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オレたちの心を盗んだルパンは燃え続ける

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観ているだけでワクワクが止まらない大活劇ーー国民的アニメシリーズ『ルパン三世』。主人公・ルパンの少年時代が描かれる『LUPIN ZERO』への思いを、酒向大輔監督と、野﨑康次プロデューサーに聞いた。

『ルパン』をやりたくてアニメ業界に入った酒向大輔が初監督を務める

原作:モンキー・パンチ ©TMS

作品やキャラクターが好きになればなるほど、その世界を構築するバックグラウンドを知りたくなるのが人情というもの。

昨冬からDMM TVで独占配信されこの度ブルーレイとDVDが発売される『LUPIN ZERO』(以下、『ZERO』) は、ワクワク、ドキドキをオレたちに与えてくれる活劇アニメ『ルパン三世』(以下『ルパン』)シリーズファンの人情をくすぐり、「少年は如何にして大泥棒・ルパン三世となったのか?」という過去を全6話で描く。

舞台は高度経済成長期、1960年代の東京。退屈な中学生活を送っていた天才少年・ルパンは、自分と同様に退屈な世界に飢えるすご腕のガンマン・次元と出会うことで心が動かされていくーー。

後の世紀の大泥棒、ルパン(演:畠中 祐)は中学時代から天才的な頭脳を発揮するが、日常に退屈する日々を送っている 原作:モンキー・パンチ ©TMS

『ZERO』は『PART1』へと連なる、少年ルパンのビルドゥングスロマンだ。この監督を務めるのは、本作が初監督となる酒向大輔。「『ルパン』をやりたくてアニメ業界に入った」と公言する昭和53年男である。『昭和50年男』の表紙を見て、酒向はにこやかに話し出す。

「僕たちが観てきたアニメをはじめとするサブカルチャーは、自分たちの上の世代の方々にもたくさん語られてきた。けれど、2000年代に入って、僕たちの世代は”オレたちの”というキーワードを手に入れることで、自分たちなりの思いを語れるようになりました。実はこの業界に入る前、(東京)中野ブロードウェイのまんだらけで働いていたんです」

そんな彼がどうして監督なったのか? 『LUPIN ZERO』の魅力を読み解くには、まず監督の”ZERO”からひもといて行くことが鍵となる。

父が傭兵だった影響で、すでにすご腕のガンマンの次元 (演:武内駿輔)。中学生ながらも“仕事”を請け負っている 原作:モンキー・パンチ ©TMS

サブカルの聖地からアニメ制作者の道へ

酒向大輔/さこうだいすけ|昭和53年、東京都生まれ。演出、アニメーター。テレコム・アニ メーションフィルム所属。手がけた主な作品に『ルパン三世 PART4』(原画)『ルパン三世 PART5』(副監督、原画)など

子供の頃の自分自身を、酒向はこう評する。

「絵を描くのは好きでしたが、勉強もスポーツも得意なわけじゃない。だけど、カルチャー分野についてはクラスのなかで負けたくなかった(笑)」

漫画、アニメ、ゲーム…得意なものは負けたくない! マニアっ気のある人なら、そんな気持ちが理解できるだろう。

「オタク心が熟成される小学校高学年で首都圏に引越してきたんですけど、夕方から再放送でいろんなアニメが観られるんですよね。学校から帰ってくると、ずっとテレビにかじりついていました。もちろん『ルパン』もそこで好きになって…。ちょうどスタジオジブリが一般的な知名度を得た頃で、『金曜ロードショー』で『ルパン三世 カリオストロの城』を観て、どっぷりとハマっていきました」

数を観るうちに、同じアニメ作品でも制作会社、監督、作画、声優…関わる人によって違いがあることに気づく。いつしかエンドクレジットを熱心にチェックするのが常となり、少しずつアニメ業界への夢を抱き始めていた90年代の思春期には、アニメを観る量も増えていく。しかし…。

「『機動警察パトレイバー2 the Movie』や『人狼』などを観ているうちに、アニメはこういう絵を描けるエリートしかやっちゃいけない、と勝手にハードルを上げてしまったんです。それでアニメ業界に入らず、いつかビッグになってやる(笑)、と思いながらフリーターになりました」

中野ブロードウェイは、マンガ、アニメ、映画…さまざまなジャンルを扱う店舗が密集し、そこに行けば何かしらの文化がある”サブカルの聖地”だ。店員たちもそれぞれの分野の知識を極めた人材がそろっている。その店員たちや、その周辺のプロパーたちによる交流も行われていた。

