元祖リアルクラス?プラレール初代「弁慶号」の造形美がスゴい!
text & photo:なゆほ
60年以上の歴史があるプラレールの製品・歴史・情報をまとめ、自身のホームページ「プラレール資料館」で公開しているプラレールコレクター なゆほさん の鉄ホビ連載!長い歴史を持つプラレールというおもちゃをコアな目線から語っていただきます!今回は約50年前に発売されたプラレール「弁慶号」にクローズアップします。鉄道100周年だった1972年に発売された弁慶号。こだわりのディテールは今見ても高い完成度を誇りますが、車体規格から見ると一風変わった製品でもありました。(編集部)
【写真】50年前のプラレール「弁慶号」そのディテールを写真で見る!
2024年9月現在、8車種が展開されている「プラレールリアルクラス」。通常ラインナップの車両とは異なり、車高が少々高めのデフォルメとなっています。そのため、場面に応じて付け替えができる屋根パーツが付属しています。展示用に取り付ける立体的な「ハイタイプ」と、走行用に取り付ける平面的な「ロータイプ」と呼ばれるものです。「ハイタイプ」を装備した状態でも走行は可能ですが、ブロック橋脚・架線柱・大きな鉄橋など、通常ラインナップの車両に合わせて作られている情景部品の一部では屋根のパーツが干渉してしまいます。その際は「ロータイプ」パーツに付け替えることで、これらの情景があるレイアウトでも走行が可能となります。
発売当初には「今までのプラレールと一緒に遊べるようにしてほしかった」と言った意見も聞かれましたが、実はその今までのプラレールにも「一緒に遊びづらい」車両が、なんと約50年前に既に存在していました。それが「弁慶号」です。どのような製品なのか、ご紹介します。
▲1972年に発売された「弁慶号」。単品は機関車のみで、牽引する車両は付属しなかった。
2023年6月、プラレールの新シリーズ「リアルクラス」の展開が始まりました。一度はプラレールから離れた比較的年齢が高めの層をターゲットとしたシリーズとなります。プラレールとしての特徴を押さえつつも、床下機器と台車の表現を取り入れたことにより通常ラインナップの車両よりも車高が高くなり、パンタグラフを含めた屋根上機器は走行用・展示用に分かれた別パーツ化が行われているなど、従来のプラレールとはまた異なるデフォルメとなっています。展示用の屋根パーツ「ハイタイプ」は、見下ろす事が多いプラレールとしては車両の印象を引き締める重要な役割を持ちます。しかし、冒頭で述べたように「ハイタイプ」はあまり走行向きのパーツではありません。あくまでも展示用です。
自由な走行には屋根の付け替えが必須となることから、一部ユーザーからは「これは『今までのプラレールと一緒』とも言いにくいのでは?」という声がありましたが、1972年に発売された「弁慶号」は「今までのプラレール」の範疇に含まれるものの、リアルクラスと同じく一部の情景部品に車体が干渉してしまうという、一風変わった車両となっていました。
▲「BENKEI」「慶辯」の文字が美しいサイドビュー。
鉄道ファンなら知らない者はいないであろう著名な古典機、国鉄7100形蒸気機関車7101号機「弁慶」は、1880年に官営幌内鉄道で使用するためアメリカから輸入された2両のうちの1両です。他にも保存されている同型機の7105号機「義経」、7106号機「しづか」などと共に北海道内で活躍したのち、今から丁度100年前の1924年に保存を前提として廃車となりました。後に交通博物館を経て、現在では鉄道博物館で保存・展示されている事はよく知られている通りです。
日本に鉄道が開通してから100周年を迎えた1972年、全国各地で行われた鉄道100年記念イベントの例に漏れず、プラレールも「鉄道開通百年記念」と銘打っていくつか企画品を配布・販売しました。非売品では温度計や缶バッジ、通常ラインナップではロゴを印刷したステッカーが貼られた新製品のセット品が発売され、ささやかながらも鉄道玩具の一つとして鉄道100年を盛り上げていました。そんな中で、車両単品の「弁慶号」と、駅や並木などのストラクチャーが入ったセット品「弁慶号セット」が発売されました。
当時既にあった「D51」と「C58」に続いて「弁慶号」を製品化したのは流石としか言えませんが、他の車両と比べると明らかに異なるところが見受けられます。それが車高です。他の車両と比べると明らかに高さが異なっているのが分かります。特に煙突は7100形のイメージを損なわないよう忠実に再現されており、バランスがいい印象を受けますが、この煙突こそが他の車両と一緒に遊びづらい要因となってしまっています。
1972年当時はまだまだ線路上空を跨ぐような情景部品は数が少なかったため、ほとんど問題なく他の車両と遊べました。それでも既存の「橋脚」を使った高架線に関しては潜る事ができず、車両側で解決している現在のリアルクラスとは逆に、弁慶号では橋脚を嵩上げするコマ「補助ブロック」が付属していたという点が特筆できます。少しでも工夫を凝らして他の車両と遊べるようにするという、メーカーの志向が受け取れる逸品と言えるでしょう。
他の造型面では、先頭部に取り付けられている銘板や、ボイラー上のベル・砂箱・蒸気ドームが忠実に再現されており、キャブ下の「BENKEI」プレートと炭水車の「慶辯」の文字が全体を引き締めています。塗り分けこそされていませんが、その重厚感にはおよそ50年前の製品とは思えないものが感じられます。
また「弁慶号」は当時の他の車両とは異なり、動力部と電池ボックス部が別となっています。同時期発売の「ちんちんでんしゃ」が同じ方式を採用していますが、こちらはベルを組み込むための構造であり、ギミックの無い車両でこの構造を採用したのは弁慶号が初の例です。
後にモーターユニットと電池ボックスを一箇所にまとめづらい蒸気機関車を中心にこの方式が採用されるようになり、後年の製品では「C62(旧製品)」「C57」「ミッキーポッポ」などが同様の構造をしています。
このように、既存の車両とは少し変わった造型をしつつ現在でも使われている新構造を採用した「弁慶号」ですが、元は鉄道100年を記念する意味合いの商品で、子どもはもちろん当時の親世代にもあまり馴染みのない古典機関車という事もあり、1976年のラインナップ再編の際に絶版となってしまいました。
時が経つにつれて「過去に少し変わったプラレールがあった」とファンの一部で評判となり、実車の知名度もあることから、1998年に「プラレールの日限定品」として後年発売されたミッキーポッポのボディを流用する形で復刻版が発売されています。
姉妹機である「義経」も、2003年に梅小路蒸気機関車館の限定品「義經号」として同じくミッキーポッポの型を使って製品化されました。2016年に京都鉄道博物館が開館した際には、前年に発売されていたディズニー系の車両「ウッディ保安官トレイン」の機関車を改修した上で、改めて「7100形7105号機 義経号」が発売されており、明治時代の機関車のおもちゃとしては異例とも言えるバリエーションが存在しています。
発売から52年が経った弁慶号。当時の設計思想は形を変えながらも現在のプラレールへと受け継がれています。