ニューエスト・モデル「クロスブリード・パーク」の魅力!雑種の持つ多様性とたくましさ
“雑種" の精神を象徴する「クロスブリード・パーク」
昭和の時代、家庭で飼うペットといえば犬や猫の “雑種" が多かった。我が家でも “シロ” という名の雑種犬を飼っていた。屋外の犬小屋で飼うのが一般的で、餌はドッグフードだけでなく人間の残飯も普通に与えられていた。それでもシロは元気でたくましく育っていた。しかし、マルチーズやヨークシャー・テリアなどを飼う家庭に対しては少しコンプレックスを感じていたのも確かだった。“雑種” という言葉には、どんな環境でもたくましく生き抜く力強さと、反骨精神が宿っているように思うが、最近では “ミックス” などと呼ばれ、その本質が覆い隠されているようにも感じる。
こうした “雑種" の精神を象徴する音楽が、ニューエスト・モデルのセカンドアルバム『クロスブリード・パーク』である。このタイトルは “交配種公園”、つまり “雑種” が集まる場所を意味している。その名の通り、このアルバムはラテン、ファンク、カリプソ、アイリッシュ・トラッド、ジャズなど多彩なジャンルを取り込み、中川敬の雑食性と反骨精神が詰まった作品になっている。
前作『ソウル・サバイバー』からわずか1年足らずでリリースされたこのアルバムは、音楽性は驚くほど変化している。インディーズ時代に比べるとずいぶんマイルドになりながらも、前作ではわずかに残っていたパンクバンドとしての粗削りさ、荒々しさがすっかり消え、音の厚みが増し、ホーンセクションを効果的に取り入れるなど、洗練された仕上がりだ。そして何より、このアルバムの魅力は “雑種" と呼ぶべき楽曲の多様性だ。
シングルカットもされた「雑種天国」をはじめとする多様な収録曲
冒頭の「ひかりの怪物」は華々しいホーンが印象的なファンキーなナンバーで、続く「みんな信者」は沖縄音楽の要素を取り入れている。「杓子定規」は童謡「大きな栗の木の下で」をモチーフにしたであろうアイリッシュ・トラッド調の楽曲で、イギリス民謡をあえてアイルランド音楽として再解釈する中川敬のセンスが光る。
静かなピアノと特徴的なベースラインで始まり、ラストは劇的に変化する「世紀の曲芸」や、ディストーションの効いたギターが鳴り響く「車といふ名の密室」、フィドルとアコーディオンが切ないミディアムナンバー「漂えど沈まず」などバラエティに富む楽曲が続く。アルバム中盤に収録された「偉大なる社会」は、唯一のインストゥルメンタル曲。激しいドラミングで幕を開け、壮大かつ重厚なメロディーを持つこの曲は、もし自分がプロレスラーだったなら、ぜひ入場曲として使用したいと思わせる力強さと軽快さがある。
そして、この曲からシームレスにつながるのが、アルバムの代表曲でありシングルカットもされた「雑種天国」だ。カリプソのリズムに乗せて軽快に響くホーン、激しくかき鳴らされるギターのカッティング、縦横無尽に動き回るベースライン、そして彩りを添えるピアノなど、多彩な音が “交雑” しながら、力強いメッセージを放つ。まさに “雑種" のたくましさを体現したロックナンバーである。
続く「遊園地は年中無休」は、ボ・ガンボスのDr.kyOnが奏でるピアノがフィーチャーされており、軽快なメロディーに中川節が畳みかけるように絡む。「夜更けの彷徨」は、一転して「テイク・ファイブ」のような5/4拍の変拍子を持つジャジーな楽曲であり、深夜の静寂と緊張感を描いたような雰囲気が漂う。「乳母車と棺桶」は、スローテンポのイントロからAメロで突然スピードアップし、サビでまたスローダウンするという激しい緩急が特徴的だ。
生命の始まりと終わりの対比を表現しているようにも思える。そしてラストの「底なしの底」は、8分にわたる壮大な1曲で、徐々に激しさを増しながら、ラストにはメスカリン・ドライヴのメンバーも加わり、壮大な大団円を迎える。
リリース35周年を記念してリイシューされた「クロスブリード・パーク」
これほど色合いの異なる楽曲が1つのアルバムとしてまとまっているのは、きっと中川敬の一貫したメッセージ性によるものだ。彼の歌詞には “雑種" としての悲哀や、権威に抗う精神が込められている。
人は俺をさして
夢にもたれてると
想像をさえぎっては 心を閉める
(みんな信者)
大きなビルの谷間で よく見る奴らが
小さな蟻を踏みつぶす 話してたよ
(杓子定規)
どこか俺も犯罪者みたいだな
そして君も犯罪者みたいだね
(漂えど沈まず)
巻き返しを 計るから よく見とけって気分さ
いろんな奴がいるのも
ええじゃないかって気分さ
(雑種天国)
あーこの島じゃ忘れそう
元来全てが同じということを
(乳母車と棺桶)
この『クロスブリード・パーク』は2025年4月、リリース35周年を記念して2枚組アナログ盤としてリイシューされる。ボーナストラックとして、アルバム未収録だった「秋の夜長」「雲の下(90 Single Version)」「杓子定木(Single Mix)」「外交不能性」が加わり、さらに “雑種" 度が増した作品になりそうだ。また、2024年4月からはサブスクも解禁されており、日本のミクスチャーロックの金字塔ともいえるこのアルバムを、ぜひその耳で確かめて欲しい。