「周りが、少しずつ自分の芸を活かして身を立てていくのに気づいたんですよ。自分も30歳近くなって不安になってきたので、絵が得意なんだから漫画を描こうと思い立って…」

そこでブロードウェイ仲間で、評論から復刻本なdp幅広く手がけるマンガライターの大西祥平氏に相談した。「僕は今からマンガ家になれますかね?」とたずねた酒向に大西は、やさしく「やめておいたほうがいいと思いますよ」と告げた。

「そこでハッとしたんです。『マンガ家になれますか』なんて聞いてる時点でダメなんですよね。なりたい時点で描いてなきゃ、なれるはずがない」

踏ん切りがついた。酒向は本当に自分のやりたかった、アニメの道に進む決心をする。

「いつか『ルパン』に携わりたい、と業界に飛び込みました」

こういう『ルパン』が観たかった!

こうして遅まきながらキャリアをスタートさせた酒向は、10年近くの時を経て、その夢を叶えた。シリーズ30年ぶりのテレビシリーズとなった『〜PART 4』(15〜16年)に原画マンとして参加することになったのである。第4話「我が手に銃を」で、モブシーンの原画を担当した酒向は、その登場人物のなかに憧れの大塚康生(2021年没)を描いた。

「『ルパン』マニアならみんな知っているんですが、必ずモブシーンに大塚さんが登場するという伝統芸があるんですよ。当時自分は、フリーのアニメーターとして関わっていたので、それまでも自分の『ルパン』愛を伝えるためのゲリラ活動として、別の作品にも次元を描いたこともありました(笑)」

酒向は、若き日の大塚の姿を描いた。だが放送されたのは、白髪ーーつまり、放送当時の大塚の姿だった。

「(制作スタジオ)テレコム・アニメーションフィルム(以下、テレコム)の『ルパン』プロパーである作画監督の増田敏彦さんが書き直してくださったんですよ。これは正しい修正だと思いましたね」

大塚を登場させる”遊び”は、これまでもその時期の姿だったからだ。酒向は『ルパン』らしい粋な流儀を学んだ。ゲリラ活動が実を結んだのか、酒向はテレコムに入社、『〜PART 5』(18年)で副監督となる。その第6話「ルパン対天才金庫」では、初めて脚本も担当している。

潰れかけの町工場の兄弟が開発した、頭脳の力をゼロにしないと開けない金庫にルパンが挑む。昭和50年男なら思わずニヤリとする昭和のカルチャーがてんこ盛り。酒向のマニア志向が盛り込まれた異色のスラップスティック劇に仕上がっている。

「その時点での自分の履歴書や研究成果と言えるものをこの第6話に放り込みたかったんです。やや『ルパン』以外の要素も入れ込みすぎてしまったのは反省材料でしたが(笑)」

酒向は笑いながら続ける。

「自分がアニメを手がけるなかで指針にしているのは”自分が観たいものを作る”ということなんです。簡単に言えば、マニアの人たちが『そうそう、こういうものを観たかったんだよ!』と感じてもらえるような。それを、マニアではない人たちにもわかってもらえるような作りにしていきたい、ということですね。視聴者の頭の中にある『ルパン』を再現したいという感覚です。だから正直、いずれアニメの監督をすることになるかもしれないと言われても、『ルパン』以外ではピンとこなかったんですよね」

『ルパン』らしいものをより分ける仕事

そんな酒向の思いをよそに、『ルパン』の制作会社トムス・エンタテインメントでは、新たな『ルパン』の企画が持ち上がっていた。プロデューサーの野﨑康次が語る。

「とにかく、今まで誰もやったことがない『ルパン』を作ろう、という発想から始まったプロジェクトでした。とはいえ、大人のルパンだと、これまでさまざまなスピンオフも作られていますから、これまでの作品よりルパンの年齢が若かった頃の話はどうだろう、と」

野﨑康次/のざきこうじ|トムス・エンタテインメント チーフプロデューサー。手がけた主な作品に『とある飛空士への恋歌』『甘々と稲妻』『ルパン三世 PART5』『ルパン三世 PART6』など

この企画を、制作会社のテレコム社長・浄園 祐(きよぞの ゆう)に相談、酒向が企画に参加することとなる。野﨑は続ける。

「これまでにない若い『ルパン』を作るためのお知恵を拝借したかった。僕も『PART5』に関わらせていただいていたこともあって、酒向さんが『ルパン』への愛情にあふれていたことは知っていましたから。そうして企画が固まっていくうちに、誰に監督をお願いするか、ということになるわけですが、やはりというか、浄園さんから酒向さんを推薦されました」

