筋金入りの偏食に変化が!?発達障害の娘たちと挑戦!初心者でもできた家庭菜園・ポタジェづくり
監修:新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
偏食改善に取り組んで数年……
ASD(自閉スペクトラム症)の診断済みで、療育手帳は中度判定の長女・まゆみ。1歳頃からバリバリの偏食児でしたが、長年のトライ&エラーの結果、少しずつ食べられるものの幅が広がってきました。味付け・食感・温度などにこだわりがあり、今も給食は残してしまうことがほとんどですが、それでも家庭の食事で「これで大丈夫」と思えるほど栄養が摂れるようになったのは目頭が熱くなる進歩です。
一方、次女・あずさは、「好き嫌いが多い」という程度の偏食。食べられるものも多いのであずさ単体で見るとあまり困らないのですが、食の好みが長女とは全く違うことには参ります。麺類を例に挙げると、まゆみが食べられるのはうどん、そば。あずさが食べてくれるのはそうめん、ラーメン。二人が共通して食べてくれるのはトマトソースのパスタくらいです。
毎日のごはん作りに苦慮し、「食べられる食材を……増やしたい……!!」と試行錯誤してきた中、やってみて良かったのが『ポタジェ』を庭につくったことでした。
めざせ、憧れのポタジェ
ポタジェとは、野菜・果樹・ハーブ・草花などを混植したフランス式菜園のこと。実用にも観賞にも役立つという特徴があります。そして、まずはこれをお伝えしておきたいのですが、私はサボテンを枯らしたことのある人間です。おまけに大雑把でうっかりした性格……どう考えても園芸には向いていません。しかし、それでもポタジェをつくりたいと思った理由はいくつかありました。
全部が「~かも」という程度のフワッとした動機でしたが、ちょうどわが家にはそれを試せる4m四方のこぢんまりとした裏庭がありました。ずっと放置していたため雑草と虫のパラダイスになっていましたが、ポタジェづくりのために一家全員で草抜き開始。
途中から子どもたちは土遊びに変わっていましたが、とにかく同じ場所にいて楽しんでいてくれたらOK、まずは裏庭を楽しい場所だと思ってもらうことからです。
次に、畑づくりにはレンガで区画を分ける方式を採用しました。レンガなら、モルタルを使わなければ後からどうとでも変更できますし、子どもたちにも「こうじげんばごっこ」の感覚でお手伝いしてもらえます。
早速ホームセンターでレンガを買ってきて子どもたちに運んでもらうと、まゆみの勤勉さが光っていました。早々に独自路線へカーブを切るあずさを尻目に、まゆみは一人黙々とレンガを運び続け、キッチリと指示のとおりに並べていってくれます。「こんなに戦力になってくれるのか」と感動してしまいました。
冬の間、保育園から帰った後に畑づくりを少しずつ進め、春植えの時期になる頃にやっと念願の畑ゾーンができました。
初めての野菜づくり
まだ家庭菜園を始めてわずか1年半ではありますが、その間にいろいろな作物に挑戦しました。
レンガ積みと並行しながら初めて植えたラディッシュを皮切りに、春植え野菜はミニトマト、ピーマン、リーフレタス、スイカ、オクラ、サツマイモ、ニラ、イチゴ。秋植えには、サラダホウレンソウ、タマネギ、スナップエンドウ、スティックセニョール、ミニダイコン、ニンジン、コカブ、春菊、ネギ、そして二度目のラディッシュ。さらに今年の春は昨年のラインナップにミニカボチャを追加しました。
コンパニオンプランツや果樹、花、ハーブ、キノコを合わせるともっとたくさんで、初心者でも育てやすそうなものには果敢に挑戦しています。一部あずさのリクエストによる冒険枠もありますが、「これは難しいんだよなー、育つかなー」と言いながら成長を見守るのもまた楽しいもの。
特に、ミニトマト、ピーマン、ラディッシュ、スナップエンドウは種から育てたので子どもたちはいっそう愛着が湧いたようです。栽培ポットへ種を蒔き、毎日まだかまだかと見守る中でようやく芽が出た時は、まゆみもあずさも飛び上がって喜んでいました。
