家族の生命を守る【防災グッズの置き場】を作るには? スペースのムダ使いをやめる「モノの整理」の大原則
防災グッズの準備を始めたものの「収納スペースがない」と悩む方は少なくありません。防災備蓄収納の専門家が、スペースを確保するための不要品の整理から兼用アイテムの活用まで、限られたスペースで防災グッズを収納する具体的な方法を解説します。
【画像を見る】➡激ウマ【非常食】を実食! 防災士・どろだんご先生〔おすすめ非常食7選〕異常気象をはじめ、南海トラフ地震の30年以内の発生確率が80%程度に引き上げられたことなども背景に、自然災害への危機感が高まる昨今。防災グッズの準備を始めようと思っている方もいるでしょう。しかし、水やカセットコンロ、簡易トイレなど、防災グッズはかさばる物が多いため、置き場所に困るケースも少なくありません。そこで今回は、限られたスペースで防災グッズを収納するためのコツや、収納スペースの確保法について、防災備蓄収納プランナー協会の長柴美恵(ながしばみえ)さんにうかがいました(全2回の第1回)。
防災グッズ収納の3つのコツ
防災グッズをそろえたいけれど、家に置く場所がない……。そんな悩みを持つ方に向け、長柴さんは、かさばる防災グッズをうまく収納するコツを3つ紹介してくれました。
「1つ目のコツは、いくつかの場所に分散して収納することです。防災備蓄品は1ヵ所にまとめて置かなくてOKです。むしろ、リビングや寝室、子ども部屋など、家の中の複数の場所に分散して収納しておいたほうが、被災時のリスクを減らせます」(長柴さん)
2つ目は、節句人形や扇風機など、上に物を重ねて置くことができない季節の物は、その下に収納ケースを置くこと。ケースの中に備蓄品を収納できるのはもちろん、デッドスペースになりがちな空間の上部分も活用できます。
扇風機の下に収納ケースを置いて、上部の空間を有効活用。 画像提供:防災備蓄収納プランナー協会 長柴美恵
3つ目は、兼用できるアイテムを使うことです。複数の用途で使えるので、物を減らすことにつながります。
「たとえば私は、ライト付きの時計を普段から愛用しています。時計としてはもちろん、停電したときのランタンとしても使えます。ただし、兼用アイテムも日常的に使わなければ、結果的に“スペースのムダ使い”になってしまうので注意しましょう。
詳しくは後述しますが、新たに物を買うときには『なぜそれを持つのか』『本当に使うのか』をきちんと考えることも忘れないでください。
文字盤、側面、背面にライトが付いている時計。ランタンとしても使えるほか、軽量でコンパクトなので手持ち用のライトとしても活躍します。 画像提供:防災備蓄収納プランナー協会 長柴美恵
もしくは、新しく購入しなくても、すでに持っている物を兼用するという手もあります。自転車用のヘルメットを防災用として使うなどがその例です。自転車に乗った後、毎回、自宅内の保管場所に置くだけなので、管理もそこまで大変ではありません。
ただし、普段使いしているリュックを防災リュックとしても使うといった兼用は避けてください。いちいち中身を入れ替えるのは現実的ではありません」(長柴さん)
「収納のための収納」は逆効果
収納スペースをうまく使うために、収納グッズを使って細かいものをさらに細かく分ける方法は勧められないと長柴さんは言います。収納のための収納グッズとは、たとえば「大人用のカトラリーを入れるケース」「子ども用のカトラリーを入れるケース」などです。
「仕切りとしては役立ちますが、その分、スペースが余分にとられてしまいます。また、防災グッズの収納に見た目の美しさは必要ありません。細かく分類せず、ある程度、大きさのあるケースにまとめて入れるのがいいでしょう」(長柴さん)
被災地で実感した防災備蓄の重要性
東日本大震災をきっかけに、仮設住宅での収納作業といった活動も行ってきた長柴さん。被災地でのボランティア活動を通して、防災備蓄の重要性をひしひしと感じたといいます。
「大きな災害が起きると、ライフラインが止まり、物資が届かなくなります。食品や物を買い占める方が殺到し、お店の棚からは即座に商品が消えます。
