【ミリオンヒッツ1995】シャ乱Q「ズルい女」エロさに満ちた “歌謡ロック” 不朽の名作!
リレー連載【ミリオンヒッツ1995】vol.5
ズルい女 / シャ乱Q
▶ 発売:1995年5月3日
▶ 売上枚数:145万枚
東京では思うように芽が出なかったシャ乱Q
1990年代の音楽シーンには夢が溢れていた。令和の今日、若者たちがYouTubeやTikTokで一旗上げようと野望を抱くように、90年代において “バンドマン” は憧れの象徴的存在だった。
大阪府出身。つんく♂率いるシャ乱Qもまた、そんな音楽の夢を追いかける若者たちだった。彼らの初ヒットナンバー「上・京・物・語」には、夢を叶えるために上京する若者と、地元に残る恋人との切ない恋愛模様が描かれている。まさに彼ら自身の境遇と重なるような内容だ。
大阪城公園でのストリートライブ、通称 “城天” で絶大なる人気を誇ったシャ乱Qも、東京では思うように芽が出なかった。デビューから1年半、契約更新を勝ち取るためにも結果を求められる立場に迫られた彼らは、起死回生をかけて「上・京・物・語」を生み出し、これがスマッシュヒット。首の皮を繋いだのである。
知名度を高めたのは次々作「シングルベッド」だった。初登場28位とスタートこそ控えめながら、徐々に支持を広げ、発売から5ヶ月後の1995年3月に自身初となるトップテン入り。いよいよブレイク前夜かと期待される中、同年5月3日に待望の新曲をリリースした。7作目のシングル「ズルい女」である。
怪しくもゴージャスな雰囲気が漂う「ズルい女」
“パララパラララパラッパ” という、イントロの小洒落たサックスは米米CLUBの “フラッシュ金子” こと金子隆博によるもの。つんくのシャウト、はたけの軽妙なカッティングギターが絡み、世にも妖艶な世界が幕を開ける。まるでキャバレーに足を踏み入れたような、怪しくもゴージャスな雰囲気が漂う。
Bye-bye ありがとう
さよなら 愛しい恋人よ
あんたちょっといい女だったよ
その分ズルい女だね
小刻みに体を揺らしリズムを取るボーカルのつんく。その歌い出しは、J-POPというより歌謡曲の世界観に近い。ポップソングの二人称は “君”、“あなた” が主流だが、「ズルい女」では “あんた” が使われているのも特徴的だ。愛と憎しみ。別れと未練ーー いかにも歌謡曲的かつメロドラマ風なドロドロしたエッセンスに、つんくの鼻にかかった甘いボーカルが重なる。どれもこれも爽やかなポップソングではお目にかかれそうもないケレン味に溢れている。クセが強い!
Wo, 気持ちいいこともそう
真珠もそう あんたのため
Ah, 高級レストランもそう
花束もそう あんたのため
散々貢がせといて、今夜の “僕” のバースデイに連絡もよこさない “あんた” への不満が歌詞には表現されている。気持ちは分かるが、愛の大きさを貢いだ金額で表す時点でこの男、紛うことなき “ダメ男” である。そう、「ズルい女」は大人の恋模様を描きつつも、洒落た大人の歌どころか、女々しい男の未練を歌った歌なのだ。
“情けない男像” を赤裸々に
男目線の別れ歌といえば「酒と泪と男と女」(河島英五)のように、昭和の男は1人で辛さをぐっと呑み込むのが美徳だったが、平成の男はさにあらず。「ズルい女」では、様々なプレゼントを贈ったのにフラれてしまう、いわば女に振り回される “情けない男像” を赤裸々に歌っている。これは従来の歌謡曲、ポップスにはあまり見られなかった、平成型の新しい男性像と言えよう。女性の立場が強くなるにつれ、相対的に男性が弱くなるのは自然の理である。そうした社会変化に目をつけ、音楽で表現したつんくの鋭い観察眼に驚かされる。
でも Want you Hold you Get you
Kiss you Miss you Need you
僕のあんたへ
「ズルい女」の白眉は、この2番Bメロにある英語フレーズの連なりだと思う。作詞をおこなう際にアーティストは1番と2番の字数を合わせたり、韻を踏ませることにエネルギーを注ぐわけだが、つんくは型にはまらない自由な発想で歌詞を紡いでゆく。
1番のBメロでは “来ない” というフレーズを繰り返しているのに対し、2番では「♪Want you Hold you Get you Kiss you Miss you Need you」と英語のフレーズを連ねている。シンプルな日本語フレーズとの対比に、複数文節の英語フレーズをねじ込み、小気味いいリズム感を生み出す超絶技巧は見事だ。5連発の「♪来ない 来ない 来ない 来ない 来ない」もなかなか斬新だが、同じような語感を持ちながらも意味の異なる英語フレーズを並べる発想は尋常でない。
約145万枚という大ヒット作
周知の通り、つんくはその後モーニング娘。をはじめとしたハロー!プロジェクトを立ち上げ、常識にとらわれないトリッキーな作風で一世を風靡することになるが、その才気は既にシャ乱Qの活動を通して芽吹いていたことが分かる。
「ズルい女」は売れに売れた。初登場9位から浮き沈みを繰り返しながらセールスを伸ばし、最終的には約145万枚という大ヒット作となった。シャ乱Qはたちまち表舞台に躍り出た。テレビにも積極的に出演し、ギラギラしたド派手なルックスと軽妙なトークでたちまちお茶の間の人気者となった。
彼らの音楽シーンでの立ち位置は、かなり独特だった。化粧をしていても女装ではなく、ビジュアル系ともあきらかに性質が異なる。端的にいえば “ゴージャス” だが、セレブリティな洗練された豪華さというよりは、むしろ大阪のおばちゃん的なコテコテ感の方が強い。
音楽面では、その風体からデュラン・デュランやデヴィッド・ボウイに影響されたグラムロックのフォロワーかと思わせながらも、歌謡曲テイストの「ズルい女」をファンキーに演奏し、かたや「シングルベッド」のようなバラードもしんみりと歌い上げる。さらにはおふざけに振り切った「ラーメン大好き小池さんの唄」なんて楽曲も持っていて、とにかく多種多彩。この掴みどころのなさこそが、シャ乱Qの最大の特徴だった。
エロさに満ちた “歌謡ロック” 路線
当時の音楽シーンひいてはバンドマンの間ではレディオヘッド、オアシス、ブラーを筆頭としたUKロックのトレンドが押し寄せるなど、多様化の一途をたどっていた。シャ乱Qはそうした潮流には目もくれず、独自の音楽性を磨き上げたバンドだった。とりわけ、まとわりつくようなエロさに満ちた “歌謡ロック” 路線は、彼らの十八番と言ってもいいだろう。
その代表曲「ズルい女」は、歌詞、メロディ、アレンジ、そしてボーカルに至るまで、あらゆる要素においてシャ乱Qらしさが炸裂した不朽の名作である。