介護職員が働きやすい職場環境づくりで内閣総理大臣表彰!現場改革と成功の秘訣とは?
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現場職員一人ひとりの努力の結果、内閣総理大臣表彰を受賞!
執筆者/専門家
伊藤 浩一
https://mynavi-iryofukushi.jp/media/users/14
私が施設長を務めます茨城県水戸市の特別養護老人ホームもくせいは、令和7年度「介護職員の働きやすい職場環境づくり」において、内閣総理大臣表彰を受賞いたしました。
この受賞は、現場職員一人ひとりの努力、そして地域やご家族の支えの結果です。同時に、単なるICT導入ではなく、「危機感の共有」→「現状の洗い出しと棚卸し」→「テクノロジーを手段として活かす」という地に足のついた実践を評価いただいたと考えています。
そして何より、導入に失敗しながらもあきらめずに改善を重ね、成果につなげた姿勢こそが最大のポイントであったとフィードバックも受けました。
受賞にあたり、取り組み内容を多くの人に伝えてくださいとのお話を厚生労働省からいただきましたので、この場をお借りしてポイントをお伝えいたします。
1.危機感を共有する
2040年問題と介護人材不足
厚生労働省の推計では、2040年に介護人材は約57万人不足するとされています。さらに、介護労働安定センターの調査(令和6年)によると、介護職員の平均年齢は48.7歳。こうした状況を「国の問題」ではなく「自分たちの現場の課題」として捉えるために、まずは全職員で危機感を共有しました。
※参考:厚生労働省介護人材確保の現状について
【実例】データを用いた現場の意識改革
具体的には、朝礼や研修の場で、生産年齢人口のグラフを提示し、「今までの職員数を維持し続けるのは無理」「変わらなければ施設を維持できない」ことを率直に話し合いました。
危機感を「押し付ける」のではなく、「共有する」ことからスタートしたのです。
2.失敗から学んだ「課題のずれ」
補助金活用とICT導入の失敗例
実は、もくせいの取り組みは、最初からうまくいったわけではありません。かつて私は「職員の負担軽減のために」と補助金を活用し、パワースーツやリフトを導入しました。
しかし結果は、ほとんど使われずに倉庫で眠る機器がいくつもありました。そして、その原因は明確でした。
施設長と現場の課題認識のずれ
私(施設長)は「腰痛対策」や「負担軽減」という課題意識を持っていましたが、現場職員が感じていたのは「利用者さんともっと話したい」「外出を増やしたい」といった「心のケア」への想いでした。つまり、課題の出発点がずれていたのです。
現場にとって、その機器は「自分たちが本当に解決したい課題」の手段ではなかったのです。この経験が、私たちの意識を大きく変えました。導入前に現場の声を聞くこと、そして現場と課題をそろえること。この地道な対話こそが、働きやすい職場づくりの第一歩だと痛感しました。
3.洗い出しと棚卸しで、現状を見える化する
全職員アンケートと1on1ヒアリング
そこで次に取り組んだのが、「洗い出し」と「棚卸し」です。 これは、厚生労働省が生産性向上の要として示している考え方で、もくせいではこれを現場主体の現状分析として位置づけました。
まず、全職員アンケートと1on1ヒアリングを実施し、「今困っていること」「時間を取られている業務」「理想の働き方」などを丁寧に聞き取りました。
その結果、「夜勤帯の業務負担が大きい」という共通課題が浮き彫りになりました。
タイムスタディによる業務の数値化
しかし「感覚」だけでは改善できません。 各フロア夜勤職員3名が10分単位で業務を記録する「タイムスタディ」を行い、どの作業にどれだけ時間を使っているかを数値化したところ、以下の事実が明らかになりました。
●排泄介助や巡視の回数・所要時間に職員間で差がある
●夜勤中に清掃・補充など日勤で代替できる業務が含まれている
●「決まった時間に動く」慣習が根強く、利用者さんの状態変化に十分対応できていない
この「現状の見える化」が、次の改善の出発点になりました。
4.テクノロジーを課題解決の手段に
データ活用で現場に納得感を持たせる
課題を明確にした上で、改めてテクノロジーの活用方法を検討しました。「眠りスキャン」の機能を離床センサーではなく、心拍数、呼吸数を把握できる機器と位置付け、従来の「定時巡視・定時排泄介助」から、「利用者さんの覚醒に合わせたケア」に切り替えました。
その結果は劇的でした。排泄介助時間は180分から90分へ半減、巡視時間も約53分から半分に削減することができました。さらに、利用者さんの安眠が守られ、夜勤職員からも「体が楽になった」「記録や対話に時間を使えるようになった」という声があがりました。
職員たちの自発的な行動が見られるように
重要なのは、機器を使ったことではなく、データが「職員の実感」を裏づけたことです。「自分たちの声が数字で証明された」と感じた職員たちは、自発的に次の改善策を考えるようになりました。
この循環が、「職員が自ら考え、動く組織」を育てていったのです。
5.小さな範囲で始めた成功を、少しずつ広げていく
ユニットで試行し、全体に展開
改善は、いきなり全館で始めたわけではありません。
まずは4階の1ユニットをモデルにして小さく試し、成果を共有しながら全体へ広げていきました。
失敗を責めずに学び合う組織づくり
失敗を責めずに学び合う姿勢が広がると、職員間の対話が増え、組織全体に「できることから始めよう」という前向きな風土が定着しました。
働きやすさとは制度や設備のことではなく、職員が安心して挑戦できる文化の中から生まれる。それを実感しています。
最後に:学び続ける職場が働きやすさを作り上げる
今回の受賞で改めて感じたのは、働きやすい職場とは、学び続けられる職場であるということです。
テクノロジーは人に代わるものではなく、人を育てるための手段。危機感を共有し、現状を見える化し、失敗を恐れず挑戦し続ける。その積み重ねが、職員の誇りと働きやすさを生み出します。テクノロジーが人を支え、人が現場を動かす。
この循環こそが、令和7年度「介護職員の働きやすい職場環境づくり 内閣総理大臣表彰」で評価されたと考えています。とはいえ、まだまだ解決しなければならない課題も山積しています。みなさんからご指導いただきながらこれからも小さく一歩ずつ前進していきたいです。
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