その一方で、『配給があるから大丈夫』と思っている方もいるかもしれません。しかし、物資が届いたとしてもボランティアの手が足りず、すぐに選別や配布作業が進まない場合もあります。手当たり次第に配布すれば不平等だとクレームがくるため、配給するほうも安易に配布できないのです。
こうした現実を受けとめて、自分で食糧や衛生用品などは最低限、用意することが大切です」(長柴さん)
収納スペースは防災グッズを優先しよう
現在、収納スペースは物がいっぱいで、「防災グッズを置く場所がない」という方もいるでしょう。しかし、命をつなぐための防災グッズに収納スペースを使うべきだと長柴さんはいいます。
「そもそも『収納スペースがない』というのは、スペースをムダ使いしていることが多いです。
これまで、さまざまな方に収納のアドバイスをしてきましたが、“空いている”収納スペースがあるご家庭はほぼなく、誰もが『収納スペースがない』と言います。たとえば8LDKで、本来なら収納自体は豊富にあるはずのご家庭でも、『収納スペースがない』と言うのです。
これは収納スペースがあると、つい物でいっぱいにしてしまう方が多いことが関係しています。
さらにそこに置かれているのは、不要な物がほとんど。もちろん、家族構成や間取り、生活状況にもよるので一概にすべてが不用品とは言えませんが、たいていの場合、収納スペースをムダ使いしている原因になっています。
収納スペースのムダ使いをなくすためには、日頃から物の整理をすることが肝心です。
まず、押し入れやクローゼット、キッチンの戸棚など、収納の中の物を全部出してみてください。すべてを出してみると、古い物や賞味期限が切れた物、この先も使わない物など、捨てるべき物が出てきます。
次は、選別作業です。家の中ですぐに使う物を優先的に残していきましょう。それでも手放したくない物や、どうしても手放せない物で家に入りきらない品は、レンタル収納スペースを利用する方法もあります。レンタル代はかかりますが、引っ越しよりは低コストで済みます」(長柴さん)
買う前にストップ! 「なぜ持つのか?」を自分に質問を
せっかく整理しても、また物が増えてしまうこともあります。家の中に不要な物を溜めないためには、買う行為そのものに、意識的になることが大切だと長柴さんは続けます。
「『安いから』『便利そうだから』で衝動買いした物が押し入れの奥で眠っていませんか?
安易に物を買うことが、収納スペースのムダ使いにつながります。そのため、物を買うときには、『なぜそれを持つのか?』と都度、自分に問いかけてみてください。
本当に必要だと思うのであれば買ってOKです。ですが、迷うのであればいったん保留に。すると、『やっぱりいらないかも』となることも少なくありません」(長柴さん)
備蓄はまず1日分を増やすことから始めよう
「備蓄は一気に揃えなくても良いので、まずは1日分から増やすことから始めてみてください。そうして、7日分、14日分と少しずつ増やしていきましょう。
備蓄の方法として、常備品を使っては買い足していくローリングストックがありますが、これは賞味期限や消費期限などを日常的に管理できるほか、備蓄の数も増やしやすい方法といえます。
ご自身が続けやすいかたちで続けて、日常の中に防災対策を習慣づけていってください」(長柴さん)
ローリングストックをするときには、買ったらすぐに賞味期限を書いたシールを貼るのがおすすめ。賞味期限切れを防ぎ、スペースのムダ使いをなくせます。 画像提供:防災備蓄収納プランナー協会 長柴美恵
次回は、防災グッズの収納場所のポイントや注意点などについて解説します。
取材・文/阿部雅美
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◆長柴 美恵(ながしば みえ)
一般社団法人 防災備蓄収納プランナー協会 代表理事。
2006年より「収納ドクター」としての活動をスタート。東日本大震災をきっかけに、東北応援チームを結成し、仮説住宅での収納イベントや収納作業に取り組む。2016年、「防災備蓄が当たり前の日本」を目指し、一般社団法人 防災備蓄収納プランナー協会を設立。一般家庭や企業での防災備蓄のコンサルティングを行う傍ら、防災備蓄収納プランナーの育成を行う。