<身近な魚>と<海の中の芸術品> 毎日見ていても飽きない水辺の生きものたち【私の好きなサカナたち】
Webメディア『サカナト』には様々な水生生物好きのライター(執筆者)が所属しています。そんなライターの皆さんが特に好きなサカナ・水生生物について自由闊達に語らう企画「私の好きなサカナたち」。今回はサカナトライター・海渡里子さんによる「私の好きなサカナたち」をお届けします。
海や川、湖沼、干潟など水辺に生息する様々な生物は星の数ほど種類があり、またそれぞれに特化した生態も限りなく多種多様です。
人ひとりの一生では知り尽くすことなど不可能です。その生物のどれひとつをとっても、人の生態からは想像もし得ない特徴があり好奇心をそそられます。
私は生きもの好きが高じて、近隣の水辺における調査に長くボランティアとして参加してきました。その活動を通じて様々な水生生物に出会うことができ、「好き」という気持ちがどんどん増して今に至ります。
身近な環境に棲息する<マハゼ>がかわいすぎる
身近な場所での活動で知り、触れて、そして愛情を持つまでになった魚のひとつがマハゼです。
ハゼは実に種類が多く、素人には区別がまったくつかないものばかり。わずかな頭部の形の違いや体の幅や色などを手掛かりに判別しますが、またこれもハゼ観察の醍醐味のひとつです。
関東でも比較的簡単に出会うことができるマハゼは、プクッとした唇を携えた堂々とした受け口で、ハゼ類の中でもひと際目立つ可愛らしさです。
通常は1年ほどの寿命のようですが、時々冬を越した2年目の個体も目にします。
かつて、20センチ近くまで大きくなったマハゼを手に取ったことがあるのですが、そのどっしりと逞しい重量感と躍動感を手の中で感じ、ハゼと一瞬心でつながったような特別な感覚を味わうことができました。
そのマハゼは写真におさめることができたので、ポストカードにして仕事場の机にずっと飾っています。
そのポストカードがきっかけとなり、10歳も年齢の離れた若手社員と交流が生まれ、今はもう1人の別の社員も加わって、会社で釣り部を結成しました。そして週1回ほど、近くの隅田川でランチフィッシングを愉しんでいます。
1年以上の部活動の中で1度だけ5センチに満たないほどのアシシロハゼが釣れ、昼に釣りをするという何とも無謀な私達を励ましました。マグロでも釣り上げたかのように嬉しかったです。
そしていつか、部の目標であるクロダイを釣り上げる日を夢見ています。
海の芸術品<カイロウドウケツ>
干潟での活動経験が多いことから、マハゼの他にも、エビやカニ、貝など語りたい生物が目白押しですが、中でも紹介したいのがカイロウドウケツです。
生きている姿は海中でしか見られないので、実物を目にしたことはないのですが、数年前に関西のとあるサイエンスショップで標本が販売されているのを目にしたときは、どんな有名人を見かけるよりも何倍も驚き興奮しました。
ショーケースの中に数体あったうち一番形の気に入ったものを購入し、それ以来ケースに入れて部屋に飾り日々愛でています。仲睦まじいことを表現するときに使われる言葉「偕老同穴」の語源でもあります。
その中に生息するカイロウドウケツエビは一生をこの海綿動物の中で終えます。ガラスの城に住む小さくて綺麗なエビです。
海の中で移動することもないこの生物ですが、標本を手にすると分かる髪の毛よりも細い糸のようなガラス状の繊維が見事なまでに規則的に螺旋を描いて、その体を作っています。その構造美はどんな工芸品や美術作品にも劣らないので、見ていて飽きることがありません。
このような生物が人知れず大海の中にひっそりと漂っていることを想像するだけで、頭がくらくらすると同時に、胸には熱いワクワクとした気持ちが溢れ自然と口角が上がってしまいます。
水辺が好きです。そしてそこに棲むありとあらゆる生物が、キラキラと輝いて私の心を掴んで離しません。
(サカナトライター:海渡里子)