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「ゲイだとバレてしまうかも」LGBTQ+当事者が語る、日常会話をも"自己検閲"することの息苦しさ

OTEMOTO

毎年6月は、世界各国で性の多様性を称える「プライド月間」。各地でLGBTQ+など性的マイノリティの権利を啓発する活動が行われます。東京・渋谷で開催されたトークイベントには、それぞれバックグラウンドが異なる人々が登壇。性的マイノリティを含め、多様性のある社会の実現に必要なことを考えました。

東京・渋谷では2024年6月5日、「ダイバーシティ・ブートキャンプ」と題したプライド月間記念イベントが開催されました。シェアオフィスなどを展開するJustCo Japanと、ジェンダー平等を推進する「一般社団法人あすには」が共催。1日目に開催されたトークイベントでは、LGBTQ+当事者をはじめバックグラウンドが異なる登壇者たちが多様性のある社会のあり方について語り合いました。

野口晃菜さん
写真提供:一般社団法人あすには

「ダイバーシティ」や「多様性」という言葉のとらえ方について、一般社団法人UNIVA理事で、障害科学博士として学校教育現場にも携わる野口晃菜さんは、「単に『多様な価値観の人がいる』というだけではなく、意思決定の場にさまざまな人が立てる社会にするための考え方」だと話します。

「社会はマジョリティ(多数派)を中心につくられているため、マジョリティには当たり前に保証されていることが、マイノリティ(少数派)には認められていない場合が多々あります。そのために必要なのが『多様性』、属性による格差を是正する『公正性』、そして、さまざまな属性の人が安心して社会活動に参加できる『包括性』の3つなのです」

誰もがマイノリティになり得る

また、ひとりの人でもある部分ではマジョリティ性があるけれど、ある部分ではマイノリティ性もあるという、「インターセクショナリティ(交差性)」は誰にでもありうると野口さん。

「ひとつの属性だけを見てその人がマジョリティかマイノリティかを判断できるわけではありません。例えば、障害があり、女性であるという場合の抑圧や障壁の高さは想像に難くないでしょう。一方で、私は障害科学を専門としている女性なので、この2つの分野についての”解像度”は高いものの、その他のマイノリティについては低いかもしれません。このような当事者以外の分野についての認識の差は、おそらくみなさんにもあるのではないでしょうか」

このイベントを共催した一般社団法人あすにはの代表理事、井田奈穂さんも自身の経験を元にインターセクショナリティについて振り返ります。

「学生時代、おそらく性的マイノリティと思われる同級生を嘲笑する輪のなかに入ってしまったことがあって。今でもとても後悔しているし、 やるべきではなかったと考えていますが、当時を振り返ってみると、『性自認が一致している異性愛者』というマジョリティ性を振りかざしてしまっていた気がします。夫婦別姓など女性差別を是正することに関しては理解しているつもりでも、自分がマジョリティ性があるものに対してはすごく鈍感だったと思いますね」

井田奈穂さん
写真提供:一般社団法人あすには

マイノリティのにもあるマジョリティ性

こうした声に対し、「マイノリティ性のあるLGBTQ+当事者間であってもそれはありうる」と話すのは、認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表の松中権さん。ゲイであることを公表している松中さんですが、今でも悔やんでいる自身の発言があるといいます。

「性自認について悩んでいた幼少期はトランスジェンダーという言葉も知らず、『男の子が好きということは自分は女の子なのかな』と思っていた時があったんです。当時のことを講演などで話した際、私は権という名前なので、もし女の子だったら…という想定で、『権◯と女の子らしい名前をつけてみたけれど、いっこうに女の子っぽくならない』と冗談を交えて話したことがありました」

講演後、松中さんに声をかけてきた人がいたといいます。

「その方は、『いい講演だったけれど、名前のくだりは話さないほうがいいと思う』と言うんです。理由を尋ねると、『こどもがトランスジェンダー当事者で、性別が想起される自分の名前について深く悩んでいた』と。LGBTQ+について話をしてるし、もちろんトランスジェンダーについても理解しているつもりだったけれど、自分のネタだからと笑いにしようとするとき、 もしかしたら誰かを苦しめているかもしれないと感じたエピソードでした」

松中権さん
写真提供:一般社団法人あすには

企業や団体とも対話を重ね、LGBTQ+が生活しやすい社会の実現に向け活動している松中さん。イベント参加者からは「多様性を尊重する社会の実現のため、どのようなマインドセットを行えばいいか」といった質問も寄せられました。

会社員として働き始めて10年目のタイミングで職場でのカミングアウトをした松中さんは、自身の経験とともに次のように話します。

「周囲から『LGBTQ+の方はなぜカミングアウトをしたがるんですか?』と聞かれることもありますが、『カミングアウトをしたいというよりも、周りの人たちと同じように暮らしたいだけなんです』と答えています。例えば、『妻が体調を崩しているので早退します』という何気ない発言は、異性愛者で結婚しているということをカミングアウトしているのと同じことですよね。当事者は、職場での何気ない会話でも『これを言ったらLGBTQ+だとバレてしまう』と、自分の言葉に毎回”検閲”をかけて、これは言っていい、これは言ってはいけないという風に話す生活を送っていると説明しています」

対照的に、カミングアウトによるポジティブな変化についても話し、多様性についての理解を深めてもらうことを心がけていると松中さんは言います。

「ストレスなく何気ない日常会話をできるようになり、私自身は同僚との信頼関係を築くことができたと感じています。仕事における信頼関係は、個々の能力だけではなく、考え方や価値観を日常会話などを通して知ることで得られるものだと思うんです。カミングアウト前は”検閲”によってそうしたコミュニケーションができなかったので、自然と人と距離を取っていたような気がしますし、周囲からも『よくわからない人』と捉えられていたように思います。カミングアウト後、同僚から『こんな風に笑うんだね』と言われたくらいです(笑)」

松中さんは、こうしたカミングアウト前後の実体験をさまざまな人に共有しています。

「その後は仕事も楽しく感じられて自分自身のパフォーマンスもアップした気がしますし、その影響で会社やチームへの貢献度も高まったと思うんです。カミングアウトが必須ではないですが、当事者が話しやすい職場環境をつくることは、パフォーマンスを引き出すことにもつながるということはお話するようにしていますね」

動く歩道で逆行する

能條桃子さん
写真提供:一般社団法人あすには

こうした意見をふまえ、一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN代表理事/FIFTYS PROJECT代表の能條桃子さんは、マジョリティと社会の意識を変えていくことについて、身近なものに例えて話します。

「これは野口さんが以前話されていたことなのですが、マジョリティは例えるなら『動く歩道』だということです。そもそも進み続けている動きに加担しないためには、自ら逆行するしかない。今でも気づけていないことはたくさんありますが、格差に気づき変えていきたいと思ったら流れに逆らうしかないんです。そうしないと既存の社会構造は変わっていかないと思うので、これからも逆行して走る仲間が増えていったらいいですね」

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