特にまゆみは、種を蒔いている時からずっと頭の上に「?」が浮かんでいたのが、小さな芽を見て何かがつながったようです。走って傘を持ってきたと思ったら、某国民的アニメの発芽シーンでのダンスを踊り始めました。面白いやらうれしいやらで涙の出る私を横に置き、本人はアニメのように爆発的に成長しないことにまた不思議そうな顔をしていました。
こうして裏庭に出る毎日を過ごすうち、まゆみが長靴を見せて畑に行きたいアピールをするようになり、やがて滅多に喋ろうとしない口から「はたけ、いこー」というお誘いが聞けるようになりました。私も子どもたちもそれぞれに家庭菜園を楽しんでいますが、花を愛で、葉を撫でる様子からはまゆみの植物への愛情を感じます。たまに誤って苗を踏んでいることもありますが……。
収穫!ポタジェの一年で子ども達にあった変化
季節の移り変わりとともに、子どもたちには多くの作物の収穫を経験してもらいました。
お弁当には、手頃な大きさになったピーマンを選んでもらってパチリとカット。サラダにする生野菜が足りない時にはリーフレタス。外側から一枚ずつ豪快にバリッ。大事に大事に育てた小玉スイカをいよいよ割ったら、中身が黄色くて二人に警戒されたことも。成長スピードが速く、すぐに皮が硬くなってしまうオクラに対してあずさが怒りの声を上げていたり。根菜類を掘り上げるのが二人とも好きで、「今日は○○を収穫するよ!」と声をかけると競い合って裏庭へ……。
夏の盛りには、小さなカゴを手にした子どもたちが先を争って赤く色づいたミニトマトを狙うのですが、まゆみの手さばきの見事さには舌を巻いてしまいました。勤勉さと正確さにかけては大人を含めてもまゆみが一家で一番なくらいで、気軽に始めたポタジェから思いがけずまゆみの農作業への適性を見出すことになりました。
楽しかったのは作物の収穫だけではありません。レモンの若木に何かの幼虫がいたため、調べてみるとキアゲハの幼虫であることが分かりました。早速あずさと一緒に5匹捕まえ、虫カゴで育てて羽化まで観察したことも。
またある時は、コモンマロー(ウスベニアオイ)の花で作ったハーブティにレモン汁を垂らして紫からピンクへの色の変化を楽しんだり、たくさん植えたハーブ類の匂い当てゲームをしたり、グランドカバーに植えたシロツメクサから四葉のクローバーを探してみたり……。何でも素材にできる実験場のようなもので、好奇心の強いあずさは目をキラキラさせながら遊んでくれます。ポタジェで時間を過ごすうち、わが子それぞれの良いところ、良い表情がたくさん見られたことは私にとっても大きな収穫でした。
そして、肝心の偏食への効果について……!
元から食べてくれるピーマン、サツマイモ、イチゴのほか、なんと二人とも新たにミニトマト、レタス、スナップエンドウ、サラダホウレンソウ、スティックセニョールを食べてくれるようになりました!!
自分で育てたことが安心感になったのでしょうか、庭から採ったばかりの新鮮な野菜を食べられるのは嬉しかったようで、パクパクと口に運ぶ様子にまたまた泣いてしまいました。特にミニトマトは二人の中で「好物」と呼べるまでになり、生のまま半分に切って出すと一山を食べてくれるほど。食べない野菜も未だに多いですが、一年目でこの成果。期待しすぎず期待して、二年目の畑作に取り掛かっています。
ASD(自閉スペクトラム症)の人と農作業には親和性がある?
園芸や農作業と相性が良いのは、まゆみに限った話ではないかもしれません。農作業は、ASD(自閉スペクトラム症)の人が安心感を持つと言われる「ルーティン」と「秩序」の積み重ねです。トマトの苗にピーマンがはえるようなことはなく、結果は予測可能で、トラブルさえなければ収穫という達成感が味わえます。就学相談の際に訪れた特別支援学校にも学生用の立派な菜園があり、たくさんの夏野菜を育てていました。
近年は、農作業がASD(自閉スペクトラム症)の人に与える好影響について海外で複数の研究報告がされており、これまで経験則で「取り組みやすい」とされてきた農作業の有益性が示唆されています。
また日本においては、農林水産省が農福連携(農業と福祉の連携)を推し進めており、神経発達症の方々の就労支援や職業訓練の場としての農業が広がりを見せています。先のことは分かりませんが、農作業に慣れておくと将来的に就労に繋がる可能性も0ではないかもしれません。
スペースがなくてもポタジェづくりは可能!
