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大河ドラマ「べらぼう」でも話題の平賀源内を主人公にしたドラマ「天下御免」のヒロイン役で人気者となり、70年代の数々のテレビドラマで主役を務めた知性派女優 中野良子

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大河ドラマ「べらぼう」でも話題の平賀源内を主人公にしたドラマ「天下御免」のヒロイン役で人気者となり、70年代の数々のテレビドラマで主役を務めた知性派女優 中野良子

プロマイドで綴る わが心の昭和アイドル&スター

大スター、名俳優ということで語られることがない人たちかもしれないが、
青春の日々に密かに胸をこがし、心をときめかせた私だけのアイドルやスターたちがいる。
今でも当時の映画を観たり、歌声を聴くと、憧れの俳優や歌手たちの面影が浮かび、懐かしい青春の日々がよみがえる。
プロマイドの中で永遠に輝き続ける昭和の〝わが青春のアイドル〟たちよ、今ひとたび。

企画協力・写真提供:マルベル堂

 女優・中野良子を意識するようになったのは、1971年のNHKのドラマ「天下御免」だった。現在放送されているNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」で、安田顕が演じて話題になっている天才とも奇人とも言われる自由人、平賀源内を主役にした一年間の連続時代劇である。

 時代劇ながら、〝カツラをつけた現代劇〟と言われるほど、痛烈なパロディ精神での奇想天外な発想、時代劇の決まりごとにとらわれない自由なというよりある種ハチャメチャな演出で制作された異色作だったが、30%に迫る平均視聴率を誇るヒット作となり、テレビ史にも刻まれる。タイトルバックは黒鉄ヒロシ、山本直純によるロック調のテーマ曲、ナレーションは水前寺清子で、インタビュアーとしてドラマ内に出たこともあった。時代劇の衣装のまま主要出演者たちが銀座の歩行者天国を練り歩けば、当時の美濃部亮吉東京都知事を背広姿のまま登場させ、公害問題を語らせるなど型破りな演出が印象的だったが、脚本の早坂暁によると、時代考証はしっかりとしていたらしい。

 平賀源内を演じたのは、当時テレビドラマに引っ張りだこの山口崇で、新人女優であった中野良子がヒロインともいうべき〝紅(くれない)さん〟を演じ、あっという間にお茶の間の人気者になり、テレビ各局でのドラマにも主役や、大きな役柄で迎えられるようになるのだ。

©マルベル堂

 
 同時期の女優たちと言えば、松坂慶子、島田陽子、仁科明子(現・亜希子)らが活躍していたが、〝スター性〟という意味も含めて、中野良子が一歩抜きんでていたように思えた。ずば抜けて美人顔という印象ではないのだが、古典的なうりざね顔の美人とでも形容したらいいだろうか。独特な声質のニュアンスのあるしゃべり方、醸し出す雰囲気は、やはり〝主役顔〟と呼べる女優だったと思える。役柄などから、どこか知性も光る女優という印象も持った。

 中野良子は、69年に大映東京撮影所演技研究所に入所したが、大映が倒産し、70年には三船プロダクションの所属になる。翌71年には1月にスタートした三船敏郎が大石内蔵助を演じテレビ初主演作となったNET(現・テレビ朝日)と三船プロダクション制作の大作時代劇「大忠臣蔵」に出演している。三船のほか、司葉子、尾上菊之助(現・菊五郎)、佐久間良子、渡哲也、勝新太郎、中村錦之助(後に萬屋錦之介)、天知茂、伴淳三郎、フランキー堺、丹波哲郎、芦田伸介、中村玉緒、山本陽子、十朱幸代、石坂浩二、池内淳子、京塚昌子、宝塚のトップスターだった上月晃、松本幸四郎(後に初代・松本白鸚)、コント55号とさまざまなジャンルから売れっ子たちが集められたという点において語り継がれるドラマだろう。

 NHKの「天下御免」出演の後、中野良子のテレビドラマにおける活躍には、すさまじいものがある。72年のTBS系列の「木下恵介・人間の歌シリーズ」の一編で、近藤正臣、大原麗子、二谷英明、木村功、奈良岡朋子共演の「地の果てまで」。沖雅也、島田陽子、芦田伸介、久我美子、小林麻美共演の石坂洋次郎原作「光る海」(フジテレビ系列)。

 73年のNHK大河ドラマ「国盗り物語」での近藤正臣演じる明智光秀の妻役。松坂慶子も高橋英樹演じる織田信長の妻・濃姫役で出演している。渡辺淳一の小説『無影燈』を倉本聰らの脚本でドラマ化した田宮二郎主演の金曜ドラマ「白い影」(TBS系列)。同じ三船プロダクション所属の竹下景子も出演している。金曜ドラマは、脚本家たちがすばらしい仕事を見せた見応えのあるドラマ枠で、山田太一「ふぞろいの林檎たち」「岸辺のアルバム」、向田邦子「家族熱」「幸福」、倉本聰「あにき」、市川森一「淋しいのはお前だけじゃない」、早坂暁「門 わが愛」などすばらしいドラマが生まれている。

 73年は日本テレビが開局20周年を迎え、記念ドラマとして放送された「さよなら・今日は」にも、山村聰、浅丘ルリ子、緒形拳、原田芳雄、山口崇、林隆三、大原麗子、森光子、山田五十鈴、森繁久彌らとともに出演している。