『ルパン』を目指して業界に入った酒向に白羽の矢が立った。酒向が最初にやったことは、前言どおり、視聴者たちの頭の中にある『ルパン』を再現するための選択を行うことだった。

「最初は、ルパンを主人公にすること以外は決まっていなかったので、”『ルパン』らしいもの”を一つひとつ拾い上げて、より分けることから始めました。それで物語を考えながら、まずは『PART1』で使用していた山下毅雄さんの音楽が使えるかどうか、という問い合わせをしてもらいました」

それはなぜか? 酒向が言う。

「多くの人がリメイク、リブート作品などを観る時に、オリジナルを追体験しようと考える人が大多数じゃないでしょうか。となると、僕の経験からいって、その記憶を呼び起こすのは”雰囲気”なんじゃないか、と。それには音楽は重要なファクターだと思うんです」

たとえば新しい『スター・ウォーズ』に「帝国のマーチ」が流れなかったとしたら、観る側としては腑に落ちない感覚が残るだろう。

「そういう違和感を抱くことなく物語を楽しんでもらいたい、と考えたんです。だから、もし山下さんの音楽が使えなかったらストーリーは完成したものと全く違ったと思います」

ただ、ひとつ問題があった。当時はサウンドトラック盤も作られておらず、”ヤマタケ”の愛称で知られた山下毅雄は2005年に亡くなっている。音楽の再現は難しいのか…。そこで酒向は、ドラマ『あまちゃん』などで知られる大友良英に音楽の依頼をする。大友は独自の音楽性をもつヤマタケサウンドを評 価する作曲家のひとりだ。

「世界でいちばんヤマタケサウンドに詳しいのは大友さんですから、『僕は旧ルパンのサントラが欲しいんです。お願いできませんか』とお願いして(笑)。快諾いただきました」

酒向は『PART1』の映像から音楽のかかる場面を抜き出し、大友に曲作りを依頼。音楽は大友の想像で作られることになる。

ルパンはいかにしてルパン三世となったか

「音楽が決まったことで、『PART 1』の前日譚、少年時代のルパンを描こうというコンセプトが固まっていきました。『PART 1』の放送開始が71年なので、その時にルパンが20代だとすれば、60年代になるだろう、というように」と、酒向は言う。

冒頭で書いたように、中学校でルパンと次元が出会うところから物語は始まるが、この出会いは初めて聞く話だ。

「実は、モンキー・パンチ先生の原作のなかで”ルパンと次元は幼馴染み”という一文があるんですよ。それなら、中学で出会っても、間違いではないという考え方です」

シリーズ構成は、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』をはじめ、さまざまな人気作品を手がける大河内一楼が担当した。

「”ルパンのワクワクする生き様はどのように生まれたのかを描きたい”というコンセプトを大河内さんにお話しして、彼らの感情の機微、心の動きというところを固めていただきました」

一方で、”逃げる””敵と対峙する”といったキャラクターの肉体的な動きは、ある程度ざっくりと書いてもらったという。

「それは、大河内さんによる強固なストーリーラインができていたからです。細かな動きの部分は、僕たち演出側で誰が観ても”『ルパン』らしい”と思える映像表現にできるという自信がありますから」

確かに『ZERO』は少年たちの物語ではあるが、誰が観ても『ルパン』である。近年珍しい、太く粗めの質感の描線で全編が描かれているのも、ひとつの理由だろう。

「最初は、『PART 1』と同じ、 画面比4対3のスタンダードサイズ、モノラル音声で作りたかったんですよ(笑)」
実際、酒向はプロデューサーの野﨑に提案したという。

「即答しました。『お願いですから、それだけは勘弁してください』と(笑)」(野﨑)

自分を”現実主義者”だという酒向は、アナログテレビ映像をあきらめて、「ザラザラしているセル画のような質感にしよう」と思い立ったと、これまで答えてきた。

「今だから別の言い方をしますと、制作期間に新型コロナが流行したこともありましたし、当時は別作品のラインがメインだったこともあったので、どうしてもクリエイティブなリソースは限られることが予想できたんですよ。そうしたなかで太めの線で粗めの質感にすることで、安定して見栄えのする映像にできる確率が高くなる、という判断でもあったんです」

