくても、予算がなくても、パラソル一つで公民館の可能性はひらきます。公民館の職員が動いてもいい。市民が先に動きはじめてもいい。

おもしろい活動には人が集まり、多様な人が集まれば、そこにアイデアが生まれ、新しい動きが生まれます。地域の活動は、子どもたちにも必要な、学校だけでは得られない交流や学びを生み出します。

ゴールや目的をあえて設定しない「遊び」のような「学び」を、世代を超えて共に楽しめる場をつくる。思いついたことを手探りではじめる。試行錯誤しながら失敗もみんなで笑い合い、また挑戦する。

こうしたプロセスは一見、遠回りに見えますが、実はそのプロセスこそが、子どもたちを育み、多世代の信頼関係を確かなものとして、本当に暮らしやすい地域をつくるひとつの方法なのかもしれません。

あなたの街でも、パラソルを開いてみませんか?

取材・文/太田美由紀

子どもが「自ら学ぶ力」を存分に発揮できる学校とは? 先進的全国の学校を取材した、教育学者・汐見稔幸(東京大学名誉教授)とライター太田美由紀の共著『学校とは何か 子どもの学びにとって一番大切なこと』(河出書房新書)

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