 まだまだ活躍は続く。74年には宇津井健、山口百恵の「赤いシリーズ」第一作「赤い迷路」(TBS系列)に、松田優作、長山藍子らと共に出演。続いてTBS金曜ドラマ枠の「新宿さすらい節」。主演は萩原健一で、二谷英明、星由里子も出演。この年、中野良子は、若尾文子、草笛光子らとともにテレビ大賞優秀個人賞を受賞している。

 75年にはNHK大河ドラマ「元禄太平記」に、芦田伸介演じる徳川綱吉の側室・右衛門佐役で出演。石坂浩二、江守徹、竹脇無我、若尾文子、岡田茉莉子、黒柳徹子、草笛光子、松原智恵子、松坂慶子、片岡孝夫(現・仁左衛門)、中村勘九郎(後に十八代中村勘三郎)、小沢栄太郎、木村功、森繁久彌と役者が揃った華やかなドラマだった。76年には日本テレビ系列の長いタイトルシリーズの第3弾「三丁目の古寺に、照る日曇る日、恋の雨」で加藤剛と共演。

 77年には瀬戸内晴美(寂聴)原作の、室町八代将軍足利義政の時代を描いた「幻花」(NET「ポーラ名作劇場」枠、現・テレビ朝日系列)、渡辺淳一原作、平幹二朗、芦田伸介、渡瀬恒彦、津川雅彦、野際陽子共演「まひる野」(フジテレビ系列)、五木寛之原作、新珠三千代、原田美枝子、木村功共演「恋歌」(日本テレビ系列)と3作の文芸作品に主演し、3様の女性像を演じて魅せた。同じく五木寛之原作、芦田伸介主演「海峡物語」にも八千草薫、秋吉久美子、中村敦夫、山口崇、真野響子、奈良岡朋子らと出演している。

 
 テレビドラマ以外でも映画では、74年の今井正監督『小林多喜二』では山本圭、佐藤オリエ、北林谷栄らと共演し、75年には斎藤耕一監督、北大路欣也、梶芽衣子共演の『竹久夢二物語 恋する』、77年には横溝正史の小説を名匠・野村芳太郎監督が映画化した『八つ墓村』に萩原健一、小川真由美、山本陽子、山﨑努、渥美清らと出演、78年の熊井啓監督『お吟さま』では高山右近役に二代目中村吉右衛門、千利休役に志村喬、豊臣秀吉役に三船敏郎を迎え、主役のお吟を演じた。同年には佐藤純彌監督『野性の証明』にも出演し、高倉健、薬師丸ひろ子、三國連太郎らと共演している。

 特に、76年に公開された佐藤純彌監督、高倉健主演の『君よ憤怒の河を渉れ』のヒロイン役は、79年に中国で上映された折に強い支持を得て、8億人以上が視聴したという。中国でも人気女優になり、中国と深い縁で結ばれることになる。

 舞台では74年の日生劇場で市川染五郎(現・二代目松本白鸚)と共演の『ロミオとジュリエット』、78年の平幹二朗、山岡久乃、金田龍之介らと共演の『ハムレット』などが印象に残っている。演出はいずれも蜷川幸雄で、演出家・蜷川幸雄にとっても、中野良子はクリエイティビティを刺激される女優だったのだろう。

 最近は、女優・中野良子を観る機会がめっきり少なくなったが、今の年令だからこそ表現できる〝女〟を演じる芝居を見せてほしいものだ。髷も似合うし、和装での立ち姿もきれいだから、時代劇もいいかもしれない。『元禄太平記』の右衛門佐は実に美しかった。

文=渋村 徹

※プロマイドの老舗・マルベル堂では、原紙をブロマイド、写真にした製品を「プロマイド」と呼称しています。ここではマルベル堂に準じてプロマイドと呼ぶことにします。

マルベル堂
大正10年(1921)、浅草・新仲見世通りにプロマイド店として開業したマルベル堂。2021年には創業100年を迎えた。ちなみにマルベル堂のプロマイド第一号は、松竹蒲田のスター女優だった栗島すみ子。昭和のプロマイド全盛期には、マルベル堂のプロマイド売上ランキングが、スターの人気度を知る一つの目安になっていた。撮影したスターは、俳優、歌手、噺家、スポーツ選手まで2,500名以上。現在保有しているプロマイドの版数は85,000版を超えるという。ファンの目線を何よりも大切にし、スターに正面から照明を当て、カメラ目線で撮られた、いわゆる〝マルベルポーズ〟がプロマイドの定番になっている。現在も変わらず新仲見世通りでプロマイドの販売が続けられている。

マルベル堂 スタジオ
家族写真や成人式の写真に遺影撮影など、マルベル堂では一般の方々の専用スタジオでのプロマイド撮影も受けている。特に人気なのが<マルベル80’S>で、70~80年代風のアイドル衣装や懐かしのファッションで、胸キュンもののアイドルポーズでの撮影が体験できるというもの。プロマイドの王道をマルベル堂が演出してくれる。
〔住〕台東区雷門1-14-6黒澤ビル3F

読者の皆様へ
あなたが心をときめかせ、夢中になった、プロマイドを買うほどに熱中した昭和の俳優や歌手を教えてください。コメントを添えていただけますと嬉しいです。もちろん、ここでご紹介するスターたちに対するコメントも大歓迎です。

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