新しくも、どこか懐かしいーーそんな『ZERO』を通しての感覚は、キャラクターデザインに関しても同様だ。ルパン少年は、これまでのルパンのイメージにはないサラサラヘアだが、違和感がない。

「少年ルパンのデザインはモンキー・パンチ先生が原作で描かれていた絵を見つけて、大塚康生さん風にアレンジしたものです。ただ、次元は原作に登場しなかったので、キャラクターデザインの田口麻美さんに一から描いてもらいましたけれど」

『LUPIN ZERO』は〝オレたちのアニメ〞

本作では少年ルパンの成長に 重要な役割を果たす存在として、アニメの『ルパン』であまり描かれてこなかった祖父・ルパン一世、父・ルパン二世も登場する。

「ルパン二世も、原作にあった要素から取り入れています。先ほど”違和感”と言いましたが、『ZERO』も『ルパン』だと主張するのは、我々が勝手に言っているだけなんですよね、公開するまでは。観る方々は、ふたを開けてみるまでわからない。だから、原作のエピソードやデザインをいかに取り入れて、『ルパン』としてのフックを作って、違和感なく『ZERO』の物語に集中してもらうことを意識しました」

『ZERO』のフックは、声のキャスティングにも現れている。ルパン一世を初代ルパン=山田康雄に師事した安原義人、ルパン二世はシリーズ初のOVA作品『ルパン三世風魔一族の陰謀』(87年)でルパンを演じた風呂川登志夫が声をあてているのだ。

元祖大泥棒、破天荒な老人ルパン一世の声を演じるのは安原義人。 山田康雄に師事し、山田の死後、引き継いだ役もいくつかある 原作:モンキー・パンチ ©TMS

「本筋は少年ルパンの成長物語なので、30分6回のなかで一世や二世の細部を描く時間が足りない。だから、一世なら(劇団)テアトル・エコーに在籍する安原さん、二世はルパンを演じた経験のある古川さんに演じていただくことで、キャラクターのバックボーンを説明しなくてもルパンだとわかっていただける説得力がありますからね」

ルパンの父・ルパン二世(声を演ずるは『〜風魔一族の陰謀』でルパンを演じた古川登志夫)も変装の名人。なんと女性にも扮装できる 原作:モンキー・パンチ ©TMS

説得力という意味では、少年時代のルパン、次元を演じきった畠中 祐(たすく)、武内駿輔の二人の演技も同じである。

「武内さんはとても研究熱心な役者さんです。過去の『ルパン』を観返して、それが新たな少年次元像に活かされていました。畠中さんには僕から『外堀は全部ルパンで埋めたので、ご自分のお芝居をしてください』と話しました。本作のまだ何者でもない、いわばあやふやな器を持つルパン像に、畠中さんの感情をふくらませる演技にピッタリだと思ったからです。正直、畠中さんの代表作と言っていいくらいの演技をしていただけたと思います」

予定のインタビュー時間を超えても作品への思いを笑顔で語り続ける酒向。その姿には、愛する『ルパン』シリーズを語る高揚感がにじみ出る。プロデューサーの野崎は笑いながら言う。

「ブルーレイのなかで、4話、約30分のコメンタリーを監督と畠中さん、武内さんにお願いしたのですが、監督は『3時間話したい』っておっしゃって。話し足りないって(笑)」

作中、自分の将来を切り開こうとする少年ルパンは、こういうセリフを口にする。

「いつだってワクワクしたい! ワクワクできることがいちばん大事なんだ!」

制作者として、ファンとしての酒匂の気持ちが、まるでルパンとリンクするような『ZERO』は、まごうことなく”オレたち”の『ルパン』、”オレたちのアニメ”である。

『LUPIN ZERO』:Blu-ray&DVD

原作:モンキー・パンチ ©TMS

全6話を収録したBlu-ray&DVD。キャラクターデザイン田口麻美の描き下ろし仕様のパッケージ、他では聞けないキャスト&監督のオーディオコメンタリーなど、特典がつき、作品をより深く知ることができる。

『LUPIN ZERO』Blu-ray(2枚)1万1000円/DVD(2枚)8800円 ●オーディオコメンタリー:第4話 畠中 祐×武内駿輔×酒向大輔 ●映像特典:特報、予告編、ノンクレジットOP&ED ●封入特典:ブックレット ●販売元:バップ

『LUPIN ZERO』グッズ

原作:モンキー・パンチ ©TMS

キャラクターの魅力を生かしたさまざまなグッズがトムスショップで発売中。

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