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激動の時代を生きた家族を描いた『白衛軍 The White Guard』 翻訳・小田島創志、演出・上村聡史のコメントが公開

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『白衛軍 The White Guard』

2024年12月3日(火)~12月22日(日)新国立劇場 中劇場にて上演される、2024/2025シーズン『白衛軍 The White Guard』。この度、翻訳の小田島創志、演出の上村聡史よりコメントが届いた。

二十世紀ロシアを代表するウクライナ出身の作家、ミハイル・ブルガーコフの代表作『白衛軍』。1918年の革命直後のキーウを舞台に、時代に翻弄されるひとつの家族を描いた作品で、1924年に小説として初めて発表された後、1926年に作家自身が戯曲『トゥルビン家の日々』としてモスクワ芸術座で上演された。

(上段左から)上山竜治、村井良大、前田亜季 (下段左から)小林大介、池岡亮介、大場泰正

小説発表から、ちょうど100年を迎える今年、2010年に英国のナショナル・シアターで上演されたアンドリュー・アプトン版に基づき、村井良大、前田亜季、上山竜治、大場泰正、池岡亮介、小林大介ら19名のキャストによって新国立劇場で上演される。

前列左から)大鷹明良、前田亜季、村井良大、大場泰正、内田健介(後列左から)石橋徹郎、小林大介、上山竜治、池岡亮介、前田一世


翻訳 小田島創志からのメッセージ

世界各地で続く戦争は、そこで暮らす人の命を奪い、生活を破壊し、人生を狂わせる。苦しみに引き裂かれた現在において、未来を見ることは可能なのか―ミハイル・ブルガーコフの『白衛軍 The White Guard』は、その問いを我々に突きつける。
初めて本作品を読んだとき、チェーホフの『桜の園』を1918年~19年の戦時下におけるキーウに置き換えた物語だと思った。帝政ロシアの軍人とその家族。ドイツ軍と、その傀儡となっているゲトマン。ウクライナ民族主義者シモン・ペトリューラに従う軍人たち。そして革命を進めるボリシェヴィキ。様々な勢力が入り乱れ、登場人物たちは情報や情況に翻弄されていく。翻弄されながら、一人一人がそこに生きている。信念を曲げない人物、現状に怒りを抱く人物、保身に走る人物、愛する人に寄り添う人物。そうした人物たちが、時に悲しみ、時に笑い、時に弱さを見せ、時に未来を志向しながら、生活を必死に続けていく。アンドリュー・アプトン版の台本では、原作で描かれている人間模様の普遍的な側面を、巧みに英語化している。
翻訳に当たっては、アプトン版の台詞の強度やリズムの良さを、どう日本語に移植するか葛藤している。そして、約100年前のキーウに生きる人々の何をブルガーコフが描こうとしたのか、彼がウクライナやロシアをどう捉えていたのか、解釈する努力も放棄できない。多くの戦争は「平和」や「解放」という大義名分が掲げられる。その虚飾に、その暴力性に怒りを覚えながら、今まさに戦火で苦しむ人々を思いながら、『白衛軍』に向かう日々がこれからも続くだろう。

演出 上村聡史からのメッセージ

今から一世紀程前、社会の視座を大きく変えたロシア革命。時代の変化に希望を託した人々と、闘い敗れた人々。ロシア帝国期のウクライナ・キーウ出身のミハイル・ブルガーコフは、自らの体験をもとに、夢破れた反革命側の『白衛軍』を小説として描きました。そして『白衛軍』は戯曲となり、度重なる検閲による改稿、タイトルも『トゥルビン家の日々』として上演され、幾度となくナイフで裂かれた衣服のように、ソ連時代を潜り抜けました。
体制への鋭い批評性が持ち味のブルガーコフですが、本作は文筆活動初期の作品ということもあり、祖国の風景や思考を懸命に守ろうとした軍人たちとその家族の姿が瑞々しく描かれます。そして、“変革”という大義の揺れ動きのなかであっても、見つめ続けた人間賛歌と、それを押しつぶす全体構造への批評眼。
日本での上演歴がない本作を取り上げることは、いま世界で起きている、時計の針を逆戻しするような事態への畏れが大前提にありますが、現代の価値観を見つめるのと同時に、先人たちが日々の生活から培った想像力に、いま一度、敬意を示す必要がある気がします。それは、社会を良くするためというエクスキューズによって生まれた理性の文言ではなく、日々の暮らしや他者との生活で培われた感性から生じた想像力。
果たして、現代に生きる私たちは、先人たちの未来に託した思いを受けとめて、世界を歩めているのか。私たちの生活は、いまや未来に限らず、過去が培った想像力を破壊しているのではないか。近代戯曲といわれる古い作品ではありますが、現代に怒りを覚えながら、“変革”という裂け目に、己の信念にさえ疑念を投げかけながらも、まだ見ぬ未来に光を見出すために生きもがいた人々の声を、劇空間に届けたいと思います。

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