大々的にやっているように見えるかもしれませんが、わが家の裏庭は5坪にも満たない16平米。畑ゾーンはその半分ほどですし、決して広くありません。おまけに午前中は光が当たらない半日蔭の土地で、栽培に当たり好条件でもないのです。それでもこれだけ楽しめるので、意外とポタジェづくりのハードルは高くないように思いました。
ベランダでプランター菜園をしたり、室内でハーブポットを育てている人も多くいます。庭がなくても、矮性品種を選べば鉢植えで果樹栽培だってできますし、レンタル農園で週末だけ土いじりすることも可能です。なんといっても、病害虫に強くて育てやすい品種を選び、栽培に適した土を買いさえすれば、私のようなズボラなタイプが放置気味に育てても何とかなることが分かりました。家庭菜園に憧れを持っているけど踏み出せない……という方は、ぜひこの事実に勇気をもっていただければと思います。
『ポタジェ』に見つけたインクルーシブ
前述のとおり、『ポタジェ』とは野菜・果樹・花・ハーブなどが混植された、いうなればごちゃ混ぜの庭のことです。
突拍子もない考えかもしれませんが、見た目も育ち方も違う植物が隣り合い、同じ場所で共存して、それぞれが花を咲かせたり、実をつけたり、葉を揺らしたりと「自分らしく」ありながらも、互いに調和を保ちながら育っていく様子には、「インクルーシブってこういうことかも」という思いが湧いてきます。
調和の取れたポタジェにするには配置が肝心で、無秩序で運営できるわけではありません。「相互に作用し合う調和のとれた庭をつくりたい」という目標が最初にあって、そのためには個々の植物の特性を最初に知り、自分の庭の事情に合いそうなものを選別し、空間においても時系列においても植物同士の相性を考える必要があります。具体的には、作物を育てていた土には後作に問題の出ない別の科の作物を植えたり、虫除けや受粉、生長に良い影響のあるコンパニオンプランツを混植したりといったことで、作物の数が増えるほど頭を絞る作業になります。
私はこうした考える作業は好きでも、継続力に問題のあるタイプ……。けれども、最初にそれぞれの特性に配慮して配置してあげれば、それなりに育ってくれるんだなぁ、というのがトライしてみての感想でした。私がやっていたのは、子ども任せの水やりと、たまの剪定に木酢液の散布、害虫や猫に忌避効果のあるハーブの葉をちぎって時折パッパッと撒くくらい……。白状すると、管理がまずくて枯らしてしまったものもあるのですが、そうした枯れた草木でさえ、ポタジェの隅の堆肥コーナーで分解され、次の年のための栄養となってくれる自然の循環にひたすら感動しています。
人は植物とは違いますが、少し似たところがあるような気がします。自分の体質、特性、得意不得意、心の動き方のクセなどを知り、相性の良い相手と一緒に過ごすことが生きやすさにつながるのかもしれません。
小さなポタジェの中、それぞれに個性の強い子どもたちと、これからも一緒に楽しみを見つけていきたいと思います。
執筆/にれ
(監修:新美先生より)
ご家庭でのポタジェづくりと、それに伴うお子さんの変化、また「ポタジェ」自体についても詳しく教えてくださりありがとうございます。ポタジェのことは全然知らなかったのですが、ごちゃ混ぜ菜園からインクルーシブにつながる表現には、なるほどー!!!と膝を打ちました。とっても素敵ですね。
偏食の強いお子さんと、野菜栽培や釣りなどをいっしょにすることで、食材に興味を持ってもらうアプローチをすることがあります。偏食のなかには、見慣れない食材に不安を抱いて食べられないという場合もあるので、育っていく過程を目の当たりにすることで、食材に興味や愛着がわいて、「食べてみよう」と思うきっかけになることが期待できますね。大切なのは、それでも苦手なものは苦手ということがあることです。栽培を一緒にして楽しんだけれど、偏食はなくならないということもあるかもと思いつつ、1個でも食べられるものが増えたらラッキー♪食べられるものが増えなくても、栽培の過程自体を楽しめたらラッキー♪ぐらいのつもりでやってみるぐらいがいいかもしれません。
にれさんも、まさに「~かも」「~かも」の精神で始めてみたところ、作業自体も楽しめて、食べられる食材も増えて、憩いの場にもなってとってもよかったですね。お子さんへのメリットももちろんですが、にれさん自体の気分転換にもなっていそうです。家族みんなで楽しめる趣味が増えたみたいですね。
家庭菜園って、手間がかかりそうで忙しい子育ての中でなかなか手が出せないことではありますが、思い切ってやってみることで自然の育つエネルギーに触れ、大地の恵みを体に取り込むことを実感できて、とっても素敵ですね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。